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リアクション
日下部 社(くさかべ・やしろ) 五月葉 終夏(さつきば・おりが)
「オッシャ。
浪速の名探偵としてこの事件の謎を解いてみせたるで!」
「社。頭は大丈夫なの」
目をさますと、いきなり上体を起こし、握り拳をつくって力強く宣言した日下部社が、五月葉終夏は本気で心配になった。
「なんや。オリバー。どうしてここにおるんや」
「どうしても、こうしても。こっちが聞きたいというか。
社くんが、秘密の隠し部屋で寝てた理由のほうが、私がここにいることよりもよっほど、なんや、だと思うな」
「秘密の隠し部屋やて、どこや、ここは」
「だから、秘密の隠し部屋です。
私は真実の館の壁や床をあちこち叩いて探検して、他と違う、おかしな音のする場所を細かく調べてみたんだ。
そうして、見つけたのがこの部屋」
「つまり、俺は隠し部屋で監禁されとったちゅうわけか」
「見張りもなく、1人で横になって寝てただけだから、監禁じゃないと思うな。毛布もかかってたし。
私が起こすのを迷うくらい、すやすやと安らかに寝てたよ。
ここで暮らしてるのかと思っちゃた」
口では平然とそう言っているが、終夏は、真実の館にいるはずなのに、3日間、まるで姿をみせず、連絡もとれなかった社の身を心配していたのだ。
「暮らしてるわけないやろ。オリバーが起こしてくれて助かったわ。危うく会社に遅刻するところやった。ありがとな。って、ちゃうやろ」
「そうだね」
恋人である社が、無事でいてくれたのが、終夏はうれしい。社もまた、素直には言わないが、終夏が助けにきてくれたのを感謝しているようだ。
「にしてもや。あれからもう3日たったんか。信じられんな。ぎょうさん、おねんねさせてもろうたわ」
立ちあがり、社はあたりを見まわす。
「なんもない狭い部屋やな」
終夏が壁のむこうに見つけたこの部屋は、窓もなく、薄暗い照明がともっているだけの、まるで格子のない独房だった。
「この館には他にもおかしな音がする場所がいくつもあるんだ。
私、これからそれを調べようと思う。
こんな部屋、普段、なんに使ってたんだろう。
社くんは、どうしてここに」
「アンベール男爵にやられたんや。俺も終夏と一緒に調べにいくで。
そうや、男爵はまだここにおるんか。
話の続きをせんとなぁ」
社の問いにこたえるように音が響く。
終夏が入ってきたのとは別の壁が動いて、そこからティーンエンジャーの少年がでてきた。
汚れた作業着を着ている。乱れた髪、血走ったブラウンの瞳。
少年は社と終夏をにらみつけた。ゆっくりと2人に近づいてくる。
「おまえ、誰や。なんや、いったい」
「俺はオリバー。家具職人のアーヴィンの息子だ。
あんたらと同じようにこの館を調べていて、さっき、偶然、この部屋をみつけたんだ。
壁越しに話はきかせてもらった。
隠し部屋を調べにいくんなら、俺もつれていってくれ。
俺も男爵を探している」
終夏は、オリバーが立つのもやっとなくらい疲労していて、そしてどこかにケガをしているのに気づいた。
不自然でぎごちない足音。体がいまの自分の状態になれてないから、ムリをしすぎているから、聞いていてすごくつらい音を発している。
「すこし休んだほうがいいんじゃない」
「いいから、早く連れてってくれ」
終夏に怒鳴りかえしたオリバーが、バランスを崩して転びかけた。社は彼に駆けより、肩をかす。
「きみもオリバーいうんか。偶然やな。俺の彼女もオリバーや。なんかの縁やから、助けたるわ」