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リアクション
2章 ナイトメアの子供たち
どさり! ……
黒こげになったフックの体が船の上に落ちてきました。
しかし、フックは、しぶとくもまだ生きています。
そのフックの元に、ロア・ドゥーエが弓を片手に歩み寄っていきました。
「どうする? まだ戦うか? 降参するか?」
「……」
フックは悔しげに歯噛みしました。降参するのは悔しいが、戦う気力もないようです。
「ふむ。そうだな……」
レヴィシュタール・グランマイアがロアの横に並び考え込みます。
「聞くところによれば、貴公はピーター・パンという者と敵対しているそうだが……」
「ピ……ピーター・パン?」
その名前に、フックの目が光ります。
「あいつは俺の天敵だ」
「やはり、そうか。実は我々も、彼奴にはひとかたならぬ恨みがあってな……」
レヴィシュタールは多少誇張して語りました。すると、フックが目を光らせます。
「お前らも、ピーターの敵だってのか?」
「そうだ。どうであろうう? お互いの利害の一致という事でピーター・パン探しに協力してもらえないものだろうか……?」
「いいだろう。ただし、奴を見つけたら、俺に始末させろよ」
「構わないとも。我々の用さえ済めばな。そのかわり、我々がここにいる間、この船を自由に扱う事をゆるしてもらおうか」
「ああ。勝手にしな」
「よし! 交渉成立だ。裏切りには死を……」
こうして、一行は海賊船を自由に使う事ができる事になりました。
「よかった……。じゃあ、早速子供たちを自由にしてあげよう」
アゾートはそういうと、船室に入り、縛られた子供たちの縄をほどいてやりました。しかし、残念ながら子供たちの中に、ドロシーはいないようです。
「ねえ。ドロシーっていう女の子知らない?」
アゾートは子供たちに尋ねました。
ところが、子供たちは何も答えずアゾートの顔を見つめています。
「何?」
アゾートは不思議に思って、子供たちの目を見返しました。子供たちはいずれも、ネコのような大きな金色の目をしています。子供たちの目を見ているうちに、アゾートはだんだん気が遠くなってきました。
そして、気付きました。
「しまった……! こいつら、人間じゃない……」
アゾートの周りを不気味な闇が取り巻いていきます。悪夢です。悪夢は、手を伸ばしてアゾートを捕まえようとしました。
「アゾート?」
ウェンディが船室にはいってきて、すぐに異常に気付きました。
「あんた達! 何をしてるの?」
その声に、変化した子供たちが振り返ります。そして叫びました。
「見ろよ! 大人だ!」
「大人は敵だ!」
子供達は鋭い爪を光らせ、ウェンディに襲いかかってきました。けれど、その角や大きな目を見てウェンディには思い当たる事があったのです……。
「もしかして……あんた達!」
ウェンディが叫んだ時です。
「ありがとな! オレの子分たちを助けてくれて!」
陽気な声とともに、1人の少年が現れました。スジだらけになった枯れ葉と、木の液でできた服を着た金髪の少年です。それ見て、ウェンディは叫びました。
「ピーター・パン!」
どうやら、囚われていた子供達は、ピーターの手下だったようです。確かに、ピータの声とともに変化をといた子供達の顔は、ウェンディがよく見知っているものばかりでした。
ウェンディは懐かしげに言いました。
「ピーター・パン! 私よ! 覚えてない? ウェンディよ。昔、この世界で毎日のように一緒に遊び回っていたウェンディ・アドバルーンよ」
「ああ、分かってるさ。ウェンディ。すっかり大人になっちまったな」
「あれから、何年経ったと思ってるの? でも、覚えていてくれて嬉しいわ。それより、今日は聞きたい事があって来たの」
「聞きたい事?」
「最近、あっちの世界では、子供達が眠ったきり起きなくなるという事件が起きてるの。あなたの仕業なの?」
「ああ。それなら、俺の仕業だよ」
ピーターはあっさりうなずきました。その言葉にウェンディは少なからずショックを受けました。
「どうして、そんなひどい事をするの?」
「ひどい事だって? 全然ひどくないよ。俺は、子供たちを助けてやってるだけさ」
「助ける?」
「そうさ。あっちの世界は辛くて悲しい事ばかりだろ? このネバーランドなら、楽しい事ばかり。だから、子供達をここにかくまってやってるのさ」
すると、アゾートが言いました。
「でも……子供達の家族友達は、みんな悲しんでるんだよ。ボクとウェンディさんだって、君に連れて行かれたドロシーの事を思うと悲しくて仕方がないんだよ」
「そうよ! 子供達を返しなさい」
「やだね!」
「返しなさい!」
「やだね!」
「返しなさい!」
「やだね!」
「強情ね!」
「だって、あの子達、返しちゃったら、大人になるんだろ? ウェンディは、大人になってよかったと思う? 子供の頃と今と比べてみて、どっちが幸せで楽しい?」
「……」
ピーター・パンの問いかけにウェンディは言葉を失います。
その時、どこからか鈴のなるような声が聞こえてきました。
「ピーター・パン! 危ないわ! フック船長がくるわよ」
そして、小さな妖精が光りながら船室に入って来ました。
「ティンカー・ベル!」
ウェンディが叫びました。そう、その小さな妖精は、ティンカー・ベルです。
「何もかも、懐かしい!」
ウェンディは、感激のあまり涙ぐみそうになりました。しかし、ティンカー・ベルはそっぽを向きます。
そこへ、黒こげになったフック船長が入ってきました。
「ピーター・パン! 見つけたぞ。今日こそ、恨みを晴らしてやる!」
「駄目よ! フック」
ウェンディが止めに入ります。
「うるせえ! 俺はお前の仲間と約束したんだ。ピーターを見つけたら。煮るなり焼くなり好きにすればいいってな。
「でも、まだ、用事が済んでいないわ」
ウェンディは言い返します。しかし、このやりとりは、ピーター・パンを怒らせるのに十分でした。
「ウェンディ! いつのまに海賊の味方になったんだよ? やっぱり、大人って汚ねえな」
ウェンディは慌てました。
「これは、違うのよ! ピーター!」
しかし、ピーターは聞こうとしません。
「もういいよ。それより、かくれんぼしようぜ!」
「かくれんぼ?」
「そうさ。まずはそっちが鬼だ! オレを見つけたら、眠ったきりの子供達を返してやるかもよ!」
そう言うとピーターは船室の窓をすり抜けて、逃げていってしまいました。手下の子供たちも。ピーターを追っていきます。
「ピーター!」
ウェンディが窓に走りよった時には、既にピーターの姿は見えなくなっていました。
「……ドロシーの事聞けなかったね」
がっかりするアゾートに、フック船長が言います。
「奴の隠れ家に行ってみな! きっと何か見つかるぜ……!」
そこで、一行は海賊船を操り、ピーターの隠れ家を目指して進みはじめたのでした。
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