リアクション
▼△▼△▼△▼ 渚と大鋸がキャンパスを歩いていると、見覚えのある男女が後を追ってやって来た。 「いたいたー、王センパーイっ」 「待てよ三二一、俺を置いて勝手に行くんじゃねえって」 「いーじゃん、別に。面白そうなんだし。三鬼はいっつも、ノリ悪すぎだからね」 「つまんねえし、くだらねえよ。帰るぞ」 魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)と、浦安 三鬼(うらやす・みつき)だった。 前者が契約者であるシャンバラの人、後者が日本国千葉県流山市出身の地球人だ。 「仕事の邪魔すんなよ。絞めて波羅蜜多の地に放るぞ」 「先輩、バイトっすか?」 「ちょっと頼まれ事があってよお、コイツに空大を案内することになってな」 「パシリッすか。格好悪い」 「ぁん?」 「――ちょっと三鬼、ツッコミ過ぎじゃんっ」 「文句あんのか、てめえ」 「まあ、先輩がどうしようと、別にいいっすけど。ケンカならガチで相手になってやりますよ」 「三鬼ったら言いすぎだよっ。王センパイとケンカしたいの? ゼッタイ強いよ? あんた負けるよっ!?」 「おまえに言われたかねーよっ。それに俺は、ぜってー負けねえ。ナメんなっ」 「男らしいけど、でも三鬼のって、それただのガキじゃん。ふぅーん……まあでも、それぐらいじゃないと、これから先ずっと頼りにならないもんね」 「どういう意味だよそれ。三二一、まさか本気でやろうとしてんのか? お空の“三二一ランド”」 「そのためのパートナーじゃん。三鬼、今度の休みに“パンサーキング”観に行くよっ」 「何十回目だよ」 パンサーキングとは、ジャングルの獣たちの間に育まれる愛と勇気と絆を描いたミュージカルである。 「生きた資料なんだから、できるだけ多く観に行くのっ」 「ひとりで行けって」 「あ、あのう、みなさん落ち着いてください」 宙ぶらりん状態の渚だったが、ようやく仲裁に入る隙を見つけたようだ。 「そうだ、あんたもあたしらと一緒のパラ実に入って、お空の“三二一ランド”を作ろうよっ」 「“ぱらみ”で、“みにいらんど”……?」 「ああ、気にしなくていいぞ。つか、勝手に巻き込もうとしてんじゃねえって」 「三鬼は黙ってて。空大なんて堅いこと言わないで、波羅蜜多実業高校で自由に学んだ方がイイよ、ゼッタイ」 「えっと、ですが私は既に高校3年生なので、パラ実に編入した場合でも、すぐに卒業しなければならないと思いますが」 「空大もパラ実も、その辺アバウトだから。ゼーンゼン平気っしょ。そうですよね、王センパイ」 「パラ実もフリーダムでいいところだけどな。そこは否定しねえし、止めもしねえがよお」 「王さんも、パラ実のことをご存じなんですか」 「パラ実は俺様の母校でもあるからな」 「そうだったんですかあ」 「まあとりあえず、本校舎から案内するぜ」 「よろしくお願いしますっ」 「あたしらも一緒について行こうっ。三鬼も付き合うんだからね」 「勝手なコトしてんじゃねえっ! おいっ、三二一っ」 などと取り留めのない話をしていると、ひとりの老紳士がキャンパスの入口より疾走してきたのである。 「渚お嬢さま、お待たせを致しました」 「爺や!? 付いてきたのですかっ」 驚いたのは渚ばかりではない。居合わせている一同が、目を丸くしたのだ。 黒のスーツに身を包んだ執事然とした老人は、息も乱さずに額の汗をハンカチでぬぐっている。 「ホホッ……一事が万事でございますゆえ、しかと見届けさせていただきます。どうぞ、お気にならさず」 「恥ずかしいからやめてよ。子どもじゃないのに」 「17才でございます」 「あーっ、あたしらとタメじゃんっ。三鬼も17だよ」 「余計なこと言うなって」 二輪車のキーを頭上に投げて弄んでいた大鋸が、落ちてくるカギをしっかりと握りしめた。 「よし。渚、行こうぜっ」 柿笠院 渚の空大体験入学が始まった。 |
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