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リアクション
剣戟の音。魔法の爆音。雄叫びや咆哮。
静かだった廃倉庫は、今やあちこちで戦いの音が打ち鳴らされる戦場と化していた。
「あいつが……リュシルを……!」
唇を噛み締めて、ナタリーを見ながらそう呟いたのはマリサだ。
リュシルとは、彼女の最愛の人。空京の惨劇で失った、愛する人。
マリサにとってのナタリーは、共に紡いでいくはずの幸福を奪った憎むべき相手だった。
「絶対に……絶対に……殺してやる……!!」
彼女はセミロングの髪を揺らして、幼い彼女を殺すために地を蹴り、駆けた。
「あわわっ! て、敵がきたですっ!」
ナタリーの側にいた白鐘 伽耶(しらかね・かや)は、あわててマリサを止めるために魔銃カルネイジと灼骨のカーマインを発砲。
二つの銃口から吐き出された銃弾は、マリサへと迫るが、<銃舞>により華麗に避けられる。
マリサは伽耶を睨む。それは背筋が凍るような冷たい瞳。伽耶は恐怖を感じて竦みそうになった、が。
「怖い……けど、ナタリーさんを守るためなら……!
この二丁の銃があれば大丈夫……きっと大丈夫!」
伽耶は自分に言い聞かせるようにそう呟き、自らを奮い立たせる。
そうして、もう一度マリサに二丁の銃を向けるが、彼女の前に相棒のレアが身を割り込んだ。
「…………」
レアは冷酷な瞳で伽耶を睨み、無言で魔法陣を展開。魔力を込めて<凍てつく炎>を放つ。
「はわわっ!?」
氷と炎が混じった魔法は伽耶に飛来。
だが、伽耶の代わりにガーゴイルがそれを受け止めた。
それは伽耶のパートナー、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)によるもの。
「伽耶、怪我はない?」
「は、はいです!」
ユーリは伽耶の返答を聞いてから、すぐ近くまで迫ったマリサに目を向ける。
「失った物を取り戻すために。邪魔をするなら、排除するまで……!」
マリサは素早く<その身を蝕む妄執>を発動させ、二人を混乱させる。
その隙に、彼女は両手のマシンピストルの引き金を引く。銃口は数多の銃弾を二人に目掛けて吐き出した。
地面が穿たれ、凄まじい着弾音と共に、埃が巻き上がる。
埃が風に流された先では、ガーゴイルが身代わりとなって二人を守っていた。
「君がなんでナタリーちゃんを狙うかは知らない。けど……!」
ユーリは混乱する思考を無理やり追い払い、マリサを射抜くような視線で見つめて言い放つ。
「けど。それは、間違ってるよ!」
「……うるさい」
「誰かの犠牲の上で成り立つ平和なんて、絶対に間違ってる!!」
「うるさい! あたしは……あたしはあいつを殺して……リュシルを取り戻すのよ!!」
溢れ出した感情が、マリサの双眸から涙となってこぼれ落ちる。
二丁のマシンピストルのマガジンを替えて、また銃口を二人に向けた。
――――――――――
ホープの<火術>の魔法陣から放たれた爆炎を、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は混沌の楯で防御。盾の前で炎がはじけ、火の粉が舞った。
ミネルバは盾を引き、法と秩序のレイピアを抱えて、ホープとの距離を詰める。
「死闘だ! たのしんでくよー!」
元気にそう言いながら、ミネルバはホープに連続して突きを放つ。
頭に一回、首に二回、胸の中央に二回。全て人体の急所を狙ったその五連続の刺突を、ホープは身体に傷を受けながらもどうにか回避。
ホープはミネルバの懐に潜り込み、身体を回転させ、洗練された回し蹴りを放つ。
「ぐっ、痛いよー。なにすんのさー!」
その直撃を受けたミネルバは少しだけ横に吹き飛び、不満を言った。
ホープは場所を変えるために、横に移動。そして、敵を見つけて魔法陣を展開。
「焼き尽くせ。<ファイアーストーム>!」
ホープの声が戦場に響く。
前方に展開された赤々しい魔法陣が光り輝き、業火の嵐をリタリエイター・アルヴァス(りたりえいたー・あるばす)を纏った神凪 深月(かんなぎ・みづき)目掛けて放出した。
