First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last
リアクション
序章 手ほどき
――御神楽 環菜(みかぐら・かんな)、蒼空学園の校長兼生徒会長。
彼女は株、為替、資金調達のエキスパートである。
蒼空学園の生徒は下僕として顎で扱い、生徒からは「カンナ様」と呼び恐れられている彼女の性格は女王そのもの。
そんな環菜が掲示板で出した今回の指令は……
『タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!』
そして、彼女の呼びかけに応じて集まったのは七十余人の精鋭たちだった。
もちろん、裏でそんな事が起こっているとは露知らず、この事件の発端であるタベルト・バナパルトはいつもの日常を過ごしていたのです。
それはツァンダの端にある小さなラーメン屋『邪津気尉恥絵袁(じゃつきいちえん)』での出来事。
そこでは傍若無人とも言えるタベルトの姿があった。
「ムホッ……」
タベルトはラーメンスープを口に運ぶや否や、恐ろしい表情で叫んだのだ。
「女将を呼べいッ!!」
「お、女将ですか……? う、うちはラーメン屋なんですけども」
仕方がなく、店を切り盛りしていた十八歳の美少女、荏原 味美(えばら あじみ)が姿を現すと、タベルトはいきなり怒鳴りつける。
「キサマがこのラーメンを作ったのか? キサマは首だぁ!!!」
「く、首!? いきなり、何を言っているんですか? 人を呼びますよ!!?」
見も知らぬ怪しげな男によって、首を宣告された味美はもちろん抵抗する。
だが、タベルトは不遜な態度で笑うと言ったのだ。
「クハハハッ、呼ぶがいい。この『太邊流斗倶楽部(たべるとくらぶ)』のオーナーであるタベルト・バナパルトが恐ろしくないのであればな!!」
「タベルト・バナパルト!!?」
味美は思わず、後ろに下がった。
タベルトの噂は業界仲間から散々聞かされていた。
無論、そのとても汚いそのやり口をだ。
「こ、ここには貴方に差し上げるようなお金はありません」
「ほう、ではこの店は潰れるな。ワシが『魅酒乱(みしゅらん)』で徹底的に炎上させるからのぅ。キサマも知っておるであろう」
タベルトは立ち上がると味美に近づいていく。
脂ぎった顔に下卑た笑い。
そして、いきり立たせた濡れた箸を片手に。
「別に金でなくともいいのだぞ。ワシは料理の『りょ』の字を知らぬ者に手取り足取り、料理を教えるのも趣味なのでなぁ。ダシの取り方から、上下に蠢く道具の使い方までたっぷりとな……」
「ひ、卑怯者!!」
後ろで椿の花がポトリと堕ちると奴の笑い声が響き渡ったのだ。
「ウマイ、ウマイぞォォーォッー!!」
どのような意味かはわかりませんが……
☆ ☆ ☆
そして、場面は変わって、ここは珍 六三郎の経営する『幸楽園(こうらくえん)』。
そこには環菜によって、派遣された品格の持ち主達が集まっていた。
「一常連客として、お手伝いに参戦!!」
「おぉ、すまないな。瑠菜ちゃん」
それは実家が老舗料亭でこの店の常連でもある七瀬 瑠菜(ななせ・るな)だった。
彼女は今回の勝負にはスープが重要だと感じ、六三郎のスープ作りを手伝いにきたのだ。
麺に定評のある六三郎のラーメンを活かす和風ダシのスープである。
「私は野菜たっぷりのヘルシーラーメンが良いと思います」
その頃、彼女のパートナーのリチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)は産地直送の有機野菜を探しに行っていた。
勝負はやはり食材からという鉄則を実行するためである。
「六三郎さん、最高のラーメンを作りたいんだよね? なら、人手も舌も必要だねっ!」
【親善大使】のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も来てくれた。
メイドの彼女にとっても中華料理は専門外だが、基本的な技術はさほど変わらない。
重要なのは下ごしらえ。
水、塩、火加減、タイミングさえ合って入ればOK。
「いしゅたんに試食ならまかせろ〜! らーめんたべた〜い!」
「食うなぁ〜!!」
さらに、ミルディアのパートナーであるイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)も食べる気(!?)満々である。
ミルディアが作り、イシュタンが食う。
その小型食物連鎖とも呼べるコンビは息もピッタリだ。
さらに、その後ろにはケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)が立っていた。
褐色の肌にポニーテールがチャームポイントのケイラはイルミンスール魔法学校に入学したばかりで学園活動に興味津々である。
「自分は洋風のラーメンが作りたいな。これを使って」
ケイラは故郷のジャングルから持ってきた怪しい薬草や木の実を机に広げた。
すると、それを見たミルディアが驚いたように声をあげる。
「こ、これ、【自己規制】だよ!?」
「そうだよ。これを食べ物に入れると良い感じで気持ちよくなるんだ。歌ったり踊ったりする時に最適だよね」
「だめぇー!!」
瑠菜とミルディアらはラーメンのスープに薬草を入れようとするケイラを止めた。
キョトンとするケイラ。
どうやら、ケイラにはもうちょっと学校に慣れてもらう必要があるようだ。
そして、そこに訪問者もあった。
「珍さん、ご教授お願いします(ペコリ)」
「んっ、君は?」
それは【カンナ様親衛隊】の樹月 刀真(きづき・とうま)であった。
彼は環菜長(校長、理事長、生徒会長をまとめて呼ぶとこうなる)とルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の為に六三郎の元へ修行にきたのだ。
自分自身を含め人を物と認識している所があり、残酷な事も平然と実行するがカンナ様に対しては紳士である。
カンナ様にパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の料理を食べさせないのも当然であろう。
月夜が持ってきたサンプルのラーメンは赤いラーメン……と言うより、これは兵器なのではないだろうか?
しかし、珍 六三郎は彼の熱心な眼差しに心を打たれたようだ。
「よし、弟子にして進ぜよう。今日からお前は【珍六三郎様親衛隊】と名乗るがよい!!」
「えっ? ちょ、ちょっと待ったぁ!!?」
何とかして奇妙な称号を逃れた刀真だが、何とかして六三郎の力をゲットしたようだ。
しかし、環菜に集められた精鋭は只の従順な子羊たちではない。
我こそはラーメン道の達人なりと言う強者らも存在するのは当然だろう。
正統派、邪道派、審査員を目指す者、己の道を貫こうとする者。
みんなが一様に五日後の味審査を目指して頑張っていた。
審査員は御神楽 環菜(みかぐら・かんな)、ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)ほか。
果たして、『ラーメンの達人』と呼ばれてタベルト・バナパルトと相対するのは誰になるのだろうか!?
First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last