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リアクション
chapter4.希望・前編
「……シャ、シャムシエル!」
沈黙した友人の姿にティセラは言葉を失った。
シャムシエルの敗北をきっかけに、彼女と共に戦っていた生徒たちも見切りをつけ、撤退を始めた。
辺りがしんと静まり返るような奇妙な感覚に、その場にいた者全てが包まれていた事だろう。戦闘の喧噪が徐々に取り戻し始めると、ミルザムやその仲間の生徒たちをティセラはぐるりと見回した。その表情は固く冷たく、硬質な印象を一同に与えた。
「これで戦う理由がもう一つ増えてしまいましたね。皆さん、無事にここから帰れるとは思わないでください……」
ティセラの威圧するような口調に、ミルザムは眉をひそめた。
「……もう充分でしょう。残るはあなた一人です、これ以上戦う必要はありません」
「あなたになくとも、わたくしにはあるのですよ」
それに……と言って、ティセラは固まっている生徒の一団に目を向ける。
「もう一人、わたくしに反旗を翻した方がいらっしゃるようですからね……!」
そう言って、振り上げたビックディッパーを思い切り床に叩き付けた。
無数の亀裂が縦横無尽に走り、床が勢い良く隆起する。持ち上がった床によって陣が崩された生徒の一団は、斜めになった床を滑り落ちていった。その中に、牡牛座(アルデバラン)の十二星華、ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)の姿があった。
「きゃあああっ!!」
床の上をゴロゴロと転がるホイップを、ティセラは冷たい目で見据える。
「マ・メール・ロアにようこそ、ホイップ。そんな所にこそこそと隠れているなんて、どうかされたのですか?」
「てぃ……、ティセラ……」
「背中の玄武甲をわたくしに届けるために来てくれたのなら嬉しいのですが、きっとそうではないのでしょうね……」
赤ん坊をおぶるようにヒモで括りつけて、ホイップは最後の五獣の女王器【玄武甲】を背負っていた。
「ティセラ、私はあなたを元に戻すためにここに来たの」
「わたくしを元に……? 近頃はその冗談が流行っているのかしら、あまり笑えませんわ」
「聞いて、ティセラ。あなたはシャムシエルに操られているのよ。でも、この玄武甲の力を使えば……」
「もう結構です。かつては同じ道を歩んだあなたとこれほどまでに道を違えてしまったのは残念ですわ」
ケープ型ビットが分離し、その尖端がホイップを指向する。
「ちょっと、待ってくださいっ!」
ホイップを庇うように、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が立ちはだかった。
「ホイップさんの言ってる事は本当です。あなただって、一度は正気に返ったじゃありませんか。以前ホイップさんが玄武甲を使った時に、あなたが見せた優しい表情と言葉を忘れられません。あの時の事を覚えていないんですか?」
「……正気に? 何の話をしているのですか?」
「お、覚えていないんですか……?」
その瞳に嘘の気配はなかった。では、また記憶を操作されたのだろうか。
円形広場の中央に立つカプセルを見つめ、ソアは唇を噛み締めた。
「ホイップさんは、ずっとずっとティセラさんのことを大切に想っているんですよ……だから、本当の自分を思い出して下さい!」
「ありがとう、ソアさん……」
必死に訴えかける彼女の手を、ホイップはぎゅっと握った。
すこし驚いたソアだったが、ホイップの手を握り返し微笑んで見せた。
「だって、私はホイップさんの親友ですからね。困った時は力になるのは当たり前じゃないですか」
