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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 5.町・捜索―Side Other―

 一方、シイナ達と別行動を取った者たちの結果は、どんなものであったのだろうか?
 順を追って説明するために、時間を少し巻き戻すことにする。
 
「うん、分かったよ。月夜さん、ありがとう」
 そう言って町に入ったばかりの頃。
 月夜や朔から「予言」の情報を得た神和 綺人(かんなぎ・あやと)は、ナナの地図を基に、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)と協力して「メインストリート沿いの洋品店」を捜索していた。
「朔さん達は僕らと同じコースの右側にある洋品店を当たるというから、僕等は左側に行くこととしよう」
「アヤ、あなたは地球人だから、ここは私達に任せてください」
「…ああ、俺もそう思う。無理はするな」
 ユーリも、地球人である綺人を気遣う。

 という訳で、綺人は物陰から「殺気看破」と「禁猟区」で様子を見、捜索自体はクリス達に任せることとなった。

「そうだねえ、守護天使のマネキンねえ……」
 町の様子を気にしつつも、洋品店の店主は話し始める。
「わからないけど、生きている守護天使ならみかけたよ」
「え? それは、どこでですか?」
 クリスが詰め寄る。
「うん、最近だね。変な青年『魔術師』とこの近くで話していたっけな」
「『魔術師』?」
「ああ、笑い顔の鉄仮面なんか被った奴でさ」
 とこれは声を潜めて。
「噂じゃ、鏖殺寺院とつながってるって変人だよ」
「そいつは、どこにいるんだ?」
 ユーリが尋ねる。
 店主はうーんと天井を見据えて、かぶりを振った。
「ごめんな、面倒事は嫌いなもので。わしはこれ以上のことは……」
「そうですか。分かりました、ありがとうございます」
「町長の目も怖いんでね。『青ひげ』なんて誰がつけたものやら。お優しい方だったのにねえー……」
「そんなに変わられてしまったのでしょうか?」
 ああ、と店主は頷いた。
「そりゃあもう! 神様か仏様ってお人でさあー。貧乏人に涙流して、一夜の宿を与えて下さるようなお方だったんじゃが……」
 クリスとユーリは見合わせる。
 ありがとうございました、と言って2人は店を後にした。
 
「どうにも、その『魔術師』とやらが怪しそうだね」
 話を聞いた綺人は、熟考した末に解答を出した。
「しかし、鏖殺寺院とは! なぜそんな人物とルミーナさんは接触してたのかな?」
「2人は顔見知りということだな、少なくとも」
 と、ユーリ。
「アヤ、ここは1度シイナさんや皆さんと連絡を取って見てはどう? 私達だけでは情報も少なすぎますし」
「そうだね、クリス。僕もそう思う」
 クリスに促され、綺人は慌てて携帯電話を手に取った。
 
 ■
 
 同じ頃、反対側の歩道を歩いていた朔とブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は、路上で聞き込みを行っていた。
 もっとも朔は「隠れ身」で姿を隠しているため、当事者はブラッドクロスだけだ。
「吟遊詩人のオルフェウス・ジュニアさんのことだよおー!」
「お友達の居場所、教えて欲しいんだけどさっ!」
 彼女は街行く人々にけなげに聞き歩く。
 女達がクスクスと笑っている。
「オルフェウスの? 友達になんて、会える訳がないじゃない!」
 どうして? とブラッドクロス。
「だって彼、アイドルだもの」
 電信柱のポスターを指さす――。

 ブラッドクロスは河岸を変えると、別の質問を訪ね回わった。
「町の洋品店の場所、知りたいんだあー」
「教えて欲しいんだよね。どこでも構わないからさ」
「ここ最近ずっと町に居る滞在者とかって、知らない?」
「町の滞在者ねえ……ヒィックッ!」
 立ち止まったのは、酔っ払い。
「宿屋の占い師くらいじゃねえのかねえー。んなことた、どーでもええわ! ねーちゃん、一緒に飲もうや!」
 肩に手を回してくる。
 吐く息の酒臭いこと!
(勘弁してよおおおおおおおおおおおーっ!)
 鼻をつまんでブラッドクロスが気分を出し始め、朔が闇討ちに動き始めた時だった。
「ちょっと、おまえさんっ!」
 男がぎょっとして、目をむく。
「若い女の子に手え出してえ! こんのオタンコナスぼけぇっ!」
 男の細君らしき女が玄関から出てきて、箒で男を追っ払った。
「まあ、悪かったねえ。うちの亭主は酒癖が悪いんで」
 豪放に笑う。男の奥様のようだ。
「あ、あのー……」
 ブラッドクロスは、この人なら大丈夫かも? と思い、既出の質問事項を尋ねてみる。
「はあ、オルフェウスは分からないねえ。でも、守護天使のマネキンがありそうな洋品店かね……そういえば、1件あったわね?」
 そう言って彼女に教えたのは、少し先の街角にある「専門店」だった。
「ありがとう、ありがとう! おばさん!」
 ブラッドクロスは幾度も礼を言うと、教わった守護天使服の専門店「天使のピエロ」へと向かうのだった。
 
