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リアクション
第四章 進む改善
「こんにちは、ボランティアの方ですよね」
蔵書整理の作業に黙々と取り組むグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)にルカルカ・ルー(るかるか・るー)が話しかける。
「システム改善? 言われてみれば、そんなものあったか」
ルカルカに求められるままに、2人が把握している問題点を挙げた。
「利用者が気軽に使えるように、ってところだな」
グラキエスの言葉にアウレウスも深くうなずく。
「ありがとうございます。また気がついたところがあったら教えてください」
ルカルカと入れ替わりで、2人に話しかけたのは橘 美咲(たちばな・みさき)。
「こんにちは、ボランティアの方ですよね」
グラキエスとアウレウスは『デジャヴか』と顔を見合わせたが、またも同じボランティアのため、話を聞くことにする。
「……と言う訳なんです。協力してもらえませんか?」
「蔵書整理よりは面白そうだ。遅延者は何とかした方が良いだろうしな」
了解した2人は、もう1人のパートナーベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)のカウンターに向かう。
「なんだよ、あれは」
ベルテハイトのカウンターには女性ばかりの行列ができていた。
「ま、これはこれで、もっと役に立ちそうだ」
強引にカウンターから引っ張っていく。3人の背後で小さく悲鳴と呪いの声がした。
「こんにちは」
「あら、久しぶり」
アトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)のカウンターの前に座ったのは中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)だった。
「こちらは盛況ね。並ぶのも抵抗がありましたから、少し見送りましたわ」
「お陰さまで、こんなおばさんの知恵でも、役に立つみたいなの」
綾瀬は先日と同じ希望を伝える。
「パラミタ大陸やシャンバラ王国に関する文献はあるかしら。あるだけ拝見したいのですけど」
「ん、良いわよー、待っててねー」
出されたリストには3冊のタイトルと本棚の位置が書かれていた。
「これだけ……ですの?」
「そうね。私のお勧めの3冊」
綾瀬は改めてリストを見ると「さすがです」と答えて立ち上がった。
「今度はもんじゃでも一緒しましょうよ」
「駄菓子はもう……」と綾瀬が答えかけたが、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が強引に手を振らせた。
カウンターから離れたところで「またクジを引かせるつもり? 体型が変わってドレス……あなたが入らなくなったらどうするの?」と問い詰める。
しかしドレスからは「今度こそ」としか言葉が返ってこなかった。
静かに本に没頭する火村 加夜(ひむら・かや)の傍らで、パートナーのミント・ノアール(みんと・のあーる)とノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)は足をブラブラさせ始める。開いていた本から視線は外れ、キョロキョロと周囲を見回し始めた。
── 退屈しちゃったみたいね 騒ぐようなことはないと思うけど ──
加夜はミントとノアに料理の本を探してくるように伝える。
「今夜のご飯で食べたいものが乗ってるのを持ってきてくださいね」
「何でも良いの?」
2人の嬉しそうな瞳が加夜を見上げている。
「私に作れそうなものなら、なんとか頑張ってみるね」
ミントとノアは「はーい」と本棚に向かっていった。
『魔法』の棚に来た佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と仁科 響(にしな・ひびき)は「おお!」と声を上げた。
「イルミンの魔法系統とは、また違った学術書が多そう。どこから読もうかな」
「んー? 整理に来たんじゃないのー?」
「ああ、そうだった。ついこれだけの本を見るとね」
仁科響が指示し、佐々木弥十郎が手伝う。過去に別の図書館を手伝ったことがあるので、勝手は分かっていた。
「確かに仁科から見ると、物理学や科学やコンピュータは魔法だよねぇ。回路っていう魔方陣を使って、プログラムという魔法を使う。物理学、科学っていう概念にしたがって、機械を動かす。なかなか奥が深いよね」
口が滑らかに動くと同時に、2人の手も素早く本を仕分けていった。
「少し、良いかしら?」
カウンターで本を読む柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)のところに、ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)が訪ねてくる。
「システム改良で、意見があればと思って」
2人目の利用者が来たかと思って、内心喜んだ氷藍だったが、当てが外れてガックリする。それでもシステムについて思ったことを述べた。
「なるほど、ありがとうございます」
カウンターを立ち上がったニケを、氷藍が呼び止める。
「何か?」
「昨日から利用者がほとんど来ないんだが、その……どう思う?」
「私はお世辞がヘタなので、はっきり言ってしまうことになるのですが……」
「構わない、頼む」
素直に頭を下げる氷藍に好感を持ったのか、ニケは「もう少し愛想を良くした方が」と柔らかくアドバイスした。
綾瀬と変わらぬアドバイスに、ウッと声を無くした氷藍はトイレに駆け込んで鏡を見る。鋭い目つきが確実に無愛想に映る。
── 戦闘じゃないからな こうなりゃ仕方ないか ──
特技誘惑で好印象を与えるよう対策をとる。効果があったようで、氷藍のカウンターにも利用者が並ぶようになった。
「氷藍殿、例の件、いつでもおーけーでござる」と言われ続けるのは相変わらずだったが。
ダクトにもぐりこんだ柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)と連絡をとる。スキル先端テクノロジーや機晶技術もフル活用していた。
「ヴェルリア、ここは終わったぜ。次はどこだ?」
「20メートル先を右に曲がってください。そこに次のセンサーがあります」
平面図を見ながらヴェルリアが適切な指示を出す。柊真司は言われるままに足を進めた。
アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)とアニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)は、監視システムの点検を行っていた。
「ん? これはなんじゃ?」
長々と続いたチェックも最後の方になって、アレーティアの手が止まる。アニマもアレーティアの視線の先を追った。何のことはないシステム機能に、ゴミのようなプログラムがくっついているのをアレーティアが見つけた。
「こんなものを放置しておるようじゃ、手抜かりも甚だしいの」
テクノクラートのアレーティア・クレイスならではの本領発揮で、そのゴミプログラムを除外する。
「しかしこれが仕掛けられていると言うことは、何か被害があってもおかしくないはずじゃ」
アニマのサポートを得て、過去の履歴の洗い出しにかかった。
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