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All I Need Is Kill

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All I Need Is Kill

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 八章 真相

 十六時。空京、街外れの小さな教会。
 壮太と氷藍は教会内の応接間に通されて、シスターに聞き込みを行っていた。
 しかし、いろいろな質問をしたがなにも神隠しに繋がるようなヒントは得れず、二人は深いため息を吐いていた。

「もう、よろしいでしょうか。私もそろそろ用事があるので、外出しなければならないんですぅ」

 シスターは壁にかかった時計を見て、ソファーに座っている二人に言った。
 あわてて氷藍は、最後に、と前置きを入れて彼女に質問をした。

「シスターとナタリーはどんな関係なのだ?」
「どんな、と言われましても。私にとっては可愛い妹のようなものですねぇ」

 シスターは毒気が抜かれるような笑顔を浮かべてそう答える。
 そして、もういいですか、と言って腰かけていた椅子から立ち上がった。
 そんな時、壮太が応接間の隅に置かれた荷物に気づく。

「この荷物なに?」
「……え?」

 シスターの顔から笑みがスーッと消えてなくなる。
 それを見逃さなかった壮太はすかさず、荷物に近づき持ち上げた。

「あ、オレ運ぶよ。どこに運べばいい?」
「結構です。結構ですから……!」
「いやいや、遠慮しなくていいんで。話を聞かせてもらったお礼もあるし」

 荷物はすでに開封されていて、壮太は自分に駆け寄ってくるシスターにばれないよう、身体で隠しつつ素早く中身を調べた。

(!? これは……!)

 中にあったのは大きな瓶に詰められた赤黒い液体。
 鼻にこびりつくような鉄の匂いから、それが血液であることを壮太は理解する。
 そして、その瓶に貼られたラベルに記されていたのは。

(一番最新の神隠しの被害者の名前……!)

 壮太は決定的な証拠を手に入れた高揚感と共にシスターを問い詰めるため、振り返る。

「おい、シスター。これは――」

 と、同時。腹部に軽い衝撃が走った。
 遅れてとん、とやけに軽い音が応接間に響いた。

「壮太ぁ!」

 氷藍が血相を変えて叫ぶ。
 壮太は状況が理解できず、下を見た。自分の鳩尾を深くふかく、シスターがナイフで刺していた。
 壮太が鮮血を吐き出し、倒れる。
 シスターが彼から離れる。
 物陰に隠れていた佐助がシスターをクロだと判断する。
 彼女を仕留めるために忍刀を手に走る。

「ウォルター!」
「はいよ、依頼人様っと」

 シスターの声に呼応して応接間と奥の居間の扉を蹴破って、ウォルターが現れた。
 彼女は両手に持つ二丁の拳銃を佐助に発砲。佐助は足を止め、止むなく己の身を守るために両腕を交差。急所を防御。
 氷藍は壮太を物陰に隠そうと両手で引きずる。

「俺に、構うんじゃねぇ」
「ふざけるな! 死にかけている奴をほっとけるわけないだろ!」

 ウォルターの銃撃を回避して、二人の傍に佐助が降り立つ。
 それを確認した壮太は最後の力を振り絞り、氷藍の小さな手を弾いた。

「俺はもう、助かんねぇ。おまえ、こいつを、連れて、逃げろ。
 それと、みんなに、今回のことを、伝えてくんねぇか?」
「……承った」

 壮太の頼みを聞いて、佐助は万感の思いで頷く。
 そして、氷藍を無理やり担ぎ、踵を返して走り出した。

「佐助! まだ、壮太が……!」
「ダメだ。ダメだよ、氷藍。男の人の最後の頼みを無碍にしちゃいけない」
「壮太ぁ! 壮太ぁぁああ!」

 佐助は窓を壊して、外へと逃げる。
 ウォルターは追わず、片手の拳銃をくるくる回しながら口笛を吹いた。

「ヒュ〜。自分を捨てでも逃げらせるなんて格好いいなぁ、おい」

 そして、胸の中央から血をだらだらと流す壮太に、もう一方の拳銃の銃口を向けた。

「その勇姿に免じて、最後の言葉ぐらいは聞いといてやるよ」

 その問いかけに、壮太はハ、と血と唾を吐き捨てて答える。

「……今に、見てろ。おまえ等は、俺の仲間が、追い詰める」
「あ、そ。遺言にしてはつまらねぇ言葉だな。じゃ、さよならだ」

 ウォルターが引き金を引く。
 乾いた銃声が、応接間に響いた。

 ――――――――――

 教会の外で張り込みを行っていたマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)は佐助の言葉を聞いてすぐさま他の仲間に救援を要請するため、シャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)に<精神感応>を頼んだ。
 シャロンが連絡をしたのは、シスターの部屋を<サイコメトリ>で調査していた八神 誠一(やがみ・せいいち)と、周囲の観察と警戒を複数で行っていたオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)

『おい、急展開だ! シスターはクロで、教会に黒幕共が現れた。捕まえるために教会の外に集まってくれ!!』
『おいおい、マジかぁ。周囲の警戒はなにやってたんだろうねぇ』
『むう、そう言わないで欲しいな。着いたときから注意していたが、不審な人物どころか誰も通らなかったんだよ』
『ん? それはおかしいなぁ。……もしかして、可能性を考慮して先回りされていたのかねぇ』
『ふむ。それ以外は、考えられないだろうね』
『いいから、暢気に会話しねぇでとっととこっちに来いやあんたらぁぁああああ!!』

 心の中でそう叫んだシャロンは、はぁはぁと荒い息を吐く。
 その隣で着々と戦闘の準備をするマイトは、悔しそうに吐き捨てる。

「味方を、一人殺された……!」

 刑事を志す正義感の強いマイトは、人一倍後悔を感じているのだろう。
 彼が噛み締めた唇からは、いつの間にか血が出ていた。

「マイト、落ち着くのだよ。そう頭に血が昇っていては、視界を狭めてしまう」

 隣で準備をしていた林 則徐(りん・そくじょ)は見かねて声をかけた。
 マイトはその言葉を聞いて、小さく頷く。

「分かってる」
「なら、いい。相手は少数、こちらは多勢。数にものを聞かせて戦うことだ。
 それで戦場だが、教会の外におびき寄せて、教会の敷地内で戦うようにしよう」
「ああ、了解だ。
 刑事として、英国紳士としても……絶対に許さない。俺が捕まえてやる……!」

 マイトは決意の言葉を呟き、羽織ったトレンチコートを翻しながら、教会の敷地内へと向かって行った。