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スーパーマスターNPC大戦!

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スーパーマスターNPC大戦!

リアクション



【雑草とかきちんと下処理しないとお腹壊しちゃうから皆も変なもの食べるときは気をつけた方が良いよ】

「あまり見たくは無いが」
 前置きしてから、陣は自身の能力を駆使し量産型アッシュの位置を捉えていた。
「このスリッパで突っ込んで存在を全否定してやる。
 ウザいという唯一の価値すら打ち砕いてやる」
 そんな陣の隣では、屋台の椅子に座りながら膝の上に乗せたポチの助の腹を撫でているアレクが「陣はこわいなー」とうそぶいている。
 一言言ってやりたくなった。
「――分かっているか? アレク。
 あまり妹にウザくしていると、お前もあいつと同じように見られる事になるんだぞ!」
「別にいいよ。人にどう思われようと」
「じゃあジゼルにウザいと思われたらどうなんだよ」
 掛けられた泥に、アレクの動きが止まった。
「ジゼルが……俺をうざがる……?」
「そうだ。
 妹にウザくしてるんだから、その妹が一番ウザいって感じるに決まってる」
「……そんな事ある訳無いだろ?
 俺はジゼルの完全無欠唯一無二の『お兄ちゃん』だぞ? お兄様では無く、兄貴や兄様でもなくお兄ちゃんだぞ?
 美形で金持ってて育ちが良くて強くて(ジゼルには)優しい、どんな時でも妹の事を考えているお兄ちゃんだぞ?」
 ――お兄様や兄貴や兄様がお兄ちゃんとどう違うのか、陣には分からないが……。
「その自信はどこの地獄温泉から湧いて出てくるんだよ。
 てゆーかそれだろ! どんな時でも妹の事を考えてるってところがウザい。非常にウザい!」
「いやだって……そんな……ジゼルが俺を……うざい?」
 金と翠の視線を漂わせながら、アレクは無意識のうちに両腕でポチの助を抱きしめている。
 ドSは打たれ弱いというのは本当だったらしい。
 アレクの大太刀を片手で難なく振り回す驚異的な握力に潰されてポチの助が「ぐええ」と鳴いたのを、ベルクはニヤニヤしながら見ていた。

     * * *

「姫子さんとジゼルさんは今日は居ないんですね」
 風を切る音に負けない大きさで、姫星はそう言った。
「ジゼルなら俺のベッドで寝てるよ」
「アレクさん、事実だとしてもその言い方は誤解を受けてしまいます」
 加夜に言われても「誤解されても構わないんだが」と、アレクはめげない。どうもこの危ないお兄ちゃんの中で妹を肉体的に頂くのは、希望とか予定というよりも既に確定事項のようなのだ。
「公園近くのコンビニのアルバイトが一段落したところで豊美ちゃんとアレクさんが一緒に居るのを見たんです」
「ミス飛鳥とミスターミロシェヴィッチが同時に動くなんて、今日は灰でも降るのかと思ったわ」
 墓守姫が肩をすくめた。
「はい。二人が揃って行動してるなんて、これは大事に違いないと――
 私も魔法少女として見過ごせないと思いまして!」
 幻槍モノケロスを振りながらハッスルしている姫星たちとアレクは、目元が何処となくアッシュに似ている酉の群れを追いかけていた。
 あれは「煩いから」という理由で、アレクがカガチに押し付けられたのだ。
「お前も魔法少女だったのか」
「この容姿で魔法少女はないって?
 魔法少女になりたいと思う気持ちがあれば、誰でも魔法少女なんですよ♪
 ……まぁ、豊美ちゃんの受け売りですけどね」
「否俺は、お前のそのバカみてぇなピンク頭は魔法少女にぴったりだと思う」
「ミスター、それはミス次百――ひいては魔法少女たちへの褒め言葉なのかしら」
 墓守姫の冷静な声に、アレクは頷く。
「ああ、そう受け取って良い」
「だったらもう少し、女性が喜ぶ――素敵な言葉を選ぶと良いわ」
「悪いな。俺不器用なんだ。
 カガチは一発で仕留めろと言ったが――
 出来るかどうか」
「あの……どうして一発で仕留なければならないのだ?」
 あと少しで間合いに入るところ迄捕らえて、遠距離武器を持った薫は一人先に立ち止まる。
 しかしアレク達は止まらない。
 背中から飛んで来る薫の放つ矢の間をすり抜けて、雄鶏の群れへ突っ込んで行く。
 一人ルートを外れたアレクは壁を駆け上がり、逆さまの体勢で群れの中へ落ちていった。
 頭の上のポチの助は振り落とされない様に必死だ。
「どうしてってそりゃあ……

