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リアクション
第14章 カノン、部下を叱る
突如、センゴク島を襲った大量の砲撃。
それに対し、矢継ぎ早に反撃を指示するカノン。
隊長の指示に、砲撃によるショックから士気が落ちかかった生徒たちは一転して士気を上げた。
「カノンちゃん、了解だよ! やられっ放しじゃダメだよね! 【ミッシング】、島外の海中への砲撃を開始します!」
水鏡和葉(みかがみ・かずは)が意気揚々と通信を返してきた。
水鏡とルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)が搭乗するイコン、イーグリット【ミッシング】は、長距離射程のスナイパーライフルを上空に向け、弾道計算に基づき発射位置を調整する。
「面白い展開だね! わくわくしてきたよ」
ルアークは、カノンと同様にテンションを上げている。
「水鏡さん、連射でお願いします!」
カノンはいった。
「了解。あと、カノンちゃん、レオの気持ちを受け入れてね!」
水鏡は、友人の名を口にした。
「カノン、俺たちもやってやろうか! でも、いっとくけど、あんたのためじゃないぜ! いまの砲撃にクソムカついたからさ!」
折原宗助(おりはら・そうすけ)も気炎をあげる。
「はい、どんどんやって下さい! 私のためじゃなくていいです!」
カノンは応答し、狙撃対象地点の座標データを送る。
「ちょっと、折原! あんたのためじゃないって、隊長に失礼でしょ! あと、弾道計算をやるのは私なんだから!」
折原とともにコームラントを操縦する赤坂琴葉(あかさか・ことは)が、膨れ面のまま解析を始める。
「ああ、そうだったな。頼むぜ。悪いけど、連続発射で頼むぜ! 複数同時できるなら、それで!」
折原はニヤニヤ笑いながら、注文を多くする。
「そんなこと、いわれなくてもわかってるわよ! これでもプロなんだから!」
赤坂はイライラして怒鳴ると、大型ビームキャノンの発射態勢を整えた。
「だいたいこれでOKよ。あんたも調整をやって」
「おお、いい感じだな。じゃ、反撃は秒読みで。俺だけ先に撃っていい?」
折原の言葉に、赤坂は顔を真っ赤にして怒っている。
「ダメよ!」
センゴク島を襲った砲撃から、約13分後。
「みなさん、それでは、いっせいに反撃開始です!」
カノンの指示で、遠距離攻撃可能な機体は、砲撃が行われたと思われる島外の海中のポイントに向け、いっせいに反撃の砲撃を行った。
スナイパーライフルの弾丸が、ビームキャノンのビーム攻撃が、次々に撃ち出されて、海原をえぐっていく。
ちゅどーん!
どかかーん!
海中で爆発が起こり、海水の塊がはね飛んで、飛沫が高くあがる。
「おお、かなりのダメージを与えたようだ」
戦況をモニターしていた笹井昇(ささい・のぼる)がいう。
「カノンちゃん、着弾の実績出てるよね? 海中の敵がどのくらいダメージを受けたかわからないけど、結構やれたんじゃないかな?」
水鏡が、陽気な声をあげる。
「おう。あんたのためじゃないけど、ひと仕事したぜ。勲章でももらおうか? できれば報酬は現金がいいんだけどな」
折原が、意地悪な口調でカノンにいう。
対するカノンの反応は、激しいものだった。
「みなさん! 何ですか、これは!」
「えっ?」
笹井が一瞬ぽかんとする。
「およそ170発の砲撃を受けて、反撃でおよそ80の砲撃で、着弾確認はおよそ50ですよ! これのどこが業績なんですか! 全然手ぬるいです! ふざけてます! もっと気合を入れてやって下さい! そんなことでプロの兵隊だといえるんですか?」
カノンは、狂ったようにガミガミと怒鳴り散らし、生徒たちの胸を切り刻んだ。
「カ、カノンちゃん、御免ね! もっとがんばる!」
水鏡は、素直に謝った。
「けっ、ほざいてろ! そんなにいうなら、あんたが自分でやれよ! あんたの機体は、遠距離対応じゃないから反撃もできなかっただろうが! 偉そうにふんぞりかえりやがって!」
折原は逆ギレしていた。
「だから、隊長になんてこというのよ! 指揮官だから直接攻撃に参加しなくたっていいでしょ。わかってるの?」
赤坂は、そんな折原にキレている。
「カ、カノンちゃん! 今日のキミは痛いぜ! しびれるぜ! くはー、たまらねえ!」
デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)は、カノンのキレ姿に倒錯した喜びを感じていた。
「もういいです! 私が直接、行きます!」
砲撃を行った敵に対しても、そして手ぬるい対応の生徒たちにも怒ったカノンは、勢いでイコンを出撃させた。
イコンは島の上空にあがり、海上へと向かう。
