First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
Next Last
リアクション
第三章 救助隊、西へ
影野 陽太(かげの・ようた)は、『妖精の森』への道を、張り切って進んでいた。御神楽環菜直々に、救助隊のリーダーに任命されたからである。
「いつまでニヤニヤしてるんだ、気持ち悪い」
同じ蒼空生で1学年上の天城 一輝(あまぎ・いっき)がもうウンザリだ、という顔でツッコミを入れるが、
「だって、あの環菜会長がですよ、この俺の肩にじかに手を置いて、『影野君、必ず御上 先生を連れ帰ってちょうだい。お願いね。』って言ったんですよ!あぁ、今日はわが人生最良の日だ!!」
と、まるで動じた様子がない。
「はぁ…」
と大仰にため息をつく天城に、パートナーのユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が、
「一輝よ、何にせよやる気のあるのは良いことだ。後は我々がそれを良い方向に導いてやればよい」
とフォローを入れているのが、いっそ健気で涙を誘う。
「隊長殿、あまり浮かれ過ぎて重要な手がかりを見落とす事の無い様、ご注意下さい。戦闘は我々戦闘班が引き受けましたが、捜索は隊長殿の捜索班に掛かっておりますので」
シャンバラ教導団所属の相沢 洋(あいざわ・ひろし)が、軍人らしい慇懃な口調でたしなめる。
今回、救助隊への志願者は全部で12人いたが、環菜はこれを戦闘班と捜索班の2つに分けた。ゴブリンの殲滅と現場検証を平行して行うことによって、御上先生の救出を少しでも早めるためである。
戦闘班は、相沢と彼のパートナーの乃木坂みと(のぎさか・みと)の他に、蒼空生の天城・ユリウスペアとエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)、百合女の東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)・キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)ペア、薔薇の学舎の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)・レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)ペア、それにパラ実生の春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)の10人。リーダーには、部隊運用に長けている点が評価されて、相沢が任命された。
「大丈夫だって。捜索班には、あたしもいるんだ。先生は絶対見つけて見せるぜ!」
そう意気込むのは、影野と同じ捜索班に所属する、パラ実生の泉 椿(いずみ・つばき)である。
「なになに〜、泉ちゃん、やたら気合入ってるじゃーん。泉ちゃんも、御上先生狙い?」
そう言いながら、椿の背中にもたれかかる真菜華。
「『も』ってことは、春夏秋冬さんも先生狙いなんですね?」
横合いからキルティスが、すかさず牽制球を投げる。
「そういうキルティスはどうなのさ?」
椿の肩から身を乗り出して、真菜華が切り返す。椿も興味津々と言った様子だ。
「ん〜、そうですね〜。まずは噂の真偽を確かめてからですかね〜」
「あ、もちろんイケメンなのは大前提。ねぇ泉ちゃん?」
「まー、そりゃ美形のほうが嬉しいけどさ。噂じゃ御上先生イイ人らしいし、正直ちょっと期待しちゃうよな」
ほのかに顔を赤らめながら、椿が答える。
「キルティス、私には『他校とはいえ、一人の男性がピンチなんですよ!秋日子さんは彼をこのまま放っておいても平気なんですか!?』とかエラそうな事言ってた癖に、やっぱり美形が狙いだったのね…」
盛大に脱力する秋日子。
「乃木坂さんは……違うんだよね?」
「わらわには、相沢様がおります故」
秋日子の問いに、にべもなく答えるみと。男狙いでない女生徒が他にもいたのを知って、ほっとする秋日子。
「でも、純粋に御上先生の事を心配して参加した人って、1人もいないんですかね……?」
どこか哀れむような口調で、神楽坂が言う。
「試験休み中の募集だったのが悪かったんじゃないか?ま、みんな心配してない訳じゃないと思うぜ。ちょっとばかし、現金なだけだって」
レイスが、妙に達観したセリフを吐く。
「何を言う!俺は御上先生が心配だぞ!もし御上先生が見つからなかったら、俺の春休みが無くなるかと思うと……」
こぶしを握り締めて力説するエヴァルト。
「それ、やっぱり御上先生が心配な訳じゃないと思いますよ……」
力弱くツッコむ神楽坂。
その時。
「シュッ、シュッ」
という空を切り裂くわずかな音と共に、一行の足元に数本の矢が突き刺さった。
「何!?」「敵!?」
「円陣を組め!背後を取らせるな!」
一瞬驚きの声を上げたものの、すぐ円陣を組む生徒たち。
「いたぜ、あそこだ!」
椿の指差した辺りの木々の間に、ゴブリンの姿が見え隠れしていた。こちらに気づかれたゴブリンは、慌てて木々の間に姿を消す。
「よーし、決めた!泉ちゃん、キルティスさん、一番最初に御上先生を助けた人が、最初に御上先生に迫る権利があることにしよう。いいよね!答えは聞いてなーい!」
そういうや否や、真菜華は返事も待たずに走り出した。あっけに取られる一同を尻目に、真菜華の姿はあっという間に見えなくなる。
「え、えーと……」
「追え!逃がすな!」
今ひとつ状況に対応しきれない影野に代わり、相沢が指示を出す。
「追えって、どっちを?」
「どっちもよ!!」
「どっちもだ!!」
素で聞き返すエヴァルトに、女子2人の怒声が飛んだ。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
Next Last