 喰うんだろ!?」
 地面に向けた踵落としの衝撃で、雄鶏達は安全なひと塊の群れで無くなってしまった。
 そこをすかさず、考高と尊の刃が切り伏せてゆく。
「そこまでです!
 姫子認定魔法少女、百魔姫将キララ☆キメラ!
 丑三つ時の夜……にはちょっと早いですが、華麗に参上!」
 キュピーンと光と音を纏いながら姫星がポーズをキメるのを、アレクは墓守姫と共に見ていた。
「うちのバカ軍曹もそうだが、魔法少女ってのは皆ああやって名乗らなきゃならんものなのか。
 面倒だな」
「そうね。そこが良い所でもあるのだけれど格好つけるというのは意外に大変なものだわ。
 あ、ちなみに言っておくけど私は魔法少女ではないわ。そういうのは柄じゃないのよ。
 まぁ、もう既に大層な名前が付いているのだけども……」
「俺も序列数詞を入れるとそれなりに大層な名前だから何も言えないな」
 雑談しながらも、墓守姫は自分の仕事をきちんとこなしている。
「ミセス山葉気をつけて! 植え込みに一匹隠れているわ。
 ミス天禰、ミスター八雲の3メートル先の木の枝に二匹飛び移ってるから射ってくれるかしら」
 彼女の能力の全てを生かした完璧な警戒と策敵のお陰で、急ごしらえのチームは無駄無く機能している。
 あの屋台でアレクに名前を呼ばれて「こっちはお兄ちゃん分隊」と言われた時にはどうしようかと思ったが、巫山戯た分隊名とは裏腹に、適当に采配をとっていた訳では無さそうだ。
「ミスター、貴方が優秀な上官であるということは認めるわ。
 けれど貴方、ここで一人で何をしているのかしら」
 正確には一人と一匹だが、戦況を遠巻きに見ているアレクへ振り返ると彼は何か計算が纏まったらしく、墓守姫に指示を出して、今度は援護の矢を放っていた薫の元へ歩いて行く。
「薫ちゃん、薫ちゃん。
 耳だけ貸してくれ」
 大弓を射るというのは、信じ難い程の集中力を要するものなのだが、アレクに指示を出されながらも薫の矢の精確さは失われていない。
 やがて全て伝え終わったアレクがまた動き出すと、薫は向きを変え再び『足踏み』し気息を整え始めた。
 番えられた矢は、二本。
 肘の力を均等に引き分けながら狙いをつけて、そこからは一気に事が進んだ。

 残された数は10匹程。左右から同時に襲って来る薫の矢に追われる様に、雄鶏たちは何処かへ誘導されていた。
「薫ー!! こいつら何処行かせるってんだてめー! このー!」
 状況が読めていない尊に、考高は何かを指差した。
 細い道を抜けた向こう側に、カガチの屋台が主人不在のまま置きっぱなしになっている。
 再びその一カ所に集められた雄鶏に向かって、おぞましい空気を纏わせた墓守姫が一気に攻めに出る!
 彼女の空気に怯んでいる雄鶏たちへスピードを上げて突っ込み、先端が燃え上がる杖を突きつけると、そこから闇の力が放たれ酉アッシュたちを追いつめる。
 その時だった。
 闇の力の所為で山のように一塊になっていた酉アッシュたちが、炎の嵐に巻き込まれ燃え上がったのだ。
 彼らに向かって突き出されていたのは闇の中に尚黒いライナーグローブの掌だ。
「あしゅーしゅっしゅっしゅっしゅっ! あしゅーしゅっしゅっしゅっしゅっ!」
 火を消そうとして咥えているネギを振る酉アッシュだが、そのネギが飛んで来た真空の刃にみじん切りにされてしまう。
「ネギは後から美味しく、と思ったんですが――ちょっと火に巻き込まちゃったでしょうか」
 頬に掌を当てて残念そうに言う加夜に、炎を消したアレクが向き直る。
「まあいいだろう。先に口に入るか後に口に入るか位誤差の範囲だ。
 どうせ胃の中に入れば同じだろ?」
「『男の料理』ですね」
「喰えればいいんだよ」
 何時の間にか辺りに香ばしい香りが漂っている。
 それに気づいたカガチは振り返って、屋台の前のある『ネギのせ焼き鳥』に、戦いの最中だというのに思わず吹き出してしまった。

