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All I Need Is Kill

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All I Need Is Kill

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 十二章 伝えるために

 十七時十五分。空京、外苑の廃倉庫。
 激化した現代と未来が殺しあう熾烈な戦場の中、僅かに聞こえた爆発音を耳にして、エディはナタリーがいないことに気づく。

「ちぃ……っ! まさか」

 ナタリーがいない。見たことのない敵。現代と未来の部隊の一員が協力してその敵と戦っている。
 ナタリーが黒幕に誘拐されたのだと、エディは瞬時に理解した。

(クソ、気づくのが遅れた。これをみんなに、ホープに伝えねぇと……!)

 エディは近くで一緒に戦っていた同じ未来の部隊のリヘイとアリーセに声をかける。

「おいっ、すまねぇが俺についてきてくれ!」
「……いきなりなんだ?」
「……どうしたんですか?」
「説明してる暇はねぇ! とにかくホープを止めるのを手伝ってくれ!」

 エディの有無を言わさぬ強い口調の言葉を聞いて、二人は頷いた。
 そして三人は、戦場で激情のまま戦うホープのもとへ駆けようと地を蹴る。
 だが、その足は前方からこちらに向かってくるグラニアを見て、止まった。

「丁度良かった! おいっ、おまえもホープを止めるのを手伝って――」
「…………」

 グラニアは手に持った短槍をエディ目掛けて突き抜いた。
 突然のその行動に、三人は反応が遅れて、エディは脇腹を穿たれる。

「ッ!? おまえ、俺らの味方だろ。どういうつもりだ!?」
「どういうつもりも、なにも。私はただ全ての未来を壊すだけですよ」
「はぁ!? なにいってやがんだ――」

 続いて繰り出される短槍の連撃に、エディは言葉を遮られた。

(ちっ。こんなことで足止めをくらってる暇はねぇのに……!)

 エディは焦りながら、両手に持つ二丁の指揮官の懐銃をグラニアに向けて発砲。
 至近距離で放ったそれは彼女の身体を撃ち抜いたが、しかしそれだけでは止まらない。

「あなたも、壊れてしまうといい」

 グラニアは大きく身体を捻り、零距離で突きの構えを取る。

(避けられねぇ……!)

 そう感じたエディは目を閉じる。
 が、彼女がその槍撃を放つよりも先に、アリーセがエディの身体を押しのけた。
 彼は飛ばされて尻餅をつく。そして、目を見開き彼女を見上げる。
 彼女は自分の身代わりとなって、グラニアの槍で胸を刺し貫かれていた。

「アリーセ!」
「行って、ください。ここは、私達に任せて、早く」

 アリーセは刺し貫かれた短槍を両手で逃がさないために掴んだ。
 動けないグラニアに、リヘイがヴァジュラの光の刃を奔らせる。
 グラニアは咄嗟にアリーセを貫いているほうの短槍を手放し、後方に跳躍した。

「アリーセの言うとおりだ。早く、行け」
「……そんなこと、出来ねぇよ。おまえらに頼んだのは俺――」

 リヘイはエディの胸倉を掴んで立ち上がらせ、言い放つ。

「いいからとっとと行け! 気づいたことがあるんだろ!? ホープを止めなきゃなんねぇんだろ!?」
「……けど」
「おまえは失った大切な彼女を救うためなら、全てをするんだろう! そう言ったよな。じゃあ、情に流されねぇで、とっとと走れ!!」
「! ……すまん!」

 エディは踵を返し、思い切り走って行く。
 それを見送ったリヘイはアリーセの傍まで歩き、倒れこもうとした身体を支えた。

「……ごめん。君には無理をさせちまうかもしれないが、あと少しだけ動けるか」
「ええ、任せて、ください……」

 アリーセはそう言うと、呻き声を洩らしながら、胸に刺さった短槍を抜き、放り捨てる。
 そんな肩を貸して立つ二人を見て、グラニアは不思議そうな顔で問いかけた。

「未来を救うために戦っても、そこに居場所はないはずですのに、何故あなた達はそこまで必死になるのですか?」

 その問いに、アリーセが答える。

「夢も希望も、全部なくして、只死ぬのを待っていた私に、あの人は、ホープさんは、生きる意味を、与えてくれた。
 この戦いの果てに私の、ホープさん自身の未来も、存在しないとしても、私はやめない。この戦いだけが、私が今、生きている、唯一の、意味だから」
「同感だ」

 リヘイも続けて、グラニアに言い放つ。

「あの惨劇が回避できるなら。俺は、繋いでいた手が急に軽くなって、見なきゃ、振りかえらなきゃって思っても、怖くて見ることも出来なかった。
 これから、あんな思いをする何千人、何万人を救えるなら俺はこの刀を振るうのを、ためらいはしない」

 そういって、リヘイとアリーセは武器を構える。それを見て、グラニアも呟く。

「あなた達が言ってることが私には理解ができない。でも、強く決意しているということは分かりました。
 なら、私は全ての未来を消滅させるために、立ち塞がるあなた達を殺させてもらうまで」

