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第2章 みんなで森へ


 愛美を捜すと決めた者達は、それぞれの乗り物か相乗りで学園の東の森へと向かった。

 緋山 政敏(ひやま・まさとし)は、椿 薫(つばき・かおる)に。政敏のパートナー、ヴァルキリーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)はアルフレートに。剣の花嫁のリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は、アルフレートのパートナー、ドラゴニュートのテオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)に乗せてもらった。
 小柄な鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)の後ろには、巨漢の雷蔵が重量オーバーでふらつきながらもなんとか乗り込み、筐子の後ろに乗った水上 光(みなかみ・ひかる)は、彼女の胴体を覆う段ボール……いや、ロボの表面に手書きで描かれた有名な冒険映画の絵を怪訝そうに見つめている。
 メイベル、セシリア、フィリッパの百合園生は、それぞれルカルカ・ルー(るかるか・るー)セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)、セシリアのパートナーで機晶姫のファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)の後ろに乗せてもらえた。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とパートナーのプリースト、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の後ろには、九条院 京(くじょういん・みやこ)とパートナーの守護天使、文月 唯(ふみづき・ゆい)が乗った。
 ベアとマナの後ろには、鈴城 想葉(すずしろ・そうは)とパートナーの吸血鬼、ピアストル・レイリ(ぴあすとる・れいり)の姿があった。
 どう見ても、やはり仏頂面にしか見えない翡翠と、パートナーのヴァルキリー北条 円(ほうじょう・まどか)の後ろには、ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)と剣の花嫁のフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)が遠慮がちに乗っている。
 こちらも百合園生ながら愛美の救出に協力を申し出た遠鳴 真希(とおなり・まき)とパートナーの吸血鬼ユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)が、それぞれアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)橘 恭司(たちばな・きょうじ)に同乗させてもらっている。
 葉月 ショウ(はづき・しょう)の後ろに乗った嘉川 炬(かがわ・かがり)はゲーム機型の機晶姫ドット 君(どっと・くん)を抱え、剣の花嫁のエリン・クラウディア(えりん・くらうでぃあ)はイルミンスール生の高月 芳樹(たかつき・よしき)の後ろで、空飛ぶ箒から落ちないよう必死にしがみついていた。

 こうして一行は、マリエルが渡してくれた地図のコピーを頼りに、ようやく洞窟の近くまでやってきた。
「乗り物が使えるのは、ここまでのようでござるな」
 薫が、開けた場所を見つけ、小型飛空艇から降りる。他の者達も近くに乗り物を止めた。
 森は学園からさほど離れてはいなかったが、深く、そして暗かった。
「ここに単身踏み込むとは、乙女心というやつは、暴走すると恐ろしいものだな。憎んだり嫌ったりする心より、ずっと良い心だと思っていたが……」
 テオディスが苦笑しながら言う。
「とにかく洞窟で愛美を捜そう」
 テオディスと共に先へ進もうとするアルフレートに、政敏が声をかける。
「待てよ。闇雲に捜しても時間がかかるだろ。この辺りは立入禁止区域で人が来ないんだから、愛美が藪を踏みしめた跡が残っているかも知れない。そういうのを辿った方が確実だと思うぜ」
 しかし、ベアは政敏の意見に反対だった。
「そんなまだるっこしいことしてられるかよ! 愛美が俺を呼ぶ声が聞こえてくるぜ!!」
「えっ!?」
 一同が慌てて耳を澄ますのに、マナが笑って突っ込みを入れる。
「いや、アレ、意気込みだから」
 皆が納得と落胆をするのに構わず、ベアは森へ視線を向けた。
「俺は森を捜すぜ! 今行くぞ、愛美ぃいいいっっっ!!」
 ベアは勘を頼りに森へ向かって走り出す。
「というわけだから、洞窟の方は頼むね!」
 マナもベアの後を追って行った。

「皆さん、こんなところで何をしていらっしゃいますの?」
 蒼空学園に友人を訪ねる途中、小型飛空艇の集団が森へ降りるのを見かけたイルミンスール生のプリースト佐倉 留美(さくら・るみ)は、パートナーの魔女ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)と共に、何事かと様子を見に来た。
 薫が、学園の女生徒が行方不明という事を話すと、留美は協力を申し出た。
「危険にさらされている女の子がいるなんて、絶対に放って置けませんわ! 足手まといにはなりません。森歩きは、ザンスカールの森で慣れてますから」
「かたじけないでござる」
 薫はマリエルに代わって、留美とラムールに礼を言う。
「困った時はお互い様ですわ。ね、ラムール」
「まぁ、仕方あるまい。留美がわしを面倒ごとに巻き込むのはいつもの事じゃからのぅ」
 ラムールは諦めたように、リボンをきゅっと結び直した。

