空京

校長室

戦乱の絆 第1回

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戦乱の絆 第1回
戦乱の絆 第1回 戦乱の絆 第1回

リアクション


本来の目的
 ハツネの襲撃で取り乱したヘクトルは、落ち着きを取り戻すために少しだけ休息をとっていた。
 と……
「アイシャを捕捉しました!」
 その言葉に、ヘクトルの顔が引き締まった。
「現在位置を把握したのか?」
 部下が駆け寄って来る。
「アイシャは、ここからそう遠くない場所にいます。
まだ森の中ですが、空を飛んでいるため、すぐに出てくるものと思われます」
 このあたりに第七龍騎士団が待機したことは、間違いではなかった。
 ヘクトルは、現在の状況をぐるりと見渡した。
 残っているパラ実イコンは3機だが、周囲を機龍5機に取り囲まれている。
「よし……現在戦闘中の5機は、そのまま戦闘を続行。
待機中の者は、一緒に来い!」
 ヘクトルは、戦力を分けることにしたのだ。
「それから……入団見習いも一緒に来てもらおう。
残りの者は、ここで残った敵を掃討するんだ」
 言うが早いか、ヘクトルはイコンを発進させていた。

「誤算じゃのう……」
 カナタは、その様子を見つめて拳を握りしめた。
 ただ単純にヘクトルに協力していたわけではなく、アイシャを捕獲させないよう、見張っていたつもりだったのだ。
 しかし、東のロイヤルガードがアイシャを見失い、森から出てこようとする彼女を第七龍騎士団の者が先に見つけてしまった。
 最後の最後で、幸運の女神はヘクトルに微笑んだ。

「森の出口だわ……!」
 アイシャの視界が、どんどん明るくなっていく。
 そして、森がとぎれた。
「抜けた!」
 ようやく、アイシャは長い長いジャタの森から抜け出したのだった。
「ふうっ……」
 別に窮屈だったわけではないが、森を抜けた開放感から、ひとつ大きな伸びをした。
 少しだけリラックスをした瞬間、手足が鉛のように重く感じられるほど、自分が疲労していることに気がつく。
「さすがに少しだけ休もうかしら……」
 アイシャは地面に降り立ち、休める場所を探し始めた。

「止まってもらおうか」

 突然背後から投げられた言葉に、思わずびくっと身を震わせるアイシャ。
 そっと振り返ると、そこにはヘクトルのイコンを先頭に、5機ほどの機龍がいた。
 周辺には、イコンに乗っていない生身の者たちの姿も見える。
 自分を追っているのだということは、疑いようがない。
「……っ。ここで捕まるわけにはっ!」
 アイシャは、重い体に鞭打って、ヘクトルたちとは反対側に逃げようと試みた!
「ここは私たちの働きを見ていただきましょう!」
 機龍たちより先に動いたのは、雄軒たち入団希望者たちだった。
「これで主が認めてもらえるのなら……」
 バルトが「神速」を活かして先回りをし、アイシャの行く手を遮った。
 同時に動いた迫が、別の進路も塞ぐ。
 疲労がたまっているアイシャの反応は遅い!
 アイシャは4人に、完全に行く手を塞がれた。
 上空に逃げても、魔法で攻撃されるだろう。
 となれば、残る手段は……。
「あの女はテレポートできる! あとは任せろ!」
 ヘクトルは、このために準備した「あるモノ」をスタンバイした。
 そして、ヘクトルの機龍から、どんっという発射音とともに、それが放たれる!
「ええっ! こ、殺しちゃう?」
 一瞬、砲撃に見えたためにマッシュは驚いたが、それは大きめのネットだ!
「きゃあああっ!」
 ばさあっ!
 ネットはアイシャを確実に捉えた!
「これは魔法対策を施したネットだ。
テレポートされると厄介だからな」
 魔法だけでなく動きも封じられるよう、目の細かいネットに捉えられたアイシャは、もがいてはみるものの、それは体力の消費にしかならなかった。
 こうしてアイシャの身柄は、第七龍騎士団の手に渡った。
「我らの役目は果たされた!」
 ヘクトルが宣言すると、団員たちも歓声を上げた。
「アムリアナ様……アムリアナ様……」
 力尽き、抵抗を諦めたアイシャは、ひたすらアムリアナの名を呼んでいた。

「入団希望者諸君。いい動きだった」
 団員たちはマッシュや雄軒らをねぎらった。
「今後の動向も認めよう。一緒に来るがいい」
「これから、どうなさるのですか?」
 雄軒の言葉に、ヘクトルは湖の方角を指さして言った。

「これより、アイシャの搬送と補給のため、ヴァイシャリーに向かう」

 残った愚連隊は、命を無駄にすべきでないと名誉の撤退をし、戦闘は終わった。
 第七龍騎士団と入団希望者、そしてネットに包まれたアイシャは、揃ってヴァイシャリーに向かった。