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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 4.町・捜索―Side Shiina―

 民家裏で待機していたシイナ達は、朔から連絡を受けていた。
 
「ああ、分かった。ルミーナさんの蝋人形がいるかもしれないのは、『メインストリート沿いの洋品店』と出たのだな?」
 礼を述べて、携帯電話を切る。
 そこへ、やはり占い部屋で予言を受けてきた月夜が帰ってきた。
 彼女の報告で、一行の方針は決まった。
「月夜も朔も同じ予言を受けたのだから。まずは素直に『メインストリート沿いの洋品店』を当たってみることにするか」
 だがメインストリートは町を分断するだけのことはあって長い上にアップダウンがある。
 すでに朔達丘の麓からメインストリート沿いの洋品店を当たっている。
 そこでシイナ達は朔達とは反対側の麓から、やはりメインストリート沿いの洋品店を当たことに決めた。
 
 ■

「とはいえ、爆弾ちゃんにまかせっきりってのも心配なのよね……」
 はあ、と美羽は額に手を当てて溜め息をつく。
「ヤバそうな時にはハリセンで正気に戻すにしても。1人じゃ心配だわ!」
「大丈夫ですよ! 美羽ちゃん」
 さり気なく気を利かせたのは、明日香だった。
「行きみたいに、連携しましょう! 私がシイナちゃんをサポートして、別の方角に行きそうな時にはスリッパでツッコんで修正させますから!」
 そしてスカートの中から、いつ仕入れてきたのか?
「蒼空学園の来賓用スリッパ」をそろそろと取り出すのであった。

 ■

 美羽と明日香の2人は、連携してシイナに当たることとなった。
「シイナちゃん……右ですかあ〜? 行きたいんですね……て、そこは斜め右ですぅー!」
 パコッと明日香はすかさずスリッパでひっぱたく。
「次は『ララおばさんの洋品店』ですね〜。え? 2つ先の信号を、右へ曲がるのですか。右、右、右……て、そっちは、左ぃ〜!」
 えいっ! とスリッパがさく裂する。
 しかも明日香のツッコミには容赦がない。
「さすがは、【スリッパツッコミ(初級)】なだけはある。基本がなっているということか……」
 シイナはしょーもないことに感心して、道を行く。
 道行く間に、美羽はコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)を使ってルミーナ・マネキンの情報を聞きに行く。
 シイナが介入して危うくなりかけた時には。
「駄目! 爆弾ちゃん、そんな乱暴につめよっちゃ!」
 やっ、とハリセンで後頭部を叩いて正気に戻す。
 そうして、シイナが後頭部を抑えて大人しくなったところを見計らい、
「ごめんね、コハク。あのおばさんに尋ねてきてくれないかな?」
 コハクに再び頼んで、捜索を再開するのだった。
「そう、尋ねてくるのはね。『ルミーナ・マネキンを置いている洋品店』の場所。それから『いつからそのマネキンを置いているのか』、『どこでそのマネキンを調達したのか』てこと。お願いね?」

 2人の連携が功をなし、一行は些細なトラブルもなく用を足すことが出来た。
 もちろん、情報収集の方も。
「ということは。シイナさんの方向音痴はハルカとは違って、『方向は頭では理解しているのだが体がついて行かない』というだけのことみたいだね」
 迷子にならなくてよかった――コハクはそろそろと安堵の息を吐く。

 もっとも、シイナが「案内役」を無事に務められたのは、当然2人の力ばかりではない。
 
 例えば日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、洋品店につく度ベンチに座り、シイナに休憩を進めていた。
 捜索の邪魔をさせないため――。
「自分の身くらい、自分で守れねーと不便だろ……」
 などと言って、禁猟区の作り方を指導してみたりする。
「ナナは『守護天使』なんだろ? だったら一般学生とはいえ、『禁猟区』のパートナースキルくらい出来た方がいい」
「皐月が言うなら、そうなのかもしれないな」
 シイナは前回の事件で、皐月のことは特別信頼していた。
「おまえの言葉には『真』があるし……。そうだ! 悪いが、私に教えてくれないか?」
「あ? ああ、そうだな……」
 シイナのまっすぐな目に、皐月はある種の後ろめたさを覚えながらスキル指導する。
 スキル指導ばかりではない。
 光条兵器のギターを取り出し、武器での防御方法を実演して見せたり。
 疲れ見えた時には、驚きの歌でシイナと自分のSP回復をして見せたり。
 だが彼の好意は、なぜか長くは続かない。
 そして次の保護者役にバトンタッチをして、見えない位置に隠れると。
「鏖殺寺院と協力した男だぞ! 空京防衛の時だって、防衛側で……けれどおまえの先輩は……っ!」
 片手で顔を抑える。
 ダンッと壁に拳をあてて、低く呻くのたっだ。
「くそっ! 空気察しろよ!」

 そして今一人の「保護者役」――樹月 刀真(きづき・とうま)は、まったく何の負い目もないまま淡々と任務を全うしたのだった。
 最も彼がこの役目に就いたのは、第1に彼が地球人であり、第2に彼が変装するための道具を調達するのに時間がかかったためである。
「しかしこのハリセン……というものは、何のために使うのでしょう?」
 シイナを脇に置いて、刀真はハリセンを眺めて「?」を頭上に掲げる。
「さあな。それより、刀真! 私達も洋品店へ聞き込みに行くぞ!」
 シイナが腰を上げる。
「君はチョロチョロ動かない」
 パコッとハリセンではたいて、座らせる。
「なるほど、こうして使うのですね!」
 身をもって体験した刀真であった。
 で、応用編。
 間もなく、月夜が買い物から戻ってくる。
「刀真、これで変装して」
 月夜が渡したのは「仮面」と「フード」であった。
 刀真がつければ、通り男性版の「機晶姫」に見えなくもない。
「うん、今から刀真は私のお友達の機晶姫トーマね」
「機晶姫トースだ。良い名だ、まるで機関車の様だな」
「だれが機関車トーマだ、コラッ!」
 バシイッとシイナに絶妙なタイミングでツッコミを入れ、ハッと我に返る。
「なるほど。こういった使い道もあるのですね」
 
 ……こうして「ハリセン」と「ツッコミ」を体得した刀真は、さらなるツッコミの道を究めるため、結果的に「保護者役」のポジションを全面的にまかされてしまったのだった。
 もっともそれが成功したのかというと、「ガンたれている男の機晶姫が地球人のボディガードにいる」という町の噂から、察して余りあるものがあるのだが。
 
 とにかく彼らの働きもあって、一行は目標のほぼすべてを午前中に制覇しつつあった。
「この分なら、爆弾ちゃんも役目を果たして、私達もルミーナさん達と対面出来そうね!」
 美羽の明るい言葉に一行が頷きかけた、その時だった。
 
 トラブルは、予期せぬ方角からやってくるのだ。