「それで、どうするの?」
 皆と一緒に行動するつもりの想葉が、視線をめぐらせる。
「マリエルの話の通り、愛美が何も調べず、何の準備もしていなかったのなら、そう無茶な道は通れないはず……。愛美の足でも通れそうな道を探すべきだわ」
 リネンがそう言い、愛美の足跡を探して辺りの地面を調べ始めた。
「リネン、そっちじゃなくてこっちよ。森は私の領域なんだから、こういうことは任せなさい!」
 ヘイリーが腕組みをしながら、リネンに顎先で支持を出す。彼女に言った通りの方角には、女性の小さな足跡と、大きな長いものが蛇行したらしき跡が、うねうねと道のように続いていた。
 ざわりと、一同の肌が泡立つ。
「これって、やっぱり……」
 ピアストルが想葉の服の端を握った。
「……蛇の道だけにヘビって感じですね」
「………………」
 想葉は、皆の深刻な雰囲気を和ませようと、思い切ってギャグを言ってみたのだが、空気に合わず、残念な結果に終わってしまったようだ。
 落ち込む想葉が救いを求めてパートナーを見ると、ピアストルだけが笑顔でいてくれた。
「やっぱり、俺をわかってくれるのは、ピアスだけだよー!」
 抱きついてくる想葉をよしよしと慰めながら、ピアストルの笑いは収まらなかった。
(なんていうか、もぉ、バカな子ほど可愛いっていうか……)
 想葉のギャグではなく、落ち込みようについつい笑ってしまったピアストルだが、こういうところが、想葉なりに周りを気遣った優しさなんだと思うと、ちょっと和んでしまう。
「ありがと、ソーハ。ちょっと元気出たよ」
 ピアストルのの言葉に感激した想葉が、さらに彼女に抱きつく。
「ピアスーっ!」
「きゃあっ! もうっ、いい加減にしないと、耳噛んでやるっ!」
 カプリっと、ピアストルが八重歯を想葉の耳に突き立てる。
「い…痛いよ、ピアス〜」
 彼女の八重歯は、吸血鬼の牙でもあった。


「それでは、効率を考えて、二手に別れた方がいいと思うでござるよ」
 薫が皆に提案する。
「まっすぐ洞窟に向かってフラットカブトと愛美殿を捜す組と、この跡を中心にして洞窟周辺の森で愛美殿を捜す組。双方の連絡係は拙者が受け持つでござる」
 こうして、それぞれが目的に合わせた組に別れて出発する事になった。

「おーい、小谷ーっ!」
 政敏達、洞窟周辺の森の探索組は、不審な跡を慎重に追い、大蛇を警戒しながら、愛美の名を呼ぶ。
 そんな政敏を見て、カチェアは微笑んだ。
 跡をたどっているといっても、しらみつぶしに森を捜すなんて、いつもの政敏なら、かったるいだの、だるいだのとすぐにサボろうとするのだ。
(……やっぱり、誰かの『命』が関わると、本気になるのね)
 本当の政敏を見れた気がして、カチェアはちょっと嬉しかった。
「愛美ーっ!」
 カチェアの隣では、リーンが政敏に倣い、声を出しては反応がないか耳を澄ませる、という行動を繰り返している。
 カチェアは2人を守るため、茂みに目を凝らした。

 皆が二手に別れて進んだ後、茂みを覗き込んでいた恭司は、ようやく1メートルほどの蛇を見つけた。マリエルに見せてもらった図鑑の絵のように、後頭部にはコブがあり、紫色の舌をチョロチョロと見せている。
 恭司が試しに吸っていた煙草を蛇に近づけると、蛇はするすると茂みの奥へ逃げて行った。
(やっぱり、ニコチンは苦手か)
 こちらの蛇もニコチンが苦手だと確認できた恭司は、合流するべく、森を探索している者達の進んだ方へ走った。


 一方、まっすぐ洞窟へ進む事を選択した者達は、右も左もわからない森の中、磁石と地図を頼りに洞窟を探す。
「ねぇ、ユズ、これってちょっとやりすぎじゃないかなぁ……」
 歩きながら、真希がこそりと隣のユズに言う。
 普段着のままでは危険だというユズの意見で、真希は手持ちの中で一番露出度の少ない教導団の制服に着替えさせられ、安全メガネで目を保護し、首の露出はタオルでカバーするよう言われていた。だいぶ涼しくなったとはいえ、さすがにちょっと暑い。
 しかも、洞窟に到着すれば、大蛇を自分の方におびき寄せるため、熱を感知するという蛇の習性を利用してブーツに使い捨てのカイロを張り付ける予定だ。
「やりすぎなんて、そんなことはありません。それでもまだまだ足りないくらいです」
 真希もユズが自分の事を心配しているのは分かるのだが、そういう自分は蒼空学園に遊びに来た時と同じ服装なのだ。
(心配してるのは、あたしも同じなんだけどな……)
 そんな事を思いながら、真希は首のタオルで額の汗をぬぐった。早く洞窟に辿りつかないと、かえって暑さで体力を奪われそうだ。

「あったぞ!」
 身長のある雷蔵が、茂みに覆われた洞窟の入り口をいち早く発見した。
 入り口の高さは3メートルほどで、幅は5メートルと広い。中は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。足場はごつごつとした岩になっていて、バランスを取るのが難しそうだ。見たところ、入口付近に愛美の姿はない。
 それよりも、岩場の影から鎌首をもたげる大蛇の多さに、全員が目を奪われた。
「これは、思ったよりやっかいかもしれないぜ」
 ショウは、小弓を握る手に、力を込めた。