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幽霊船を追え! 卜部先生出撃します!!

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幽霊船を追え! 卜部先生出撃します!!

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chapter .9 決着 


「思ったよりコントラクターたちもやるのね」
 船の隠し部屋から船全体の様子を監視していた女が、意外そうに呟いた。隣にいた男――ザッポは、立ち上がって言う。
「私が始末してきましょうか」
「そうね、あんまり調子に乗られても私がイライラしちゃうから」
 ふたりが扉を開けてその姿を船内に表出させた。ふたりは甲板に向かって歩を進める。すると、目の前に三道 六黒(みどう・むくろ)とパートナーのヘキサデ・ゴルディウス(へきさで・ごるでぃうす)が現れた。
「そなたが黒幕か?」
 ヘキサデが話しかけると、ザッポが無言で杖を向けようとする。が、それを女が制止した。
「……もしそうだったら、どうする?」
「安心するがよい、我らは事件の解決に来たのではない。ビジネスをしに来たのだ」
「ビジネス……?」
「わざわざコントラクターにだけ噂を流したのは、手駒でも欲していたからであろう? ならばその目的、我らが手伝おう。なに、見返りは求めていない。ただ我らは、敵と戦えれば良いのだ」
「おぬしらと戦うのも面白そうだが、より多くの強敵と戦いたいからな」
 六黒が不敵に微笑む。彼らの目的は一点、コントラクターと戦うというそれのみのようである。
「ふうん、まあ、好きにすれば? 私の邪魔さえしなければ、誰と戦おうが自由よ」
 女がフードの下で笑う。
「甲板あたりに、うじゃうじゃいるんじゃない? きっと」
 甘い声に誘われるように、六道は女やザッポと共に甲板へと向かった。

 甲板へと出た彼らは、泪たちとすぐに鉢合わせた。
「……あなたが、この船を使って悪さをしていたんですか?」
 泪がずい、と進み出て尋ねる。女はそれを無視し、空を見上げた。そこには、先ほど飛ばしておいた使い魔が大きな箒を加えて空を飛んでいた。
「あら、お迎えが来ちゃったみたい。ザッポ、後は任せていい? 私、これを持ち帰らなきゃ」
 女がずるっ、と何かを取り出した。それは、石像となった愛美だった。
「小谷さん!?」
「そんな大きな声出さないでよ。石になってるだけじゃない。じゃあザッポ、頑張りなさい」
「はい、お気をつけて」
 ザッポに軽く挨拶だけを済ませると、女は箒に乗り愛美を担いで飛び立とうとする。
「まちなさ……」
 泪が追いかけようとしたが、それをザッポが引き止めた。
「この船を今取り仕切っているのは私だ」
ザッポが有無を言わさぬ形で、泪にアンデッドを差し向けようとする。それを止めたのは、ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)だった。
「幾重もの阻みも光の礫の前に開かれん。神の剣、フェルキアの怒り、今この時、彼の者どもに撃ち下らん! ラクス・フェルキア!!」
 高々と詠唱し、バニッシュを唱えるファティ。その閃光は、ザッポの使役したゾンビたちの動きを一斉に止めた。同時に、ファティの契約者であるウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)がザッポに斬りかかる。
「取り仕切っているということは、現状での親玉はキミということですね?」
 ウィングは返事を待たずに、紅の魔眼と封印解凍を発動させた。
「こうなった以上、手加減なしで倒れてもらいます」
 ウィングは剣を構え、殺気を放つ。迎え撃とうとするザッポは、新たにアンデッドを繰り出した。数で攻め落とそうという作戦なのだろう。だが、その作戦は騎沙良 詩穂(きさら・しほ)によって防がれた。
「おまたせしましたぁーっ、詩穂のキラキラ☆アンデッド撲殺タイムはーじまーるよー!!」
 詩穂はアイドルさながらの振り付けをしながら登場すると、パワーブレスを自らにかけ忘却の槍を構えた。
「セルフのパワーブレスからのぉー……則天去私っ!」
 てっきり槍で攻撃するのかと思いきや、槍をことっと置くと思いっきり素手でゾンビを殴り始める詩穂。
「使わないんだ!? 槍、使わないんだ!?」
 驚いた一同は声を揃えてつっこむ。そんな中、ひとりつっこみよりも撮影に集中している者がいた。デジタルビデオカメラを持って詩穂を撮っているその生徒は、国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
「ふふ、本当に待ったぜ、詩穂さんよ……」
 武尊は詩穂が敵と戦うこの瞬間を待っていたのだ。いや、もっと正確に言えば彼が待ち望んでいたのはもうワンランク上の景色だった。
「私も手伝いますっ!」
 生徒ばかりに任せてはおけないと、泪もゾンビ討伐に乗り出した。
「Good! グウッ! これだ、この絵だ!!」
 思わずガッツポーズをする武尊。そう、彼が最も狙っていた撮影のタイミングは、泪と詩穂、女子アナとアイドルが競演するこの瞬間だった。
 揺れる泪の胸を、ひらりとめくれる詩穂のスカートを、武尊はあますことなく撮影した。
「これを編集して売りさばけば、大儲け間違いないな」
 ところが彼のその思惑は、意外な形で崩れることとなる。
「なんだ、これは!? わしは強い敵と戦うために来たというのに、大詰めに来てこのふざけた空間はなんだ!?」
 詩穂や武尊の悪ふざけを見ていた六黒の頭の糸が、ぷつんと切れてしまった。
「もっとわしを満足させろ! こんなものは捨てて、かかってこい!」
 六黒は武尊のビデオカメラをぐしゃっと壊すと、海へと投げ捨てた。
「あぁっ!? オレの苦労が……何してくれてるんだ、えぇ!?」
 六黒と取っ組み合いの喧嘩を始めた武尊。そのそばでは詩穂が「今夜のメイン料理はあれかな?」とゾンビを殴りつつもザッポを狙っているようだった。
「……所詮学生か」
 ザッポは見苦しいものでも目にしたかのように、溜め息を吐く。
「よそ見とは、余裕ですね」
 その隙を、ウィングが逃すはずがなかった。彼の殺気がザッポに向けられ、思わずザッポは杖を横に構え防御の姿勢を取る。しかし、この殺気すらウィングはフェイントに使った。
「さっきの言葉、そのまま返しましょう。所詮二級品の親玉だったみたいですね」
 ウィングの刃が、ザッポを貫いた。

