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バトルロ笑イヤル

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バトルロ笑イヤル

リアクション

 ネタの準備を終え、アルクラントが参加者の前に立つ。
 準備から戻ってきたアルクラントは着物の上にコートを羽織っており、そして手には琴を持っていた。
 その姿を、観客達は構える様に、観客席のカメラのレンズが無機質に観る。
「準備ができた様ですね。それでは一番手、アルクラント・ジェニアスさんです。どうぞ」
 泉空に言われ、アルクラントがコートの襟にそっと触れる。そして、笑みを浮かべた。

「私のコートがこおっとる!」

――ピキ、と会場が凍りついた音が聞こえた気がした。


「そして会場もこおっとる! 更に琴をコトコトにこんどる!」
 そして琴を見せつけドヤ顔。対照的に凍り付くアルクラント以外の者達。
 会場を見回してその表情を見て、アルクラントは満足げに頷く。
「――寄席、というものは不思議なものだ。言われれば言われるほどやりたくなるものである」
 アルクラントの言葉に皆が「え、まだやるのかよ」と露骨に表情を顰めた。
「そんなわけで、シモネタというものに挑戦したくなってきた…キャラクター崩壊しようとも!」
 その言葉に一同、一瞬ほっと気を緩めた。
「ってやらんわ! よせよせ!」
 そして、また会場が凍りついた。緩めただけに衝撃は半端ない。
 凍り付いて動かない一同に、アルクラントは満足げにドヤ顔で頷く。
「そしてどん尻に控えしは…一発ギャグ! 素敵な一発ギャグを疲労して見せ――」
「はい次ぃ!」
 言い終わる前に泉空が止めた。声には出さないが、今皆の心の中は『よくやった!』という気持ちで一つになっているだろう。
「何!? 何故止める! 私の素晴らしい知性と品性溢れるネタに文句でもあるのか!?」
「文句しかありませんな! 余りの寒さに舌噛み切ろうかと思いましたよ!? 大体あんなダジャレで笑う人がいるわけ――」
「……ぷっ」
「居るだと!?」
 わずかに噴出した声に目を向けると、アキュートが肩を震わせていた。余りにスベッたこの空気が逆にツボにはまったようである。
「……ふぅ、耐えてやったぜ」
 だが大笑いには至らず、大きく安堵の息を吐く。
「いやあなた噴いてましたから。天野君、アキュートさん達の座布団一枚持って行っちゃって」
「あ、はーい」
 渋々と自分とウーマの座布団を一枚、アキュートは翼に渡した。

・アキュート、ウーマコンビ 2枚→1枚


     * * *


「――準備ができたようですね。それでは次はアキュート・クリッパーさんとウーマ・ンボーさんのコンビでの芸です。どうぞ」
 泉空がそう言った直後、会場の明かりが消える。そして突如、マジックショーでよく流れる例のBGMが響き渡った。
 更に辺りに【スモークキット】によるスモークが焚かれる中、スポットライトを浴びつつアキュートがBGMに乗りながら現れる。
 ニヤリと笑みを浮かべながら、何処からかアキュートが【こけし】を取り出し観客に見せつける。何処もおかしなところは無い、普通の【こけし】である。
 それを置いてあった座布団の上に置くと、アキュートは座布団ごと普通の物よりもかなり大きい風呂敷を被せた。
 笑みを浮かべながらアキュートが3本指を立てる。そして2、1、とカウントをとり、
「ハイッ!!」
ゼロで風呂敷を取ると、そこにあったはずの【こけし】は無くなり、座布団だけが残っていた。会場からおぉ、と声が上がる。ちなみにネタバレするとこれは【物質化・非物質化】で消した。
 だがアキュートは『まだ終わりじゃない』とチッチッと指を振る。風呂敷を掴むと、再び座布団に被せる。
 すると何処からかドラムロールが流れ出す。徐々に盛り上がっていくロールが佳境に入ると、アキュートは風呂敷を掴み、取り払った。
「ギョッ!?」
 その場に突然、顔を赤らめたウーマが現れた。ネタバレすると【光学モザイク】で隠れていて、解除したから姿を現しただけである。
「オォゥッ!」
 アキュートが『なんてこった!』と言わんばかりの表情で頭を抱えると、慌ててウーマに風呂敷を被せた。
 そして再度流れるドラムロール。ロールの盛り上がりに合わせ、アキュートがカウントをとり、ゼロになった瞬間風呂敷を取り払った。

