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リアクション
第13章 カノン、砲撃に怒る
国頭武尊(くにがみ・たける)の襲撃を受け、自分のイコンにたどり着く前に倒れて、眠り込んでしまったカノン。
生徒たちは、そんなカノンを介抱しようと必死だった。
そして、センゴク島には、さらなる恐怖が襲いかかろうとしていた。
「メル。出てきなさい」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、ゴーストイコンとの生身の闘いに傷ついた身体を岩の上にもたせかけて、ずっと自分をつけてきていたパートナーに呼びかけた。
「ローザ。気づいていたのね」
メルセデス・カレン・フォード(めるせですかれん・ふぉーど)が、茂みの中から姿を現した。
「ええ。どういうつもりか知りたくて、いままで声をかけないで様子をみていたわ。今回も留守を命じていたはずだけど、どうして来たのかしら?」
ローザマリアは尋ねた。
だが、ローザマリアは、わかっているはずだった。
全ては、彼女が仕組んだことなのだから。
「どうしてといいたいのは、私の方よ。なぜ留守番なのかしら? 私は、コリマ校長に相談したわ。私は、『いくさ1』の勝利者だから! 直接話すことを認められていたから! そしたら!」
メルセデスは、興奮した口調でいった。
(全ては、2人の間の秘めたる関係から起こったこと。おぬしには隠されているその因縁こそ元凶なのだ。だが、メルセデスよ、おぬしは、あまりにも過去に縛られている。過去にとらわれるのをやめたとき、真に運命を乗り越えることができるだろう。このことを忘れるでないぞ)
それが、コリマ校長の答えだった。
「そう。私とメルの間の因縁か。校長は知っているのね」
ローザマリアは、淡々とした口調でいった
「教えて。私とあなたの間には、いったい何が!? ときどき私を襲うあの不安感は何なの? 私自身が想い出すことも拒否した、忌まわしい過去は!! ああ!!」
言葉の途中でメルセデスは絶叫して、両手で頭をかきむしった。
「なら、いまがそのときだというなら、教えてあげるわ。メルが収容されていた、あの忌むべきロシアのツングースカ研究所を壊滅させたのは、私が所属していた部隊よ。あの作戦を実行したのは、アメリカ合衆国。ロシアは、私たちを幇助して黙認していたに過ぎないわ」
ついにローザマリアは、メルセデスの封印された過去の扉を開こうとしていた。
メルセデスは、まばたきひとつしないで、ローザマリアの話にじっと聞き入った。
「第8492強襲偵察大隊。アメリカ合衆国が抱える闇部にして鬼子。筋力を成人男子レベルまで引き上げる新薬を服用した上で特殊部隊訓練を受けた幼年兵を擁する、公式には存在しない部隊。私は、その部隊の狙撃手だったの」
「嘘。信じられないわ。ローザが、研究所を!? 嘘、嘘よ」
メルセデスは、次第に動揺してくる自分を抑えることができなかった。
「そう。メルには受け入れられないことだから、いままで黙っていたのよ。でも、あなたが過去を乗り越えるには、まず、過去のことを知らなければならない。メルの話を聞いて、コリマ校長に『話せ』と促されているように感じたわ」
そして、ローザマリアは、メルセデスの過去の傷に直接触れていった。
「私の放った弾丸が着弾したとき、爆発の炎が、漏れ出ていたガスに引火したわ。そして、火災は燃え広がった。メル、覚えているでしょう? 炎の中で黒く焼けただれていった仲間たちのあげる断末魔の叫び声、そして、あなた自身が火だるまになったときの恐怖と絶望。あなたに底知れぬ不安を植えつけ、強化人間としての運命が悲劇的にならざるをえないようにしたのは、私なのよ」
