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リアクション
「どうだった、ジジイ?」
煙幕のなか、厳竜斎に歩み寄り、そう問いかけたのは東條 カガチ(とうじょう・かがち)。
先ほどまで未来の部隊に紛れ情報撹乱を行っていたのも、厳竜斎が話で時間を稼いでる間に威力を弱めた機晶爆弾を大通りのあちこちに仕掛けたのも彼の仕業だ。
「ふむ、ある程度は聞けた。が、それだけじゃな。
全盛期の俺なら一を聞いては十を知れたのに、やっぱ年かのぅ」
「なに年齢のせいにしてんだ。
その割にはノリノリだったくせにねぇ。ま、十分だろ。ジジイにしては上々――」
カガチが軽口を言い終えるより前に、二人に向けて複数の矢が飛翔する。
カガチは音速を超えた速度で蛟紡を抜刀して迫る矢を打ち落す。厳竜斎はひょいと老人とは思えぬ軽やかな身のこなしで回避した。
二人は矢が飛んできた方向へ視線を向ける。
「おうおうおうおう、華麗に避けてくれんじゃねぇか。やるなー」
二人の視線の先にいたラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は好戦的な笑みを浮かべて、堅強な拳を虚空に突き出している。
彼が放った矢は天宝陵『万勇拳』、<自在>により変化した彼自身の闘気。複雑な形状をとることは出来ないが、思うがままに気の形状を変えることは可能な奥義だ。
「っと、空京大学のラルク・アントゥルース……だよねぇ?
あんたも、その空京の惨劇とやらで生き残って未来からやってきた十年後のラルクか? の、割には外見は今の時代のラルクと変わんないけど」
「生憎、俺は未来からやって来たわけじゃねぇ。
ただ、ホープって女から話を聞いて、ガイも信用していいって言ってたからな。協力させてもらってるわけよ。なぜなら――」
ラルクは突き出した拳を引いて、雷光のように素早く身構えた。
「俺はロイヤルガードとしてこの街を守る必要があるからな」
それを聞いたカガチは蛟紡を構え、顔を引き締めてラルクに言い放つ。
「だからと言って、街中で殺すのころさねえのやられてもこまる」
「まぁ、それは仕方ねぇよ。
よくあるだろ? ――大勢を生かすために小数を切り捨てるってな!」
ラルクがそう言い終えるやいな、彼の後方からガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)がバイクに乗車しながら、エンジンの咆哮を轟かせ二人に迫る。
「ラルクだけが相手だと思ったら……甘い考えですぜ?」
厳竜斎はフューチャー・アーティファクトの引き金を引き、ガイに向けて強力なビームを発射する。
ガイはそれを巧みなハンドル捌きで車体を傾かせて回避しながら、速度をあまり落とさずに二人に肉迫。
「手始めにこんなのはいかがでやすか?」
ガイは二人に近づいた瞬間、けたたましいブレーキ音と共にハンドルを切った。急速な停止。
そして次に流れるような動作で彼は<機晶爆弾>を投げつけて、起爆。二人の前方で大きな爆発が起こり、周りの煙幕を爆風で取り払う。
「――ッ!? しまった」
予想外のガイの行動に二人は目を閉じてしまい、僅かに怯む。
それは数秒のことだったが、致命的な隙。明けた視界のなか、両目を開けて飛び込んできたのは。
「恨んでもらっても構わないぜ」
二人との間合いを詰めた、ラルクだった。
「恨み言もご自由に、だ」
ラルクは身体中のエネルギーを両の拳に集中させる。
彼が放とうとしているのは<七曜拳>。拳聖必殺の連打技。
「テメェらにはその義務はあるだろうしな――!」
――――――――――
煙幕の影響を受けないぐらい遠く離れた場所で、キルラス・ケイ(きるらす・けい)は光条兵器のロングレンジスナイパーライフルのスコープ越しに戦場を見つめていた。
他の誰にも気づかれないよう息を潜めて物陰に隠れ、虎視眈々と狙撃するべき獲物を探す。だが、仕方ないとはいえ煙幕の影響で視界が悪い。
(……これじゃあお役御免かねぇ)
中々、風で流れない煙幕を見ながらそう思っていたキルラスにとって。
――爆風により煙幕が払われた先にいたラルクは、格好の獲物だった。
「いやはや、ラッキーだねぇ」
超感覚で生えた白猫の尻尾を少しばかり左右に振りながら、キルラスはタイミングを計る。
好機は一瞬。狙撃手は一発の銃弾にて戦場の空気を変えるもの。
(魔弾の狙撃手を自称する者としては、絶対外せないよねぇ)
どちらかと言うと最近呼ばれているにゃんこスナイパーのほうが見た目的にもしっくりくるであろうキルラスは、とにかく訪れるでだろうチャンスを逃がさないために、息を止めて少しでもおこる手振れをなくし、ラルクの一挙手一投足に注視する。
そして、そのチャンスはすぐに来た。
それは彼がカガチと厳竜斎に接近し、大技を放とうとする一瞬。
(――今、さぁ!)
キルラスは間髪入れず、狙撃銃の引き金を引き絞る。
銃口が耳をつんざくほどの銃声とまばゆいマズルフラッシュを発して、一発の銃弾を吐き出す。
放たれた銃弾は空気の壁を切り裂き一直線に飛翔。
狙い通りラルクの右脚を撃ち抜く。
ラルクの七曜拳の構えが崩れる。
ガイが狙撃だと気づき、バイクでラルクの救出に向かう。
狙撃手の思惑を察したのか、カガチと厳竜斎がその場から飛びのく。
それは数秒の間の出来事。
「……予定通りさぁ」
キルラスが初弾で致死性の高い頭部を狙わなかったのはこのため。
カガチと厳竜斎がその場から離れ、ガイをラルクの傍まで誘い出すためだった。
(手加減もしなけりゃ、情けも掛けてやんねぇさぁ)
キルラスは狙撃の反動を無視して連射。普通なら当たるはずのないその狙撃を、<シャープシューター>の技術で正確無比の狙撃へと昇華させる。
発射された二発の銃弾は吸い込まれるかのように、接触したラルクとガイの頭部に飛んでいき。
「――にゃあ!?」
両方ともに着弾する手前でラルクの両手に、捕まえられた。
スコープ越しにそれを見ていたキルラスは驚きのあまり声をあげる。
(銃弾を手で掴むなんて、あいつは化け物かぁ……!?)
ラルクは両手の内にある銃弾を放り捨てると、キルラスのほうに顔を向ける。
そして歯を剥きだしにして、獰猛な獣のような笑みを浮かべた。
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