「俺様も、ご主人とホイップに協力するぜ」
ふと、その巨体を現したのはソアの相棒である白熊ゆる族、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)だ。
二人の肩に手を乗せ、黒めがちな瞳をティセラに向ける。
「はっきり言って、おまえのしてきた事は許される事じゃない。獣人達の村を滅ぼしたり、ご主人と俺様の大切な友人であるカンバス・ウォーカーを斬り捨てたこともあった……と言っても、今のおまえはなんとも思わないんだろうな」
「……わたくしを断罪したいのですか?」
目を細めるに彼女に、ベアは首を振った。
「そいつは俺様の仕事じゃない。罪と向き合うのは『本当のティセラ』のする仕事だ。俺様はそれを見届けに来たんだ」
対峙する両者の間に、張りつめた空気が流れた。
しかし、それも一瞬の事だった。ティセラ自身もすっかり忘れていたが、彼女にはもう一人協力者がいたのだ。
「ええい、クソガキども! ティセラ様に戯れ言を吹き込むんじゃないっ!」
遅れて中枢にやって来たのは、熱狂的なティセラの崇拝者にして薬屋のおやじ、【シャガ・コチョウ】だ。
「シャガ……?」
あからさまに拒絶感バリバリのティセラの表情に、シャガはハートが高鳴るのを感じた。
ここは一つ良い所を見せねば、と張り切ったおやじは挨拶代わりに小型爆弾を放った。どんどんどんと宙空で爆発したそれは、ちょいとばかし気合いを入れて作り過ぎたのか、屋内用にしては威力がとってもビッグで、巨大な炎の塊が空間に広がった。
発生した衝撃波は、まずクローンの培養槽を20個ばかし薙ぎ倒し、管制室のモニターを一つ完全にダメにした。唯一、彼らにとってプラスとなったのは、『鋼鉄の獅子』達が回収していたデータを一瞬で無に返した事ぐらいである。
「見てくれましたか、ティセラ様! このシャガの特性爆弾の威力を!」
脂ぎった身体を左右に振ってシャガが近付くと、ティセラはすごく嫌そうな顔をした。
「明らかにやり過ぎじゃありませんか。要塞を破壊してどうするのですか」
「え……、だって、ティセラ様も先ほどご自分で床を叩き割っていたじゃないですか?」
「ええ、そうですね。でも、あなたがやるととても腹が立つんです」
「おお、流石はティセラ様、私の望む言葉を真っ先にお与えになる。このシャガ、興奮のあまり脇汗が出てきましたぞ!」
冷たい言葉に興奮するおやじ。噛み合ってるのか噛み合ってないのかわからん会話だが、たぶんおやじ的には天国だ。
「なるほど……、あいつがご主人様のターゲットか」
ノルウェージャンフォレストキャット型ゆる族である森猫 まや(もりねこ・まや)はシャガの顔を確認すると、トテトテと近付いた。クリクリした瞳ともふもふの長い毛が大変愛らしいが、その口から出る言葉は汚かった。
「おい、汗ダルマ。てめー死んだ犬の匂いがすんだよ。くっせーからとっとと帰れ、オラァ!」
「な、な、な……、誰が死んだ犬だ! 失礼な、今日はティセラ様を会うからちゃんと風呂に入って……」
「うっせぇ、喋んな。口もくせーんだよ、お前んちの水道なんだ、ドブと繋がってんじゃねぇのか?」
「ギィーッ!!」
度重なる暴言にてっぺんきたシャガは、小型爆弾を両手に抱えて走ってきた。
しかしこれは完全なる策略だった。挑発におびき出されてきたところに、まやの契約者である城ヶ崎 瑠璃音(じょうがさき・るりね)がツカツカと踵を響かせ現れた。突進してくるシャガに、仕込み竹箒によるフルスイングを一閃。勢い余ってぶっ倒れたシャガにさらなる追い打ち、背筋も凍るような冷凍視線で彼を見下ろし、彼女は箒でバシバシとぶっ叩いた。
「いだだだっ! なんだこのクソガキ! いきなりになにをしよるんだ!」
