空京

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戦乱の絆 第1回

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戦乱の絆 第1回
戦乱の絆 第1回 戦乱の絆 第1回

リアクション


アイシャを巡る攻防3

 【シャンバラの絆 E】の神裂 刹那(かんざき・せつな)は、【陽動】イーオンの指示の下、東側に属しながら、【保護逃走】と東西ロイヤルガードの協力者達との連絡・伝令役を行っていた。

 超感覚を常時使用して、黒猫の耳を出したままで、刹那は携帯に連絡を受ける。
 「アイシャさんが見つかったんですか?
  はい、伝えます」
 刹那は、アイシャの位置情報を、仲間に伝達する。

 刹那のパートナーの魔鎧ノエル・ノワール(のえる・のわーる)は、魔鎧形態として装備された状態である。
 華を想わせるような物々しくも華奢な白銀色の軽装の鎧が、語りかける。
 「こういう森の中には、死角になる場所がいっぱいあるの」
 ノワールは、自分の特技である「隠す」や「捜索」から、索敵や身の隠し方を口頭で刹那にアドバイスしておく。

 薄暗い森には、木々のざわめきと獣や鳥の声にまじって、たまに学生達のいさかいの声が聞こえる。
 刹那は、むせかえるような生の過剰と死の予感に、掌が汗ばむのを感じた。

■ 
 
 一方そのころ、森の上空では。
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、小型飛空艇上からぼんやりと森の中を歩いているアイシャを補足していた。
 「ご主人! アイシャが見つかったぜ!」
 ベアからの携帯電話での連絡でパートナーのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、アイシャに接触する。

 ソアは、東シャンバラ・ロイヤルガードだが、西へ誘導する。
 ソアとベアは、友人の西シャンバラ・ロイヤルガード小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とこっそり連絡を取りあって、森の謁見の場にアイシャを連れて行こうとしていたのだった。
 魔法少女の衣装を着たソアと、白熊のゆる族のベアを見て、アイシャは警戒を解く。
 「もう大丈夫ですよ。美羽さんは、シャンバラが東西に分かれる前からの友人で、信頼できる方ですので!」
 「あなたたちは、ずっと対立していたわけではないのね?」
 アイシャの問いに、ソアは大きくうなずく。
 「はい。私達は、それぞれに夢を抱いて、シャンバラにやってきました。
  たくさんの素敵な出会いがあって……すれ違いもありましたけど。
  これからまた、わかりあえるようになるって、私、信じてます!」
 ソアの微笑を見て、アイシャは確信する。
 この少女は、嘘をついていない。
 


 同じく東シャンバラ・ロイヤルガードの秋月 葵(あきづき・あおい)は、要請に従ってアイシャを追いかけるふりをして逃がす。
 「絶対、皆を守るって決めたんだから!」
 葵は、アイシャがエリュシオンの手に落ちることのないよう、また、可能な限り、東西の亀裂を深めることのないよう、決意する。

 パートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)はアイシャに関して偽の情報を流して手助けする。
 エレンディラは、人を疑うことを知らないパートナーのために、遭遇した相手にはこっそりディテクトエビルを使う。
 また、殺気看破で自分達に近づく存在への警戒も怠らなかった。
 (葵ちゃんに危害を加えるなら完全消去(デリート)しますよ)
 大切な存在を守るためであれば、それは、葵の望まないことかもしれなかったが。
 エレンディラは、純真なパートナーの横顔を見つつ、そう思った。
 
 ■

 紆余曲折を経て、アイシャはソア・ウェンボリスの仲介により、西シャンバラ・ロイヤルガードの1人と会うこととなった。
 メンバーには、ロイヤルガードの面々が複数かかわりがあるらしい。
 対面の前に、アイシャはソア達からこれから会うことになる【シャンバラの絆 W】の面々について、説明を受けた。
「そう、シャンバラは割れていても、東西の学生達の気持ちは、1つなのね」
 理解したところで、アイシャは森の中での会談に臨むこととなった。
 
