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リアクション
9.閑話休題:増築とか改築とか
ところで、夜露死苦荘――といえば、「増改築」。
今期も増改築総監督たるラピス・ラズリの指示の下、よりパワーアップした夜露死苦荘の建設が進んでいた。
■
ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)は姫宮和希に屋根の修理を任せ、自分は用務員として、主に建物や庭のメンテナンスを行っていた。
終わったら、風呂の方にも参加するつもりだ。
信長やラピスの意向を踏まえ、マレーナに管理人としての要望も尋ねた後、下宿中をくまなく見て回る。
「6階だ! 天守閣を6階にするのだ!」
「ははー、オーナー・信長様。
ガイウスさん、一緒にお願いできますか?」
「では、俺は傷みの激しい部分の補修に当たることにしよう。
天守閣の土台部分も大分ガタがきていることだろうしな」
技術官僚としての知識を駆使し、パラ実式工法、地質学、土木建築特技を使って先ず天守閣の増改築に当たった。
ついでに、1年間砂塵に耐えた下宿の外壁等の修理に当たる。
「おい、用務員さん! ついでに俺の部屋の増設にも付き合ってよ!」
自室改築中の下宿生達から稀に声をかけられることもある。
彼は手を貸しつつも、経験から、住み心地や使い勝手がよくなるようさり気なく配慮した。
そして最後に、花壇を作った。
芸術知識を持つ彼の手がけた庭は、相変わらず見事だ。
その大輪の1つを手折った。
(マレーナ……)
愛らしい花に、マレーナの姿が重なる。
彼女こそは、この花の如く荒野の民の心を癒す荒野の「女神」。
彼女のお陰で荒野の民の心も慰められ、復興への希望を見出す事ができるのだ、とガイウスは考える。
(この花は、マレーナにこそ、似合う)
様子を見た彼女の前にすっと差し出す。
「まぁ、これを私に?
……とても嬉しいですわ、ガイウスさん」
マレーナはそっと両手で包むように受け取ると、それは幸せそうに花の美しさを愛でるのであった。
■
閃崎 静麻(せんざき・しずま)は今回は……というか今回も懲りずに、風呂の増改築を決行した。
そんな彼の腕前は、ハッキリ言って下宿専属の「露天風呂マイスター」と言っても過言ではない(3回もやっていることだし)。
獅子神 刹那(ししがみ・せつな)が興味津々に尋ねてくる。
「それで、静麻どうやって改築するのさ?」
「あぁ、この紙を見てくれ」
静麻は床に紙を広げた。
そこには夜露死苦荘と露天風呂の見取り図が描かれてある。
土木建築の知識をフル活用して引いた、完璧な図面だ。
彼は建築のポイントを指でさして。
「まずはボイラーだな。設置して常に温水を作れるようにする
大型だと管理とかが大変になるし……井戸から露天風呂に繋がる水路の傍に大き目のボイラー小屋を建てて、小型ボイラーを二基設置しよう」
丸を二つ書く。
「これなら片方が故障してもすぐ困る事にはならないだろ」
「浴場関連以外でも温水を気軽に使えれば、便利だぜ?」
「それもそうだな……じゃあ、生活用水にも使えるように工夫する」
生活用水使用――と備考を書いて。
「次にシャワーの設置だ」
設置ポイントを指さした。
「この段階で日本庭園は構成物を一時別所に移す。
シャワーはドラゴン種専用のも含め、男女共用で個室式を十数個並べて作ろう」
「えぇ! ドラゴン!? って、用意できるのか???」
「……何のための根回しだ。
俺、オーナーにきちんと申請しただろう?」
だから静麻の場合、ある程度の資材の融通が可能であった。
まして、大事な受験生達の為ともなれば、当然だ。
静麻の説明は続く。
「流す水はポンプを使おう。
井戸水をボイラーで加熱したり、場合によってはそのままの方式で行く……」
「なぁ、静麻ぁ〜」
刹那は眉をひそめた。
脱衣所とシャワー室を交互に指さして。
「これ、男女別になってねーよな。あぶねーぜっ!」
「あぁ……脱衣所からはタオルとかで体を隠して行くようだろうな。
ま、そこは割り切る」
「えー、なんで? やだよ、あたい!」
「我儘言うんじゃない、ここは下宿だぞ!
しかもこんなに大勢いるんだ。
こんなことでもしなくちゃ、下宿者同士の交友も難しいだろうが!」
「え、あ、そっか……なるほどな!