 言い終えるやいな、グラニアは短槍を抱えて、二人に突っ込む。
 アリーセは最後の力を振り絞り、<氷術>の魔法陣を展開。氷の刃を精製し、放つ。
 グラニアはかわすことで体勢を崩す愚を避け、氷の凶器が自らの肩口を切り裂き、鮮血が跳ねるに任せる。
 そして、懐へと潜り込み、短槍で彼女の胸をもう一度貫いた。

「……リ、ヘイ。あとは、任せ、ました」

 アリーセは最後にそう呟くと、ゆっくりと絶命した。
 唯一の短槍で彼女を貫き武器が使えなくなったグラニアに、横からリヘイがヴァジュラを手に突撃。

「アリーセの仇、とらせてもらうぞ!」

 絶体絶命。その言葉が似合う状況のなか、グラニアは静かに笑う。それは<行動予測>でリヘイのその動きを読んでいたからだ。
 彼女は<分身の術>を使用をしてリヘイを惑わし、<光学迷彩>とブラックコートで姿と気配を断つ。
 そして、彼が分身に気を取られている間に放り捨てられた短槍を素早く拾い上げ、<魔障覆滅>の目にも止まらぬ早業でを切り刻んだ。

「あははっ」

 グラニアが勝利を確信した笑みを浮かべる。
 そして、止めとばかり彼の鳩尾を勢い良く刺し貫いて。

「……捕まえた、ぜ」

 リヘイは自身を貫いた短槍の柄を、ヴァジュラを離した右手で掴む。
 グラニアが驚いて目を見開ける。そして、彼はヘビーガントレットを装着した左手を伸ばし、彼女に押し当て、<ヴォルテックファイア>の魔法陣を展開。

「喰らいやがれぇぇええッ!!」

 大気を震わす咆哮と共に、激しい炎の渦が魔法陣から放出される。
 直撃を受けたグラニアは吹き飛び、灼熱の業火に焼き尽くされ、黒く焦げて即死した。
 それを見たリヘイは、安堵の息を洩らしながら、両膝を地面へと落とす。

「くそっ、もう力……入んねえや……」

 リヘイは最後にそう呟き、自らの血液で出来た血溜りに倒れこんだ。

 ――――――――――

 ホープのもとに辿りついたエディは、声を荒げて彼女の名前を呼ぶ。

「ホープ、もう戦いを止めろ!」
「ああああああああああああああ!!」

 しかし、エディの声はホープの咆哮によりかき消された。
 彼女はこわれているように、休む間もなく魔法を放ち続ける。

(くそ、目の前で仲間を殺されて我を失ってやがる。どうすれば――)

 そう考えたエディの視界の端に、リヘイとアリーセの死体が映った。

(――なりふり構ってられねぇ。俺のために命を張ってくれた、あいつらのためにも――)

 エディはそう決意すると、ホープの前に――飛び出した。

「……え?」

 ホープが言葉を失った。魔力をこめた魔法陣の発動はもう止められない。
 魔法陣から放出された<氷術>による巨大なつららは、エディの身体に深くふかく突き刺さる。

「……聞、け。ホープ」

 貫かれた傷口から、大量の血がこぼれ出す。
 それと共に視野の狭窄が起こる。死を前にして、五感が遠のいていく。
 それでもエディは、伝えるために、言葉を発した。

「ナタリーは、もう、ここには、いない……ッ!」

 ――――――――――

「ちっ、気づかれ始めたか。仕方ねぇ、撤退するぞ」

 竜造は血が混じった唾を吐き捨て、周りの第三勢力の者達にそう命令した。
 その言葉を耳にした葛葉は<火遁の術>で巨大な火柱を立て、その場にいる全員に目くらましを行う。
 そして、邦彦の自爆の攻撃を受けて上半身の右半分をごっそりと失ったヴィータに素早く近づき、静かに笑いながら言い放つ。

「負けちゃいましたね、ヴィータさん。
 では、もう一つの仕事……『敗北した者を生贄にする』仕事をします」
「あなた、可愛い顔、して、けっこう、えげつ、ない、のね」
「これも仕事、恨まないでくださいね? ……まあ、あなたの様な人、嫌いでしたがね?」
「あら、ら、そうだった、んだー。ショッ、クー」

 息も絶え絶えになりながら、ヴィータは笑う。
 その二人の傍にハツネも近づき、不気味な笑みを浮かべて言った。

「クスクス……これはお仕事でゲームなの。
 ……だから負けたらこうなることは仕方ないの♪ あとでギルティに食べさせてあげるから……精々、記憶に残る様に良い悲鳴……あげてね♪」
「きゃは。怖い、なー。でも、ま、いっか。これ、わたしの、身体じゃ、ないし」

 ヴィータは震える手でハツネの頬に振れ、笑いながら呟いた。

「また、会いま、しょ。ハツネ、ちゃんに、みんな。今度、は、あそこの、廃墟で、ね」