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4章 ピーター・パンとの戦い
 さあ、ついにピーター・パンの隠れ家です。今度は、嘘ではなく本当の隠れ家です。
 それは、ネバーランド東にある水晶の丘という場所にありました。名前の通り、水晶でできた丘で、遠くから見てもキラキラと輝いています。
「ピーターの隠れ家は、この丘の中にあるの」
 ティンクが丘を指差してオルフェに言います。
「でも、入り口は、ここではなくて、後ろの森の中にあるのよ。だから、誰もここの下に隠れ家があるとは気付かないの」
 その時、にわかに空がかき曇り、激しい雷が二人に襲いかかりました。

「危ない!」
 セルマ・アリス(せるま・ありす)がとっさにオートバリアを貼って二人を守りました。
「誰だ?」
 セルマが見上げると、上空にピーター・パンがいました。ピーター・パンは怒っているようです。
「ティンク、よくも僕を裏切ったな」
「ごめんなさい! ピーター! でも、この子達の話を聞いたら、どうしてもこうしなくちゃダメだと思ったの」
「うるさい! 裏切り者! これでも食らえ!」
 そう言うと、ピーターはファイアーストームを撃ってきました炎の嵐は船をわずかにそれ、下の水晶の岩を破壊しました。狙いはめちゃめちゃですが、恐ろしい威力です。
「ちくしょう!」
 ピーターは悔しげに空中で指を鳴らしました。
「おい! 何グズグズしてやがる! あいつを捕まえろ!」
 フックが叫びました。その言葉に、皆、一斉に船を飛び出します。
 セルマも船を飛び出しました。目の前にピーターの姿があります。
「ピーター・パン、絵本で知ってる登場人物にしてはちょっと凶悪じゃないか?」
 セルマは、飛びながらつぶやきました。
「子供達を連れて行ってどうしようっていうんだ? 心配してる人たちも居るんだから……」
 ピーター・パンが振り返り、ブリザードを撃ってきます。セルマはとっさにオートバリア張り、シーリングランスでピーターの魔法を封じようとしました。しかし、ピーターはすばしっこくて当たりません。
「ま、待てーー!!」
 セルマはだんだんムキになってきました。そして、スピードを上げてピーターに追いつき、素手で捕まえようとするのですが、ひらりひらりと避けられてしまいます。
 セルマに追いつかれそうになったピーターは、後ろの森の中に逃げていきました。そして、木々の中と巧みに枝をかわしながら逃げていきます。
「ちくしょう!」
 一方、セルマは枝のあちこちにひっかかったりぶつかったり、それでも、ピーターの姿は見失わずに追いかけていきます。やがて、ピーターは一本の巨大な木のうろの中に飛び込んでいきました。
「あそこが、隠れ家の入り口よ!」
 いつの間に来ていたのか、ティンカー・ベルが叫びました。
「そうか!」
 セルマはうなずきました。気のせいかとても楽しそうです。そのころには、すっかり服が汚れてぼろぼろになっていたのですが……。
 
 一行は、ピーターを追って木のうろに入っていきました。木の中は空洞になっていて、下へと穴が続いています。底にたどり着くと、水晶でできたトンネルになっていて、その両側にはろうそくが灯っていました。

 その道を一行は飛びながら進んでいきました。
 ティンカー・ベルが先頭に立ち、その後ろをアゾートが、そのさらに後ろを白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)白瀬 みこ(しらせ・みこ)が飛んで行きます。
 しかし、アゾートの後ろを行く歩夢の視界に、どうしてもアゾートのスカートの中が見えてしまい……。
「並んで……行こっか」
 歩夢はアゾートの横に並んで言いました。
「? いいよ」
 アゾートは首をかしげながら答えます。
 さりげにアゾートの横に並ぶ歩夢。平静を装っていますが、心の中では舞い上がっています。
「はうぅぅうううう」
 
