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リアクション
「久しぶりだねウェンディ。まさか、今、この姿で、君とこうして会える事ができるとは思いもしなかったよ」
正体を現したマイク青年は、ウェンディに向かって言いました。
「じゃあ、あなたがピーター・パンで、こんな騒ぎを起こしたっていうの?」
「そうだよ」
マイクはうなずきます。
「どうして、こんな事を? ますます分からなくたって来たわ。ピーターが夢の世界の住人じゃないのなら、現実世界のあなたは何をしてるの? 現実世界を放棄して夢の中で生きてるっていうの?」
「ふふ……ウェンディ、僕はね……現実の僕は植物人間になってるんだ」
「え?」
「数ヶ月前、難しい手術を受けてさ……それ以来ずっと」
「それって、手術に失敗したって事?」
「そうだよ。元々難しい手術だったんだ。でも、健康な体になれるなら受けてみたいと思った。ある意味、賭けだったんだ。でも失敗して、僕の生きられるのはこの夢の世界だけになっちまった」
「まさか……それでヤケになって子供たちをここに閉じ込めたとか」
アゾートが言います。
「そうかもしれないね。僕は、輝ける未来を持った彼らにきっと嫉妬してたんだ」
「マイク……」
「でも、君をみて、気が変わったよ。ウェンディ。子供たちは返す」
「え?」
一同の顔に喜びの色が浮かびます。
「そのかわり、ウェンディ。君がここに来るんだ」
「なんだって?」
アゾートが驚きます。
「いいだろう? ウェンディ。さっきも言った通り、現実世界が辛くて死にたいと思うぐらいなら、このネバーランドで僕と一緒に暮らそうよ。ここには、悩みも苦しみもないよ」
「……」
「ねえ、ウェンディ。僕は君を助けたいんだ。嘘じゃないよ。君は病弱な僕に唯一生きる喜びをくれた人なんだ……」
水晶に、おそらくマイクの思い出と思われる過去の映像が映し出されます。
夏の日の午後。海に向かって走って行く少年と少女。子供の頃のマイクとウェンディです。
その映像を眺めながら、マイクはうっとりと言いました。
「あの頃、楽しかったよ。病室を抜け出して二人で海を見にいったり、草の上を転げ回ったり、病弱で家族もいなかった僕にとっては、人生で唯一の楽しい思い出なんだ。今、君がこうしてここに来た事もきっと偶然なんかじゃない。ここで、暮らそう。ウェンディ」
マイクの言葉に、ウェンディの心は揺れました。……確かに現実は辛くて苦しい事ばかりです。ずっと、ネバーランドで暮らせれば、どんなに楽しい事でしょう。
しかし、その時。
「マイク。あなたは間違っている」
音井 博季(おとい・ひろき)が言いました。
「あなたの境遇には同情します。しかし、本当にウェンディさんを好きなのなら、彼女をここに閉じ込めようと思うのは、間違っている」
彼の声はきっぱりとしています。
「博季……」
ウェンディは博季を見ました。
「ウェンディさんも聞いて下さい。夢は確かに居心地がいい。でもね、夢は夢でしかないんですよ。それは間違っても現実じゃない。夢を実現したかったら、現実に戻らないと」
「……」
「現実はいつも厳しい。覚めない夢なんてのがあれば、確かに魅力的ですね。でも、夢って見るだけじゃ寂しいじゃない。折角良い夢を見たんだし、叶えたい、皆にも見せたいって、思わない? ほら、そのためにはさ、実現させないと。皆と一緒に、幸せになれないじゃない」
「博季の言うとおりだわ」
ウェンディはぎゅっと手を握りしめました。
「マイク。あなたには、同情する。それに、あたしの事思ってくれたその気持ちは嬉しい。でも、やっぱり夢は夢でしかないの。辛くても、悲しくても、あたしたちの生きるのは現実。そして、夢を叶えられるのも現実なんだわ、きっと……」
「ふふ……」
マイクが自嘲気味に笑います。
泣き出しそうなウェンディに、マイクは言います。
「大人になるのが不幸なんて嘘さ。本当は僕だって大人になりたかった。現実で生きたかった。僕の本当の夢はね、ネバーランドにいることなんかじゃない。大人になって、君を幸せにする事だったんだよ。だから、手術にも挑戦してみた」
「マイク……」
「あの……マイクさん!」
アゾートが言います。
「あきらめないで下さい。医療技術はこれからも進歩していきます。いつか、マイクさんの意識を取り戻す事ができる日がくるかもしれません」
「ありがとう……」
マイクは笑いました。
「ごめんなさい! マイク」
ウェンディはマイクにしがみつきました。そのウェンディを抱きしめてマイクが言います。
「……泣かないで、ウェンディ。君の願いは、僕の願いだ。君が、もう一度希望を持って強く生きてくれると約束するなら、僕はもう何もいわないよ」
「約束するわ」
泣きながらウェンディが答えます。
「よし……分かったウェンディ。約束だぞ! 向こうでもあの頃みたいに、元気なウェンディでいてくれよ」
そういうと、マイクはいつの間にか元のピーターの姿に戻り、口笛を吹きました。すると、鏡のドアが開いて、子供たちが走り出てきました。その中にドロシーの姿もありました。
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