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「零の笑点折り返し地点の4組目、この方達ですどうぞー」
 泉空に促されて出てきた九条と学人が軽く会釈するような感じで頭を下げる。
「九条です」
「冬月です」
「?学ですが、なにか?」
 九条と学人のコンビのネタは、自己紹介の時と全く同じ入りから始まった。
 が、学人は内心ビクビク物であった。何故なら相方である九条がどのようなネタをするか内緒にしていたからである。
「突然だけどね学人」
「うん」
 なるべく冷静を装いつつ『ゆるい雰囲気で』という唯一の指示に従い、受け答える学人。
「最近ダジャレにはまってるんだよ」
「……おー」
 本当に突然である。
「だからね、学人にちょっと私のダジャレを評価してほしいの」
「……まあ、僕はローズがやりたいと思うことはやらせてあげたいと思うから、吝かでは無いけども」
 そんじゃね、と九条が構える様に一度咳払いし、口を開く。
「えーとね……電話に誰もでんわ」
 本当にただのダジャレであった。が、九条がふっと目を哀しげに伏せる。
「……着信拒否されてるんだ」
 否、ただのダジャレとちょっと違った。
「うん、僕としてはなんでそんなに嫌われてるのか気になるね」
「こんな感じ」
「他にもあるの?」
「うん。チョコをちょこっと食べる? 今無職だけど」
「関係ないね? 無職とチョコ全然関係ないよ」
「綺麗な奥さんですね、でもいまはもう居ぬ」
「その夫婦には何があったんだ? ……え?ダジャレは?」
 それだけ言うと九条が深く頭を下げたので、学人も慌てて倣う。ゆるいままで締まらないコンビである。最後のネタなぞ最早ダジャレでもなかった。
 何とも言えない空気に、参加者からまばらに拍手が起こる。
「……ぷっ」
「……っくッ」
 そんな中、肩を震わせていたルーシェリアとアルクラントがたまらず噴きだす。
「「……あははははははははは!」」
 そして我慢しきれず、笑った。ルーシェリアは九条のボケてるんだかわからないボケに対する学人のツッコミの応酬に、アルクラントはダジャレと見せかけてネガティブなその内容の明後日の方向の飛んでいきっぷりがツボに入ったようであった。
「おっと、ルーシェリアさんにアルクラントさん、アウトー。天野君、その2人から2枚ずつ持っていってー」
「あはははは……はー……お腹痛いですぅ……」
「あー……やられた……」
「貰いますよー……っとっと」
 まだ余韻が残っている2人から座布団を受け取り、重ねて翼が持って行く。
 その後少し落ち着き、はーやれやれと一息吐くとルーシェリアとアルクラントは地べたに正座で座るのであった。

・佐野 ルーシェリア 2枚→0枚
・アルクラント・ジェニアス 2枚→0枚



     * * *


 次の出番となった弥十郎が皆の前に立つ。その手に持っているのは自分の座布団。ネタに使用する為に持ってきた物である。
「それでは次はこの方です。どうぞ」
 そう言うと弥十郎は正座をすると、座布団を自分の膝の上に乗せた。
『はぁ〜……』
 座布団を動かしながら弥十郎が溜息をついた。
「どうしたの?」
 すると弥十郎が座布団に語りかける。どうやら座布団を使った芝居の様である。座布団を頭と見立てて膝枕にしているのであった。
『いやぁ今日はかなりきつくてねぇ』
「へぇそうなの」
 すると弥十郎が何処からか耳かきを取出し、座布団に耳かきをする仕草を見せる。
「今日もお疲れ様」
『ふぅ。きもちえぇなぁ。おぉ、そこそこ。って何でやねん。癖になったらどないすんの?』
「なんでやねん!」
 それだけ言い終えると、弥十郎がお辞儀をする。
「……え、終わり、ですか?」
「そうだよぉ」
 泉空の呟きに弥十郎が答える。その答えに、参加者間に若干戸惑いの色が見られた。よく内容がわからなかったようである。
「……ぷっ」
 その時、堪え切れないように九条がわずかに噴いた。少し考えて、自分なりの笑いどころを見つけたようであった。
「九条さん、アウトー。1枚持っていってー」
「うぅー……しまったなぁー……」
「ローズ、油断し過ぎ」
 呆れた様に言う学人と一緒に、九条が翼に1枚座布団を渡す。
「……ねえいっちゃん、この人どうする?」
 座布団を運びながら困ったような顔をする翼。その視線の先には、
「ゲホッゴホッ! ……ひーふー……ぜー……ぜー……」
笑いすぎて呼吸困難に陥っているアキュートが居た。何かツボにはまったらしい。
「うん、落ちついたら座布団持ってっちゃって」
 泉空に言われて「わ、わかった」と翼が頷く。

