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リアクション
ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな) リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー) ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)
次の面会相手は、相手のほうからやってきた。
面会っていうとなんだかまだ少年院にいるみたいだね。
でも、僕が収監されていた時は、誰も面会になんてきてくれなかったな。
コリィベルは生き地獄だった。
実際のところ、無力な少女でしかない僕は、刑務官や他の囚人たち、院内のスタッフにまで心身ともにもてあそばれて、オモチャにされたんだ。
朝も夜もない長時間のいじめ、熟睡できた日なんて一日もなかった。
だって、僕の寝台には必ず誰かが待っていて
「うぬ? わしは何度も会いにいったじゃろ。
差し入れには、あの店のアイスを持ってこいだの、新作ゲームの限定版を買ってこいだのと、おぬしはまったくわがままじゃったな。
しかし、院内にも何人もおぬしの信者がいたようだったのでな。
安心できずに、わしもついつい甘やかし放題にしてしまったわ」
「うん。まぁね。
コリィベルはけっこう暮らしやすかったよ。
実家にいるよりも気をつかわなくてよかったくらいかな。
幼女、少女好きの大きなお友達さんたちに、ちやほやされてお姫様気分だったよね」
「まったく、さすが維新じゃな」
ファタちゃんに、またほめられちゃった。
「維新。ファタ。おまえたちに二人は、リリの話を聞く気がないのか。
ならば、ここにいても時間のムダなのだ。
他へ行かせてもらうとするのだよ」
僕らの前に立っている前髪ぱっつんロングの魔法少女リリ・スノーウォーカーちゃんは、会話に仏頂面で割り込んできた。
先に僕らによってきたのは、リリちゃんたちのほうなのにさ。
「まぁまぁ、そうつまらなそうな顔をするではないぞ。
リリは、わしらに話があるのであろう」
「だから、まずおまえたちにリリと話をする意思があるのか確認しているのだよ」
ファタちゃんがとりなしても、リリちゃんは依然としてニコリともしない。
リリちゃんは、いわゆる堅物ってタイプの人だね。
「君らの楽しい会話を邪魔してすまなかったね。
私、ララ・サーズデイとパートナーのリリ・スノーウォーカーは、薔薇十字社探偵局としてアーヴィンの事件を調査しているんだ。
君らとは以前にも何回か会っているよね。
細かい説明を省くと、私とリリは、また今回も探偵をしているわけなんだが。
すこし教えて欲しいことがあってね。
よければ、わずかな時間だけリリの言葉に耳を傾けてくれないかな」
まるで地球の宝塚の舞台にいるみたいな男装の麗人、ララちゃんが、パートナーをフォローする感じで僕らにきらびやかに笑いかけた。
ララちゃんはスレンダーだけど、でるところはでている外見からして、あきらかに女性なんだけど。
服もメイクも、ばっちり男装してて、薔薇の学舎の制服を着て、マントまでつけてる。
もともと僕は、ちょっと待たせはしてしまったけど、リリちゃんの話は聞いてあげるつもりだったので、頷いて、リリちゃんをみた。
「おまえたちが、これをみてどう思うのかをリリは知りたいのだよ」
リリちゃんが僕らの前にさしだした、二枚のしわくちゃな紙片には、
う。
くっ。
ん。
うわ。
うわ。うわ。
うわー。うわー。
僕は心の叫びが外にでないように、片手を口にあててフタをした。
ファタちゃんも驚いたらしく、口を開けたまま、目まで見開いている。
「リリの質問は一つだけだ。
おまえたちは、これを知っていたのか? なのだよ」
すいません。
知りませんでした。
なぜだか僕は謝りたくなった。
まさか、世界の終りがくるなんて。
嘘ばっかりついてきて、いままでいっぱいいっぱい悪いことをしてきて、ごめんなさい。
「おぬしは、なにを急に謝っておるのじゃ」
「維新。
この紙の情報について、こころあたりがあるのなら、これが事実なのか、教えて欲しいのだよ」
どうやら僕は、また、うっかり、胸の内を口にだしてしまっていたらしい。
「いやいや。
なんとなく、謝りたい気分になっただけです。
リリちゃんの紙の件については、なんにも知らない。
にしても、すごい衝撃的だよね。
どんでん返しの連続というか、まさか」
ファタちゃん、リリちゃん、ララちゃんの三人が揃って僕をにらみつけたので、僕は口を閉じた。
しかし、僕は天真爛漫な世間知らずの9歳の少女なんだから、素直に自分の驚きを言葉にしても、罪はない気がするんです。
お姉様がた、僕に言論の自由はないのかしらん。
「どんでん返しのどんでん返しでは、結局、元に戻ってしまって、元通りになるのではないのかのう」
「それは、どんでん返しの方向によるんじゃないの。一度したあと、別の方向にむいてもう一回すれば、最初の位置とは全然、別の場所につくよね」
ファタちゃんのつっこみに別の見解をしめしてみた。
そもそもどんでん返しが180度反転と認識しているのが、僕は納得いかない。
別次元のお話にワープしたり、話が斜め上にとんでゆくのも、どんでん返しのうちだよね。
「どんでん返し談義など、リリにはどうでもよいのだよ。
維新。ファタ。
この紙の件は、真偽もはっきりしておらぬことゆえ、くれぐれも内密に頼むのだよ。
リリたちは、騒ぎの起きぬうちにことの真相を確かめたいのだ」
真相を探るのは大変だとは思うけど、たしかにそれをそのままにはしておけないよね。
「じゃぁ、君たち、また会おう」
黙って去りかけるリリちゃんの横で、ララちゃんが中世の騎士みたいにうやうやしく腰を折って挨拶してくれた。
「うぬ。ではな」
ファタちゃんもかるくお辞儀を返す。
僕は、どんどん先へいってしまうリリちゃんの背中に叫んだ。
「リリちゃん。あのね、かわい家のおばさんがね、リリちゃんは、独特なアングルから事件を調査して、華麗な推理を組み立てる凄腕のオカルト探偵さんだって、言ってたよ。
いつも、くるとのバカやダメ人間のルドルフ兄弟の気のつかないところを明らかにしてくれて、ありがとう、って」
リリちゃんは足をとめて振り向くと、ブ然とした表情のまま、
「オカルト探偵は事実かもしれぬが、そればかりをしているわけでもないのだよ。
リリたちの事務所は好みの仕事を選べるほど、潤ってはいないのだ。
迷い犬探しも浮気調査も依頼されれば、全力でやらせていただくのだよ。
凄腕の部分だけは、そのまま、受け取っておくとするのだ」
言い終えると、めずらしく、ほんのわずかに唇をゆがめ、ほほ笑んだ、気がした。