「あ、ああああ! 想い出したわ。私、あのとき、すごいスピードで自分に迫る弾丸を知覚して、サイコキネシスで弾道をずらして、それで……私は吹き飛ばされて、気づいたら、被験者棟は炎の中で……。嘘! でも、どうして!? ローザ、あなたは、私を、どうしたいの?」
研究所壊滅の記憶がよみがえったメルセデスは、当時感じた恐怖の感情が洪水のように押し寄せる中、半狂乱になってローザマリアに詰め寄っていく。
「メル、あなたは、私に復讐する権利がある。負うべき十字架は、私の背中にあるわ。あなたは、あなたの信じる立場から決めればいいわ。復讐もまた、正しい動機よ」
「ローザ、ローザ、ああ! 私の仲間は殺されていった! あなたの部隊、そして、あなたに、ああ! ローザ、今度はお前をコロスゾ、イイノカ、ローザ? シャーッ!!」
恐怖の裏返しでもある怒りの炎を心中に燃えあがらせて、メルセデスの精神は急激に不安定となり、白目をむいて、しわがれた声で唸り始める。
「さあ、解放して、心の底に眠る全てのわだかまり、偉大なる力の源泉を! きゃーっ!」
メルセデスのサイコキネシスに全身を持ち上げられ、激しく地面に叩きつけられたローザマリアは、悲鳴をあげた。
「やるわね。そう、それでいいわ!」
ミラージュとフォースフィールドを展開しながら、ローザマリアはメルセデスから距離をとり、慎重に様子をうかがう。
「ナゼだ? ナゼ、以前『狂うな』といったオマエが、私を狂ワセル? ナゼだ、何が狙いダ、シネ、シネー!」
メルセデスは、ローザマリアに全身全霊のサイコキネシスを仕掛けて動きを封じ、さらに念を凝らした。
ちゅどどどどーん!
ローザマリアの周囲の空間で、粒子と粒子が瞬間的に収束させられ、次々に爆発が巻き起こる。
「あ、ああああああ!」
炎に包まれながら、ローザマリアは歯を食いしばった。
「そこまでだ」
メルセデスがサイコキネシスの力で地面にすりばち状の穴を掘り、燃えあがるローザマリアの身体を穴の中に押し込んで、土くれをかぶせて生き埋めにしようとした段階で、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が進み出ていた。
グロリアーナは抜刀すると、念を凝らすメルセデスに突進して疾風突きを決めようとする。
「邪魔スルナ!」
宙に浮かんで攻撃を避けながら、メルセデスが叫ぶ。
「調べたのだ、メル、そなたが何者なのかを、な」
刀を振りまわしてメルセデスを牽制しながら、グロリアーナがいった。
「そなたは、ウクライナのリヴィウ出身だった。なるほど、それなら、イコンシミュレーターが暴走したとき留守番だったそなたがウクライナの国歌を口ずさんでいたのも、納得がいく。そして、祖父母は四人ともチェルノブイリ原発事故の被災者で、両親は先天的に遺伝障害があり、そなた自身も遺伝子に突然変異が生じていたのだという。そこをロシアの民間研究機関によってひそかに保護され、そなたはツングースカ研究所へ収容された。そなたの足取りは、そこで途切れていたのだ」
「私は生まれながらにして呪われている! そのことを暴いて嘲笑イタイカ、グロリアーナ!」
メルセデスは叫んで、グロリアーナにサイコキネシスを仕掛ける。
「いや。ただ、わらわも、ローザ、そしてコリマ校長の意向を支持したいのだ」
全身を万力のような力で締めつけられながら、グロリアーナはメルセデスを睨んでいた。
「過去をノリコエル? ヨカロウ、お前タチヲ殺して乗り越えてヤロウ! ウワー!」
メルセデスは、絶叫した。
相手も、自分自身も、死んでしまって構わないと考えていた。
どごごごごごーん!
