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リアクション
第七章 至高のメニュー
「やはり、カップ麺が下卑な奴には似合ってるな……」
腕組みをした早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は呆れたようにカップ麺にお湯を注ぐ。
「ちょっと待てよ!! ここまで作ったのに止めるのか!?」
「俺達が懸命に作った麺をあんな男に食べさせる必要はないと思わないか……黄色いひよこ君」
「だから、そんな呼び方で呼ぶなぁぁぁ!!!」
瀬島 壮太(せじま・そうた)の怒りの声をよそに、呼雪は粉スープの素を器に注いでいく。
チーム【海鮮あんかけ麺】の運命はここまでなのか!?
……だが、その時、それまで黙っていたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が割り込んできた。
「出来ましたよ。私たちの【海鮮あんかけ麺】がね」
「おい、エメ。俺たちの会話を聞いていたか? 俺はあんな奴に……」
「いえ、あんな人だからこそ必要なんですよ。愛情溢れるラーメンがね。一部のみなさんもわかっているようですよ」
エメは珍しく真面目な表情で微笑む。
「フッ、……やっぱり、こうなるのか。お前らに関わるとロクな事がないな」
「でわでわ」
エメはラーメンを戦場へ持って行こうとする。
だが、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)はとんでもない事を指摘した。
「エメさん! それ、コユキが作っていたカップ麺だよ!!?」
「ええええェェッ!!? ガビーーーンッ!!? わ、私としたことが!?」
「…………やはり、お前らに関わるとロクな事がないな……」
呼雪がそう言うと、片倉 蒼(かたくら・そう)は頭を抱え、アレクス・イクス(あれくす・いくす)はプレゼントボックスに隠れる。
「アレクスくんの為のメニューだけあって、薄味だけど優しい味で美味しいよね」
その隣でミミ・マリー(みみ・まりー)とユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は嬉しそうにラーメンを試食していた。
――そう、彼らが言うようにみんなはわかっていたようだ。
タベルト・ボナパルトに美味いと言わせるには味だけではない何かが必要だと。
そのノーブルな舌を満足させるには……欲望を司る英霊ベイバロン・バビロニア(べいばろん・ばびろにあ)は瓜生 コウ(うりゅう・こう)を水戸へ誘った。
そこで出会ったのは、天下の副将軍『徳川光圀公』とも縁の深い御前岩。
手に入れたのは霊水である。
「ラーメンとは大衆食だ!!!」
……と強く断言するコウだが、料理の腕は皆無であった。
だが、そこには静かなる情熱がある。
情熱は時に技術を上回る時がある。
ベイバロンとともに行った女性器の形をした奇岩に、霊的な何かを感じたのかもしれない。
「貴女様にもわたくしにもついているものですわ。それにコレこそが生命を生み出すところ、何を恥ずかしがる必要がありましょう?」
そう、ベイバロンは云った。
生命の魔術を極めるに、「食」と「性」の二欲は避けては通れない。
「………………」
囁くような声でコウは事故で亡くなった弟の名を呟いた。
魔術……秘術……
それらを手にする為には、どのような不利な戦いでも避けるわけにはならないのだ。
☆ ☆ ☆
目指すはパラミタ一の料理人!!
カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)は、シャンバラ教導団の騎兵で【未来戦士】という料理対決には何の役にも立たないイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)を押し退けるように調理をしていた。
「さぁさぁ、このあたしが創るのはありえないラーメンだよ!!」
「カンナさん! カンナさん! えー、こちらイレブンサイドのキッチンです! 何かすごい丸秘情報を手に入れたんですけど……これは何でしょうか!!?」
実況の神代 正義(かみしろ・まさよし)はカメラを向ける。
「映すな。この映像を放送すれば、人類の危機だ!」
「な、なんだってーΣΣΣ!」
実況が途絶えた。
そして、火炎の料理人であるカッティが銅鑼の音とともにタベルトの前に姿を現す。
「料理は炎! 中華料理は火力で決まる!」
「フフッ、なんだ。このラーメンは!? 麺が入っておらんではないか?」
「それが手さ。まずは食ってから、文句を言ってもらおうか!! 『奇想天外! 麺のないラーメン!?』をね」
「ムウッ!!?」
タベルトが唸るのも無理はない。
カッティの自信どおり、その濃厚にも見えるスープからは様々な香りが広がっていた。
党参・黄耆・熟地黄・当帰・川弓・白朮・甘草・山薬・桂皮・紅棗・桂圓・枸杞・紅棗……
それらいくつもの漢方が鶏がらベースのスープに多様な効果を与える。
身体を芯から温め、疲れきった臓腑を整え、全身に精気を養う。
「……そして、このシャキシャキとした食感は?」
アロエである。
喉に新しい潤いをもたらし、美容の事も考えた秘策とも言えよう。
「う……ま……」
「美味(うま)……い?」
タベルトの口から思わず本音が漏れようとしたのだろうか?
しかし、彼は首を振ると言ったのだ。
「……どこかで、馬が鳴いておるようだな」
そして、彼はどこ吹く風のようにパタパタと扇子を使い出したのだ。
「あの野郎殺す!!!」
ついにパラ実のラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)がキレて立ち上がった。
「さて……そろそろ終わりにしましょうかね」
「次元の壁を超える技術……目指す場所はポータラカですね」
さらに血の気の多そうな橘 恭司(たちばな・きょうじ)やウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)も続く。
「お待ちなさい。勝負はまだ終わってはいません」
彼らを遮るように本郷 翔(ほんごう・かける)は立ち塞がった。
確かにまだ料理人は残っている。
だが、全ては無駄に思える。
証拠はない……
しかし、彼は不正をやっている。
誰の目から見ても、彼の判定は妖しげに見えたのだ。
チリンチリン、チリンチリン。
自転車を優雅に漕いで、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がやってきた。
百合園の代表として、タベルト側の評価員に潜り込もうと画策していたが無理だったので、色々なラーメンを試食して回っていたのだ。
「どこがおいしくないんですか、カッティおねえちゃんのラーメン?」
ヴァーナーはカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)の『奇想天外! 麺のないラーメン!?』を試食する。
「おいしい」
ヴァーナーは頬をほころばせるとスープを飲んでいく。
そして、哀しそうな顔を見せるとポツリと呟いたのだ。
「……タベルトおじちゃんはウソをついてます。ボクはいろいろなラーメンをたべたけど、おいしいラーメンはありました(遠い目)」
危険なラーメンもあったのだろう。
このような子供にそんな産業廃棄物を食わせるとは……誰だ?
しかし、その反面わかった事がある。
ヴァーナーはカッティの元に駆け寄ると、彼女に抱きついて、そして言ったのだ。
「カッティおねえちゃん、やっぱりすごい料理人さんだったんですね(にこにこ)」
偽りだらけのルールの中で光るたった一つの真実。
至高の味に敬意を表して――
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