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リアクション
「あっ! いたいた!」
パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と共に人探しをしていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、皇彼方(はなぶさ・かなた)とテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)を見つけて手を振った。
「てっきりゴーレム退治に行くと思ったのにー。何か理由でもあるの? 聞いたげるよ」
「興味はあるんだけど、思いっきり戦えないのがなぁ。今回は蔵書整理かカウンタのー手伝いでもするかな」
「そっか、じゃあゴーレム退治に行こうね」
「おい、話を聞いてたのか?」
「言ったでしょ、聞いてあげるって。聞くだけは聞いたよ。でも私は彼方と一緒に戦おうって決めてたんだもん」
美羽は強引に彼方の右手を抱えて、力任せに引っ張っていく。コハクとテティスは苦笑いしながらも後に続いた。
開かずの書庫への対応を希望した20数名は、司書から書庫やゴーレムの説明を受けていた。
「くれぐれも安全第一で」
繰り返し聞かれるこの言葉に、一同は緊張を高めていく。
「5体のゴーレムを最低限、動けなくするだけで十分です。よろしくお願いします」
集まった学生達が相談に入る。
「司書さんから貰った説明書をみても、ありきたりのゴーレムのようですねぇ。やっぱり原因を探ることから始めましょうかぁ」
神代 明日香(かみしろ・あすか)が話を切り出す。
「俺はサイコメトリを使ってみたいんだが、他はどうだ?」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が見回すと、何人かの学生が手を挙げる。
「私は以前に聞いたことのある‘合い言葉’を試したみたいの」とリネン・エルフト(りねん・えるふと)。
「博識、先端テクノロジー、機昌技術、トレジャーセンス、なんてのも使えるんじゃないのかなー」
葉月 可憐(はづき・かれん)とリベル・ミラビリス(りべる・みらびりす)に挟まれたアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)、いつになく積極的に口を開く。
「サイコメトリも良いですけど、超感覚を使ってみたいです」
天眼鏡をかざした霧島 春美(きりしま・はるみ)が自信たっぷりに胸を張った。
腕に覚えのあるメンバーは、ゴーレムの誘導や書庫と本などの保護に回ることになる。最後に気合いを入れる意味で「エイエイオー!」と掛け声をかけて、開かずの書庫に向かった。
先頭に立った霧雨 透乃(きりさめ・とうの)と緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が、扉を開けて部屋を覗きこむ。見える場所にいるゴーレムは2体。他の3体もすぐに出てくるに違いない。崩れかけた壁や散らばった本も見られる。以前に入った時の痕跡だろう。
「よおし!」と透乃が飛び込もうとして、陽子や他のメンバーから止められる。
「タイミングが大事なんです。もし貴重な本や書庫に被害があったら、弁償させられるかもしれないんですよ」
数字を思い浮かべて透乃はなんとか踏みとどまった。
ゴーレムが5体いることから、調査役と壁役に分かれてメンバーを5組に分ける。
「倒せちゃったら、倒しても良いの?」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)を始め、数人の壁役から申し出があったが、「1体が倒されたら、他の4体が自爆する可能性もあるかも」との意見が出て、まずできるだけ調査を進めることになった。
「よし、今だ!」
全員の準備が整ったのを確認したマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が合図をする。5つに分かれたメンバーが一斉に部屋に入った。すぐに2体のゴーレムが動き出す。直接は視認できなかった残り3体のゴーレムも姿を現した。
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がサイコメトリを駆使するために、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、皇彼方(はなぶさ・かなた)、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)の西ロイヤルガードのトリオで、ゴーレムの足止めを図る。
足技に自信のある美羽は、部屋や本にダメージの及ばないようにとローキックなどで、堅実に削っていく。彼方とテティスも美羽に合わせて、ゴーレムの挙動を牽制する。そこをコハクがサイコメトリで原因を突き止める……はずだった。
「何よー! これー!」
美羽が悲鳴をあげるとほぼ同時に、他からも叫び声が聞こえた。
「可憐、そちらに行かせてはいけません!