超能力の解放により大爆発が巻き起こる。
メルセデス自身も、ローザマリアも、グロリアーナも、炎に包まれていった。
「う! ここは?」
目を覚ましたメルセデスは、状況の激変に愕然とした。
先ほどまでセンゴク島にいたはずなのに、いま自分がいるのは、牢獄のような部屋だった。
鉄格子の向こうには、傷だらけのローザマリアとグロリアーナが床に座って、自分をじっとみつめている。
(メルセデスよ。ここは、天御柱学院の強化人間管理棟だ。おぬしは、当分の間、ここに収容する)
コリマ校長が、精神感応でメルセデスに話しかけてきた。
「管理棟に? どうして?」
(精神崩壊したおぬしに、我々は、遠距離からの精神感応で強く呼びかけた。すると、錯乱状態の中で、おぬしは呼びかけにこたえた。その瞬間、おぬしは自分自身の力で学院に瞬間移動してきたのだ。パートナーたちとともにな。そして、おぬしは意識を失った)
「そう。私は、どうなるの? ここから出してはもらえないの?」
メルセデスは、いまだ拭えぬ不安に襲われながら尋ねた。
正気を取り戻したメルセデスは、瞬間移動を行えなくなっていた。
(当分の間、ここで管理を受けながら、自分をみつめ直し、力をコントロールするトレーニングを行ってもらう。いったはずだぞ。過去を乗り越えろと。その教えを忘れ、過去に飲み込まれたのはおぬしだ、メルセデス)
「メル。毎日面会にくるわ。精神が落ち着いてくれば、外出もできるはずよ。あなたの真の力、みせてもらったわ。後は、それを活かすのよ」
そういって、ローザマリアはグロリアーナとともに去り、メルセデスを一人鉄格子の中に残した。
「待って、ローザ! グロリアーナ! 私は、私はまだあなたたちとの因縁に答えを出せていないわ!」
メルセデスの叫びが、虚しくこだまする。
(鉄格子の内側に隔壁をおろし、おぬしをしばし完全隔離する。心配はいらん。いくさ1の勝利者であり、自分自身の可能性をみせたおぬしには、今後も活躍してもらうつもりだ)
そして、コリマの精神感応も絶えた。
がっくりとうなだれたメルセデスの脳裏に、ある名前が想い浮かぶ。
「オリハ……オリハ・イリニツィナ・アマドール……私の、名前。どうして忘れていたの……?」
さて、時間と場所を、メルセデスたちが瞬間移動した直後のセンゴク島に戻そう。
遺体の回収もほとんど終わり、イコン部隊の生徒たちもゴーストイコンの集団と善戦しているように思われた。
ゴーストイコン八将軍も既に5機体が撃墜されており、残り3機がどこにも見当たらないため、中ボスクラスはもともと5機しかおらず、これで全ていなくなったのではないか、という考えが生徒たちに芽生えてきていた。
戦況の中で、イコンから降りて遺体を回収していたカノンがパラ実生に襲われて意識を失ったことが唯一の憂いであったが、それ以外は概ねうまくいっているように思われたのである。
だが、そんな戦況を一変させる脅威の事態が生徒たちを襲ったのである!
「ふっふっふ。あれがカノンのイコンか。カノンはまだ眠っている。予定では、そう簡単に目を覚まさないはずだ。生徒たちの注意はカノンの介抱に向けられている。この隙に、オレがカノンのイコンを奪って出撃する。そうすれば、オレにパンツを奪われる前にカノンが死ぬことはない、と、まさに、パーフェクトプランじゃないか。やり遂げるぜ!」
国頭武尊はニヤニヤ笑いながら、カノンが搭乗していた機体に歩み寄っていく。
と、彼のパーフェクトプランは、いきなり障害にぶち当たった。
「な! 空っぽの機体を見張っているイコンがいるぜ!」
慌ててものかげに身を隠す国頭。
カノンのイーグリットの周囲には、カノンの護衛役のイコンが警戒を続けていたのである。
「くっそー、これじゃ、近づけないじゃねえか! どうする?」
国頭が嘆いたとき。
ひゅるひゅるひゅるひゅるひゅる
空の彼方が、流星のような何かが大地に降りてくるような音が聞こえてきた。
その何かは、いくつもいくつも筋を引いて、急速なスピードで島に迫ってくる。
イコン部隊の生徒たちは、すぐに危険の正体を悟った。
「なっ、こ、これは、ミサイルだ! ミサイルの大群が! いったいどこから?」
レーダーを覗いた笹井昇(ささい・のぼる)が、悲鳴に近い声をあげる。
「特に殺傷能力の高い特殊爆弾の可能性があるだと? その数、およそ170! おいおい、何だよ、これ! 早く逃げようぜ!」
笹井とともにイコン、クェイル【イルマ】を操縦しているデビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)も、パニック状態になってすっとんきょうな叫び声をあげ始めた。
「ダメだ。カノンを置いていくわけにはいかない」
笹井はいった。
「そ、そんなこといったって、どうすれば!」
「迎撃するか、でなければ、防御態勢に入ろう。島外への退避はもう間に合わない」
笹井は機体を森の中に入れ、梢の中で身を低くさせた。
笹井たちの機体で、迫りつつあるミサイルへの迎撃は難しい。
ミサイル迎撃可能なコームラントのような機体も、ゴーストイコンとの闘いに気をとられていたために、突然の砲撃に対応する態勢が整わない。
そして。
どごーん!
