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【Q.これでよかったのかなぁ A.よくねぇ】

「……随分と呆気なかったですねぇ」
 得物を下ろしザカコが呟く。
 今目前に居るのは量産型アッシュの一つ、【未】……だった物である。
 ザカコは【未】の対処を決めた。【未】は――単にウザいだけで別に強敵でもなんでもなかった。
「確かにこの毛は便利なんでしょうがね……一応刈っておきますか。何かに使えるでしょうし」
 そう言ってザカコはカタールを構えた。

 空京の一角で突如起きた戦いは、一言で例えるとカオスであった。

 まず量産型アッシュ【申】だ。これは群れて行動するウザい存在である――が、それだけであった。
「一気に殲滅するぞ!」と涼介が【トリニティ・ブラスト】や【ホワイトアウト】といった広範囲攻撃であっという間に大半が散った。
「こ、このオレが負けるだとぉーッ!?」
 ついでに範囲攻撃に巻き込まれ、シンも散った。
「あの程度でやられる雑魚は放っておきましょう」と九条もあっさりと見捨てていたのである。ちなみに九条は散った【申】を平然と踏みつけていたりと、アイドル服とは裏腹な所々外道が目立っていた。
 残りの【申】は九条に踏みつけられたり、ルーシェリアのスープレックスの餌食になったりと何故か味方からの攻撃でトドメを刺されていた。多分味方と見られていないのだろう。

 そして量産型アッシュ【午】である。
「ああ面倒くせぇー!」
 走り回る逞しい【午】に、皐月は苛立っていた。
 足が速い、逞しい、という見た目でウザいその存在に加え、別に走るだけで何もしないという無意味な行動。それに加えて、
「排除シマス。全テ排除シマス」
サポートする役割の発明品である。『鉄コプター』という名の【血煙爪鴉蛙矛】を振り回したり、豆電球レベルの光しか放たないライトやらで地味に危険な上、ウザったいのである。
 排除しようにも【牛】は捕まえられない。発明品は地味に危険。
 徐々に苛立ちを募らせ、遂に皐月は、
「邪魔だぁーッ!」
発明品に槍を突き立てた。
「排除シガゴッ!」
 槍を突き立てられた発明品は動きを止める。そして皐月は発明品が刺さったまま槍を振り回し、
「とぉーんでけぇーッ!」
【午】に向かって放り投げた。
「んごぉッ!?」
 放り投げられた槍付き発明品は、走り回る【午】に見事ジャストミート。勢いを止められず、そのまま転倒する。
「手間かけさせやがって……」
 転倒した【午】を捕まえると、皐月はそのまま、
「おらぁッ!」
顔面にグーパンチ。一度、二度ならず何度も拳を叩きつける。
「散々走り回るだけ走り回りやがって! どんだけこっちが苦労したと思ってんだよ! おまえが無くまで! オレは! 殴るのを! やめないッ!」
 そう言いながら殴り続ける皐月。ちなみに【午】は転倒した際に既に意識を失っており、泣く前に亡くなる可能性が高そうであった。
 ちなみに発明品は放り投げられた際に機能停止状態に陥っていた。その内誰か回収してくれるに違いない。

――とまぁ、本来の敵であるはずの量産型アッシュがなんともあっけなく退場してしまったのである。
 量産型な上別に特殊な能力があるわけでもなく、ただウザいだけなのだから簡単にやられるのは仕方ないのだが。

――で、残りの敵はと言うと、こちらの方が厄介であった。

 まずルーシェリア。こちらの相手は【申】に引き続き、涼介とザ=コのオプションが相手をしていた。
「コイツは中々厄介だな……っと!?」
 伸びたルーシェリアの手を涼介は避け、広範囲攻撃で数体のルーシェリアを纏めて撃破する。
 だが直後には、
「えいっ」
と別のルーシェリアの手が伸びてくる。
 ルーシェリアは何を考えているのかわからない笑みを浮かべつつ、ただ近づいて組み付こうとしてくる。捕まるとそのままスープレックスやサブミッション、打撃といったプロレス技を繰り出してくるのである。
(動き自体は単純で避けやすいが……数が問題だ)
 涼介が頬に冷たい物を伝わせる。それ程、ルーシェリアの数は脅威であった。
 いくら広範囲で複数体撃破したとしても、焼け石に水。時間が長引くほど涼介の方が消耗していく状態である。
 余り広範囲攻撃も連発できない。これで放てなくなった場合、ほぼ負けは確定だろう。
 そしてオプションはというと、
「そーれぇ♪」
「ひきゃあああああ!」
「あひぇえええええ!」
次々にルーシェリアに捕まり、技の餌食になっていった。
 棒人間であるが故体重が軽いのか、あっさりとルーシェリアの技に掛かりやすくなっている。脳天から落とすブレーンバスターやパワーボムなんていう持ち上げる力が必要な技もバンバンかけられ、果ては二人組のダブルインパクトなんていうツープラトン攻撃の餌食になっている。数こそ拮抗している物の、実力があまりに違いすぎる。
「ありゃ当てにならないか……っと!?」
「捕まえたですぅ♪」
 涼介がオプションが散る様に呆れて溜息をついていた所、背後からルーシェリアがクラッチ。そのままバックドロップへと持ち上げる。
「っとぉ!?」
が、持ち上げられる直前で涼介は地面を蹴って更に勢いをつけ、自ら回転し着地する。
「ふぅ……動き自体は単純なのが救いだな」
 そう呟く涼介であるが、不利な状況なのは違いない。
「おい無事か!?」
 そこで、皐月とザカコが駆け寄ってくる。皐月は夥しい返り血を浴びていたが、今は関係ないので誰もツッコむことは無かった。
「しかし凄い数ですね……これ全員やらなきゃならないんですか?」
 ザカコがルーシェリアの大群を見る。数は少しは減っている。ザ=コとは違い増えるわけではないようだが、それでもまだ数は四桁を切っていない。
「けどやらなきゃならないんだよな……よし、行くぞ!」
 涼介の掛け声と共に、ザカコ、皐月がルーシェリアの大群に突入していった。

