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バトルロ笑イヤル

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バトルロ笑イヤル

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【座布団10枚獲得への道〜にア『うばいとる』】
 本来は『ニルヴァーナ創世学園購買部』だったはずのそこは、今は何故かスーパーマーケットの如く食材や日用品が並べられ、レジが置かれているはずの場所には祭壇のような装飾まで施されていた。

「よく来たわね!
 さあ、あたいから座布団を取れるものなら取ってみなさいよ!」

 その祭壇に座布団を10枚どころか重ねられるだけ重ね、正座……は足が痺れるからと腕を組んで仁王立ちするカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)。どうやら彼女は座布団を『うばいとるもの』と理解してしまったようである。
 座布団を10枚集めるとどうなるのか……少しの期待と多くの不安を抱えながら、契約者は『バトルロ笑イヤル』を勝ち抜くため、とりあえず座布団のことは置いて自らのネタを披露する――。


「ふふふ……抵抗は無駄ですのよ。わたくしの究極奥義『三枚おろし』を受けて頂きますわ」
「く……こ、ここまでなのね……」
 スポットライトが当たる中、どう見てもサンマにしか見えない悪党が、これまたゴボウにしか見えないか弱き女性を今にも手に掛けんとしていた。

「待たれい!」

 その時暗がりから、声が掛かる。
「ど、どちら様っ!」
 悪党が名を名乗れと声を発せば、スポットライトが移動しその人物を映し出す。

「控えい、控えい! この淫行が目に入らぬか!」
「あっ、ああぁ……」
「一同、ご早漏の御前である!! 頭が高い、控えおろー!!」

 どこで習ったか、見事なまでにクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)を縛り上げ、嵌めた首輪の紐を掴んで意気揚々と声をあげるレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)
 ……しかし本人の暴走、もとい、勢いとは裏腹に、会場の空気はどことなく居心地が悪い。男性陣は困ったように視線を彷徨わせ、女性陣は冷めた視線をぶつけている。
(ハッ! どうしよう、あまりウケてない! うーんうーん……そうだ! 逆にしてみよう!)
 ピコーン、と頭に電球を光らせたレオーナが、口を開く。
「待って、待って! 今のやり直し! もう一回やるからちゃんと見てて!
 ……クレア、今度はクレアが私を縛って」
「え、えぇ!? そ、そんな、わたくしには出来ませんわ」
「笑いのためにはなんでもする覚悟が必要なんだよ!? クレアだって縛られることを了承してくれたじゃない」
「あ、あれはレオーナ様が強引に……。
 ……ど、どうしてもしなくてはなりませんの?」
「どうしてもだよ!」
「…………、わ、分かりましたわ……」

 相談を終わらせ、二人がネタの準備に取りかかる。

「ふっふっふ……抵抗は無駄よ。大人しく私の究極奥義『ゴボウ抜き』の錆になるといいわ」
「あぁぁ……ど、どうかお助けを……」
 スポットライトが当たる中、どう見てもゴボウにしか見えない悪党が、これまたサンマにしか見えないか弱き女性を今にも手に掛けんとしていた。

「お待ちなさい!」

 その時暗がりから、声が掛かる。
「だ、誰っ!」
 悪党が名を名乗れと声を発せば、スポットライトが移動しその人物を映し出す。

「控えなさい! この……この、淫行……が目に入りませんか!」
「でへへ……これ、なんかいいかも……」
「…………、こ、この早漏! 頭が高い、控えなさい!」

 縛られたレオーナがだらしなく表情を緩ませ、それをクレアが諌める。
(さあどうっ! 悪党を懲らしめると思わせて自分が成敗される、こんなの誰も思わなかったでしょ!)
 挑むような気持ちで場を見つめるレオーナ。しかし二人の努力虚しく、やはりウケが悪い。
「ちょっと頭を冷やすといいわ!」
 結局、カヤノの冷気攻撃を受けて二人はキンキンに冷えてしまったのであった。

 採点:3・4・2・4・5 18


「クシャミって誰でもするやろ? でもなこれ、人によって様々なんや。
 まずはお洒落な人。ファッションの最先端を着こなし、颯爽と街を歩く――ふっ、ふぁっ……ふぁっしょんっ!