ずどどーん!
ついにミサイルが着弾して、島のあちこちからものすごい爆発が巻き起こった。
生徒たちのイコンはいっせいに散開して遮蔽物に身を寄せ、深刻なダメージから逃れようとする。
「カ、カノンちゃーん! 助けてくれー!」
デビットは絶叫した。
「落ち着け! 私たちは、カノンを助ける方だぞ」
笹井の言葉も、周囲に轟くすさまじい爆音にかき消される。
炎が吹きあがり、煙が渦を巻く。
突然の砲撃により、センゴク島は文字通りの焦土と化したのである。
「お、おわああああ! 髪の毛が焼けるぜ! 助けてくれ!」
砲撃によって吹きあがる炎に追われて、国頭武尊もまた、悲鳴をあげながら逃げ惑っていた。
「く、くそっ、だがこれはチャンスだ! カノンの機体を見張っていたイコンが姿を消している! 潜り込むならいまだ!」
国頭は何とかカノンのイーグリットにまでたどり着くと、コクピットの中に転がるように入り込んだ。
驚くべきことに、カノンはコクピットに鍵をかけずにいたのだが、そのことも国頭に有利に働いた。
「よし、入ったぞ! くう、カノンの匂いがするぜ! し、しかし、これじゃ、機体を出撃させられる状態じゃないな! 少し様子をみるか」
国頭は、イコンの中で、すさまじい砲撃によって島が焼かれる音、そして、人々のあげる切ない悲鳴の数々を、身を震わせながら聞いているほかなかった。
「う、うん? この音は?」
すさまじい爆音の中で、眠りについていたカノンは、一瞬にして覚醒した。
恐るべき生存本能の力が、カノンの身体機能を向上させたのである。
大地が焦げる臭い、木が、石が、人の肉が焼ける臭いがカノンの鼻をついた。
「カノン、ここに立ってたら危険だ。早く、砲撃から身を隠そう!」
平等院鳳凰堂レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が、カノンの手を引いた。
だが、カノンは、レオの手をうち払っていた。
「カノン!?」
「みんな、何をやってるんですか! こんな風に、やられっ放しで! もう!」
カノンの顔が、怒りでみるみるうちに赤く染まり、鬼のような形相になった。
だだだっ
カノンは、砲撃による爆発にも構わず、ものすごい速度で走り始めた。
「ま、待ってくれ! 戻るんだ、カノン!」
レオの悲痛な叫びが、戦場に響きわたる。
カノンは、無人の戦場を駆けていく。
遺体を回収していた生徒たちは、こんなこともあろうと掘っておいた防空壕に避難したようだった。
だが、そんなカノンの前に、一人の生徒が立ち塞がった。
「どいて下さい! 邪魔するなら殺しますよ!」
カノンはその生徒に怒鳴った。
だが、その生徒はどかず、何と、カノンに殴りかかってきた!
