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リアクション
第2章 森の中の会議
ティセラがエリュシオンの使者としてヴァイシャリー家に現れたという情報は、舞踏会に参加していた者達により各学園に携帯電話で報告がいっていた。
ここ、イルミンスール魔法学校では、急遽生徒や冒険者を集めた会議が開かれることになった。
主な目的は十二星華の情報収集。
そして、イルミンスールでも女王候補として推せる人物が彼女達の中にいるかどうか、見極めること。
「おおっとごめん。誰でも入れるわけじゃないんだ」
イルミンスールの和原 樹(なぎはら・いつき)は、武器を携えた柄の悪い男を引き止める。
「情報は必要だが、全ての話を聞いていては日が暮れる。まずはアンケートへの記入を頼む」
パートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が、男にアンケート用紙を差し出す。
男はちっと舌打ちして、用紙を受け取らず去っていった。
冷やかし目的な者や、明らかに悪意のある者達については、アンケートやディテクトエビルの反応を踏まえて、入場を拒否していく。
「っと、そろそろ時間だ。情報ごとに纏めて、ババ様に提出しよう」
樹とフォルクスはアンケート用紙の束を整えると、入り口を閉じて会議室の中に入ることにする。
会議室に集まったのは、イルミンスール生とたまたまこの付近にいた契約者達だった。
「忙しいところ、集まってくれたことに感謝する。きっとこの会議は皆の役にも立つじゃろう」
アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が、そう言って席についた。
「早く教えるですぅ〜。先を越されるですぅ」
エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は、パシパシ机を叩いている。
「順に説明するから、大人しくしておれ」
「ババ様、これを」
樹とフォルクスが束ねたアンケート用紙をアーデルハイトに渡す。
「うむ。これは助かる」
感謝をして受け取り、アーデルハイトはアンケートに軽く目を通していく。
「そうじゃのう、それでは順に、天秤座(リーブラ)のティセラの情報から発言してもらおうかのう」
天秤座のティセラ――。
ヴァイシャリーの舞踏会にエリュシオンの使者として現れた人物だ。
数ヶ月前に、空京で行われた式典を襲撃し、女王像の一部を奪っていた人物。
シャンバラ古王国にて、十二星華と呼ばれていたグループのリーダーだった女性。
その辺りが、一般的に広まっている彼女に関する情報だった。
「名はティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)。目的の為なら利用出来るものを全て利用し、自分に抗う者は容赦なく切り捨てる。星剣は大剣」
イルミンスールのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、メモしておいた文章を読み上げる。
「空京の事件といい、そんな人物を擁立するような愚かなことはヴァイシャリーの貴族達もせんじゃろうが……」
「ですが、彼女が直接手を下し、殺害した者の人数は如何ほどでしょう?」
蒼空学園のルーク・ナイトメア(るーく・ないとめあ)が、疑問を口にする。
「それがしは、ティセラ自身は『死人を出していない』のではないかと見ています。彼女の襲撃により結果的に命を落とした人物はいるようですが」
「む……ティセラの殺人行為を目撃した者はおるか?」
アーデルハイトが問いかけるが、手を上げる者はいなかった。
「直接手を下しておらぬとも、クイーン・ヴァンガードの隊員や一般人に死者が出ていることは事実じゃからのう」
ふうとため息をついて、アーデルハイトは次の十二星華についての情報を求める。
「水瓶座(サダクビア)のテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)は、クイーン・ヴァンガードの隊員であり、ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)にに非常に忠実です」
テティスに関しての情報は、イルミンスールの葉 風恒(しょう・ふうこう)のその一言だけだった。
彼女も女王の血を受け継いでいるようなのだが、女王候補になる気は全くないらしい。パートナーと共に、クイーン・ヴァンガードとして精力的に働いてくれている娘だ。
「ボクはタシガン空峡にて実際に二度交戦した『獅子座(アルギエバ)のセイニィ』、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)についてお話しましょうか」
蒼空学園の九条 風天(くじょう・ふうてん)が獅子座の情報提供を始める。
隣では、白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)は暇そうに腕を組みながら、周囲を見回し――エリザベートを見つけると可愛いなあ、抱きしめたいなあと微笑む。
そんなパートナーの様子を気にすることなく、風天は真面目に語っていく。
「獅子座は、運動能力が尋常で無いほど高く、その機動性を活かして両手の爪で対象を切り裂いてきます。対策としては運動能力自体を低下させられる奈落の鉄鎖が特に有効で複数の鉄鎖で縛った後、仲間達との総攻撃でようやく撃退できました。回避する事に重を置いているようで、守りが薄い所も弱点と言えるでしょう」