 一方、ザ=コは九条とカンナと戦っていた。どこぞの戦闘民族と勘違いし、挑んできたのである。
「シュッ!」
「ほぐぉッ!?」
 カンナの鋭い蹴りがザ=コの鳩尾を抉る。
「どうした、その程度か?」
 カンナがザ=コをゴミを見る様な冷たい目で見据える。その眼には怒りが宿っている。
「ふふふ、どうしたんですかザ=コさん? その程度で戦闘力が上がったと? カンナさんの方が上がっているじゃないですか」
 九条が小馬鹿にするようにザ=コに言う。
「いや……それあんたのせいやんけ……」
 ちなみにカンナの戦闘力が上がったのは九条の仕業である。
『この蹴りは強者と戦うため。雑魚になど』とやる気のなかったカンナに、九条はこう言ったのであった。

「あのさカンナ、ザ=コさんがカンナの胸見て『戦闘力(バストサイズ)たったの72か……ゴミめ』って言ってた」
「やぁろぉぉぉぉぶっ殺してやぁぁぁぁらぁぁぁぁ!」

「誰が戦闘力72センチだ! どう見ても80センチだろ!」
 カンナが叫ぶ。
「「いや贔屓目に見ても盛り過ぎだろ常識的に見て」」
 これには流石の九条もザ=コとハモった。
「ぶっ殺してやらぁ!」
「はふぉん!?」
 再度、カンナの蹴りがザ=コの胴にめり込む。
「全く、それでも戦闘民族なんですか?」
 蹲るザ=コを見て九条が呆れた様に呟く。
「……こんなのに【偽乳特戦隊】はやられたというのか!」
 九条の目に怒りの炎が灯る。
「いや……だから俺関係ないやん……」
 腹を押さえつつザ=コが呻く様に言った。
 ちなみに【偽乳特戦隊】の5人組、ミルク、ヴァニラ、クリム、ヨーグル、ギィスは戦闘開始時、円陣を組んで『偽乳ー! ファイトー!』と気合を入れている最中に他の攻撃に巻き込まれて散った。その際にシンも散ったはずなのだが、今その体はアッシュと共に九条に兵器で踏みつけられている。正に外道。やめたげてよぉ。
「お黙りなさい! 彼女達はこの後『可愛がると言っても、頭を撫でたり高い高いをするんじゃねぇぞ? 痛め付けるということだ』というキメ台詞や『お命頂戴! ほぁたー!』とキメポーズまであったというのに! 許さん……絶対に許さんぞゴミムシめ! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
 九条はそう叫ぶと、着ていたヒラヒラのアイドル衣装を引きちぎる様に裂く。その下から現れたのは、
「キラっ☆ろざりぃぬだよ! こうなったからには前のように優しくはできんぞ!」
普段の魔法少女衣装を纏った九条であった。
「……いいだろう! ならばこちらも!」
 ザ=コが叫ぶ。するとザ=コの全身に異変が見えだす。
 全身がバンプアップし、その肉体はガチムチへと変わる。そして布袋の文字『ザ』が『THE』へと変わった。
 最早彼はただの『ザ=コ』ではない。『THE=KO』である。だが以降も面倒なので表記は『ザ=コ』でいかせてもらう。仕方ないね。
「さあどうするかねチミィ? この俺と戦おうというのかね?」
 ガチムチの肉体を誇示しつつ九条とカンナを指さすザ=コ。改めて構え直す九条とカンナ。
 二人を見て、ザ=コは言った。
「いいのかい? 数秒後倒れているのは俺だぜ?」