涙目で抗議するシャガに、ふんと鼻を鳴らし、瑠璃音はロープでぐるぐるに縛り上げた。
「わたくし、あなたのようなセコイ人は大っ嫌いですの」
「な、なんだと……?」
「今日からわたくしが新たなご主人様です。たっぷり調教してあげるから、喜びに悶え狂いなさい」
「あたいも、あんたみたいな奴は好かないから、一緒になってボコボコにしようっと」
まやもやって来て、シャガに殴る蹴るの暴行を加えた。所謂、おやじ狩りである。
「ええいっ、ふざけるな! おまえらは何にもわかっとらん! こんなもんで私を喜ばせようなどと片腹痛いわっ!!」
調教ではなくただの暴行になっていた二人に、シャガはダメ出しを入れた。
「まず、これだけは覚えておくように。Mっていうのはいじめられるのが好きなんじゃない、大好きな人にいじめられるのが好きなんだ。おまえらのようなもんに何をされても楽しくないわ。痛いだけだわ。それにただ殴るってのも、捻りがない。いいか、もっと嫌悪感を露にするんだ。ゴミを見るような目で私を見ろ。夏場に一週間放置した生ゴミを見る目だ。それから……」
「……やっぱり、この人なんかむかつきますわね、縛られてるくせに」
「ああ、泣いたり笑ったりできなくしてやろーぜ」
瑠璃音とまやは心を一つにし、さらなる悪行の限りをおやじにプレゼントして上げたのだった。
◇◇◇
目と鼻の先にティセラを捉えたホイップだったが、二人の距離は思いのほか遠い。
ティセラの放ったビット群がわずかな距離を遠いものにしていた。幸いティセラが床を破壊してくれたおかげで遮蔽物は増えたのだが、ビームの雨をくぐり抜けて敵意に満ちたティセラの抵抗を退けると言うのは、ホイップでなくても難しい行為だろう。
隆起した床の後ろに隠れて、ホイップは飛び出すタイミングを計っていた。
「ティセラ……、私が元に戻してあげるからね……!」
意を決して、一歩を踏み出したホイップ。とその瞬間、横から藍澤 黎(あいざわ・れい)が滑り込んで来た。
ディフェンスシフトの構えで紋章の盾を突き出し、前方から飛んでくる光線を防ぐ。
あのまま飛び出していたら、ホイップは直撃を食らっていただろう。
「まったく、無茶を無茶と認識してもらいたいな。たった一人でこの攻撃を超えようなんて無謀だ」
「ご、ごめんなさい……」
叱られてしゅんとなったホイップ、黎はすこし表情を綻ばせた。
「まあ、しょうがないか……、それがホイップ殿だからな」
とそこに、黎のパートナーのゆる族あい じゃわ(あい・じゃわ)がやって来て、ホイップの頭によじ上った。
きょろきょろと周囲を警戒する。
「いっぱい浮かんでいるのですよー」
「……だろうな。しかしここでじっとしているわけにもいくまい。ホイップ殿、道は我らが作る、後に続いてくれ」
「は、はい。ここは黎さんに任せる」
そして、三人は勢いよく飛び出した。一斉に襲いかかるビームを黎が受ける。
「さあ、今のうちに……」
「だ、誰かこっちにくるのですよー」
接近する影にあたふたと星輝銃を撃ちながら、じゃわはけたたましく騒いだ。
一条の閃光を軽やかにかわして、その人物、ティセラ親衛隊のウィンディ・ライジーナ(うぃんでぃ・らいじーな)は風のように迫った。
「悪いけど、ティセラには近づけさせないわよ」
そう言って、彼女が胸の谷間から取り出したのは、どっかで見た事のある小型爆弾だった。どっかと言うか、つい先ほどシャガが放り投げてた爆弾の残りである。シャガと協力するため助けにいった時には、時既に遅く、さんざん弄ばれてグッタリしていたので爆弾だけちょろまかしてきたのだ。彼女は爆弾を振りかぶると、ホイップ達に目がけて放り投げた。
「下がるんだ、ホイップ殿……!」