 その時、前方にピーターの姿が見えてきました。
「ピーター・パンだ!」
 アゾートは叫びました。
「おいかけよう!」
 一行はピーターを追いかけました。しかし、ピーターはトンネルの脇道に入ったり、穴をすり抜けたり、なかなか捕まえる事ができません。
 やがて、一同はトンネルの突き当りの大きな部屋に出ました。そこは、壁一面水晶で覆われている不思議な空間でした。その壁の水晶の中には、様々な風景が映し出されています。まるで、何台ものテレビを積み重ねているようです。
 しかし、ピーターの姿は見当たりません。
「どこにいっちゃんたんだろう? すばしっこい子だね。あの子」
 アゾートが言いました。
「そ……そうだね」
 歩夢がうなずきます。
「ねえ、アゾートちゃん、それにみこ。ピーター・パンは強敵みたい…何かに変身して不意をうちたいね」
 すると、みこが答えました。
「変身かあ……子供が知ってて好きなものだよね……あ、いい事思い付いた! そろそろ夏だし、アイス欲しいって前思って。だからアゾートがアイスで、歩夢が中にアイスの棒を入れて☆」
「えっ……私が棒で、アゾートちゃんの中に……? はうう」
 歩夢は真っ赤になります。
「……あれー? 歩夢ってば何赤くなってるのかなー?」
 みこは小悪魔的にニヤニヤ笑いました。
「?」
 アゾートは首をかしげて二人の様子を見ていましたが、
「いいよ。アイスならきっとピーター・パンも飛びつくよね」
 と、あっさりとうなずきました。
「はううううう」
 歩夢は叫びます。
 そして、さっそく、歩夢とアゾートはアイスキャンディーに化けました。白瀬みこはそれを手にすると、大きな声で叫びました。
「あー! こんなところにおいしそうなアイスキャンディーが!」
 その言葉に、となりの部屋から1人の女の子が飛び出してきました。
「アイスキャンディ? 欲しいですわ!」
「ドロシー!」
 ウェンディが叫びます。
 そう、何と、その少女はドロシーでした。ドロシーはウェンディに気付くと嬉しそうな顔をして手をふりました。
「ああ! ウェンディお姉ちゃまだー!」
 すると、どこからかピーター・パンが飛び出して来て、ドロシーを抱き上げました。
「ダメだろ? 勝手に出て来ちゃ。ここは危ないから、向こうに戻ってろ」
「でもお、ウェンディお姉ちゃまが」
「後でゆっくり遊ばせてやるから、とにかくあっちに行け」
「はーい……」
 ドロシーは、しぶしぶ向こうの部屋に入っていきました。
 部屋の扉の前にピーターが立ちふさがります。
「その先に子供たちがいるのね」
 ウェンディがピーターを睨みつけます。
「いっるよ〜〜ん。でも、ここは通さない」
「ふざけないで、どきなさい」
「やだね」
「どきなさい」
「やだね」
「どきなさいったら」
「やなもんは、や」
「強情ね」
「通りたかったら、俺を倒していけ」
「……本気で言ってるの?」
 ウェンディはたまらなく悲しげな顔をします。そこへ、みこがアイスキャンディを持ってやってきました。
「ピーター・パンくん。暑くない? これ、食べなよ」
「あん?」
 ピーターは、みこに差し出されたキャンディを思わず受け取りました。
 その途端……
「奈落の鉄鎖!」
 変身を解いた歩夢がピーターに奈落の鉄鎖をかけました。ピーターの動きが鈍くなります。そのピーターにウェンディが飛びかかり、短剣で斬りつけました。ピーターの背中から血が溢れ出します。
「!」
 ピーターは驚いたようにウェンディを見ました。ウェンディは泣いています。そして、もう一度、ピーターに斬りかかっていきます。ピーターは立ち上がろうとしました。そこに、歩夢がアルティマトゥーレを撃ちます。雅刀から冷気が放たれピーターに大ダメージ。
「ピーター!」
 ウェンディはピーターに駆け寄りました。
「大丈夫? ピーター!」
 すると……
「く……くくくく。あはははは」
 ピーターは笑いながら起き上がりました。驚いた事に、全ての傷が塞がっついます。ピーターは、何事もなかったように空に浮かび上がりました。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。俺、少しずつ体力が回復する魔法を自分にかけてるからさ。それに痛みには、すごく強いんだ」
 
「リジェネレーションに痛みを知らぬ我が躯……ネクロマンサーのスキルを持ってるのか」
 アゾートがつぶやきます。