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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
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リアクション

「SAR(Search&Restoration)完了。まったく、とんだことをしてくれたものだ。これはドルグワントとは違う。あまり無茶をさせられるのは困る。バッククラッシュがきて、もう少しでここのバックアップまで飛ぶところだった」
 と、ヘッドセットを指す。
「同じ真似をされては困るので教えておこう。こんなことをしても無駄だ。おまえたちの狙いはドルグワントの停止だろうが、あれは独自のシステムで動いている。この体を破壊してもドルグワントは止まらないし、もちろんわたしにもなんら影響は出ない。ただおまえたちのいう「タケシ」という人間が活動を停止するだけだ」
 言葉が正しく伝わったか、測るように真司たちを見たあと、タケシの赤い光を放つグレイの目は六黒の方を向いた。
 修復を完了したと言ったが、まだ一部不安定なのかそれとも破損したのか、光は微妙に波打っている。
(ドルグワント。それがあやつらの名か)
 パスファインダーを用い、ここに到達するまでの間に、彼は幾人かのドゥルジそっくりな者たちを目撃していた。エネルギー弾を用い、バリアを張ってコントラクターと対等に渡り合う。そして砕かれて転がる石像のような手足は、彼の記憶を刺激した。
 それはぼんやりとした、水のなかから見る景色のようなものだった。何もかもが判然とせず、注視すればするほどそこから糸塊のようにほどけていく。中心に核たるものはなく、すべてが夢の出来事のように掴みどころがない。
 六黒にとり、それはあまり愉快なものではなかった。己を見失っていたことの証であるのだから。
 二度とそのような醜態をさらすわけにはいかない。
 タケシを見返す彼の目にも表情にもその決意の発露はなかったが、梟雄剣ヴァルザドーンを握る手の力がわずかに強まったことからかたわらにひっそりと立つ九段 沙酉(くだん・さとり)のみがその胸中を測ることができた。
「タケシよ。ここはわしが受け持とう。おぬしはおぬしの為すべきことを果たすがよい」
 突然現れ、いきなり何を言い出すのか。タケシは意図を探ろうとするかのような視線を向ける。
「わしの真意が読めぬか。しかし、今はわしの真意などどうでもよいのではないか?」
 タケシは一度目を伏せてほんの数瞬思考する素振りを見せた。ヘッドセットが明滅し、何かと交信している。
 そして再び視線を上げたとき、彼は決めていた。瞳の赤い光が強まって、それに呼応するようにあちこちからドルグワントが集結してきた。続々と姿を現した彼らは全部で9体。そのうち体の一部を欠損していない5体がタケシの周囲を固める。
「口ばかりの役立たずは不要だ。わたしに認めてほしかったら、ここをおまえたちで制圧してみせろ。わたしが戻ってくるまでにそれができていたら、おまえたちをプロジェクトに組み込んでやってもいい」
 ふっと六黒の口元がゆるむ。
 当然だ。自分とて、突然現れて味方を名乗ろうとする者には力試しをさせるだろう。どれほどの器であるか、見定めもなしにそばに置いたりはしない。
「承知した」
「破損した4体は置いていく。
 行くぞ。かなり時間を無駄にした」
 5体のドルグワントを引きつれ、タケシは去った。追おうにも4体のドルグワントが立ちふさがっている。
 三道六黒と4体のドルグワント。
 突然戦闘を放棄したドルグワントを追ってやってきたコントラクターたちと彼らの間で、緊迫したにらみ合いが起きている。そんななか。
「行かせない!」
 果敢にも佑一が動いた。オイルヴォミッターを構えるやいなやドルグワントの肩口から覗くタケシの後ろ姿に向け、トリガーを引こうとする。しかしそれは六黒の高速攻撃によって阻まれた。
 真っ二つに切られたオイルヴォミッターの銃身が転がる。それが戦闘開始の合図。
 彼らはどちらともなくぶつかった。飛来する無数のエネルギー弾と真空波を相殺すべく、炎と雷、力の風が乱れ飛ぶ。高速攻撃が可能な者は、あえて積極的に前衛に出てドルグワントに真っ向勝負を挑む。
 その様子を音無 終(おとなし・しゅう)は木の上から見下ろしていた。
(面白いことを聞いた)
 はずしたメガネのモダン部をくわえてぷらぷらさせながら、茶色に染めた髪を指で梳いて風に吹き流す。
 道中、救出隊にまぎれ込むためにとした変装は成功だった。まさかいつものように超霊の面をつけるわけにはいかない。それで地味な、どこにでもいそうな内気な少年を装って銀 静(しろがね・しずか)の影に逃げ込んでいるフリをした。
 思ったとおり、これから戦いに赴くという軽い興奮状態にある彼らは作戦の打ち合わせに忙しく、終の存在に何の注意も払わなかった。
 もちろんそのなかにはパートナーの不調への心配もあっただろう。あれには終も少しばかり驚いた。静は何の変調も見せなかったから、ここに来るまでほかの種族パートナーが一斉にそんな状態に陥っているとは知らなかったのだ。精神感応で確認をとったが、彼女は何の負荷も感じていないということだった。
 ある特定の種族にだけ、影響の出る何か。
 それが今回の事件に関係しているということはほぼ間違いないように思えて、ますます終の興味は掻き立てられた。ここから眺めたドルグワントの戦闘能力も興味深い。まずは個で対するが、それが長引けば別の個体が補助に入る。その際、彼らは何の言葉も発しなかった。アイコンタクトすらせず、即座に息の合った連携攻撃を繰り出す。テレパシーや精神感応で話している様子もない。あれはどういったシステムになっているのだろう?