「……! こちらがやられた以上、最早ここに留まるのは無意味か」
 どう、と血を流しながら倒れたザッポを見て、六黒はこれ以上の戦闘は目的外と悟る。
「ここで朽ちるには、わしはまだまだ足りぬのだ。また会おう」
 六黒はヘキサデが用意していた小さな救命ボートに乗り、幽霊船を去っていった。
 それを見ていた泪が、思い出したように声を上げる。
「あっ……私たちが乗ってきた船は、もう使えないんでした! どうしましょう!」
 泪がくるりと船を見る。すると、ちょうど船が限界を超え爆発するところだった。なお綾乃と袁紹、そしてこたつの3人は最後までこの船に乗っていたらしく、爆発後船の破片にしがみつき後から救助されたらしい。綾乃と袁紹に憑いていたレイスは、爆破の衝撃で取り払われたようである。
 そしてここにもうひとり、憑かれたままの生徒がいた。大分目が危ないことになっている真だった。ゾンビも一通り退治し、戦いがほぼ収まった甲板上で真ただひとりだけが暴れていた。
「血ダ……血ヲモットダ……」
 彼は光条兵器であるクロスボウをところ構わず乱射していた。
 真を止め、正気に戻してやることも大事であったが、一行にはそれと同じくらい大きな問題が残っていた。連れ去られた愛美をどうするかということ。そして、この海からどう岸まで辿り着くかということである。
と、船の奥からレンがやってきた。
「どうやら一段落ついたみたいだな。この船はどうにか動くようだから、これで岸まで行けるぞ」
「なんだ、じゃあ俺は必要なかったか?」
 レンと別方向から声がかかる。小型のボートから幽霊船へと上がったのは、閃崎 静麻(せんざき・しずま)だった。彼はいざという時のため、保険をかけておいたらしい。その保険というのが、彼が乗ってきたこの小型ボートである。
「一応、一通り薬や包帯なども積んできたんだがな」
「あっ……それでしたら、この方たちをそちらのボートに乗せて、手当てを!」
 泪が、今回の戦いで比較的大きな傷を負った者たちを静麻の船に案内する。
「怪我してる人がいるの? じゃあボクの出番だね!!」
 ボートに乗ったまま、パートナーの閃崎 魅音(せんざき・みおん)がブンブンと手を振った。その手には様々な治療道具が握られている。
「ではとりあえず、このふたりを……」
 泪が差し出したのは、救出されたアリアとつかさ、そしてまだ微妙に憑かれたままの未沙と武だった。
「太もも……えへへ、太もも……」
「爆発起きてたよさっき、ビッグバンだよ……宇宙はついに膨張して終焉を迎えるんだよ……」
 ぶつぶつと独り言を喋っているふたりはその後、魅音の懸命な治療により正気を取り戻したらしい。

「他にはいないか?」
 静麻が幽霊船を見渡す。そこに、新しい人間の匂いを嗅いだのか真が近寄ってくる。
「モウコノ体モ限界ガ近イ。オ前ノ体ヲ……」
 静麻との距離を詰めると、真はそのまま彼の首を絞めようとナラカの蜘蛛糸を取り出した。その時、背後からもうひとりの静麻のパートナー、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が火術を真に食らわせた。
「もうこの船橋は外します。これ以上おかしな方が増えると、こちらのボートまで沈みかねないですからね」
 レイナは倒れた真を幽霊船に謹んでそっとお返しすると、ボートと幽霊船を繋ぐ橋を取り外した。
「静麻、ヒールしますか?」
 作業しながら、レイナが言う。
「いや……俺は無傷だから大丈夫だ。それにしても今回は楽を出来たな」
「……楽するのも結構ですけど、武勲はいつ上げるのでしょう」
「そのうちだ、そのうち。聞けば今回の事件だって、完全に解決していないみたいだしな」
 離れていく幽霊船を見ながら、静麻がぽつりとそう呟いた。