     * * *

 二挺のメルトバスターから放たれた十字放火の炎の勢いに、エースは眉根を寄せる。
 『殲滅』ではなく『駆逐』、『事件を解決』するのが魔法少女と約束したアレクの望みだったはず。
 だが、エースの忠実なる執事は今、1ミリも容赦のない攻撃を亥アッシュにくわえていた。
「エオリア殺す気満々だなッ
 ……現実の動物じゃないからまあそれでもいいか」
 あっけらかんとして、エースもまた裁きの光りを降り注がせた。
「どの動物も野放しにしておくと公衆衛生的に良くないしね」
 これで適当に捕まえてもいいのだが、唯斗はそうは思っていないようだ。
「よーし! 俺も一緒にアッシュ殲滅だー!
 普段はあんまり使わないエグい技とか使っちゃうぞー」
 笑いながら文字通り猪突猛進してくる亥の鼻っ柱を両腕で掴み抱え、イーダフェルト中央部に出現した迷宮内で発見された籠手で引き上げた力をブーストにしながら、地面に叩き付けた。
 ぶるるっと鼻を鳴らしながら、亥アッシュは立ち上がると向こうへ走り、距離を取る。
 逃げた訳では無い、もう一度突っ込んで来る気なのだろう。
「葵ちゃんもほら呑んだくれてないで」
 若干目つきの怪しいパートナーは、面倒なのだろう未だ屋台の椅子に座ったまま酒で咽を潤し続けていた。
「まあいっか」
 カガチは視線を戻して、亥アッシュをまじまじと見てみる。

 アッシュに似ているから量産型アッシュ。
 そう呼称されてしまった通り、亥の毛並みはアッシュと同じく月明かりに輝く銀色で、目は林檎の果実のように赤い。
 4メートル程ありそうな体長は迫力があり、少々怖いくらいだ。
 何となく神話の獣――カリュドーンの猪を思わせる、だがアッシュだ。
 17歳の童顔の少年なのか、神獣なのか分からない。そんな曖昧なところもまた、うざいと評価されてしまうのだろう。
「猪……牡丹鍋の屋台とか面白そうだねぇ……
 いや食っていいもんかしらねえけど」
 今日も遅くまで営業していた小遣い稼ぎと日々の研究の為の『謎肉』を売る自分の屋台に、商品として並ぶ猪を想像して、カガチはそんな事を言う。
「酉はアレクたちがやってくれたのを適当に味付けすりゃあいっかね。
 犬は……食う話は聞くけどどうなんだろ」
「犬も食えるよ、但し日本人の舌に合うかは分からない。
 僕はあんまり美味しくなかったな」
 酒気を帯びた声で首を振る葵に相槌を打っていると、再び亥が向こうから突っ込んで来るのが見える。
 攻撃はワンパターン。おまけにエースとエオリアの炎と光に焼かれ、唯斗に叩き付けられた所為でスピードも完全に落ちていた。
 綺麗に仕留めたいと思っていたカガチには好都合だ。
「あんまり手間掛けると、血回っちゃって美味しくねえし」
 わざわざ直線に突っ込んで来てくれるのを良い事に急所を精確に見極めて、カガチは強力な突きを繰り出した。
 大きな音をたてて亥アッシュが地面に崩れ落ちる。

