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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

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第三章 試食

 次々と出来上がる料理がカンナ様の目の前に運ばれていく。
 そんな中で、鈴木 周(すずき・しゅう)はとっても焦っていた。
「おい、レミ! 早く、料理を仕上げろよ!! あっ、これ、俺の携帯番号、空港で出会ってハネムーンに出かけよう!」
「……えと、……んと………………ん? ……何だっけ?」
 焦っていたが、目の前の可愛い女の子に声をかけるのは忘れない。
 そんな突然な百何回目かのプロポーズに瑞月 メイ(みずき・めい)は驚いてしまった。
「へぇ……パートナーが頑張って料理してる間に、ナンパしてるんだ? 『タナベ』さんへのラーメンが出来たわよ」
「何ですと!?」
 おそらく、二丁目の裏の空き地に住む盆栽が趣味の『タナベ』さんのために作られたレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)の渾身の一品が、ドンッ! という音とともに、周の目の前に置かれる。
「ナンデスット!!?」
 周は二度仰天する。
 映画のタイトルにもなりそうな彼の行動は正常な男性の生理現象と言えよう。
 レミが作ったのは鶏がらと豚骨をブレンドしたスープを使った醤油ラーメン……だったはずなのだが、どこがどう化学反応を起こして、ビキニ島の核実験を浴びたのかは知らないが、それはとても怪しげな『遊星からの物体L』になっていたのだ。
『キシャアアアアアァァァーーー!!!』
 ピンクのスープの奥に潜むのは、痙攣する黒い繊維質。
 驚くべき事にそいつは体温を有しており、口襞から黄緑の体液を垂れ流しながら、半径二メートル以内の生物を捕縛し体内に取り込んでいく。
 ドリアンにも似た悪臭とエイドリアンにも似た珍妙な味を除けば人体に影響はない。
 さらに驚くべき事にコレを分子レベルで解析すると、ラーメン類ラーメン科に分類されるため、列記としたラーメン種なのだ。
 《参考文献 麺に食われる人類への警鐘》
「よし、じゃあ、みんなに食べさせてくるね。見た目はグロいけど美味しいはずだしね!」
「待て、待つんだ、レミィーッ! レミィーッ、カムバッーーーク!!!」
 ――しかし、その後、この二人の姿を見た者はいない。
 『ツァンダ危険物取扱法違反』で連行されただの、ラーメンに食われただの様々な噂が学校の七不思議として残ったという……


 ☆     ☆     ☆


 しかし、そんな些細な男女の失踪事件はほっといて事態は進んでいく。
「環菜長、ルミーナさん! これが【カンナ様親衛隊】である、俺のラーメンですッ!!」
「ちょっと待ったぁ〜!! 一番手は【カンナ様の使用人】である、この俺のラーメンパフェだぜ!!」
 その掛け声はほとんど同時だった。
 樹月 刀真(きづき・とうま)シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)による、カンナ様への貢物合戦である。
 刀真のラーメンは珍 六三郎の元でみっちりと修行をし、鶏がらベースで作った正統派醤油ラーメン。
 シルバのラーメンはパートナーの雨宮 夏希(あまみや・なつき)に作ってもらったチョコベースのラーメンパフェだ。
「うむ、見た目も味も互角だと思わない、ルミーナ?」
「そうですわね。白黒つけるのは難しそうですわ」
 まさに互角。
 どちらに勝利の女神が微笑むかはこの時点ではわからない。
「そ、そんな馬鹿なぁぁぁっ!!!?」
 おや、どこかで刀真の叫び声が聞こえたようだが……おそらく、気のせいであろう。

 そうこうしているうちに特設会議場はありとあらゆる馨しいラーメン臭(?)で覆い尽くされていく。
 すると、会場に奇妙な来訪者が現れた。
「ヘ、ヘルプ、ミーィ!!!」
 その声にカメラを向けるカメラマン。
 しかし、すぐさまにカメラの方角を他所に向ける。
 映像を出す事は倫理上難しい。
 なんと、そこに突然現れたのは、ほぼ全裸の三人の乙女たちだったのだ。
「な、何か食わせて、くれぇ……(ガクッ)」
 そう言って倒れたのはマイクロビキニ風に改造した防刃ベスト(防げない)をまとった羽高 魅世瑠(はだか・みせる)
「食い物ー! 食い物をよこせー!!」
 まともな言葉を話せないフルモンティーことフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)
「ラズ、食う、お前、食うヨ!」
 そして、蛮族出身のラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)である。
 彼女らは会議場に来るや否や、とにかく片っ端からラーメンを食べ始める。
「うまい、うまい、うますぎて死ぬーー!!」
 その食いっぷりに周囲が呆然とする中、ラーメンは消えていったのだ。

 ざわざわ……ざわざわ……
 周囲から激しいざわめきが起こっていた。
 ラーメン判定を行う為のラーメンがほとんど残っていない。
 この惨状に環菜もルミーナも顔を見合わせる。
 いったい、この窮状を救う神は現れるのだろうか?
 すると、そこへ自称・教導団枠の外来審査員と名乗り、キッチン内でタダ食いを繰り返していた一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が戻ってきた。
 満腹になったお腹を摩り、楊枝を咥えながら優雅にだ。
(えっ……な、何? このお通夜みたいな雰囲気は? ま、まさか、タダ食いがバレたとか!?)
 アリーセの脇をじっとりと嫌な汗が流れ落ちた。
 しかし、この状況は何かがおかしい。
 彼女はとりあえず、目の前に立っていたレポーターの神代 正義(かみしろ・まさよし)を捕まえる。
「この状況を説明してもらおうか、神代 正義!」
「お、お前は一条 アリーセ? 実は……」
 同じシャンバラ教導団の彼女に正義は今までの経緯を話す。
「そうですか。どうやら、ここは私たちシャンバラ教導団の出番のようですね。マイクを貸しなさい!!」
 そして、アリーセは動き出した。