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リアクション
五月葉 終夏(さつきば・おりが) 日下部 社(くさかべ・やしろ) 御空 天泣(みそら・てんきゅう)
月葉終夏は、日下部社、オリバーと一緒に、事前に調べておいた、館内の異音のする箇所をめぐって歩いた。
この館にはおかしな音のするところが多すぎる。
まるで、2、3種類の別の用途の施設を組み合わせてつくったみたいね。
1つは表むきの顔である、実業家の豪奢な別宅。
2つめは堅牢なつくりの倉庫。
3つめは隠し扉や通路がはりめぐらされ、秘密の部屋をいくつも持つ、アジトのような建物。
これら3つをバラバラにして、1つにまとめたのが、この真実の館。
ヴァイオリン奏者で音から物事を判断できる終夏は、館の隠された面を壁、床、天井などを叩いた音で発見した。
でも、あの夜、動物園できいたイヤな音は、まだ、ここでは、きいていない。
事件にかかわっていれば、どこかでまたきくことがあると思って、この館にきたんだけどな。
問題の殺人が行われた事件の夜。
ロンドン動物園の側を散歩していた終夏は、これまできいたことのない奇怪な音をきいた。
閉園した園内からそれは、きこえてきたのだ。
不気味な、不吉な、音だった。
楽器のような、機械の動作音のような、人の声にも思える音。
「部屋だけでなく、この館には秘密があるよ。確実に」
「やないと、俺を監禁したりするわけないわな」
「アンベールは、どこだ」
3人はすでにいくつかの隠し部屋をみつけたが、そのどこにもアンベール男爵はおらず、男爵以外の人間の姿もなかった。
部屋は社が捕まっていた独房のようなものばかりでなく、広く調度品のある応接室や、浴室やトイレのついたホテルの1室みたいなところもある。
「こたえたくないかもしれないけれど、オリバーくんは、なんで男爵を探しているの」
「男爵が知っているからだ」
意外にもオリバーは、こたえてくれた。
「知ってるって、なにを」
「俺の、恋人を殺したやつが誰かを。
男爵かもしれない」
オリバーは心の奥底から、しぼりだすようつぶやく。
「おまえ、復讐するために、男爵を追ってるんか。
おまえのケガは、男爵の部下たちにでもやられたんか」
社の問いにオリバーはこたえない。
社も終夏もそれ以上は、尋ねず、3人は歩を進める。
今度の隠し部屋は、天井裏にあった。
音がする。
床板の鳴る音と、人間の呼吸音だ。
人がいる、1人じゃない。それに、かすかに血のにおいがする。
屈んだ社の背中を台にして、終夏とオリバーは天井の入り口から、部屋に上がった。
2人があがったあと、手をのばして、社を引き上げる。
室内は明るくかった。
「ようこそ。
こんな姿ですまない。アンベール男爵にやられてしまってね」
頭部や半裸の上半身に幾重にも包帯を巻き、壁にもたれ、床に両足をのばして座っている少年が終夏に声をかけた。
血のにおいは、この人のものか。
「僕は、御空天泣。真相にたどりついて、犯人に殺されかけた探偵役です」
終夏が口を開くよりも早く、天泣は苦しげに自己紹介をした。