咄嗟にホイップを後ろに突き飛ばし、黎は紋章の盾を構え、ファイアプロテクトで守りを堅めた。
そして、次の瞬間、大爆発が辺りを包み込んだ。爆風に吹き飛ばされたホイップは黒煙の中、匍匐前進で黎の元へ駆けつける。
黎はまだその場に立っていた。盾は粉々に吹き飛んでしまったが、高周波ブレードを杖代わりに床について持ちこたえている。
「あれぇ? バラバラに吹っ飛んでないわねぇ?」
瓦礫の影からひょっこり顔を出し、ウィンディは怖い事を言う。
「しょうがない、じゃあ、もう一発お見舞いして……」
「させないのですよー! あいじゃわあたーっく!!」
ホイップの頭にくっ付いていたじゃわがプンスカ怒って飛びかかった。ゴム毬のように床をバウンドし大きく跳ね上がる必殺のあいじゃわあたっく、人はそれをただの体当たりと呼ぶが、そのただの体当たりはウィンディの後頭部に直撃した。
まさしく脳天を突き抜ける衝撃に彼女は悶絶し、同じく後頭部をぶつけてしまったじゃわも仲良く並んで転がった。
「ど、どうしよう……、まずは皆の手当をしたほうがいいのかな……」
困惑した顔のホイップが歩を進めると、目の前に漆黒の大鎌が振り下ろされた。
「まだ、終わってないんだけど。ルーシーの前を通ってどこにいくつもり?」
年端もいかない少女である彼女はリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)、ウィンディの契約者だ。
背丈よりも大きな光条兵器の大鎌『リヴェレーター』を横薙ぎに構え、ホイップを値踏みするような目でジロジロと見る。
「ちょ、ちょっと待って、私はあの人達の手当を……」
「そんな事言って、ティセラに何かする気でしょ。さっきティセラと話してるのを聞いてたんだから……!」
ホイップの言葉など聞く耳持たず、リュシエンヌは大鎌を振りかぶった。
「そこまでだ! ボクの愛する人を傷つけさせはしないよ!」
黄金に輝く閃光がホイップの横をかすめ、リュシエンヌの目前でその光はまばゆく輝いた。
「な、なに……?」
ホイップは太陽よりも明るく輝く光を見つめた。この閃光は光術によるものだろう、だが、ここまでまぶしく照り輝いているのは光術の力だけではない。光の中心に呪法の効果を何倍にも高めるような『服装』の人物が見えた。黄金の髪に黄金の服、金縁の眼鏡の奥に広がる眼差しをホイップは知っていた。イルミンスールの発光体こと、エル・ウィンド(える・うぃんど)だ。
「え……、エルさん!」
「やあ、遅くなって悪かったね。でも、もう大丈夫……、ボクがキミを護り抜いてみせる」
ホイップが駆け寄ると、エルはニッコリと微笑んだ。
「必ずティセラを正気に戻そう。皆も手伝ってくれるから絶対に成功するさ!」
「そんな事させない……! ティセラのする事は誰にも邪魔させないんだから……!」
目くらましから立ち直ったリュシエンヌは大鎌を勢い良く薙ぎ払った。
やれやれと首を振り、エルはストームシールドを突き出した。ホイップの肩を引き寄せ、彼女を攻撃から守る。
「……ティセラに対する信念には敬意を表するよ。でも、ボクたちにも譲れないものがあるんだ」
「気持ちをわかってくれて嬉しいわ。だったら話は早いわね、しばらくここでルーシーを遊んでもらうわよ」
くるくると大鎌を振り回し、エルの頭上に振り下ろす。再び盾で防御するエルだったが、その身体を激しい電撃が突き抜けた。インパクトの瞬間、リュシエンヌはライトニングウェポンで大鎌に電流を流し込んでいたのだ。
「うわあああっ!!」
悲鳴を上げると、エルはその場に膝をついた。
「子どもだからって甘く見ないで欲しいわ。伊達にティセラの親衛隊を名乗ってるわけじゃないんだから」
