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【出会ってはいけなかったんじゃないかと思うような出会い】

 夜の空京の街を涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)日比谷 皐月(ひびや・さつき)の三名が走っていた。
「確かこっちの方でしたよね?」
 ザカコが確認するように問うと、涼介と皐月が頷く。
 この状況を何となく把握した彼らは、つい先程見かけた量産型アッシュを追っていた。貧弱なボーヤな本物アッシュとは違いやたら逞しく、更に逃げ足が速いアッシュであった。
「ああくそ! 逃げ足早いなアイツ! 面倒くせぇ!」
 中々追いつかない状況に皐月が苛立ったように呟く。
「多分あれは『午』タイプか。まあ何が来ようと所詮はアッシュだ……ん? 何だありゃ?」
 涼介が足を止めるとザカコと皐月もそれに続く。
「どうしました?」
「いや、あっちに変な生き物……なのか? 何か手抜きで描いた棒人間みたいなのが居たんだ」
「なんだそりゃ? そんなの居るわけが――ってあったよおい……」
 涼介が指さす方向で皐月が手を抜いて描いたような胴体手足が棒状の人の形をした何かがぞろぞろと動いているのを見た。
「あれもアッシュに関係してるんですかね……追いますか」
 ザカコの言葉に一同が頷き、人の形をした何かに向かって駆けだした。
 人の形をした何かは、別の何かを追う様に動いていた。
「「「……怪しい」」」
 三人が先頭を見て呟く。
 先頭を走っていたのは棒状の何かとは違い、ちゃんとした人の形をした物である。
 頭は布袋を、下半身はブリーフタイプのパンツを纏い、それ以外は露出している――何処からどう見ても怪しい格好をした者であった。
 三人はお互い顔を見合わせると一度頷き、駆け出す。狙いは先頭。
「ん?」
 気配を察したのか、先頭の布袋が振り返る。布袋の顔に当たる部分には『ザ』という文字が書かれていた。
「「「貰ったぁぁぁぁぁッ!」」」
「え? ちょ、おまぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 その文字が見えると同時に、三人が襲い掛かった。

――数分後、その場に正座させられる涼介とザカコと皐月がいた。
「何でオレら正座させられてるんだよ……」
「いや、何かアレに『全員正座!』って勢いで押し切られたからだろ……」
 皐月の呟きに答えた涼介がちらりと視線を向ける。その先には頭の布袋を血で染めた何かが腕を組んで怒った様子を見せている。
「全く……おいちゃんやからこの程度で済んだからええけど、他の人だったら大変なんやで!」
「は、はぁ……それに関しては申し訳ないと思います……」
 申し訳なさそうにザカコが言う。
「ええか? 状況が状況だから混乱するのもわかるけど、敵味方は区別せなアカン! ちゃんと見てみ! おいちゃんどこも怪しくないやろ!?」
「「「いや十分怪しい」」」
 それに関しては譲れないと三人が声を揃える。
 普通に考えてみても、布袋被ってパンイチ姿が怪しくないわけがない。敵でなかったとしても変態ではある。
「というか、おまえ一体何者なんだよ!?」
「俺か? 俺はザ=コ。通りすがりのしがない雑魚キャラよ」
 皐月にそう答えるザ=コ。布袋越しにドヤ顔が見える。
「……悪い、よく解らないんだが通りすがりの雑魚キャラってことは敵じゃないのか?」
 涼介にそう言われると、ザ=コは溜息を吐いた。
「本来ならそうなったかもしれんがな」
 そしてザ=コは自身の事を語りだした。自身が本来ならば敵雑魚の役割を負うはずだったのに、気付いたら量産型アッシュに取られてしまったという事を。
「まあここで出会ったのも何かの縁。利害は一致しそうだ。あのよく解らん奴らを倒すというなら手を貸そう。雑魚だがそれなりに使い道はあるぞ?」
 ザ=コにそう言われ、少し「どうする?」と言った具合に顔を見合わせる。が、『これ以上敵を増やしても厄介』という結論に行き着いたのか、全員で頷く。
「どうやら結論が出たようだな。よろしく頼む」
「その前に一つ言わせてくれ」
 皐月の言葉に、ザ=コが「何だ?」と答える。すると皐月は息を吸ってから言った。