「分かってはいるんですが……」
「アリスも気をつけて!」
「そ、そんなこと言ったってぇ
リベル・ミラビリス(りべる・みらびりす)のサポートを受けながらも葉月 可憐(はづき・かれん)とアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は苦戦していた。
合い言葉を試そうとしたリネン・エルフト(りねん・えるふと)だったが、ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)やフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)のガードにもかかわらず、数回試みるのがやっとだった。
蔵書に問題があるのではと魔道書をチェックしていた神代 明日香(かみしろ・あすか)や、蔵書の保護を目指した犬養 進一(いぬかい・しんいち)とトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)も早々に放棄せざるを得なかった。
「一旦、撤退しましょう!」
冷静に状況を判断した霧島春美が呼びかける。
「まだお掃除の途中なんですが……」
「しゃあない、俺達も戻るぜ!」
掃除用具を手に書庫を駆け回っていた八塚 くらら(やつか・くらら)と緋田 琥太郎(あけだ・こたろう)も出口に向かった。
「どうだ?」
「大丈夫、もう動かない」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)とマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が部屋の中を確認する。全員が外に出たことで、ゴーレム達も動きを止めたようだった。
「何なんだいあれは? 私達に向かってくるならともかく、手当たり次第じゃないか」
霧雨透乃の言葉は誰しもが感じていた。
入ってきた者を不審者として追い出すのではなく、とにかく暴れて騒動を大きくするように動いてくる。メンバーは本や書庫に被害が及ばないように喰いとどめるだけで一杯一杯だった。
「残念ながら合い言葉は効果がありませんでした。それとパッと見て壊されているようなところはありませんでした」
リネン・エルフトに他の調査役も同意する。しかし詳しい調査をしたわけではないので、結論までには至らなかった。
「一度に入るのではなく、一人二人くらいから試してみてはどうでしょう?」
霧島春美の提案が受け入れられ、根本的に調査方法が切り替わった。調査役と壁役でペアを組んで部屋に入る。人数が少ないとゴーレムの挙動が小さくなることは確認できた。何体かのゴーレムが動き出したところで、素早く部屋から出る。
「手間はかかりますけど、少しずつ調べるしかなさそうですぅ」
神代明日香は深くため息をついた。
とある作業部屋に集まったのは、図書館のホームページの作成を申し出た羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)とパートナーのシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)。
検索システムの構築を希望したルカルカ・ルー(るかるか・るー)とパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)、ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)だった。
「ふぅん、蒼空学園の図書館にホームページってあったんだ」
「そのセリフ、いかにまゆりが利用していないかが分かるのぉ。パートナーとして恥ずかしい限りじゃ。学生の本分は勉学じゃと言うのにのぉ」
「何よ、シニィだって、知らなかったんじゃないの」
シニィは「やれやれ」と頭を振る
「わらわは知っておったぞ。ただまゆりが可哀想なので、パートナーとして話を合わせておっただけじゃ」
「何よ」「なんじゃ」とにらみ合う2人に、「まぁまぁ、そのくらいにして」と間に入ったのはルカルカ・ルー。
「ホームページにも検索のコーナーはあるからね。良い改善点があったら、教えてよ」
6人は現在のシステム分析と、そこある問題点の洗い出しから取り組むことに決めた。
空調設備のチェックに取り掛かった柊 真司(ひいらぎ・しんじ)、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)、アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)は、その腕前を存分に振るうことになった。図書館側も定期点検はしていたが、それ以上のチェックには手が回っていないらしい。
── 面倒ごとは嫌いなんだがな…… ヴェルリアが時々図書館を利用してるから、そのお返しと思ったが、こりゃワリに合わないかも 金を貰ってもいいレベルだぜ ──
真司は今更ながらに後悔しかかったが、やる気を出している3人を前に、口にするのは止めた。
まずは4人で空調機本体から空気を送り出す為のファン、そのファンを回す為のモータ、空気を冷やしたり暖めたりする為に流す冷水、温水を調節する自動制御バルブの動作点検を行う。
「建物が大きいだけに、今日一日じゃ終わらないぜ」
「仕方あるまい。他の手を借りるか、明日以降も取り組めば良いじゃろう」
アレーティアの言葉通り、翌日以降もボランティア作業は続くことになった。
顔を見合わせた回収班の3人が、そろってため息をつく。
「ひと休みしましょうか」
美咲がお茶を入れて、クロセルとリアトリスに手渡す。リアトリスが一口飲んだ。
「返却が長くなればなるほど、返事が悪くなるみたいだね」
クロセルと美咲も同じようなことを感じていた。数日遅れた人は、うっかりしていたとか、たまたま都合が悪かったとかで「すぐ返します」と答える。しかし延滞日数が長くなればなるほど「そんなの借りてたっけ?」や「本人ではないので確認してみます」などと、ごまかしのような反応が増えてくる。
「本を無くしてしまって、返せない人もいるかもしれませんわ」
「それならそれで弁償してもらわなくては、逃げ得は許されません!」
またしてもクロセルはグッとポーズを決める。
休憩で気力を取り戻した3人は、再び電話や端末に向かう。それでも延滞期間が伸びると共に、どんどん手ごたえが悪くなるのは変わらなかった。
── やっぱり直に回収した方が良いのではないか ──
意見が一致した3人は、司書に申し入れに行く。しかし駄目だった。
「トラブルの可能性もあるので、許可できません。ボランティアなのだから、電話での催促で十分よ」
にべもなく断られて、肩を落として部屋に戻ってくる。『まだ朕の出番はなさそうだな』とヴァルヴァラが眠そうな目を向けた。
「正義は我にあり! と思うんですが、このままではらちが明きません。今日はここまでにして、何か良い手が無いか考えてきませんか」
3人と一頭は、予定より早めに切り上げて解散した。
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