「た、隊長、どうするつもりですか?」
周囲の生徒は戸惑った。
「バカ! 追うんだよ」
戸惑う生徒をたしなめて、カノンの後を追って飛行する生徒もいる。
「待ってくれ、カノン! わいを、わいを覚えているかい?」
七刀切(しちとう・きり)のイーグリットもまた、カノンを追って叫んでいた。
「七刀さん? ああ、先日お茶しましたね! 私はこれから特攻します! 1人でイコンに乗っているあなたは機体の性能を十分に発揮できませんから、海上に待機していて下さい!」
カノンは、早口でまくしたてた。
「1人だからダメですってぇ? こりゃまた、厳しいご意見で。そういうカノンだって、1人で操縦してるじゃないですかぁ」
無論、そういう七刀自身が、カノンは特別だとわかっていた。
カノンは七刀を無視して、海上に出たイコンを、降下させていく。
「設楽さん、待って下さい!」
端守秋穂(はなもり・あいお)が自機をダッシュさせてカノンに何とか追いつき、制止にかかった。
端守とユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が搭乗するイコン、イーグリット【セレナイト】は、メインパイロットをユメミとしていて、ユメミのサイコキネシスにより、そのスピードはいつでもカノンに追いつけるものとなっていたのだ。
「私は参加していませんでしたが、食堂での作戦会議で、海中への特攻前に他の機体が囮役を演じて、海中の敵を誘い出すことが決まったと聞いています。砲撃に怒るのはわかりますが、ここは作戦どおりいくべきです。あっ、ユメミ、よせ!」
端守の通信に、ユメミがわりこんできた。
「ダメ、ダメダメ、絶対行っちゃダメ! どうしてもっていうなら、ユメミは、力ずくでもカノンを!」
「落ち着け。まずは説得するんだ。こっちも興奮していたら話にならないよ」
端守は必死でなだめるが、ユメミはコクピットで暴れ出しかねない様子だ。
「私は隊長です。作戦内容は戦況をふまえて臨機応変に変更します! みなさんもわかって下さい! いいですね?」
カノンは、全機に通信を送っていた。
「カノン、それでいいのかな? もう少しよく考えてみたら?」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の機体もカノンの機体に追いついてきて、パイロットが忠告を伝える。
「何ですか、端守さんも、あなたも! 何で私に指図するんですか? コリマ校長に隊長として任命されたのは私なんですよ!」
カノンは、ルカルカとダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が操縦するイコン、鋼竜【レイ】を睨みつけた。
(私たちも、そのコリマ校長にあなたの監視を命じられたんですよ)
端守は、そう内心では思ったが、口には出さなかった。
「カノン、ここまでは、妥当な判断を下していたよ。ゴーストイコンが予想以上に活性化している事態にも動じずに作戦を開始したこと、圧倒的多数の敵に対してスピード重視で逆に圧倒すべきと指示したこと、精神感応を駆使した中ボスクラスの存在把握と優先的撃墜の指示、遺体の回収に直接関わって担当の生徒たちの士気を上げたこと、従事の生徒を砲撃の被害に士気が落ちかかった隊員たちに全く動揺をみせることもなく反撃を指示したこと、全て正しく、全体の状況にふさわしかった。何より、指揮官として、どのような状況でも動揺したりうろたえたりすることなく、どこまでも強気の即断即決を貫いて、隊員を引っ張ってきたことが素晴らしいね。コリマ校長も、ここまでの業績には満足していると思うよ。でも、いまは、熱くなりすぎているんじゃないかな。なぜ、そうまで無闇な特攻にこだわるの? せっかく話しておいたことがあるんだもの、敵を海上に誘い出す策を実行してからでもいいんじゃないかな? ちょっとの間待つだけでしょ?」
ルカルカは、よどみのない口調でいった。
「ふむ。いまのルカの指摘、俺も全て同感だ。カノン、優秀な指揮官と評価できるお前が、最後の最後でミスを犯すのは看過できない。できることなら、ともに素晴らしい戦果を残し帰還したいものだ。任務はこれだけではない。この作戦の後も数々の任務を実行するためにも、ここで不必要に死に急ぐことはない」
ダリルは冷静な口調でいったが、カノンはそのいちいち正確な表現に苛立った。
「不必要に死に急ぐ、でも、構いません! 私は指揮官として模範を示す意味でも、率先して海中に特攻します!」
「模範を示す、か。うまい言い方するなー。でも、カノン、それにしても、準備作業が終わってから他の生徒と一緒に特攻すればいいわけで、それを無駄に急いで、いの一番に単機で特攻するのは無茶だよ。ああ、いくらいってもダメかな。仕方ない。それじゃ、どうしても先に行きたいなら、ルカたちを倒してからにしてもらおうか」
