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○第三試合 ストライクイーグリット−HMS・レゾリューション

 十分間の休憩で、出来る限りの修理はした。今は接着剤が固まるのを待つしかない。
 グロリアーナが近づいてきた。
「どうだ?」
「大丈夫さ」
 翔は笑って答えた。敵に弱みを見せるような真似はしない。
 グロリアーナも微笑んだ。
「そうか。そなたがそう言うなら、そうなのだろう。わらわは手加減せぬぞ」
「望むところだ! もし手を抜いたら、俺はあんたを一生恨む!」

 観客席のローザマリア・クライツァールは、翔の元から戻ってきたグロリアーナに声をかけた。
「言ってあげればよかったのに。自分も修理は十分しかしていない、って」
 グロリアーナは片眉を上げ、ローザマリアを軽く睨んだ。
「ルールで決まっている」
「守る人は少ないでしょ?」
 ローザマリアは悪戯っぽく言った。
「わらわに不正を働けと言うか!」
「冗談冗談。でも言ってあげたら、彼も安心したんじゃないかな、ってこと」
 ふむ、とグロリアーナはしばし考え込んだ。
「その必要はなかろう。あの者も、相手が不正をするなどと考えたこともないはずだ。正々堂々、戦える」
 ウィンドブレーカーをマントのように翻し、グロリアーナは戦いの地へ赴く。
 この高潔さが彼女の美点であり、欠点だろうとローザマリアは思った。これがもし、世界の行く末を左右する試合であったなら――それでも、馬鹿正直にルールを守るのが正しいのだろうか?

『いよいよ決勝戦第三試合。優勝者は一人か、はたまた二人か!』
 小さく咳払いし、マイクから顔を遠ざけ、尚小さな声でアリサは付け加えた。「頑張れ翔」
『今、運命の試合開始――』
「ファイッ!」
 ストライクイーグリットが、小さくギシギシと音を立てていた。まだ接着剤が乾いていないのか、それとも、目に見えない箇所に傷があるのか。どちらにせよ、あまり長時間は動かせない。
 ならば、敵の隙を見つけて短期決戦しかない。
 HMS・レゾリューションが大型ビームキャノンを撃った。
「ヒット!」
『ストライクイーグリット、動かない! どうした、翔!?』
「ここだ!」
『ストライクイーグリットが飛び上がる! 直滑降での突撃! レゾリューション、避けきれない!』
「ヒット!」
「どうだ!」
「翔くんすごーい!」
 客席の理知がはしゃいだ声を上げた。グロリアーナがフッと微笑む。
「やはりな! そなたには遠慮は無用ということだな!」
 HMS・レゾリューションが、20ミリレーザーバルカンを撃つ。
『イーグリット、これを避ける!』
 まずい、と翔は思った。ストライクイーグリットから聞こえる異音が大きくなっている。おそらく、グロリアーナと大鋸にも聞こえているだろう。大鋸が、心配そうにちらりと翔を見た。
 これ以上の攻撃は難しい。だが、
「いっけええええ! ストライクイーグリットォォォォ!!」
 翔の叫びと共に、ストライクイーグリットがビームライフルを構えた。
 HMS・レゾリューションの口が大きく開く。
『これは……!』
 アリサが息を飲む。
 観客席のローザマリアは呟いた。
「堅忍不抜なる龍の顎門(あぎと)が開かれし時、終焉は訪れる」
 そして。
ダークネス・パーティクル・キャノン!」
 グロリアーナの声と同時にヴリトラ砲が発射。黒いドラゴンがストライクイーグリットの脇を駆け抜けた。
 勝負は、それで決まった。
 ガチャリ。
 ガチャガチャガチャ。
 手がもげ、その後、砂のようにストライクイーグリットの体が崩れ落ちた。

  ×ストライクイーグリット−HMS・レゾリューション○