風天が提供した情報は、主に獅子座の戦闘能力だった。
「私も遭遇したくとがあります!」
イルミンスールの遠野 歌菜(とおの・かな)が、手を上げて発言をする。
「両手装着の爪型光条兵器『グレートキャッツ』を所持しています。これは水に弱いらしくて、雨に濡れるとバチバチと火花を散らせて、力が抜けていったのを確認しました」
隣では、歌菜がきちんと説明を行えるかどうか心配しながら、パートナーのスパーク・ヘルムズ(すぱーく・へるむず)がメモを取っていた。
「性格は目的の為ならば残忍で――」
歌菜は真剣な目で言葉を続ける。
「恐らく典型的ツンデレタイプ」
べしっ
即座に、スパークの裏手つっこみが歌菜に飛んだ。
「そんな情報はいらねーだろ!」
「大事なことじゃないの!?」
真面目な顔で返されて、スパークはがくりと脱力。
「ふむ、性格はつんでれ、か。性格の情報も重要じゃ。……して、つんでれとはどういった性格なのじゃ?」
「ツンデレというのはですね」
歌菜が真剣に説明を始めようとする。しかし。
「ば、ババ様その件については、あとできちんと説明しますから、会議を進めましょう。ええと、次は蠍座だな」
樹が脱線しそうになった会議の軌道修正をした。
「先じてイルミンスールで起きた、剣の花嫁の水晶化はご記憶に新しいかと思います」
語り始めたのは、イルミンスールのエフェメラ・フィロソフィア(えふぇめら・ふぃろそふぃあ)だ。
「ま、ちびっこの警戒不足ですの。犯人は蠍座(シャウラ)のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)、女王候補としては不適格候補ですの」
「ぱっふぇる、許せへませんですぅ」
エリザベートはやけ食いのように茶菓子をぱくぱく食べ始めながら、ぷんぷん怒り出す。
「話の通じない相手ではないが、一切の妥協は無い。剣の花嫁を水晶化させ、操る能力が有る。星剣は銃ってところかな」
ズィーベンもメモしてあった情報を読み上げた。
「根からの悪とは違いそうですが、女王には向かないかもしれませんね」
そう前置きした後、イルミンスールのザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)も、詳しくまとめた蠍座の情報について語りだす。
「彼女は、複数の猛毒を操ります。光条兵器は波動弾を撃つランチャー型。波動弾には剣の花嫁を水晶化させる効果と毒の効果を乗せられるようです。右目の効果で水晶化した剣の花嫁を簡単な命令程度なら操ることができます」
「あいつは意思をあまり表さないから憶測が混じるが、無差別殺傷的な行動を楽しんでいる節があるからちょっと人の上に立つってタイプには見えないな」
ザカコのパートナーの強盗 ヘル(ごうとう・へる)もパッフェルについて、印象を述べる。
「どちらかと言うと真っ先に切り込んで戦う尖兵的立場って所か。恐らくティセラにも戦闘方面での頼れる駒として使われてると思うぜ」
腕を組んで、彼女の様子を思い浮かべながら、言葉を続ける。
「俺達と別れた時には若干心配する様な一面も見せてたが、女王には興味なさそうだし、味方に引き入れるのは難しいかもしれないな」
「……まあそうじゃろうな」
「私達は、エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)さんについて話させていただきます」
蒼空学園の六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、挙手し、アーデルハイトが頷く。
「彼女は5000年前から空京南東の孤島で、星槍の巫女として大怪獣ゴアドーの封印を管理していましたが数ヶ月前に鏖殺寺院によって星槍を奪われ、ゴアドーが復活してしまいました」
調べてきた情報を語り、優希は皆を見回した。
「その事件に関わった方達との協力でゴアドーは倒されましたが、その時に星槍が壊れてしまい、未だ修復はされてない様です。星の名を冠する武器を持たれているので、彼女も十二星華の可能性はあると思います」
「バーゲン小娘……いや、エメネアはその後、ある遺跡に誘い出され天秤座に攫われてしまった」
パートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が、優希の言葉を引き継ぐ。
「その時の反応では天秤座を知っていた……奴とは知り合いだと思う」
「そうね、リリはその玄武の遺跡に同行したのだけれど、その際にエメネア本人が魚座(アルレシャ)の十二星華だと言っていたわ。ん……エメネアはもう少し知恵をつけた方が良いと思う」
そう語るのはリリ・マクレラン(りり・まくれらん)だ。
知恵が足りないと大勢の前ではっきり言うわけにもいかず、言葉を選んでの発言だ。
「ティセラは強引な女性で、それに見合う力量を持ってるようだけど、あまり効率の良いことをやってるようには見えないわね」
リリの言葉に頷き、再びアレクセイが語り始める。
「その時の反応ではエメネアは天秤座を知っていた……奴とは知り合いだと思う。後日、別の遺跡で女王器に関わる資料の捜索中に洗脳された状態のエメネアと再会。持っていた鞭を取り上げて正気に戻ったと思ったんだが……「夢を現実にする女王器」事件を見る限り洗脳は完全に解けてない可能性がある。彼女には迂闊に情報は提供しない方が良いと思うぜ」
「簡単に捕まって洗脳されてしまうような人はダメですぅ〜」
エリザベートが運ばれてきたマフィンに手を伸ばしながら言う。
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