【レイ】が、カノンの機体にアサルトライフルを向けた。
「ルカさん! 本気ですか?」
端守が、はっとして叫ぶ。
「そうだよ。さっき、ユメミがいったことは妥当なんだ。力ずくでもやらなきゃいけない。ユメミは全てがみえているんだね」
ルカは、真剣な口調でいった。
「なるほど。そういくのもいい。いや、そういくしかないか」
ダリルはうなずいていた。
カノンは指揮官だが、ルカたちはさらにその上のコリマ校長から直接指令を受けている。
ここで駆け引きの一環としてカノンの機体に攻撃を仕掛けても、許されるだろうと思われた。
だが、ダリルは、カノンを民間人として守護対象として認識しているルカルカが、本気で攻撃するはずはないこともわかっていた。
「もう1度いいます。そこをどいて下さい! でなきゃ、お言葉に甘えて、消させて頂きますよ?」
カノンが、ルカルカの【レイ】を睨みながら怖い口調で言い放った、そのとき。
「待ってくれ! カノン、これをみてくれ!」
ようやくカノンたちに追いついた柊真司(ひいらぎ・しんじ)の機体から通信が入る。
柊とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が搭乗するイコン、イーグリット【ヴァイスハイト】は、特製のスナイパーライフルを掲げてみせた。
「こいつはコリマ校長がこの作戦用に手配してくれた、特製品なんだ。いまから、俺がこいつを使って、海中の親玉に必殺の一撃を撃ち込む。たとえ撃墜できなくても、敵はきっと浮上してくるだろう。お願いだから、それまでは待ってくれ! じゃあ、いくぜ!」
カノンの返事を待たず、柊は機体のスナイパーライフルを海中に向け、照準や出力の調整を始める。
「海中に巨大な影を捕捉しました。攻撃準備に入ります」
ヴェルリアがデータの解析に集中しながらいった。
「コリマ校長が? そんな話、聞いてませんよ。ああ、もう。わかりました。それじゃ、さっさとやって下さい! そんなに待てませんよ!」
カノンは不承不承ではあったが、柊の機体がどんな攻撃を仕掛けるのかみてみたいという想いがはたらき、機体を待機させて静観しようと決めた。
「よし! やっぱり、戦場では行動がものをいうな。いくぞ、ヴェルリア。海中を射撃するための調整は事前のシミュレートどおりに!」
「わかりました。最終調整と発射のタイミングはお任せします」
ヴェルリアは、既に調整をすませていた。
カノンが待ちきれずに特攻しかねない状況なので、速攻で機器を操作したのだ。
事前に想定していた動きだからこそ、高速でできるのである。
「もう、カノンも誰も、死なせはしない! この一撃で終わらせてやる! 破壊するためじゃない、平和を生み出すための弾丸なんだ!」
柊は、緊張した面持ちで照準を合わせる。
「スナイパーライフルを機晶石と直接リンク! 全エネルギー注入!」
ヴェルリアは射撃動作に入る操作を始めていた。
「くらえ、親玉! 死の海の底から、白日のもとへとその身をさらし、自らの行いの是非を俺たちに弁明してみせろ! カノン、しっかり俺をみていてくれ! ヴェルリア、俺の手に、おまえの手を重ねろ! 一か八かの大勝負だ、覚悟を決めた2人でやろう!」
「はい。柊さん! 必ず成功させましょう!」
ヴェルリアは、発射動作に入る直前の柊の手に、自分の手を重ねた。
2人の手がひとつになり、2人の体温がひとつに溶けあったとき。
「射線上に悪の気配あり! 天誅炸裂! ファイナル・シュート!! 海中をえぐりぬけぇぇぇぇぇぇぇー!!!」
柊は、弾丸を発射した。
特製のスナイパーライフルから放たれた弾丸が、すさまじいスピードで海面に激突し、飛沫をはね散らして、海中をまっすぐ突き進んでいく。
そして。
海底近くで大きな爆発の気配があり、海面がひときわ高く盛りあがって、巨大な海水の柱が天を突く。
「やったか!?」
柊は固唾をのんで戦果を確認しようとする。
全エネルギーをライフルに注ぎこんだ機体は、飛んでいるのがやっとだった。
そして、海中から、悪魔の叫び声がわきあがった。
「何だコラァ!!! やってくれるなコラァ!!!」
その声を聞いた生徒たちは、みな、口を開けてぽかんとした。
いまのは、親玉の声か?
「弾丸は命中しましたが、かなりのダメージにも関わらず、敵は倒れていません! 攻撃に呼応したのか、海中から多数の敵機が浮上してきます! ボスクラスでない一般のゴーストイコンも海中に潜伏していた模様です!!」
ヴェルリアが、探知結果を伝えた。
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