「僕はコハク・ソーロッド。
 よろしくな!」
 アイシャはコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と握手をする。
 彼はロイヤルガードのパートナーだということだった。
 有翼種ヴァルキリーの爽やかな少年だ。
「僕がソアのパートナー、雪国ベアに頼んで、君を連れてきてもらったのさ」
「あなたが? 私を? なぜ?」
「それは、美羽に会えば分かることだぜ!」
 美羽! とコハクは呼ぶ。
 
 程なくして、脚の長い愛らしい少女が彼の隣に立った。
「初めまして!
 私は、西シャンバラ・ロイヤルガードの小遊鳥美羽」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は軽快な動作で一礼する。
 ロイヤルガードが少女とあって、アイシャは驚きの表情を見せた。
「もっと大人の方かと……」
「ロイヤルガードは皆学生だもん! 仕方がないよ」
 美羽が溜め息をついたのは、それほど大変な要職だからであろう。
 いつもの快活さを取り戻すと。
「実は、私達。あなたに頼みがあって、ここまで来てもらったんだ!」
「頼み?」
「私の親友の理子。
 つまり、西シャンバラの代王に会ってもらいたくて、呼んだの」
「西の代王様?
 え? でも、彼女にどうして……?」
 自分を利用しよう、とでも言うのか?
 アイシャは警戒して、ローブを引き寄せる。
「そうじゃなくて、ジークリンデのこと。
 知っているんだよね?」
「ジークリンデ……シャンバラのアムリアナ女王様のこと?」
「うん、理子はジークリンデのパートナーだもん。
 そうしているのか? だけでも、教えてもらえないかな?」
「でも、美羽。
 私はちょっと、行かなければならない場所があって……」
「うん。でもね、少しでいいんだ!
 理子に直接会って、話してくれない?」
 アイシャは困ってしまった。
 この方は、友人思いの、大変善い方なのだけれど……。
 自分の話は聞いてくれそうにない。
 おまけに時間はどんどん経ってゆく。
「ごめんなさい、美羽。
 いずれ、また。
 落ち着いたら、お会いしましょう!
 代王様にはよろしくお伝えください」
 
 アイシャはスッとテレポートしてしまった。
 



 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、東側の生徒達と連絡を取り、アイシャに近い者へ向かうよう指示をする。
 パートナーのミア・マハ(みあ・まは)は東側のロイヤルガードに連絡をする。
 「ロザリンドさん、お願い!」
 レキは、『白百合団』の頼れる仲間であるロザリンドに連絡が取れたことで、少しだけ安心した。
 彼女なら、きっとうまくやってくれると信頼できたから。
  
 レキとミアから得た情報を基に、一番近くにいた2人の東側ロイヤルガードが美羽達と戦闘をする。
 東側はアイシャの確保を目指し、西陣営も出てくる。

 木々の間を魔法による爆発音と、武器や防具のぶつかりあう音が鳴り響く。
 アイシャは、身をこわばらせて、一刻も早く危険が去ることを願う。

 (今はまだ表立って帝国に逆らう時期じゃないよ。状況を知るためにもまずは帝国の信頼を得ないと)
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、東シャンバラ・ロイヤルガードとしてジレンマを抱えつつも、アイシャ争奪の場で杖を振るって確保を目指す。
 パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、カレンが打ち上げる光術の光源を頼りにアイシャの姿を追う。

 カレンと美羽もコハクと一緒に冒険した旧知の中である。
 本当はこんなことはしたくない。
 全力で振るわれたカレンの転経杖を、美羽が蹴りで叩き落とそうと試みる。
 (本当は……傷つけたくない!)
 二人の悲痛な気持ちが交錯する。
 杖と脚はそれぞれ空を切る。
 