――ババーン、という効果音と共に現れたのは、ゴスロリ姿のウーマであった。ネタバレするがどうやって服を着たのかは不明である。

『おぉー』
 深々と頭を下げるアキュートとウーマに、一同から拍手が送られる。
「……く……ッ……ぶ……ブフッ! ……ふ……ふふ……HAHAHAHAHA! こいつぁ傑作だぜ!」
 ただ一人、涼介を除いて。涼介が我慢できない物はアメリカンジョークであったのだ。ジョークとは少し違うが、今のアキュート達の芸に感じたアメリカンな雰囲気につい我慢が出来なくなってしまったのである。
「涼介さん……でなくて涼庵さん、アウトー。流石にそれはマスク被ってたからって誤魔化せませんよー? 天野君、涼庵さんの2枚持ってっちゃってー」
「な……し、しまった!」
 ついうっかり笑ってしまった事に気付いたが後の祭り。
「それじゃ、貰いますね」
 マスク越しにしくじった、と言う表情を浮かべながら、涼介は翼に座布団を受け渡し地べたに正座した。

・宿木亭涼庵(涼介・フォレスト) 2枚→0枚


     * * *


「さて、お次はこの方です。どうぞ」
「はい〜頑張ります〜」
 ニコニコと笑みを浮かべながら、ルーシェリアが皆の前に立つ。すると参加者をじっくりと見回していく。
 見回し終えると、今度は一人一人じっと眺めていく。
「何をなさっているので?」
 全員を見終えた所で、泉空がルーシェリアに問いかける。
「はい〜、皆さんが座布団から落ちないかなーって、見ているんですぅ〜」
 ニコニコと笑いながらルーシェリアが答えたが、もう一度見回すと不思議そうな顔をして首を傾げた。
「誰も落ちないですねぇー?」
『そりゃあねぇ……』と弥十郎、九条と学人、アルクラントが苦笑する。座布団を2枚重ねた程度でそこから落ちる事は無い。
「そう簡単には落ちようがないな」
「そりゃな、1枚しかないし」
 自分たちの座布団を見てふっと笑みを浮かべるウーマとアキュート。
「私なんて落ちる座布団がありませんがね……HAHAHAHAHA」
 地べたに正座する涼介が自嘲気味に笑った。
「ふーむ、困りましたねぇ、誰も落ちませんかぁ……」
 困ったようにルーシェリアは呟くが、すぐに顔を上げるとニコニコと笑みを浮かべた。
「というわけでぇ……結局この話もオチ無い、という事で……お後がよろしいようで」
 そう言って頭を下げるルーシェリアに、おぉ、という感嘆の声と拍手が起きた。
「……あら、スベると思ったのに……予想外ですぅ」
 少し意外そうな表情でルーシェリアが呟いた。あえてスベりネタを狙ったのだが、結果は予想外の物であった。
「成程、中々うまい事を言うねぇ……誰も落ちないし、オチも無い……ふふっ」
 感心したように弥十郎が少し噴きだしつつルーシェリアに拍手を送った。
「佐々木さん、アウトー。天野君、1枚持ってっちゃってー」
「あ、うっかり笑っちゃったねぇ……いけないいけない」
 そう言って弥十郎は苦笑しつつ座布団を1枚翼に手渡した。

・佐々木 弥十郎 2枚→1枚