さすがは、静麻! 考えることは考えているんだねぇ」
刹那はすっかり感心して、尊敬の目を向ける。
だが、静麻は内心舌を出して別の事を考えていた。
(表向きはそうだが、裏の理由はのぞき学を学ぶ猛者の為にだ!
騙してごめんな、刹那)
静麻の説明は続く。
「シャワー設置が完了したら露天風呂の拡張に入る。
この段階で既にある衝立は撤去、露天風呂は一時閉鎖だ。
露天風呂は大々的に拡張、仕切りを作って男女別々にし、100人入っても大丈夫を実現する。
拡張後、別所に移した日本庭園を一部構成を変えて再設置。
最後に余禄でサウナ小屋も建てる。
サウナ様式は乾式、ボイラーの熱を流用すれば比較的容易だろう」
「あぁ、だからボイラーがサウナの近くにあるんだな?」
「そうだ。
……ここは流石に男女別だな」
混浴で面白事態を期待するのも良いが……ごにょごにょと呟いて、刹那に気づかれそうになり咳払いをする。
「そうそう、共用浴場全般に言えるが、これは下宿者が使わない時間帯に一般開放して使用料取れば金になるかもな」
「いい案だな! レッサードラゴンやら何やらで、下宿の費用も切迫気味らしいし。
オーナーもマレーナも喜ぶと思うぜ!」
「あぁ、それもそうかな? 今回は打診だけでもしてみるか」
静麻は信長に打診してみる。
どうするか、以後の裁量は信長の判断に任せることとなった。
実現すれば、下宿の経費面で大いに貢献できることだろう。
「さー、図面も出来たことだし。
張り切って、今回もしっかり建てていくぞー!」
おー! と拳を突きあげて、露天風呂に向かった。
増改築作業は朝風呂が終わって、水抜きと清掃が終わった昼前から行われた。
静麻は、それは必死で作業した。
もちろん1人ではない。
ラピス、ガイウス、和希達建築組の従業員達も彼を応援して手伝う。
刹那、そして管理人補佐たる邦彦も主に肉体労働を受け持つ。
「うちの組も土建には手ぇつけてるし、見様見真似程度ならあたいにだってできらー。
さっさと済ませて一っ、風呂浴びたいぜ」
そうして何とか完成までこぎつけた頃には、日は傾きかけていた。
斜陽が浴場全体を朱に染めあげている。
「あーあ、疲れちゃった。
折角完成したことだし、シャワー使わせてもらうね? みんな」
「いいぜ、刹那」
和希が言った。他の仲間達も全員頷く。
「お疲れ様!
あとで感想を教えてね♪」
とラピス。
静麻は片手をあげて、下宿へと向かう。
「俺は疲れたから、もう部屋にあがる」
「あとから行くなー♪」
全員を見送って、刹那は汗と泥を落としにシャワー室へと向かった。
「まっ、見られて減るもんじゃねーし。
そのままマッパでシャワー浴びに行くか!」
――知ってるか? 今度の共同浴場。
――露天風呂が男女別になっちまったんだろう!
――……男女共用のシャワー室だってさ♪
――しっ、誰か入ってくる!
噂は既に下宿中を駆け巡っていたようだ。
刹那がシャワー室に入るのを、物陰から野郎の影達が眺めていた。
ジャー、という水の音。
あー、働いた後のシャワーは気持ち良いねぇ……吐息。
――女だ!
――女がシャワーを浴びてるぞ!!!
影達はウッシッシッシー♪ と忍び足で刹那の個室へ向かっていく。
が――。
「甘いぞ!」
「成敗!」
どぉ、と、その場に倒れる。
「監視カメラの性能を、甘く見ましたね?」
スッと降り立った。
分身用務員・唯斗と、【出張冥土】の雨宮 七日(あめみや・なのか)である……。
「『冥土』等と! 私そのような表記をされるものでは有りません!」
七日は顔を真っ赤にして、リアクションの文字を【出張メイド】と律儀に書きなおす。
「私、【出張メイド】なんです!
その証拠として! 下宿生の方々には、完璧な奉仕を!」
「いいです、この際どっらでも!」
懲りずに立ちあがって、抱きつこうとした影どもに対しては。
「きゃっ、いやっ!
のぞき、ダメ!
セクハラも、絶対禁止!
ルール違反です、鉄拳制裁!!」
大魔弾『カムイカヅチ』により、暗雲を纏った拳が影達に叩きつけられる。
ぢゅどおおおおーん。
雷電属性と闇黒属性のダメージをおった影達は、今回ものぞきの野望を果たせぬまま、夜空の星となったのであった……合掌。
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