「まずは服を着ろ!」

「だが断る」


 即答であった。「な゛!?」と言葉に詰まった皐月に、ザ=コは続ける。
「何故ならば既に身に纏っているのだよ……肉体と言う鎧をな! ヲォ……何か今いい事言った気がビンビンするんデスヨ!?」
 何やら自分の言葉に震えるザ=コ。いやいや言うてへん言うてへん。後ドヤ顔っぽい空気を醸し出したため、三人がちょっとイラッとした。
「あ、自分からもいいですかね?」
 ザカコの言葉に、ザ=コが「構わん」と答える。
「それじゃ……その名前自分と似すぎなんですが改名なり何とかなりませんかね!? 主にその『=』の部分とか! 伏字になったらもう自分と区別着かないんですが!?
「……ああうん、その辺りおいちゃんも申し訳ないと思う」
 流石に思う所があったのか、申し訳なさそうにザ=コが呟いた。
「けどまぁ、色々あるんでねこの名前にも。雑魚キャラである所以というか何と言うか」

「フハハハ! ならばそのポジション、頂こうではないか!」

「何奴!?」
 ザ=コと共に涼介、ザカコ、皐月が声のする方へ振り向く。そこに立っていたのは、

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスのドクター・ハデス(どくたー・はです)よ!」

と、毎度の口上と共にハデスが【戦闘員】を引き連れていた。外見はいつも通りの白衣と眼鏡であるが、こちらに向けるそれは敵意である。
「くくく……本来ならばこの場、我が悪の秘密結社オリュンポスの独壇場となるはずが、どういうわけか量産型アッシュが支配する始末! だがそんなのはどうでもいい! 我らがオリュンポスのモブっぷりを見せてくれよう!」
 いやモブっぷりっていいのかそれで。
「どうやら彼、敵のようですね」
 ザカコが苦笑を浮かべる。
「そのようだな」
 やれやれ、といったように涼介が頷く。
「ったく、アッシュでも面倒だってのに……」
 皐月は面倒臭そうに溜息を吐いた。
「さぁ行け! 我が戦闘員たちよ!」
 ハデスが指示を出すと同時に、【戦闘員】達が飛び掛かった。

――飛び掛かった結果、数秒と待たずに【戦闘員】達はやられたのであった。

「なん……だ……と……!?」
 余りの手抜kごふんげふんやられっぷりにハデスは驚愕っぷりを隠しきれない。
「いくらなんでも呆気なさすぎだ……」
 呆気なく全滅した【戦闘員】達に涼介も驚いたというか呆れた様な表情を隠しきれない。
「ま、まぁ役割的には間違ってはいないと思いますよ? モブとしてはねぇ?」
 ちょっと気まずいと思ったのか、ザカコがフォローするように言うがフォローになっていない。
「つーか、何しに出てきたんだこれ……」
 皐月が呟いた。そりゃ尺稼gごふんげふん。
「……かくなる上は……おい、そこの布袋!」
「ん? 俺か?」
「そうだ! かくなる上はこの俺が自ら出るとする! どちらが至高の雑魚モブキャラか、勝負といこうではないか!」
 ハデスがザ=コに向かってビシィッ!と効果音がつきそうな勢いで指さす。
「面白い! 返り討ちにしてくれるわ! 皆の者! この勝負手出しは無用!」
 ザ=コはザ=コでこれまた雑魚キャラっぽくドヤ顔で返す。まぁこっちは雑魚キャラだからいいんだが。
「そうこなくてはな! 時に名は何と言う!?」
「俺の名はザ=コ! しがない雑魚キャラよ! ハデスと言ったな!? いいのか? 数秒後倒れているのは俺だぜ!?」
「ククク……俺の運動不足を舐めるなよ!? その数秒も立っていられない事を想い知らしてくれるわ!」
 そう言うハデスは既にもうフラフラである。何しに来たんだ本当に。というかんな事で張り合うな。
 そう言いつつ、お互いを見据えるハデスとザ=コ。
――数秒後、立っていられるのはハデスか。それともザ=コか。

「「勝負!」」

 その言葉と同時に、両者が駆けだした。

「ぬぉぉぉぉぉぉ!」

 直後、ハデスが盛大にすっ転んだ。フラフラの足ではうまく走れず、縺れた結果がこれだ。
 顔面からスライディングするように滑り、血だまりを作りビクンビクンと痙攣している。
「「「うわ……」」」
 あまりに酷い結末に、三人がドン引きする。
「フハハハハ! 貧弱なボーヤに負ける様な俺ではないわ! だが、貴様もまた雑魚だった……」
「いや上手い事言ったつもりだろうがお前何もしてないからな?」
 ドヤ顔で雑魚っぽい台詞を決めるザ=コに皐月がツッコんだ。