 そして、その言葉通りの光景が数秒後繰り広げられていた。

「……まるで成長していない」
 カンナが蹴りで蹲るザ=コを見て呟いた。ガチムチになったといっても所詮ザ=コ。勝てるわけがないのである。
 それでも九条のスリーアミーゴス(連続高速ブレーンバスター)やフロッグスプラッシュを食らって生きているのだから、耐久力はあるようである。
「……これで戦闘力が上がったと? よくそんな大ボラを吹けたもんだ……いいだろう! 最後の変身で貴様に絶望を見せてやろう!」
 九条が叫ぶと魔法少女の格好から、黒い虎を模したリングコスチュームへと瞬く間に変わる。
 このコスチュームをオーダーメイド発注から蒸着までわずか0.05秒。業者すげぇ。
「貴様も踏みつけてやる! あのアッなんとかのように!」
「アッなんとかって誰だよ……」
 アッなんとかってアレだよ。ほら、えーと……ああうん、ンな奴いねぇってことでいいや。
「……ふっふっふ」
「……何がおかしいというのだ! イチイチ癇に障るヤローだ!」
 笑みを浮かべるザ=コに、九条が怒ったように叫ぶ。
「いやいや、俺の役割はもう終わったからな。あー疲れた」
「貴様の役割? まだ終わってないぞ! これからじわじわとなぶり殺しに――」
「――! 待て、ろざりぃぬ!」
 カンナが九条を制止する。

「やれやれ、やっと終わったか」
「流石に五桁相手は疲れますねぇ」
「まぁ慣れちまえば後は作業だったけどな」

 視線の先に、ルーシェリアと戦っていた涼介、ザカコ、皐月の三人が立っていた。
「あの人数を倒したというのか……!?」
 驚愕の表情を浮かべる九条に「まぁな」と皐月が答える。そしてその言葉通り、
「きゅぅ〜」
と目を回すルーシェリアの山が高々と積まれていた。その頂上にある一体には『打ち止め』という文字が顔に書いてあった。

――確かに、ルーシェリアの数の多さは脅威であった。扱う技も多彩である。
 しかし、分裂した分能力や技の精度などその他諸々は全て現実のルーシェリアの劣化版としか言いようがないレベルであった。
 その事に気付いてからは簡単であった。オプション棒人間を囮に使い、着実に数を減らしたのである。

「確かに俺は雑魚キャラだ」
 ザ=コが立ち上がり、言った。
「雑魚キャラだからお前らには勝てない。だが雑魚キャラっていってもただ負けるだけじゃない。それなりに役割を果たせるんだなこれが。例えば――今回みたいな時間稼ぎや消耗させることとかな」
 それだけ言うと、ザ=コは「後は任せた」と三人に告げる。
「さて、It’s clobberin’time(お仕置きの時間だ)」
 涼介が九条達にそう告げた。


     * * *



「ああ、それ焼けてますよ」
 戦闘を終え、涼介、皐月、ザ=コはザカコが作った料理を囲っていた。
 中央が山のように盛り上がっている独特な形をした鉄板に肉や野菜を乗せて焼くジンギスカンである。
「ふむ……これ美味いな」
「おおマジだ。うまいうまい」
 涼介と皐月が肉を口に運び、舌包みを打つ。
「しかし、アイツら起きてきたりしないよな?」
 布袋を被りながら肉を食うという器用な真似をしつつ、ザ=コが見たのは気を失った九条とカンナ。
「大丈夫だと思うぞ。手ごたえは抜群だったからな」
 トドメを刺した涼介がちらりと見ていった。

 最後、尚も抵抗する九条に涼介はナックルパートからのスパインバスター、追撃として背中にパイプ椅子を叩きつけると座椅子部分を狙ってのDDT、そしてトドメに【バーストダッシュ】を併用したスピアータックルをかましたのであった。
 流石にこれだけの大技を食らっては九条も立ち上がれず、意識を手放したのである。

「まあまあ、とりあえずひと段落したんだから休憩しましょう……っとそうだ。さっき【未】から毛を刈り取ったんですけど、使います?」
 ザカコが毛玉を取り出す。ふわふわとした羊毛である。
「ああそうだ、それ使って服作れよ。んで服着ろおまえ。見苦しい」
 そう言って皐月がザ=コを指さす。
「まだ言うか。俺はこの肉体という鎧を纏っているのだよチミィ……ヲォ……いい事言った気がビンビンデスヨ?」
「アッシュもうぜぇけどこいつもうぜぇな……」
「まあまあ、ウザいのは同感ですけど」
 イラッとした様子を見せる皐月を、ザカコが制止する。
 ふと、涼介が箸を止めた。
「ところで、これどこから手に入れた肉なんだ? ジンギスカンだから羊なんだろう……け……ど……」
 そして、何かに気付いたように涼介が表情を強張らせる。
「え? あの量産型の【未】ですよ? 毛をむしった後見た目が果てしなくウザかったので」
 平然とザカコが答え、皐月とザ=コも箸を止める。
「……これ……アッシュかよ」
「大丈夫なのかそれ……」
 そう言って鉄板をまじまじと見る三人。カンカンに焼けた鉄板の上で、肉の脂が焼ける音が響く。
 それを暫く三人は見ていたが、やがてまた箸を伸ばす。
「「「美味いからいいか」」」と。
「そうそう。深く気にしたら負けですよ負け」
 そう言ってザカコが追加の肉を鉄板に投入する。この分だと肉が空になるのは時間の問題であった。