 だが一番終の気をひいたのはタケシだ。正確に言えば、タケシの両目にはまっているあの義眼。
 彼に近付くにはどうすればいいか考えていたのだが、これは意外とすんなりいけそうだ。
(あいにく、あの話ぶりでは予備の義眼は手に入りそうにないが…)
 その点はちょっと残念ではあった。だが、まぁ、そばにいれば隙をみてえぐり出すという方法もあるだろう。
 そのためにもやはりここは三道・ドルグワント組に加勢すべきか。
「行くぞ、静」
 メガネを放り捨て、超霊の面を手に終は木から飛び下りた。
「……はあっ!!」
 混戦となった戦場で、真司は六黒と真っ向から斬り合っていた。六黒が得意とするは数々のスキルやアイテムの相乗効果による高速攻撃。しかしそれは今回、木々の密集地ということでかなり相殺されていた。
 ヴァルザドーンは巨大な鉄剣。それを自在に用いるため、彼は鬼神力を発動させている。増加した膂力は周囲の木々などものともせず、触れる物はすべてへし折り、一刀両断する。しかしその分、力は削られ、動きは阻害されていた。
 たしかに相当速いが、真司にもゴッドスピードがある。ついて行けない速さでも防げない力でもない。
 彼らの周辺ではコントラクター対ドルグワントの戦いが繰り広げられていた。人数的には圧倒的にコントラクター側が多い。だがそれで彼らの側が有利かといえば、一概にそうとは言えなかった。
 彼らのパートナーはもともと体調がおかしいのを無理して戦っていたのがほとんどだ。長引く戦いで戦闘不能になりヴァイスたちに連れ出され、保護されているか、この場に残っていても立っているのがやっとというありさまで、とてもコントラクターの補助に入れる状態ではない。
 その上、終の暗躍もあった。
 彼は改造した機晶爆弾とインフィニティ印の信号弾を用いていた。要所要所でこれを爆発させることで、効果的にドルグワントの戦闘を補助する。突然間近で爆発する音や光で目と耳をやられた者は戦闘への集中力を途切れさせ、その隙をつかれて倒された。
 当然、終の存在に気付いた者も出始める。
「裏切り者め! 姿を現せ!!」
 激怒し、終を捜す者。そういった者にはすべて静が対処した。
 サバイバルナイフを手に無言で忍び寄り、ブラインドナイブスによる一撃。気付かれればミラージュやフォースフィールドで身を護る。そしてフラワシによる攻撃で戦闘不能へ追い込んだ。
 怒声と悲鳴に満ちた戦場を、沙酉は歩いた。
 戦場には慣れている。今さら動じるものはない。それが何に起因しているのかも、究極どちらに非があるかなども沙酉には意味がない。彼女はただ、六黒のいる所にいる、それだけだ。――いや、それだけだった。今までは。
 だが今回ばかりは…………何も感じずにいるのは難しい。
(むくろ…)
 ずっと、どんなときも、六黒のそばにいた。これまでたくさんの、いろんな六黒を見てきた。それでもあんな六黒を見たのは初めてだった。
 六黒はあの海岸でのことはほとんど記憶にないようだが、沙酉は覚えていた。まるで鋼鉄の壁に囲まれてしまったかのように、いくら精神感応で呼びかけても彼女の声は跳ね返されてしまった。
 完全に六黒に拒絶された――不要とされた、あの恐怖。狂ってしまうかと思った。
 またあんな六黒になってしまったらどうしよう? 心の底から闘うためにだけ闘いを求めるような六黒になって、そして今度こそ、返ってこなくなってしまったら…。
 おそろしさに胸が震える。そこにはついて行けない。そこはだれ1人必要としない――沙酉を必要としない世界だから。
 けれど同時に、沙酉には分かっていた。それでもそうなることを六黒が望むのであれば、全力でその手助けをするだろうと。
 なぜならそれが、沙酉の存在意義そのものだから―――。
 今もまた、六黒のために、破壊されて動かなくなったドルグワントにサイコメトリをかける。しかしどれも見えるのは、彼らが起動した瞬間だった。カプセルベッドのような所で目覚め、命じられるままに戦う。
 ただ、1体だけ、違った。
 木々に囲まれたタケシの姿が見える。先ほど六黒とやりあった佑一の姿も。同じ服装。つい先ほどのことだ。
 そこでタケシは言っていた。
『――ドルグワントは本来そういうものだ――』
『――その者が「そうある」ことを否定することはだれにもできない――』
 自分は六黒のために存在する。そのことを否定はしない。六黒のためなら命も捨てるだろう。けれど、この者たちと自分は違う。絶対に。

 沙酉の焔のフラワシが、ドルグワントを跡形もなく燃やし尽くしていった。