「ここですね、カリン」
 隠れ身を解いた朔は、「天使のピエロ」を見上げる。
 そして、そのショーウィンドウに目を留めた瞬間、カリンと今一度パートナーの名を呼んだ。
「よくやりましたね! さ、シイナ達に報告しましょう! 『ルミーナさんが見つかった』って。それから紗月とも連絡を取らないと!」

 ■
 
 舞、ブリジット、仙姫の3名は、占い師の予言通り「酒屋、酒場、公園」を中心に聞き込みを行っていた。
「もっとも酒場は、未成年だから入れないのよね」
 舞が溜め息をついた、その時だった。
 携帯の着信が鳴って、静麻からのメールが入る。
『俺は地球人だから、大人しく酒場にこもっていることにするよ。 静麻』
「ということは、酒場は静麻に任せればいいってことよね?」
 同じ回覧メールを受け取ったブリジットは、安堵の息をつく。
「では、私達【百合園女学院推理研究会蒼空支部】は酒屋と公園を中心に聞き回ることとしますか。あ! 舞は適当に隠れていてね。聞き込みは私と仙姫でやるから」
「そうじゃな、ブリジット1人には色んな意味において任せられんからのう」

 ……と言った次第で、ブリジットは酒屋に仙姫は公園で聞き込みに回り、舞は中間地点の路地裏で待機することとなった。
 そしてあっという間に仕事を終えた2人は、舞の下へ戻り情報を検証する。
「オルフェウスは町のアイドルと言うばかりではなく、町長夫妻のお抱え吟遊詩人だったのね? ブリジット」
「そう、それで現状『迷いの森』を自由に行き来出来るのは、町長と町長夫人と……それから謎の『魔術師』の男だけって話」
「町では娘達が蝋人形化されてしまっておるが、町に戻されたのは今のところルミーナ殿しかおらんようじゃな」
「オルフェウスも、とみていいんじゃない? 現に真夜中に町長が運んでいた、ていう目撃談もあったことだし」
「そうじゃな、それも妙なことじゃ、ブリジット。町に戻された蝋人形は、なぜ2体とも町長の手で運ばれておるのか……重労働を自ら行うなど、本来は三下が行うことであろう?」
「でも、もっと問題なことがあるわ!」
 ブリジットは額に手を当てて、溜め息をつく。
「蝋人形化を解く方法のことよ。『解呪薬』という薬が効くらしいけれど。伽噺の中に出てくる『伝説の薬』なんて! どうやって手に入れればいいっていうの?」

 ■
 
 同じ頃。
 舞達の脇を通り過ぎる一陣の風。
 もとい、「隠れ身」で身を隠した星宮 梓(ほしみや・あずさ)は、町民達の話を盗み聞きして希少な情報を手に入れていた。
 地球人である彼女は、そのままでは町民達から情報を収集出来ないからだ。
 
「ええーと、色々ありすぎるわね。皆に報告する前にまとめておかないと」
 彼女はぶつぶつと呟きながら、考えをまとめてゆく。
「町長さんは、町中の簡素なアパートに住んでいたのよね」
「『庶民派で、優しく、金も人望もあった』っていうのが、以前の彼への評価」
「ところが数ヶ月前に、なぜか例の屋敷へ引っ越してしまった」
「『蝋人形』騒ぎが起き始めたのも、この頃からね」
「その屋敷には町長が住み始める前まで、奇妙な『魔術師』の青年が住んでいた」
「その青年は怪しげな魔法の研究をしていて、変わり者で、町の嫌われ者だったのよね」
「確か……『トレント』とかいう伝説の魔物を、『迷いの森』で復活させたとか何とか……」
 そこまで考えて、「トレント、か」とサインカードを胸元から取り出して宙を睨む。
「木の化け物、か。イラストでも描けば分かるかしら?」

 ……そうして後程、シイナの足下に『STAR PALACE』のサインとキスマークの入ったカードが突き刺さることとなる。