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リアクション
リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)は、ヴィータと死闘を繰り広げるパートナーの真司を横目で見ながら呟いた。
「いくらヴィータ狙いだからって、もうちょっと周りを見ないと危ないじゃないのよ。まったく世話が焼けるわ〜」
リーラはドラゴニックアームズにより、両肩に液体金属のドラゴンの首が生える。ドラゴンは口を大きく開けて火炎を放射。
吐き出された炎は、ヴィータの支援に向かおうとしていた天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)に迫る。
「……まあ、そう簡単には行かせてくれませんか」
葛葉はそう呟くと、肉迫する炎を避けることもせず、そのままリーラに向かって突撃。
自ら炎のなかに入った葛葉から肉が焦げる匂いがするが、足を止めずにに<疾風迅雷>で素早く行動。焼けた皮膚が<リジェネレーション>によって治療されていく。
「ちょっと〜、なによそれ。卑怯なんだけど〜」
リーラは頬を膨らませながらそう言うと、トランスブレードで両手を液体金属に変異。右手を槍、左手を鉤爪のように変化させる。
「……そっちも十分、卑怯ですよ」
葛葉はそれを見てマグマブレードを抜き出して、忍法・呪い影を使用。自分の影が立ち上がり、葛葉と共に並走を始めた。
「あらら〜、どっちを狙えばいいのかしら〜」
「どちらでもどうぞ。ですが、片方を攻撃した隙に、もう一方が喉を切り裂くでしょうが」
葛葉はそう呟いて、残忍な笑みを浮かべた。
――――――――――
「くっははは! やっと、雑魚以外がきやがった!!」
黒幕達の一人、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)の歓喜の叫び声が響く。
彼は猛禽のように獰猛な笑みを浮かべながら、どす黒く変化した梟雄剣ヴァルザドーンの切っ先に光を集め、ぶっ放した。
極大のレーザーキャノンがレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)に向けて飛来。彼女は聖封翼剣を抱えながら、回避して彼に立ち向かう。
「ずっと待ちわびてたんだぜ?
生贄集めだか知らねぇが、雑魚狩りにやる気なんて出ねぇからなァ」
「ふむ、そうか。こうして敵対したのもなにかの縁かもしれぬな。貴様とは決着をつけたいと思っていたところだ」
「そうかそうか。ま、ちーっと暇してたんだ。相手してくれやァ、オイ」
竜造はレティシアが接近してくるのを確認するやいな、砲撃を中断して勇士の薬を服用。
空になった瓶を放り捨て、彼女の身体の動きから<行動予測>して構えをとる、が。
「っくは。てめえは今回は一人じゃねぇようだな」
竜造は<百戦錬磨>の経験と勘で、背後に迫ったフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に気づき、梟雄剣を後ろに一閃。
「……やはり、そう簡単には上手くいきませんか」
フレンディスは<超感覚>でその剣閃を感知して、間一髪で回避。彼女は大きく後ろへ跳躍する。
「ふむ。次はこちらの相手をしてもらおう」
休む暇もなく、続けてレティシアが竜造の間合いに到着。
聖封翼剣を横薙ぎに振るい、竜造は<ウェポンマスタリー>の技量でそれを受け流す。
「くはは! いいぜぇ、何人でもかかって来い。そっちのほうがおもしれぇからなァ!」
両者は同時に梟雄剣と聖封翼剣を振るう。そこにフレンディスも突撃する。
三人は嵐のような剣戟が繰り広げ、花火のように火花が咲き乱れ、金属によって奏でられる交奏曲が鳴り響く。
そんな剣劇を見ながら、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はため息を吐き、呟いた。
「っつーか、なんだよ、あいつ。二人相手に幾ら何でもヤバすぎだろ!? とにかく、フレイだけでも護らねぇと……!」
ベルクは<紅の魔眼>と<イヴィルアイ>を併用して発動。
パートナーの二人の呼吸と竜造とのタイミングを計りつつ、自分が入り込む機会を伺う、が。
「……ちくしょう。ありゃ、後方支援担当には入りこめねぇ戦いだ」
そう呟き、ベルクはなにも出来ない自分の無力さを噛み締める。
彼の視線の先で三人の戦いは続く。一瞬すら油断できない、生きていることを感じられる戦闘が。
「っくは。これでどうだ、ゴルァァッ!」
竜造の大気を震わせる咆哮と共に、均衡していた三人の戦いが動き出した。
彼は<金剛力>の剛力で梟雄剣を振り上げる。
強烈な一閃を受けて、フレンディスの忍刀・霞月が弾き飛ぶ。
一瞬。そう一瞬だが、隙が出来た。
「ふん、世話が焼ける……!」
レティシアがそれを察知して、聖封翼剣を手に無理やり竜造の懐に飛び込んだ。
その時、フレンディスは彼の口元が歪に吊り上がるのを見逃さなかった。ある種の危機感を感じて、彼女は叫ぶ。
「ダメ。ダメです。これは――」
罠、と言うよりも先に、竜造が反転しその勢いを殺さずにアルティマレガースで強化された下段蹴りを放った。
その蹴りを直撃したレティシアは動きが鈍る。竜造はすかさず腹部への中段蹴りへ移行。
彼女はそれもモロに受けて、骨が砕ける鈍い音と共に身体がくの字に折れ曲がる。竜造は両手で柄を握り、梟雄剣を振り上げた。
そして――。
「じゃあな」
最大級の斬撃が、レティシアに向けて振り下ろされた。
縦一直線に深く切り裂かれる。
鮮血が大量に噴出する。
彼女の血液がフレンディスの顔に飛びついた。
「あ……あ……」
フレンディスが言葉を失う。それと共にパートナーロストの影響で、全身を耐え難い苦痛が駆け巡る。
フレンディスは両膝を地面に落とし、前のめりに倒れた。
「おいおい、どしたぁ? こんなとこで寝てる暇はねぇぞ?」
竜造が倒れたフレンディスに向けて、梟雄剣を振り上げた。
その二人の間にベルクが身体を割り込み、両手を広げる。
「ああ? どけよ、てめえ」
「無理だ。レティシアはこいつを守って死んだ。なら、次は俺が守る番だ」
「はぁ? てめえがどうやって守るっつーんだよ?」
竜造の挑発めいた問いかけに、ベルクは殺気を孕んだ視線で睨み口を開いた。
「――うるせぇ。それ以上言ってみろ。ぶち殺すぞ、人間」
竜造はその視線を受けて、これは生き残らせたほうがおもしれぇかも、と不意に思う。
「……はっ」
竜造は唾を吐き捨てて、梟雄剣を肩に担いで、踵を返した。
「……逃げるのか?」
「逃げる? はっ、感謝して欲しいぐれえだぜ。
もう一回、そいつが立ち上がってから俺に立ち向かってこい。そんときに気が向いたら相手してやんよ」