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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

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第一章 ドラゴンロード −壱−

 翌日――
 蒼空学園にある厨房は生徒たちでごった返していた。
 その中で赤月 速人(あかつき・はやと)はパートナーのカミュ・フローライト(かみゅ・ふろーらいと)にこんな話をしていた。
「カミュ、知ってるか? 女の子は砂糖にスパイス、それから素敵なもので出来ているんだ。つまり、お菓子だッッッツ! 全て任せたぜ!」
 カミュの頭の中で何かが弾けた。
 目の前にいるTシャツの男がラーメンを作りに出してきたのはイチゴと牛乳と砂糖。
 そして、その後の作業をパートナーに押し付けたのだ。
「色がおかしい? 豆乳ラーメンだってこんな色だろ?」
「ガビーンッ!!?」
 いや、いや、いや、いや、何かが違うぞ。
 そして、カミュは周りの視線と戦いながらラーメンを作り始める。

 大きな鍋の中で沸騰したお湯が一杯張られていた。
「えーと、ワタシの目標とするスープを作るには鶏がら(グロい)、イカ墨(グロい)、これを次々とほおり込み、めんどくさいから麺も一緒に……ネギやピータンも一緒でいいや」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)は材料をポイポイと鍋の中に突っ込んでいく。
「ちょっと待ったぁ!!!」
 それを見ていたシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)は慌てて止めた。
 ミレイユはどうしてシェイドが止めたのかわからない。
 冷静沈着なシェイドは頭を掻きながら、彼女を諭すように言う。
「……ったく、『食べる気失せちゃうラーメンを作って欲しいんだけど』なんて言われて、材料やレシピを揃えたの……ミレイユ。あなたはもう少し考えてから行動しなくては……」
 ?と、言う表情を見せる料理オンチのミレイユに呆れるシェイド。
 確かに鍋の中には食べる気も失せちゃう伸びきったマズい麺のラーメンが出来上がっていた。
 だが、ミレイユがシェイドに注文したのは見た目は悪くとも味は美味しいラーメンなのだ。
「デューイ、あなたからも何か言ってあげてください」
 その先にもう一人のパートナーで、黒スーツを着た白うさぎのデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)がいた。
 そして、彼はほうれん草、クチナシ、鶏がら、イカ墨、ネギ、ピータンを同時に沸騰した鍋に入れて呟く。
「……終わりだ。エネミー」
 その一言でシェイドの身体は凍てついたと言う。

 一刻、一刻……時計の針は時を無常に刻み続けていく。
 その部屋はとても静かだった。
 皆が帰った調理室は静寂の中にあると過言ではないだろう。
 だが、そんな静寂を壊すような音がグツグツと煮えたぎる鍋の中から湧き上がった。
 ゴポッ、ゴポポッ……
 肉片の隙間から空気が漏れる音。
 否、それだけではない。
 微かに漏れるのは女のくぐもった声。
「……あ、あぁ〜ん、駄目、汁が……お汁が出ちゃうぅ」
「にひひ、つかさ。もっと、出汁を出すのじゃ♪」
 身動きの取れない鍋の中で秋葉 つかさ(あきば・つかさ)ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は交わい続ける。
 そして、草葉の陰からは八重歯を光らせた桐生 ひな(きりゅう・ひな)が覗いていた。
(ふふっ、耐えるのです。つかささん達が耐えれば耐えるほど、私の必殺ラーメンが唸るのです〜(ピキーン))
 手にはひなの大好きなマヨネーズ。
 これはいったいどんな食べ物に変化するのだろうか?

 廊下……静かな廊下を一陣の風が駆け抜けた。
 料理の材料である強力粉と砂糖、塩、野菜油を持ち、椿 薫(つばき・かおる)はこの調理室に戻ってきた。
「作るでござる! 作るでござるよ!!」
 そして、予め準備しておいたスープの蓋を開くと……
「!!!?」
 これは敵の忍びの罠か何かだろうか!?
 なんと、鍋の中にはほとんど裸の二人の美女が絡まっているではないか?
「デヘヘ……」
 のぞき部に在籍する彼は己のアーミーショットガンを構えながらソレを眺めてしまった。
 当然の事ながら、鍋の中から突き出したネギで襲われる。
「料理の仕方は企業秘密!!」
「うぅ、う……インフルエンザが流行ってござる!? 流行ってござるぞ!! ドロロンッ!!!」
 そして、薫は捨て台詞を吐くとその場から消えたのでござる。


 ☆     ☆     ☆


 そして、場面は変わって、ここはツァンダの郊外にある白いお屋敷。
 その厨房では早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がラーメンを作っていた。
「出来たぞ、ミミ。この俺の究極のラーメンを食してくれ……」
 器に盛られたのは、白湯スープのちぢれ麺ラーメンだった。
 薄く切られたチャーシューとメンマ、まるで、乾燥させたようなネギからは馨しい香りが漂ってくる。
「わぁ、美味しそう! いただきます!!」
 ミミ・マリー(みみ・まりー)は両手を合わせると割り箸を二つに折り、その麺を口に運ぶ。
 口に入れると噛まなくても噛み切れるような麺から芳醇で濃厚なダシの味が口いっぱいに広がった。
「美味しい! まるで、カップラーメンみたいだ!!」
 ミミが感嘆の声をあげると、呼雪は笑いながら言う。
「ハハハッ、もちろんそれはカップラーメンさ」
「おい、真面目にラーメンを作れよッ!!!」
 すると、呼雪の頭を後ろから瀬島 壮太(せじま・そうた)が突っ込んだ。
「痛いな。何をするも何も言ってるだろう。タベルトみたいな人間にはカップラーメンでも食わせておけと……黄色いひよこ君」
「そんな呼び名で呼ぶな! これは下宿先のじーさんが持たせてくれたんだ!!」
 ミミとお揃いのひよこアップリケが付きの黄色いエプロンの事を馬鹿にされたと感じた荘太は呼雪を怒鳴る。

「まぁまぁ、冗談はそこまでにしときたまへ。君達。我々はラーメンを作っているのだよ」
 すると、後ろから一メートルはあろうかと言う白いシェフ帽を被ったエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)がパスタを茹でながら登場したのだ。
 ガビーンッ!?
「お前が一番冗談だろッ!!!」
 目玉が飛びそうなほど驚いた荘太と呼雪はラーメンを投げつける。
「……ア、アレクス君。あちらは気にせずに僕らは僕らでレシピを考えましょう」
 後ろで束ねた美しい金髪の片倉 蒼(かたくら・そう)は白い紙にペンを走らせながら、プレゼントボックスにスッポリと収まったアレクス・イクス(あれくす・いくす)に言った。
「違うにゃう! 塩分は厳禁にゃう!!」
「で、でも、美味しくなければ、選考に残れないんですよ?」
「コンセプトを見失っては、意味無いにゃーう!!!」
 拳を丸めたアレクスは蒼をKOする。
 それらを陰から見つめていたファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は『突撃!勝手に味見品評会』と書かれたしゃもじを隠しながら呟いた。
「……料理って、こんなに激しいの?」
 すると、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は箱に入ったお菓子を口に運びながら答える。
「ボリボリ……アレクス様の肉球ぷにぷにしたいな……」
「あぁぁ〜!? ユノちゃん! それ、エメさんへのお土産のカシオリだよ!!?」
 チーム【海鮮あんかけ麺】の受難は続く。