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争乱の葦原島(前編)

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争乱の葦原島(前編)

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   序章

 地響きのような足音が、葦原明倫館へと向かっていた。
 その数、百や二百ではすまないだろう。町中の人々が手に手に武器を取り、目をぎらつかせているようだった。
「我々は、革命的人民解放戦線である! 葦原人民による勇気ある革命的武力闘争に敬意と連帯の意を表するわ! 傲慢なる独裁政治で民衆を散々苦しめておきながら、反政府運動を暴力的に弾圧する葦原幕府は人民の敵よ! 葦原藩は直ちに降伏し、人民に謝罪して大政奉還なさい! 葦原人民に民主主義を!」
 先頭に立ち声を張り上げているのは、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)だ。彼女の言葉に、人々は「応!」と腕を突き上げる。
「同志よ」
 一歩下がってエリスを見守っていたマルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)は、九十九 雷火(つくも・らいか)に呼びかけた。
「私たち共産主義者は、現存の社会的・政治的状態に反対するあらゆる革命運動を支持する、と私の中には書かれています。ここまでするからには、あなたにも何か思うところがあるのでしょう。あなたが正しいかどうかの判断は、しばらく観察してから見極めさせてもらいますよ」
 雷火はにやりと笑った。
「好きにしろ。俺は、ハイナたちに恨みがある。それだけだ」
「問題は敵がどう出るか、ですね」
「ある程度は心配ないと思うけどね」
と口を挟んだのは、グレゴリーと名乗る若者だ。「民衆に怪我をさせるほど、ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)は馬鹿じゃないはずだから」
「そうでしょうか。権力者とは常に……」
「もちろん、例外もあるけど。それならそれで、こっちにとっては有利になる。ハイナの横暴ぶりを外に宣伝できるからね」
『共産党宣言』は黙り込んだ。民衆を傷つけることは、本意ではない。だが、傷つくこと、失うことを恐れて真の勝利はありえないのだ。
「どちらでもいいさ」
 雷火は笑みを浮かべたままだ。「俺は、ハイナを痛い目に遭わせたいだけだからな」
「目指すは明倫館!!」
 エリスの言葉に、人々は大きく応えた。
 拳を振り上げ、明倫館へ向かうことによって。