「ろざりぃぬ様、ザ=コの姿を確認しました」
 シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)が装着した機械のレンズ越しにザ=コの姿を視界に捉える。
「おう、よしよし。これであのザ=コさんのデータがとれますね」
 シンの隣にいるヒラヒラのアイドル服を纏ったろざりぃぬこと九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が満足そうに頷く。
 九条はシンの他に、やる気が無さそうな斑目 カンナ(まだらめ・かんな)と【偽乳特戦隊】を引き連れていた。
「しかしろざりぃぬ様、何故あのような奴を狙うのです? 奴の戦闘力はこの機械で見た結果、たったの2ですよ?」
 シンが訝しげに問うと、九条は口の端を上げるように笑みを浮かべる。
「確かにザ=コさんは戦闘力たったの2のゴミです……しかし、そんなゴミのザ=コさんはなんと戦う度に戦闘力が上がるそうですよ?」
「な……! それはまさか……あの伝説の某戦闘民族だと!?」
「ええ……ふふふ、某戦闘民族は皆殺しです」
 九条が愉快そうに呟いた。ちなみに某戦闘民族とは某戦闘民族のことである。具体的に名前を出すと大人の事情なのであえて伏せるが。

「……あの、あなたたちはさっきから何をしてるんでしょうか?」
 ザカコが堪りかねたかのように九条達に声をかける。
 ちなみに九条達が居るのは、ザ=コが戦っているのを観戦していたザカコ達のすぐ隣である。
「ば、馬鹿な!? オレの完璧な偵察がバレただと!?」
 シンがわなわなと身体を震わせる。いやそんな近くでんな会話してたらバレるわ。
「何をしているのですシンさん! カンナさん! 偽乳特戦隊の皆さん! ヤッチマイナァーッ!」
 身バレしたからにはもう戦うしかない、と判断したのか九条が指示を出す。
「こいつらも敵か!?」
「ああもう面倒くせぇなぁ! アッシュだけじゃねぇのかよ!?」
 涼介と皐月が身構える。
「何! 挑んでくるならやればいい! 数ならこっちのが上だ!」
 ザ=コの隣にいるオプションの棒人間も、戦うつもりなのか身構える。
「その棒人間って頭数入れていいんですかね……ん?」
 ザカコの視界に、また新たな人影が入り込んだ。それは笑みを浮かべた佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)であった。
 ルーシェリアは笑みを浮かべたまま、ゆっくりと近づいてくる。そして一番近くにいた棒人間の一人を捕らえると、
「へ……はきゃああああ!」
軽々と抱え上げ、ボディスラムで叩きつける。固い地面に叩きつけられた棒人間は、元の耐久力の低さも相まってビクンビクンと痙攣している。
「こっちも敵か……って、おいおい……」
 涼介が思わず脱力しそうになる。
 そこにいたルーシェリアは一人ではなかった。他に誰かと一緒にいる、というわけではなく、ルーシェリアが何人もいるのである。
 一人二人――否、二桁三桁というレベルではない。
 その数はおよそ二万人。二万人のルーシェリアが、ただ笑みを浮かべてそこに居たのである。
「おい待てよ……この数はいくらなんでも出鱈目すぎる……ってまた何か来たぞ!?」
 皐月がそう言って目を向けた先には、騒ぎを聞きつけたのか量産型アッシュの【午】【申】【未】が集まってくる。
「こんな時にアッシュかよ……」
「嘆いても仕方ない、奴らを叩きのめすぞ! さあ来るがいい街の平和を乱す怪異よ! 我は黒衣の処刑人(ブラック・エクセキューショナー)……我らが正義の裁きを受けよ!」
 涼介が叫び、目の前の敵たちを指さす。
「ふ……や、役者は揃ったようだな……」
 その時、顔面を削って意識を失っていたハデスが、弱々しく体を動かす。
「……後々使うつもりだったが仕方がない……行け! 我が発明し秘密道具よ!」
 ハデスがそう叫ぶと、空中が揺らぐ。そこにはナノマシンが拡散されていた。
 ナノマシンが集合し、やがて実体を作る。何もなかった空中に現れたのは、ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)であった。
 発明品は量産型アッシュの下へ着いた。どうやらアッシュのサポートをするらしい。

 敵味方が一堂に会した。
 この瞬間、空京で戦いの幕は切って落とされた。