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【十二の星の華】空の果て、黄金の血(第1回/全2回)

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【十二の星の華】空の果て、黄金の血(第1回/全2回)

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【第1章 旅立ち】

 小型飛行艇や、大型飛行艇が蒼空学園の屋上に待機していた。
 小型飛行艇や空飛ぶ箒を持っていない者達は、大型飛行艇に次々、乗り込む。
 面々は、さらわれた藤野 真珠(ふじの・まこと)を救い出すため、タシガン空峡にある、ケセアレ・ヴァレンティノの城に乗り込む勇士たちだった。

 大型飛行艇は閃崎 静麻(せんざき・しずま)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と協力し、ツァンダ家から提供して貰ったものだった。
「…さすがに小型飛行艇までは貸し出しできないってか」
 静麻はふっと笑う。
 環菜から既に話しは通してあったが、ツァンダ家の運輸管理者に掛け合ったところ、さすがにそこは渋られたのだった。
 ただ、さすがにそこは閃崎 静麻。
 藤野家からは、博識とコミュスキル政治を使い、金銭の提供を受けていた。
「静麻殿、真珠を、赫夜を頼みますぞ」
 藤野家当主、藤野 真言は以前に会話をした経験からも、静麻には託せるものがあると思ったのだろう。そう、静麻に願いでたのだった。


 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)はつかつか、と藤野 赫夜(ふじの・かぐや)のもとへやってくると、正面にたつ。そして、赫夜に出発前に赫夜に清符を見せて貰い、大まかな城の位置を認識すると、それを資料集めに奔走している面々、特に羽入 勇(はにゅう・いさみ)に渡すために動画に収めた。
 清符は赫夜の鼓動と合わせるかのように、リズムを刻むようにして、点滅している。まるで生きているかのようだった。
「この清符、生きているみたいですね」
「ああ…今までこんなことはなかった。ただ、ルクレツィア様は『ヴァレンティノ家の宝だ』と言っていた…」
「赫夜様、一言、宜しいですか? 私は裏切られる事も含めて端から信じると言いました、だから其処は気にしていません。…が、ずっと黙っていた事は少し許せません。だから、1発だけ叩かせて下さいね?」
「…盛大に頼む」
 この時、翡翠は自分自身のけじめの為背伸びしてほっぺを軽く叩かせて貰う。
 しかし、その音はぺち、と言う軽い音だった。
「これで恨みっこなしです。私は真珠様を助け出すため、誠心誠意、尽くします」
「翡翠殿…」
「それにしても、真珠様は、愛されて無いと拗ねるのは勝手ですが、何故それを伝えなかったのでしょうか。私は其処が一寸気に喰わない。家族や友は喧嘩して絆が深まる。だから、無事戻れたら一度家族喧嘩をして見るのもいいと思うのです。真珠様にはまだ家族が居るんですから…」
「…真珠は恐らく、自分が愛されていないと『拗ねている』ことにすら、気がついていなかったのだろう。これだけは言わせてくれ、翡翠殿。あの子は、優しい子だ。自分のそんな気持ちに気がつきたくなかったのかも知れない。抑え込んでいたのかもしれない。気持ちを表現出来ない子だったんだ。ただ、帰ってきたらおじいさまも含め、私たちはとことん、話あって、喧嘩の一つもしてみよう」
「解りました。赫夜様」
 にこ、と翡翠は軽く口許に笑みを浮かべた。


 黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)は、腹を探る。操られた真珠につけられた傷がまだ、しっかりと塞がっていないのだろう。鎖帷子越しに生々しい赤い肉を見えているのを、目撃した天文部の副部長、マルクト・ティフェレトがにゃん丸を止めようとした。
「にゃん丸君、君が行っても、何もできないかもしれないよ。むしろ、命を落とす可能性だってあるんじゃないのかい?」
「絶対、行くんだ、俺は」
「マルクト、にゃん丸はこういう人なのよ。…私たちは行けないけれど、応援しているわ」
 マルクトの双子の姉で、天文部部長のケテル・ティフェレトがにゃん丸に握手を求めてきた。
「待っててくれ。真珠を連れて帰ってくる」
「無理しないようにね」
 マルクトもにゃん丸に星形のお守りを渡し、無事を祈った。そして、にゃん丸は無理をおして、小型飛行艇に跨る。
 樹月 刀真(きづき・とうま)がそのにゃん丸に声を掛ける。
「…にゃん丸、お前真珠に惚れてるんだろ? でなきゃあんな大怪我してまで助けないよな…今回も、ケセアレとか言う奴から、必ず助けろ。俺が協力する」
「…ったり前だ」
 リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)は最初はにゃん丸が浮遊島に乗り込むことには反対だった。
「ちょっと、足手纏いになるんだから病院で寝てたら?」
「俺が顔出さなきゃ、真珠が蒼学に戻ってきづらいだろ!」
「そういうの、ストーカーって言うんじゃないの!?」
「おお、結構。俺は真珠のストーカーだよ。浮遊島まで行ってやるよ。地の果てまでだろうがな!」
 いや、俺は行かなきゃならないと言い張るにゃん丸に呆れるリリィ。
「いや…、人生の一大事にあんたなんかに来られた方が困るって…」
(でも、にゃん丸の友達に迷惑をかけるわけには行かないわ。…仕方ない、あたしがついていかなきゃならないでしょ! これは!)
 そう、リリィも決意し、飛行艇に乗り込む。

 赫夜は飛び立とうと準備をする生徒達の中に混じって、空を見上げ、何事かを決意しているようだった。黒く長い美しい髪が、風にはためき、まるでちれぢれに川に流れる絹糸のようにも見える。
 そして、その側には如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が、まるで赫夜のナイトのように佇んでいた。
 そこに、端正な顔立ちのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がやってくる。
「藤野さん、今、いいだろうか」
「…エヴァルト殿。もちろん大丈夫だ」
 真っ黒な髪が横嬲りになり、赫夜の顔を時折、見えなくしてしまう。しかし、その奥にあるエヴァルトと同じ紅い瞳は、今までとは違い、澄み切っていた。
「…この間、藤野さんが言ったこと、…正式にここで断らせて貰う」
「…」
アッサシーナ・ネラとして戦った赫夜は、エヴァルトに
「もし、私に何かあったときは、真珠を頼む。『十二星華』でもなく、『アッサシーナ・ネラ』でもなく、『藤野赫夜』として…!」
 と、頼んでいたのだ。
「あの頼みは、謹んで辞退させてもらうぞ。万一の事態など俺達が起こさせんし、今度こそ貴女自身の手で救いだせるのだからな」
「…ありがとう。エヴァルト殿。…あなたのような人がいてくれて、とても私は心強い。…一緒に、真珠を助けてくれ。力を貸してくれ」
「当たり前だ。友達だからな」
 エヴァルトの言葉に、赫夜はニッコリと微笑んだ。それは、迷いのない、美しい笑顔だった。

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