少女とは思えぬほどの威圧感を放ち大鎌を振り上げる。その瞬間、細い腕を一条の閃光が貫いた。
「きゃああ!!」
大鎌を床に落とした彼女を横目に、星輝銃を手にしたエルの相棒、ホワイト・カラー(ほわいと・からー)がやって来た。
「ご無事ですか、ホイップ様」
「あ……、ありがとう。私は大丈夫だよ、でも、エルさんが電気を流されちゃって……」
ホイップが心配していると、エルは無理に笑顔を作って立ち上がった。
「だ……、大丈夫。ホイップは早くティセラのところへ……、ここはボクたちが引き受けるから」
向こう側では、リュシエンヌが同時に立ち上がるのが見えた。
◇◇◇
「おーほっほっほ! さぁて、いよいよ大詰めですわね!」
カプセルの上で高らかに笑うと、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)はとうと飛び降りた。
真っ赤なドレスを翻し、ホイップの前に華麗に参上。落ちぶれても元上流階級、気品漂う所作である。
「ロザリィヌさん……、助けに来てくれたのね」
「勿論です。可愛い妹のためならば、例え火の中水の中草の中云々……、どこにでも駆けつけますわ」
自分の大きな胸にホイップをギュッと押し付けると、愛おしそうに見つめた。
「それにとうとうホイップが百合に目覚めてくれたんですもの。これはお姉様として駆けつけないわけにはいかないですわ。愛する女性を救うため、危険も顧みずこんな所にやってくるなんて……、見上げた百合的行動ですわっ!」
「は、はい?」
「別にティセラは、ホイップの愛する人というわけではないと思うのであるな……」
ロザリィヌのパートナー、黒山羊ゆる族のシュブシュブ・ニグニグ(しゅぶしゅぶ・にぐにぐ)は呆れた顔で首を振った。
どうやら根本的な部分で彼女は勘違いしているらしい。
「まあ、それはともかく……、ホイップの姉妹ならば、わたくしにとっても妹ですからね。わたくしも力を貸させて頂きますわ。一緒にティセラ様を正気に戻しましょう! そして、あわよくばティセラ様も妹にしてしまいましょう!」
「ええっと……、それは応じてくれるかわかんないけど」
なにやら闘志を燃やすロザリィヌに、ホイップは苦笑いした。
とそこにビットが一機飛んできた。しばし流れた和やかな空気を打ち破る招かれざる客だ。
「出てきましたわね……、わたくしの目が黒い内は、ホイップには指一本触れさせませんわ!」
なんだか偉そうに宣言すると、丈夫な段ボールを重ねあわせたものを掲げた。
「……あの、ロザリィヌさん、何をしてるの?」
「おーほっほっほ! わたくしと言えば段ボール、段ボールと言えばわたくし! 昨晩夜も眠らず昼寝してこしらえた段ボールシールドですわっ! この分厚さで制作費は0円(拾ってきたから)、なーんたる超リーズナブルなんでしょう!」
その瞬間、じゅんっと音がして、段ボールシールドは盛大に燃え始めた。
「……熱っ!」
イラッとしてロザリィヌは、べしっと段ボールを床に叩き付ける。
そして、クレセントアックスを取り出すと、普通にビットを叩き潰した。
「うすうす気付いてましたけど、段ボールって防具にはむかないのですわね……」
世の中って難しい、そんな顔を浮かべて彼女はどこか遠くを見た。
ふと、ティセラのほうを見ると、なにやらセイニィと話しているのが見えた。彼女に気を取られ、こちらに背中を向けている。
「い、今がチャンスなのであるなー!」
興奮した様子でシュブシュブは叫んだ。
そして、ひょいとホイップを背中に乗せると、勢い良く床を蹴って走り出した。
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