 あとはそう、下ごしらえするだけだ。

     * * *

「あれって何? 戌? 何か誰かに似てね? 人面犬?」
 対峙する量産型アッシュ――タイプ戌を見ながら壮太は呟いた。
「あしゅ! あしゅ! あしゅ!」
 と奇妙な吼え方をするこの戌は、身体は確かに戌なのに顔がアッシュそのもので、見ていて余り気持ちの良いものではなかった。
 アレクに30階から蹴り落とされ、リアトリスのスイトピーを模した大剣に命を狙われた(?)事で、人間に不信感を持ったのだろう。
 一定の距離を置いてこちらを伺っている。
「ふむ、ネギを持った鳥と犬と猪か。
 顔はウザいが切り落としてしまえば……食えるな。
 明日は鍋にするぞ!」
 木曽 義仲(きそ・よしなか)は意気揚々と言っているし、親友は亥と酉を料理する気らしいが、こいつを倒したあとは素直に捨てて欲しいと壮太は思う。
 陣も同じ意見らしく、
「つーか義仲もあんなウザいもん食う気になるな!
 食うならネギだけにしとけ!
 って、お前も寝ぼけてるのかーっ!!」と叫んでいる。
 成る程、あの発言は寝ぼけているからなのだ。
 義仲も身体はお子様だ、なら仕方ない。
 寝ぼけているなら何でも赦された。
「よし、陣とティエンよ! あやつらを捕まえて鍋にするぞ!」
 義仲が鞘から剣を抜いた時だった。

「わんわんおいでー」

 ふんわりした笑顔を浮かべ、ほんわりした声でティエンは悍ましい人の面をした戌を手招きしていた。
 その手にはミルクと犬用クッキーがある。
「あしゅ! あしゅ! あしゅ!」
 奇妙な鳴き声で喜ぶ戌アッシュの頭を撫でながら、ティエンは天使のように微笑んだ。
「お兄ちゃん、義仲くん、皆。
 お顔が良くないからっていじめたりしちゃダメだよ。

 アレクお兄ちゃんにも、あんまり動物さんいじめちゃダメだよって言うね。
 どんなお顔でもみんな頑張って生きてるんだもん。

 みんな仲良くしようねー……」
 眠っていた。
 成る程、彼女もまた寝ぼけているのだ。
 なら仕方ない。
 寝ぼけているなら何でも赦された。
「うむむ……しかしウザいものはウザいな」
 義仲は寝ぼけながらも逡巡している。
「マスター、皆さん。
 どう殺す……いえ、倒すべきでしょうか」
 フレンディスが珍しく戦いに関して意見を求めているのに、壮太は提案した。
「犬ってのは要するに上下関係はっきりさせときゃ勝てるはず」
 言いながら壮太は一人、集団の前に出た。
 頭を振ると短い金髪から柴犬と良く似た耳がぴょこりと顔を出す。
 すると壮太は、ティエンが眠った事で野放しになった戌アッシュに向かって、牙を剥いた。
「では私も!」
 壮太の後ろからフレンディスが同じく超感覚の耳を立てて威嚇する。こちらは犬ではなく正確には狼のものだったのだが、フレンディス自身は可愛らしい女性なので威嚇したところでそう迫力はない。
 ――筈なのだが、彼女は犬として私は上位のものだ! と威嚇しているというより、忍者の殺気を放っていた為、二匹の犬に睨まれた戌アッシュは萎縮して一瞬耳を足れ下げた。
 その気を逃さず、壮太はがら空きの首根っこに鋭く尖った犬歯で噛み付いて、地面に押し付ける。
「ぁしゅきゃいん! ぁしゅきゃいん!」
 名前を吼えるのがアイデンティティを守る方法なのか、言い難い感じの声を上げる戌アッシュに全身で伸し掛り暫くそうしていると、戌アッシュは壮太を群れの上のものと認めすっかり大人しくなった。
「うぇ。
 口んなか毛が入った、気持ちわりい」
 舌を出して銀の毛を吐き出している壮太らの元へ、アレク達がやってくる。
「こっちも終わったのか?」
 聞いてくるアレクに向かって「どうだよ」と踏ん反りかえる壮太の犬耳が生えた頭を、ライナーグローブが犬にするようにわしゃわしゃ撫でて来る。
「ぐっぼーい壮太、ぐっぼーい」
 壮太は完全に犬扱いされて抗議するが、その臀部から生えた尻尾は、お兄ちゃんに褒められて左右にぱたぱた揺れていた。