「ちぃ……っ!」
炎の嵐に触れた深月の肩が焼け焦げる。
が、彼女は歯を食いしばることで激痛に耐えて、右手の神の鞭アッティラを素早く振るった。
しなった鞭が、続けて魔法を放とうとするホープの身体に絡みつき、彼女の行動を妨害する。
「捕らえたぞ! ホープ」
深月は<鬼神力>を発動。身体に力が生み出され、容姿が変化する。
眼が見開かれ縦長の瞳孔になり、八重歯が牙のように長くなった。
「……たとえ、ヌシとナタリーが同一人物でヌシの過去であったとしてもじゃ。
『今』罪を犯していない者を、これから罪を犯すと知っているから殺すなぞ……わらわは断じて看過できぬのじゃ!!」
深月はそう叫ぶと、神の鞭を大きく振るいホープを廃倉庫の壁へ打ち付けた。
ホープの口から鮮血が飛び散る。ぼろぼろだった壁は容易く壊れて、崩れ落ちる。
そうして、また、深月はホープを近くの壁に打ちつけようとした。が。
「神凪深月。左から殺気がやって来ます……!」
<殺気看破>を発動していたリタリエイターの言葉に、深月は行動を中断。素早く左に顔を向ける。
「…………」
視界に飛び込んできたのは上守 流(かみもり・ながれ)。
彼女の両手には戒魂刀【迦楼羅】と龍神刀が握られ、いままさに深月に向けて振り下ろそうとしていた。
「な、なぜじゃ!? 流はこちらの仲間じゃろう……!?」
深月は左手の神の鞭で二本の刀を受け流して、流に問う。
「…………」
しかし、流はなにも答えない。再び二本の刀を振り上げ、深月に襲い掛かった。
「く、片手間で相手を出来る相手でもないか。止むを得ん……!」
二本の刃から放たれる斬撃に耐え切れず、深月は右手の神の鞭をホープの身体から離す。
そうして流から距離を置き、両手の神の鞭を構えなおした深月の視界の端に、とある友人の姿が映った。
――――――――――
瀬乃 和深(せの・かずみ)は妖刀白檀の柄に手をかけ、<隠形の術>で気配を殺しながらナタリーの傍へと歩み寄る。
彼はもともと現代の部隊の一員だったが、ホープ達の事情を知り、化け物を召喚させないために裏切ったのだ。
(これだけの戦いの中。それに、俺はみんなの前で裏切るとは言ってない。……いけるか?)
和深はごくり、と唾を飲み込む。
裏切ったことがばれれば、いわばここは敵陣の真っ只中。つまり、殺される可能性は高い。
(……いや、いけるいけないの問題じゃない。やるんだ。でないと、友人が死んでしまうかもしれない)
和深は頭を左右に振り、悪い考えを振り払った。
そして、刀の間合いまで近づいたナタリーを睨み、誰にも気付かれないように音をたてずに妖刀を抜き取る。
(……謝らないよ、俺は)
和深はナタリーの息の根を止めるために、ゆっくりと妖刀を振り上げ、下ろした。
妖刀の刃は白銀の軌跡を描き、幼い少女の息の根を止めようと襲い掛かり――。
「……どういうつもりだ? 貴公」
ナタリーの目と鼻の先で、平 将門(たいらの・まさかど)の忘却の槍に止められた。
和深は後ろに大きく跳躍。将門はナタリーを自らの背後へと移動させ、彼と対峙する。
「質問に答えよ。貴公らは我らの仲間だったはずだ」
「……さっきの行動が答えだよ。将門さん」
「そうか。貴公は深月の友人、出来れば刃を交えたくはなかったが」
そう言って槍を構える将門の服の裾を、ナタリーが軽く引っ張る。
それに気づいた将門は幼い少女をちらりと見る。彼女はおびえながら、心配そうな目で見上げていた。
「案ずるな。貴公に向けられた刃は全て我が肩代わりいたす」
将門はナタリーに向けて微笑みかけ、もう一度和深のほう振り向いた。
その顔に先ほどの笑みは微塵もなく、ただ敵と相対した戦士の険しい顔となっていた。
和深も同じような表情をしながら、言い放つ。
「俺はその子を守り、化け物をどうにかできると言えるようなデカイ人間じゃない。だから、一番確実な方法をとらせてもらうよ」
「ならば、我は幼き子の未来のために戦うのみ。……東京の守護神が分霊。平将門……いざ参る!!」
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