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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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「ほう、これがメインストリート、1番の繁華街にござるか!」
 椿 薫(つばき・かおる)は目を輝かせて頂上近くの公園手前にある商店街を見据える。
 折しも街は歩行者天国の直中であった。
 交通を規制して、多くの歩行者達は大道芸をゆっくり見物している。
「これは、天啓にござるよ!」
 ニカッと笑う。
 パートナーのイリス・カンターをつれて、タツと飛び出して行った。
 一行が止める間もない。
 だがこれを好機とみたのは、薫達ばかりではない。
 屍枕 椿姫(しまくら・つばき)メルティナ・伊達(めるてぃな・だて)ミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)篠宮 悠(しのみや・ゆう)の2組も、次々と大衆の中へと身を投じて行く――。
 
 そして各自は善意から「パートナー契約迷信払拭」のための作戦を開始した。
 
 いち早く始めたのは、イリスだ。
 薫につけた綱の具合を確かめてから。
「さあ、皆様! こちらをご覧くださいませ!」
 「『パートナー契約』と称するパラミタ人の地球人指導・講義内容『生活指導と共存』」と書かれた幕を掲げる。
「これよりわたくし、イリス・カンターが、地球人の『公開躾』を始めましてよ」
「は? 『公開躾』とな?」
 地球人と聞いてビビっていた町民達は、何事かと興味をそそられる。
 所詮田舎者の彼らは、興味本位から「公開躾」なる講義に集まった。
 大衆の前に出たイリスは、物腰優雅に意見する。
「殿方は女性を外敵から守るもの。のぞきは紳士じゃありませんわ」
「は? のぞき?」
「そうですわ。しかしながら地球の殿方の『のぞき』は、文化と思わねばなりません」
 日頃のうっぷんも兼ねて、グイッと綱を引っ張る。
 苦悶する薫を横目で見やり。
「彼らは『大きいおっぱい』観賞のためならば、どんな犠牲も厭いません」
 歌うように、(もちろん本気で)断言する。
「されどこの無駄に行動力であふれてるという所は、わたくしも見習わなければいけませんわ」
「はあ……」
「パラミタ人が地球人を知るということは、必要なことですわ。迷信も、知ろうとしないから生まれるのです」
 イリスの講義は延々と続く。
「地球人を知り、それから判断するのがいいと考えましたの」
「迷信、噂そのような物で、人に疑いを持ってたらきりがないですわ!」
「今起こってる問題を共存という形で解決してから判断しませんこと?」
 内容の方はさて置き、その堂々たる講義に町民達は耳を傾けている。
(よし、イリス殿! この調子でござる!)
 ぐいぐい締め付けられる縄に、薫は顔を赤黒くしつつも使命のために我慢する。
(うう! 拙者はこの屈辱に、町民達のため、そして地球人達のために、耐えて見せるでござる!!)

 その隣では篠宮 悠(しのみや・ゆう)ミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)の毒牙……というよりも、逆襲にあっていた。
「ミィル、情報集めに行くぞ! じゃ、俺はいつものようにサボって……て、ミィル! 何すんだ!」
 台詞を言い終わらぬうちに、悠はミィルに突き飛ばされて、大衆のど真ん中に放り出される。
「こんの、人攫いのバカ!」
「は? 人攫い? もしもし〜、ミィル?」
「ミィルですって! 気安く呼ばないで頂戴! その面、後で役所に突き出してやるんだから!!」
 わあわあ泣いて、その場に泣き崩れて行く。
 こうして町民達に取り入ったドラゴニュートのミィルは、その結果、なぜ町民達が地球人を信用しないのか、その理由を聞き出すことに成功した。
「その昔、この町一帯は王国と鏖殺寺院との戦いでひどく荒れてしもうて」
「その際、真っ先に町を裏切ったのが他国の人間でのう」
「以来、町に災厄が起こる時は、決まって他国の者どもの仕業だ」
「そういった次第で、この町の人間達は地球人というより『他国の者』達を一切信用しない訳さ」
「『地球人』と限定しておるのは、こんな田舎にくるよそ者は今となっては地球人しかおらんからのう」
 要約すると、そんなところだ。
「そうだったの……」
 やはり嫌うには、理由はそれなりにあったようだ。
 
 情報収集に成功しつつあるミィルの隣では、メルティナ・伊達(めるてぃな・だて)がやはりパートナーである屍枕 椿姫(しまくら・つばき)の毒牙にかかっていた。
 つまり地球人のメルティナが考えもなく、しかも制服のまま道行く人に。
「ねえねえ、人攫いの現場を見たって人、知らないかな?」
 尋ねていたところ、いきなり足蹴りされたのだった。
「こんな簡単な聞き込みも出来ないの? このクズ地球人があ!」 
 メルティナに石つぶてを投げつけようとしていた町民達は、これを見て矛を収める。
「あれ、嬢ちゃんも、あの奇特な嬢ちゃんと同類かい?」
 町民が指差したのはイリス。
 彼女は「公開躾」の弁をふるっている。
「はあ、まあ、そうですね。まあ、もっとも私は隷属させていますが」
「ほお、そいつは頼もしいこって」
 町民達は椿姫がパラミタ人ということも手伝って、話は聞いてくれそうだ。
「私はその……同じパラミタ人として、人攫い事件の顛末を知りたいのです。どなたかご存じありませんか?」
「はあ、『人攫い』? 町娘のかね?」
 彼らは互いの顔を見合わせる。
「そんなら、トンボさんかな?」
 誰かが言った。
「トンボさん?」
「酒場のバーテンダーさんじゃよ。最近は姿も見かけんけどなあー」

 3組の破天荒な行動は、なおも続く。
 
 だが、やはりこの状態を危機とみた町民達もいたようだ。
 3組は町民達の通報にあって、町の【自警団】から目を付けられることとなった。
「逃げるぞ!」
 シイナの掛け声で、薫達の首根っこを掴み、一行は逃走する。