 その後、アキュートが10分近く回復まで要することになるとは誰もこの時は知らなかった。

・九条、学人コンビ 2枚→1枚
・アキュート、ウーマコンビ 1枚→0枚



     * * *


「さあ長々と皆さんにお付き合い頂きました今回の『零の笑点』ですが、次で最後となりました。トリを務めるのは宿木亭涼庵さんです。どうぞ」
 泉空に促され皆の前に立った涼介。手にはネタの為に用意した椅子があった。
「……さて、ネタをやる前に協力者が欲しいんだが」
 涼介はそう言うと参加者たちの顔を見回す。
「誰か手伝ってくれないかな?」
「それならワタシがやろうかねぇ」
 そう言って弥十郎が手を挙げた。実のところこの弥十郎という男、バラエティープロレスネタに弱いのである。
 プロレスマスクからその臭いを感じ取り、自分もやってみたくなったと内心ノリノリであった。
「協力感謝する……さて」
 弥十郎を横に立たせて何かぼそぼそと言うと、涼介が椅子を皆に見せつけて言った。

「この椅子でいいっす(い椅っ子)ね?」

――最初のネタ見せのような空気が凍りつく音が会場に響いたような気がした。

 だがその凍り付いた中で、弥十郎が笑いながら言った。
「そうそう、この椅子なら丈夫そうだから座るだけじゃなくてね、色んな事に使えそうだね」
「座るだけ? 他にどんなことがあるんだい?」
 涼介に問われた弥十郎が少し考える仕草を見せる。
「例えばそうだねぇ……相手に叩きつけたりとか?」
 そう弥十郎が笑いながら言った瞬間、
「ってなんでやねん! わたしゃヒールレスラーかい!?」
思いっきり弥十郎に座る部分を叩きつけた。思い切り座る部分が吹っ飛び、枠が弥十郎の首に掛かったまま残る。
「御後がよろしいようで」
 そのまま涼介が深くお辞儀するが、誰も笑っていない。ツッコミにしてはキツすぎて若干皆引いていた。
「……ふふふ……あははははははは!」
 だがその中で笑う者が一人いた。殴られた弥十郎である。プロレスのノリがどうやらツボにはまったようであった。
「そう言いながらヒールレスラーばりに殴っとるやな……いけ……がふっ」
 そしてそこまで言ってぶっ倒れた。流石にツッコミがキツ過ぎたのだろう。
「佐々木さん、アウトー……って、佐々木さん?」
 倒れたまま弥十郎はピクリとも動かない。慌てて翼が駆け寄るが、すぐに黙って首を横に振った。
「うーん物理的にもアウトか……仕方ない、天野君佐々木さんを乳母車乗せちゃって」
「え、いいの?」
「いや、どっちにしろ佐々木さん座布団無くなっちゃったし、ま、いーかと」
「いいのかなぁ……」
 そう言って躊躇いながらも、翼が弥十郎を抱え上げると部屋の隅に置いてある乳母車に乗せるとそのままカウンセリングルームの戸を開けて放り出す。
 ケツバットは免れたものの、肉体的なダメージは大差ないので決して得はしていない弥十郎であった。

・佐々木 弥十郎 1枚→0枚