 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が大げさな動作でクシャミをすると、会場から笑いが溢れる。
「次は……そやな、山奥の田舎、村落に住んでそうな人。
 すきま風が入り込む家で、藁を編んで――へ、へっ………へきちっ!
「ははははは……アカン、こういうの弱いわー」
 特にアキラがツボにハマったらしく、腹を抱えて笑い転げていた。隣のルシェイメアも平然としているが、ヒクッ、と引きつっている点から笑っているのがまるわかりであった。
「あはははは……ダメ、笑っちゃう――きゃー!!」
 カヤノがバランスを崩して、座布団の上から転げ落ちる。崩れた座布団が数枚、裕輝の元にばら撒かれる形になる。
(おっ、座布団ゲット。んじゃもう一つネタ、行っとくかね)
 手応えを感じた裕輝が、次のネタを披露する。
「こんなこと、親や先生に言われたことあらへんか?
 「世の中をもっと見た方がいいよ」。オレも言われてな、「分かりました」ってこうしてやった」
 すると裕輝が、その場でくるりと一回転する。
「そういうことじゃねーっつうの!」
 またもアキラが笑っていた。彼はどうやら笑いのツボが豊富にあるようだ。
「オレは子供の頃、バカな事ばっかり言っててな。「馬鹿も休み休み言いなさい、バカ!」って怒られたんよ。
 オレは反省して理解した。バカは休んで言うもんやと」
 頷き、裕輝がカヤノに振り向いて言う。
「バーカバーカ! ……はぁ……はぁ……バーカバーカ!」
「な、何よ! バカって言う方がバカなのよ!」
「バーカバーカ! ……はぁ……はぁ……バーカバーカ!」
「バーカバーカ!」
「バーカバーカ! ……はぁ……はぁ……バーカバーカ!」
「もうバカでいいわよ、知らないっ!」
 目に涙を浮かべて、カヤノが座布団を滅茶苦茶に投げつけてくる。ただそれだけならよかったが、カチンコチンに凍らせてたから運が悪い。
「ぐはっ! ……へへっ、これで座布団10枚ゲットやでぇ……」
 10枚目の座布団を身体で受け止めた裕輝が、満足気な笑みを浮かべて意識を放り出す。

 採点:8・6・9・4・4+10枚 31+10枚


「うぅ、寒い寒い。こんな寒い日にはおでんよね」
「ただいまー。買ってきたヨ、お祖母ちゃん」

 多比良 幽那(たひら・ゆうな)ハンナ・ウルリーケ・ルーデル(はんなうるりーけ・るーでる)が、スーパーで買ってきた具材を鍋に入れ、コンロにかける。湯気が吹き出し、ぐつぐつと煮え始めると辺りに香ばしい香りが漂い、参加者の食欲を刺激する。
「さあ、ちくわが煮えたわ。ハンナ、私が食べさせてあげる」
 微笑みを浮かべた幽那がちくわをつまんで、ハンナの口元へ持っていく。
「い、いいわヨお祖母ちゃん、一人で食べられるわ」
「遠慮しないで、さあ、一息にいっちゃいなさい」
 遠慮するハンナへ、さらにちくわを押し付ける幽那。
「でへへ〜……これは新しいプレイですなぁ……今度やってみようかなぁ……」
「こ、こっちを見ながら言わないでくださいません?
 くっ、だ、ダメですわ……こんな卑猥なもので笑ってはいけないと思うほど、笑いを堪えられないっ……!」
 ツボにハマったレオーナが表情を崩し、クレアもお腹を抑えて懸命に表に出すまいとしていた。
「そぉい!」
「げふっ!?」
 と、突然幽那がちくわでハンナのメガネをひっぱたく。
「な、何するのヨ! たとえお祖母ちゃんであっても、メガネを粗末にするのは許さないわ!
 メガネは究極にして至高! メガネをかけてこそ、人は真に人である! 『メガネを外したら実は美人』は邪道! 今すぐ滅ぶべきだわ!」
「あなたがいかにメガネを愛していようと、私の植物に対する愛には叶わないわ。それだけは断言できる。
 私は全ての草を、木を、花を、愛している。あなたにそこまでの覚悟はあるかしら?」
 言い争いを始める二人、その内容は『いかに私が植物を愛しているか』VS『いかにワタシがメガネを愛しているか』という当人達にとっては最重要、しかし周りにとっては価値がよく分からないものだったが、とにかく凄い勢いに目を離すことが出来ず、観客として控えていたアルラウネ達もあわあわ、と落ち着かない様子だった。
「いい加減負けを認めたらどうなの?」
「お祖母ちゃんこそ、疲れが見えてるわヨ。このくらいで疲れてるようでは、お祖母ちゃんの愛も大したこと無いわネ」
 幽那とハンナが目一杯顔を近づけ、睨み合う。しばらくその状態が続いた後、フッ、と弛緩した空気が流れたのを感じ取ったレオーナが全力でアップを始めていると――。

