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リアクション
第八章 偽りのメニュー
――気づくとこの長い戦いも最後の二組を残すのみとなっていた。
【カオスな料理人】こと、一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)とパートナーで【腕の良い料理人】のセシル・グランド(せしる・ぐらんど)による真っ白な鶏白湯スープのラーメンである。
森次の方はすでに料理人の表情ではない。
料理は下手だが、料理に対する愛情のある彼だけにタベルトの横暴を許せないようだ。
一方、料理が得意なセシルはタベルトの食事の様子をいぶふかしげに見守っている。
「フンッ、この程度なら何人もの料理人を知っておるわい……」
他者を蹴落とす事で優越感に浸る。
それが自らの才能を閉ざしていく事になる事を彼は知らないのだろう。
セシルは厨房の中で料理中、気になっている事を話した事があった。
「タベルトさんは何で自分の好きな料理で、弱い者イジメをするのでしょうか?」
すると、周りは一様に言う。
「そんな事を言われても、好きなんじゃない? 弱い者イジメが」
「……でも、そんな彼にも食べる時の幸せとかあると思うのですが」
セシルにはそれが何かわからなかった。
「森次! 灰汁とる為のボール取ってください!」
「えーと……灰汁のボールは……これ!」
繋がり。
森次とセシルは料理で人と人との繋がりを感じた。
だから、タベルトに美味いと言われなくとも真っ直ぐ前を向いて歩いていくのだろう。
(グフフッ、ようやく最後の料理人か……さて、どんな奴が来るのやら……)
タベルトは最後の一人を待ち構えた。
ガシャンッ、ガシャンッ……ウイイイイン……
「!!!?」
タベルトが驚くのも無理はなかった。
なんと、最後に現れたのは【『楽園の入口』店主】の楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)だったのだ。
「ロ、ロボットに料理など作れるかッ! 不愉快にもほどがある!!!」
激高するタベルト。
だが、フロンティーガーは冷静に答える。
「貴公、失礼な! 僕は機械弄りが得意で、性能維持にはメンテナンス代が必要な普通の高校生です!!」
ガシャンッ、ガシャンッ、ウイイイィン。
「コノ ラーメン ヲ ドウゾ」
(ガビーーーンッ!!? 突っ込みようがない……)
タベルトは仕方なく、目の前の奇怪な機械(親父ギャグではない)から手渡されたラーメンに手を伸ばす。
しかし、その飾り気のない家庭料理にタベルトは箸を止める。
「むうっ!? これはポトフ!!?」
ボナパルトからフランス姓と言う事を導き出したフロンティーガー。
フランスのおふくろの味の定番である「ポトフ」をベースにしたラーメンを作ったのだ。
コンソメスープで牛肉・人参・玉葱・キャベツを煮込み、そこに醤油ベースの鳥がらスープを加える。
そして、そのオリジナルスープにラーメンの麺をのせて出来上がり。
「中華の麺、熱きスープ、おふくろの味……全てを今、一つに!」
「ズズッ……」
タベルトは何も言わなかった。
最後の料理に緊張しているためか、その場は静まり返っていた。
静寂の中、箸とナイフとフォークの音だけが響き渡る。
「……美味くはないな」
――タベルト・バナパルトから最初に出た台詞はそれだった。
(……しかし、この気持ちは何だと言うのだ?)
身体の芯から湧き上がってくるこの想い。
「最後にはわかるでしょう。あなた様が料理に対して紳士であればですが……」
本郷 翔(ほんごう・かける)は諭すようにタベルトに忠告した。
紳士……紳士だと?
(ワシは味に紳士だ。紳士だからこそ、マズい店が許せなかったのだ……今の世の中には偽者が多すぎる。しかし、いつの間にか……)
タベルトの目から大粒の涙が零れ落ちた。
そして、彼は――
「だが、この料理はワシの心を揺さぶった……これを美味いと言わずに何を美味いと言えばいいのだろうか……」
その一言で堰を切ったように感情が露わになっていく。
「美味い、美味い!! ワシは何て……何て事を!!」
世に溢れる偽者に関わるあまり、自らの精神まで偽者になってしまっていた。
いつの間にか、他者を蹴落とす事で優越感に浸る事が快感に変わってしまっていた。
そして、その優越感を失わない為に本物達を消してきてしまった。
「ワシは何て事を」
近くに珍 六三郎の姿があった。
タベルト・バナパルトは彼に駆け寄ると、自分の言葉で真実を語ったのだ。
貴方たちの作ったラーメンは美味かったと……
たかが料理。
されど料理。
そんな身近な存在ゆえ、人はその偉大さを忘れてしまうのかもしれない。
今の世の中には偽者が多すぎる。
だから、いつの間にか世の中も偽者で埋もれていくのだろう――
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