リアクション
最終章 大団円
「あなたたちがお探しの方は、その樹の中にいるのです」
影野と椿、ゴブリンたちを駆逐した戦闘班とガートルード、それに学園から駆けつけた彩蓮と森下たちを前にして、神託を告げる巫女のように、ジーナはそう呟いた。
「あなたたちの探している御上先生は、その日、たった一人でここに来た。そうですね?」
ジーナの問いに、救助隊の面々はうなずいた。
「でも、先生は狙われていた。追試に手心を加えてもらい、あわよくば追試を免除してもらおうとした生徒たちが、一芝居打ったんです」
ジーナの言葉の受け、彩蓮が続ける。
「でも、それは上手く行かなかった。『金を払ってゴブリンに先生を襲わせ、そこに助けに入って先生に恩を売る』という彼らの作戦は、確かに成功した。でも御上先生は、それでテストの点に細工をするような人じゃなかったんです」
ジーナに続いて、森下が口を開く。
「そこで、ヤツらの行動はエスカレートした。『生徒の命令で、人間を襲った』と、ゴブリンたちは言っていた。大方、力ずくで言うことを聞かせようとしたんだろう。だが、先生は首を縦に振らなかった」
ゴブリンから聞き出した情報を元に、エヴァルトが推論を披露する。
「先生の身に危険が迫ったその時、彼女、ドライアドのフィリアが、先生を救ったんです」
そう言ってジーナは、自分の背後にそびえる大樹を見上げた。
「ドライアド!?」
「ドライアドって、木の妖精……だったよね?」
「精霊じゃない?」
「確かに『とてつもなく長生きした木には、精霊が宿る』って聞いたことがあるけど……」
てんでに口を開く一同。
「そうか、『妖精の森』ね。この森にいるという妖精は、この木に宿るドライアドのことだった、そうなんでしょう?」
確かめるように、ガートルードが尋ねる。
「そうです。フィリアは、もう何百年も前から、この森と、この地住まう者たちを見守り続けてきました。昔の人々は、確かに彼女を見、彼女と言葉を交わすことができたのです」
「でも、いつしか人々は、自然と心を通わす術を忘れてしまった。木々の声に耳を傾けることをしなくなった。御上先生は、そんな彼女と心を通わすことができる、数少ない人だったんです」
そこで、ジーナは一旦言葉を切る。
「そんな先生を、フィリアは見捨てて置けなかった。彼女は、自分の根っこの上に倒れこんだ御上先生を、咄嗟に自分の中に取り込んで、先生を守ったんです」
「道理で、痕跡が全く残ってない訳だぜ!」
「本当に、あそこで消えてしまってたんだ!」
ようやく合点がいった、というように影野と椿がうなずきあう。
「さぁ、フィリア。ゴブリンたちは、この方々が追い払ってくれました。悪い生徒たちももういません。もう、御上先生を危険な目にあわせる人はいません。御上先生を返して上げて下さい」
大樹にそっと手を触れ、ゆっくりと語りかけるジーナ。
『……わかりました。お返ししましょう。この方も、それを望んでいます』
どこからともなく鈴を鳴らすような美しい声が聞こえてきたかと思うと、大樹の中から透き通ったとした影のようなものが現れた。やがてそれはゆっくりと人の形を取っていき、ほっそりとした美しい半裸の女性の姿となる。
「美しい……」
うっとりと、ため息を漏らすように呟く一輝。他の男性陣も、呆けたように彼女を見つめている。
そして彼女の足元には、御上先生が、眠るように横たわっていた。その顔は、まるでギリシャ彫刻のように美しい。
「きれー……」
「う、うん。なんつーか、スゲーな……」
息を呑むキルティスと椿。
「これは、何がなんでも頂きたいところだにゃー」
真菜華は、まるで獲物を見つけた猫のような顔をしている。
「御上先生!御上先生!目を覚まして下さい、御上先生!!」
森下は、3人を押しのけるようにして御上に駆け寄ると、肩をゆすって呼び掛ける。
「ん……?君は……森下か?僕は……どうしていたんだ?確か、ゴブリンに襲われて……。そうだ!フィリア!」
勢いよく上体を起こした御上はフィリアの姿を認めると、一語一語噛み締めるように、彼女に話しかける。
「君が、助けてくれたんだね。そうなんだろ?フィリア?」
その問いにフィリアは、慈母のような優しさに満ちた微笑で答えた。
『また、いらして下さい。私は、いつでも貴方を待っています……』
それだけ告げると、ドライアドはゆっくりと姿を消した。
「みんな、今回は迷惑をかけて済まなかった。自分のために生徒の命を危険にさらすなんて、僕は教師失格だ」
そういって、御上は深々と頭を下げた。
「もういいんですよ。先生。でも、心配する生徒もいるんですから、気をつけて下さい」
そういって先生の手を取る神楽坂。
「ありがとう、君なんて他の学校の生徒なのに……」
そういう御上の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「そうよそうよ、そんなこともうどうだっていいじゃない!こうして先生が無事に帰ってきたんだし、ね!」
そんなことをいいながら、さりげなく御上と腕を組もうとする真菜華。
「そうですよ!しかも先生、噂以上の美形じゃなーい♪ねぇ、先生。恋人、いる?」
すかさずキルティスが、真菜華と御上の間に割って入る。
「おい、お前ら、先生は疲れてるんだぞ!少しは先生の事も考えろ!」
今度は、椿が御上を2人から引き離す。
「な、先生、アタシ、馬連れて来てるんだ!先生、メガネがないと何にも見えないんだろ?アタシの馬に乗せてってやるって!」
「ダメダメダメー!御上先生は、マナが手を引いてあげるのにゃー!!」
「何ですか、もー!お子様たちは引っ込んでてくださーい!!」
「やめろって、先生嫌がってるじゃんかよ!!」
「ほしーものは実力で奪い取るっ!それがマナちゃんの正義なの!」
「ま、待て!みんな落ち着けっ!だ、誰か、僕のメガネ知らないかな……」
そんないつ終わるとも知れない泥試合を、冷めた目で見つめる男性陣。
「帰るか」
「あぁ」
こうして御上先生救出作戦は、成功裡に幕を閉じた。
その後、救助隊の活躍は蒼空新聞の特集号で大々的に取り上げられることになった。
これにより志願者たちはしばらくの間、春休みを救われた追試生から、英雄の如く感謝されることになる。
一方、御上先生が本当に美形だったことは新聞には取り上げられなかったが、噂は燎原を行く野火の如く広がり、春休み明けには既に周知の事実となっていた。このため新学期の蒼空学園では他校生をも巻き込んだ激しい争奪戦が繰り広げられることになるが、それはまた別のお話である。
みなさん、始めまして。今回マスターを勤めさせて頂きました、神明寺です。このたびは新人マスターのシナリオにもかかわらず、勇敢にも(笑)ご参加頂きまして、ありがとうございました。
『最初からオチがわかってるようなシナリオはつまらない!』とゆー持論の元、『冒険』ジャンルとはといいながらややミステリーめいたお話となりましたが、いかがでしたでしょうか。
「気に入った!」「面白かった!」という方、いらっしゃいましたら(いるかなー、いるといいなー ←弱気)是非次回もご参加下さい。
最後になりますが、「面白い」「つまらない」等々なんでも構いませんので、一言感想を頂けると、今後の励みになりますので、是非よろしくお願いします。もちろん、「こんなシナリオがいい!」といったご要望も大歓迎です。
それでは、最後までお付き合い頂きまして、誠に有難うございました。
平成庚寅 春卯月
神明寺 一総