「そぉい!」
「ひでぶっ!」

 スパーン、幽那がハンナの頬をひっぱたく。
「キスでもすると思った? 残念、ビンタでした!」
「キスするとも思ってないわー!」
 ハンナの絶叫が響き、そして会場には笑いが溢れる。
「ははははは……来るな、来るな思うとったけどやっぱ来おった、ははははは……」
 裕輝が腹を抱えて笑っていた。他、会場の反応はなかなかであった。

 採点:6・4・4・9・9 32


「これから、特別課外講義を始めますよぅ。私の講義を聞いて笑わなかった人は落第させますからぁ、しっかり聞いてくださいねぇ」
 イルミンスール魔法学校校長、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に扮したアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、同じくアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)に扮したルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)と共に、講義を始める。
「授業内容はぁ、『うんことうんちの違いについて』ですぅ。
 2つは同じではありませぇん。うんこの方がちょっと硬くて、うんちの方がちょっと柔らかいですぅ」
 もしここに当の本人がいたら、「なんてことしてるですかぁ!」とアキラを強制退場させたであろう内容の講義を、アキラは調子よく進めていく。
 舞台袖から黒板が運ばれ、そこに『うんちとは違う、でもやっぱりうんちを表す言葉』が並べられていった。硬い順に並べ替えると以下、こうなるようだ。

 うんごろごーん
 うんごーん
 うんごっ
 うんご
 うんころ
 うんこ
 うんきょ
 うんち
 うんちょ
 うんぴっ
 うんぴ
 うんみょ
 うんにょ
 うんどーん
 うんどろどーん
 下痢

「実は下痢にも違いがあってぇ、流れるタイプの『げりげり』、飛び散るタイプの『げりっぱ』、下痢なのに出てこない『げりっどん』がありますぅ。
 さぁ、ここで皆さんにぃ、『うんみょちゃん』を紹介するですぅ」
 アキラが向こうを示すと、無駄に軽快なイメージソングと共にうんみょの形をしたうんち……もとい、うんちの形をした『うんみょちゃん』が出てきて挨拶をする。『ゆる族』以上にゆるキャラだった。
「では、皆さんで一緒に『うんちっち体操』をして終わりにするですぅ。
 あ、皆さんは今日の宿題として、うんちを観察して日記にまとめて私に提出してくださいねぇ」
 先程の音楽をバックに、アキラとルシェイメア、うんみょちゃんが並んで『うんちっち体操』を披露する。
「前後、前後ぉ♪」
 ネーミングこそアレだが、腸の動きを良くする動きが取り入れられているらしい。……そして音楽が終わり、深々と礼をしてアキラのネタが終わる……かと思われた。

「…………」

 舞台の片隅で気配を殺す人物。彼こそ『行殺の悪魔』として恐れられるラインキルド
 実は既に彼の所業によって、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)ぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)は行殺の憂き目に遭っている。
 ……だが、アキラは見抜いていた。これはラインキルドによる仕業だと。
(さあラインキルド、もう一度セレスティアとお父さんを行殺するんだ! その時に最高のネタを披露してやる!)
 秘めた策を胸に、アキラが黒板へ目を向け、口を開く。
「授業の終わりに、もう一度復習しておくですぅ」
 その言葉を合図に、セレスティアがお父さんの前に進み出る。こうすれば必ずラインキルドは現れ、二人の台詞や行動はカットされる。
(けれど、ここは『仁瑠華壮聖五十連制覇』! ネタを披露するために用意された場!
 ラインキルドの力を持ってしても、ネタの披露はカットされないはず!)