 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)も、東シャンバラ・ロイヤルガードとして西側を妨害するが、気が進まないため、わざとアイシャを逃がす。
 (私の受けた傷が命に従おうとした証です)
 ロザリンドは、ラスターエスクードで味方をかばいながら思う。
 可能な限り、誰も傷つけないためなら、せめて自分が犠牲になることで、少しでも。

 倒れるまで戦おうとするロザリンドを気づかい、パートナーのテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は、補助や回復のスキルを使う。
 (エリュシオンに引き渡すのは嫌だけど、ぶっちするわけにはいかないか。
  あー、貧乏籤の類かねぇ。
  でも誰かが本気でボロボロになるまでやっておかないと説得力ないかな?)
 ロザリンドがそれを望むならと、テレサは思う。
 (ロザリーが望んでやるのなら、ウチはその手伝いしてあげるまでやね)
 しかし、ロザリンドが、アイシャの逃げられる隙を作るために、わざと西側陣営に突っ込むのを見たとき。
 赤い血が、ロザリンドの鎧の隙間から、流れ出るのを見たとき。
 (やっぱり、きっついわあ……)
 テレサは、パートナーにはわからないよう顔をしかめた。



 そこに、イーオンから連絡受けた【保護逃走】が、邪魔に入る。
 オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)は、煙幕ファンデーションを使って、目くらましをする。

 森に、煙が満たされる。
 煙に咳き込む音と、怒号、そして、誰かが必死に何かを叫ぶ声が響き渡る。

 その中を、八神 誠一(やがみ・せいいち)は、アイシャの逃亡を手助けするため、
 小型飛空艇ヴォルケーノに乗せて逃走する。


 
 【シャンバラの絆 W】の ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、西シャンバラ・ロイヤルガードだが【保護逃走】支援のため、手は出さない。
 「西シャンバラ・ロイヤルガードのラルク・クローディスだ! 戦闘は中止しろ!」
 ラルクは、東側にも警告を発して、攻撃は避ける。
 ラルクの放つ気迫に、その場にいた者の多くは立ちすくむ。
 パートナーの秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)は、【保護逃走】にやられたふりをする。
 「ぐおあああああ!」
 わざと大声を上げて派手に倒れて見せ、周囲の者達の注意を引く。



 そこに、東シャンバラ・ロイヤルガードのルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)がかけつける。
 また、西シャンバラ・ロイヤルガードも、情報を基に李 梅琳(り・めいりん)がかけつける。
 結局、両陣営はアイシャを見失い、オフィーリア達を取り逃がす。
 
 学生達の善意に基づく行動をだいたい予想しているルドルフと梅琳は、美羽やカレン達に告げる。

 「国家神がいなければ、いずれにせよ、シャンバラの独立は不可能なんだよ」
 「現時点では、具体的な問題の解決にはならないわ」
 その場は静まり返った。

 傷ついた学生達を気づかいながら、ルドルフと梅琳はそれぞれの任務のために去っていく。



 【シャンバラの絆 E】の 四条 輪廻(しじょう・りんね)は、葵の情報から、アイシャの位置の目星をつけた。
 輪廻は、トラッパーにより探知用のトラップを掛けて、アイシャを捜す。
 「貴女が今のシャンバラにとって大切な人間であることは承知しているが、こちらにも事情があるのでな」
 輪廻は、アイシャを追いこむように牽制射撃して、目的地である、森の中の謁見の場へと誘導する。

 輪廻のパートナーのアリス・ミゼル(ありす・みぜる)は、携帯電話で【保護逃走】へ連絡を取る。

 ■

 そうして――
 東西ロイヤルガードによる争奪戦の只中に放り込まれていたアイシャは、イーオンから連絡を受けた【保護逃走】の面々に救われた。
 
 アイシャは彼等に請われるまま、今度は【シャンバラの絆 E】のメンバーである早川 呼雪(はやかわ・こゆき)と謁見することとなる。