「面白いですね! やれるもんなら、やってみて下さいよ!」
橘早苗(たちばな・さなえ)は、カノンのお腹に拳を入れて、その身体に組みついた。
「くっ、あなたと遊んでいる場合じゃないんですよ!」
拳の一撃に顔をしかめながら、カノンは橘の身体を抱えて、その肩にがぶりと噛みつく。
「超能力とか使わずに素手でかかってきなさいよ! 人と本気でぶつかってみて下さい!」
橘は激痛に顔をしかめたが、それでもカノンの身体を離さない。
2人は、お互いの髪を引っ張り合い、組み合ったまま、爆発の炎で焼けつく地面の上を転がりまわった。
何回か転がった後、カノンの上になった橘が、身を起こし、馬乗りの状態でカノンの身体を叩く。
「簡単に死ぬとか言うんじゃありません! 死んだらそこで終わりなんです、もう誰にも会えないんですよ!」
「そんなこと、わかってますよ! だから、勝負は本気でやらなきゃいけないんです! 私は、いつだって、本気で!」
カノンは、念を凝らした。
橘は素手で殴り合いたいとのことだったが、そのルールに合わせていられる状況ではないのだ。
「あと! あなたがいつも常軌を逸した言動をするせいで、私たち強化人間がみんな、あなたみたいだと思われてるんですよ、私たちに謝ってください!」
叫ぶ橘の身体が、サイコキネシスで吹っ飛ばされる。
「謝る必要なんてありません! 私が気をつかうのは、『私の涼司くん』に対してだけです! ほかの人のことなんて知りませんから!」
起き上がったカノンは、ものすごい目で橘を睨みつけた。
どごーん!
吹っ飛ばされ、地面の上に尻餅をついている橘の身体の下から、サイコキネシスの力で爆発が巻き起こる。
土煙が吹き上がり、橘の身体が地中に沈んで、生き埋めにされてしまった。
「じゃ、失礼しますよ! 私は、この事態への対応を指示しなきゃいけないんですから!」
カノンは、走り去っていった。
「あらあら、もう。しょうがない子ね」
葛葉杏(くずのは・あん)が苦笑を浮かべながら、地面を掘り起こして、窒息状態のパートナーを救出した。
「む、むぐう。カノンさん、あなたは生命を! 生命を大事に!」
橘は、土まみれの顔から、ぐったりとした声を絞り出す。
「もう無理しないで。カノンのボディだけ狙って、イコンの操縦に支障がないようにしてあげるなんて、それじゃガチンコの喧嘩にはならないわよ。素直にいえばいいのに、何で殴りあうわけ?」
葛葉は橘に肩を貸して立たせると、砲撃を避けて、防空壕へと急いだ。
「カノンさんは、激しいから! 激しくいわないと、わからないから!」
呻いて、橘は失神した。
「あなたも激しいわよね」
葛葉は嘆息した。
「はあ、まったく! 部隊に非参加扱いですから、上官を殴ったことにはなりませんけど! いまは非常事なんですよ!」
橘を振りきり、炎などものともせずに自機にたどり着いたカノンは、コクピットに身を滑りこませた。
驚いたのは国頭である。
「な、なに、カノンか!? こんなに早く目を覚ますとは!!」
とっさにコクピットの床に身体を伏せ、息をつめて気配を殺す国頭。
幸い、興奮しているカノンは、国頭の存在に気づいていない様子だ。
(どうなっちまうんだ、いったい)
国頭は自分の運命を呪いながら、コクピットの奥の隙間を身体を押し込んで、カノンの様子をじっと見守った。
「みなさん、聞こえますか? 砲撃はもうすぐやみます。各自、態勢をたて直し、ただちに反撃を開始して下さい!」
カノンの通信が、全機に入った。
「カノンさん、無事だったか。反撃といっても、どうやって? この砲撃はどこから来たのかがわからないと」
笹井が通信に答えた。
「砲撃は、島外の海中の、このポイントからきていると思われます! こちらもいっせいに砲撃で反撃します! 遠距離攻撃できる機体は準備を!」
カノンは、イライラしながら指示を出す。
砲撃がどこから来たのかなどは、攻撃を防ぎながら各自で解析しておいて欲しかった。
もっとも、カノンが反撃のポイントをかなり正確に指摘できたのは、興奮の中で感覚がますます鋭敏になっていることの表れであるともいえた。
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