 セレスティア:
 お父さん:

 ……しかし、アキラの目論見虚しく、二人はそれ以上何も描写されなかった。
(やっぱりダメかー……)
 うなだれるアキラ、彼は直後、ラインキルドの真の恐怖を知ることになる。

 採点:

(さ、採点までカットされたーっ!?)
 この時点でアキラの敗北が決定したのであった。


(……ヨタカ、追試をサボって何処に行っていると思ったら、こんな所に……。
 はぁ……この戦いが終わらない限り、引きずって連れ帰るのは無理そうですね)
 観客席でアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)がため息を吐く中、舞台に立った親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)のネタが始まる。

「んぐんぐ……ぷはぁ。
 いやー、ここのスーパーはウマいモンがたっくさんあるぎゃー」
 スーパーの売り物を片っ端から平らげていく夜鷹。なおこの後、食べた食材の代金は全てアルテッツァに請求された模様である。
「ううっ! ハ、ハラの具合が……。
 トイレはどこだぎゃ!? 早くしないと漏れてしまうぎゃ」
 夜鷹がお腹を押さえ、よろめきながら歩くが、当然トレイは見つからない。
「こ、こうなったら仕方ないぎゃ。漏らすよりはマシ……ぎゃ〜!
 トイレットペーパーだと思ったら、世界地図だったぎゃ!
 夜鷹が世界地図を掲げる。少し笑いが溢れるが、まだ弱い。
「世界地図でも、紙には違いないぎゃ。……ん? こ、これは……!」
 地図を広げた夜鷹の、目がカッ、と見開かれる。

「『パラグアイ』ぎゃ!」

 地図の一点を指差し、ドヤ! という表情を見せる夜鷹。先程より笑いは生まれたが、やっぱり弱い。

「『パラグアイ』ぎゃ!」

 ならばと力押しの結果、なんとかそこそこの笑いを掴むことが出来た。この機を逃すまいと、夜鷹は立て続けにネタを披露する。
「あぁぁ、恥ずかしいネタを披露してしまったぎゃ〜! 穴があったら、チップイーン!」
 頭を抱えながら夜鷹が自分の席、座布団のある前まで歩いていくと、突然床が避け、ズボッ、と身体のほとんどが埋まる。これは事前に夜鷹が自ら仕掛けたものだったが、本人は一体何が起きたか分からないといった表情を浮かべた後、

「バーディーだぎゃ!」

 再びドヤ! という表情でポーズを決める。
「評価に難しいから、とりあえず埋まってなさいよ!」
 直後、カヤノの半ば八つ当たり気味の評価、という名の座布団に埋め尽くされてしまう夜鷹。
「地祇の恨みハラサで置くべきかなんだぎゃ〜!!
 ……ところで、ハラサってなんだぎゃ?美味いんだぎゃ?」
「知らないわよ!」
 最後にカヤノが投げた座布団で、10枚目。結果として夜鷹は座布団を10枚ゲットしたのであった。

 採点:2・8・5・6・5+10枚 26+10枚


 参加者のネタが出揃い、そして採点の結果、幽那と{SFL0050529#ハンナ}のコンビが決勝への進出を果たした。
「座布団の枚数は得点に入らんのかぁ。残念やったけど、ま、面白かったしえぇか」
「そうね、いいものも見られたし……でへへ。
 さあクレア、ちくわを買って帰りましょ!」
「……レオーナ様、わたくしに振る舞うのはその……遠慮してくださいね?」
「わしはたらふく食えただけでも満足だぎゃ!」
「そうですか、それは良かったですね。……所でヨタカ、大切な事を忘れてはいませんよね?」
 惜しくも敗北した者たちは、思い思いに語り合いながら会場を後にする――。

「残念だけど、簡単には帰さないわよ。敗者にはお仕置き、って決まってるみたいだから。
 それじゃ、お尻に鋭いの、突き刺してあげる!」


 ……それからしばらくの間、カヤノが飛ばした氷塊を尻に刺された契約者の悲鳴が響いたとか何とか。
 なおアキラ一行の出番がカットされたのは、無論ラインキルドの仕業である。恐るべし、ラインキルド。