空京

校長室

【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!

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【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!
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リアクション


chapter2.要塞の主・前編



「……さて、ここまで脚を運んでくださった勇敢な皆様に、わたくしの新たなる力を披露いたしましょう」
 武器を構えるミルザム達を一瞥し、ティセラは背中を守る新兵器を展開させた。
 彼女の背後から射出された無数のそれは、半円状の薄い金属片が折り重なった翼のような『ケープ型ビット』だ。遠目には羽織っているようにも見えるが、近くで見ると、一定の距離を保って背後に浮遊しているのがわかるだろう。ケープの形を作る一枚一枚の金属片が自動迎撃システムを備えたビットで、ティセラが敵と認識したものに対してビームで迎撃を行う。
 クイーン・ヴァンガードの隊員たちが円陣でミルザムを護衛する中、ビットは無機質な駆動音と共に攻撃を開始した。
「こ、この武器は……! 皆さん、気をつけてくださいっ!」
 隙間なく空間を貫く閃光に、ミルザムは声を上げた。
 お互いの背中を守りあいながら、四方八方あらゆる角度から切り込んでくるビームに対処する。
「如何でしょうか、皆さま。わたくしの新たなる力はなかなか優雅なものでしょう?」
 スカートの裾を持ち上げ、ティセラは楽しそうに一礼をする。
 近接戦闘では無類の強さをはっきりするティセラだが、かねてより遠距離攻撃に対する脆弱さが指摘されていた。しかし、エネメアの作り上げたこの新兵器によって、その弱点は克服されたと言えるだろう。
「……それにしても、ミルザムさん。この程度の攻撃に取り乱すなんて、やはりあなたには女王の素養はありませんわ」
 そう言うと、深紅の瞳でミルザムの全身を眺めた。
 右手には女王の象徴たる斧『朱雀鉞』、左手にはビームを弾く盾【青龍鱗】、その両腕には純白の篭手【白虎牙】。そして、その背を守るのは外套の【麒麟の鬣】である。五獣の女王器の内、四つを装備した彼女の姿はまさに大将にふさわしい出で立ちだったが、それにしては脆弱すぎるとティセラは感じたのだった。
「……まあ、それがあなたの限界なのでしょう。所詮、女王の器ではないのですわ」
「くっ……!」
 その時だ。唇を噛み締めるミルザムの頭上を一つの影が横切った。
「ここはオレに任せてもらおう!」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は床を転がるように移動しながら、二丁拳銃で灼骨のカーマインと禍心のカーマインを撃ち放つ。粗雑な動きとは裏腹に弾丸は正確に群がるビットを捉え、あるものは制御を失い落下し、あるものは危険を感じて散開する。
 激しいビームの攻勢が止み、武尊はミルザム達に声をかけた。
「大丈夫か、おまえら。怪我なんてしてねぇだろうな!」
「え、ええ……、私たちは無事です。無事なんですけど……、その……?」
 如何にもヒーロー然とした活躍を見せた武尊であるが、ミルザムの態度は明らかに一歩引いていた。いや、ここはちゃんと言っておこう、クイーン・ヴァンガードもみんな引いていた。何故なら、彼は女もののパンツを頭にかぶっているのだから。
「……あの、お気に障ったらすみません。どうしてそのようなものを冠ってらっしゃるんですか?」
「ああ、それはオレがパンツ番長だからだ!」
 どこに出しても恥ずかしい一言で片付けると、ティセラのほうに向き直る。
「さあ、かかってきやがれ、オレが相手に……って、うわああ!!」
 いつの間にか肉薄したティセラは無言でビックディッパーを振り下ろした。
 咄嗟になんとか避けたものの、一振りで周辺の床板を全て吹き飛ばした斬撃に、武尊はバクバクと心臓が高鳴った。
「絶対に許せません! この人、下着ドロボウにして、とんでもない変態ですわ!」
 いつになく感情を露にするティセラだが、これほど怒るのも無理もない話だ。何せ、武尊の顔面にフィットする薄布は、普段は彼女の股間にフィットしている薄布なのである。ティセラの心が殺意の波動で満たされたのも納得して頂けるだろう。
 確実に殺す勢いでティセラはビックディッパーを振り上げると、その横から突如として業火がなだれ込んで来た。
「うおおおおっ!!」
 着込んだ波羅蜜多ツナギに炎が引火し、武尊はゴロゴロと転げ回った。
 ボボボボと唸る火炎放射器を片手に、南 鮪(みなみ・まぐろ)がティセラの横に並んだ。
「こんな奴、帝世羅さんの手を煩わせるまでもねぇ! この俺が消毒してやるぜぇ!」
「良いところに来てくださいましたわ。まずあの変質者からわたくしのパンティーを奪い返して……」
「ヒャッハァ〜! パンツ番長から下着を奪い返したら俺が貰うぜェ〜! 良いな?」
「良いなって……、え……?」
 あまりにも残念な言葉に、ティセラの目が点になった。
 知っておいたほうがいい、男はみんなハンターだ。パンツと言う名の地平線を追い求めるハンターだ。
「てめぇ、国頭! この俺を差し置いて帝世羅さんのパンティーを奪おうなんざ、なんたる羨ましい奴ッ!」
 毒づきながら火炎を浴びせかけると、武尊は慌てて銃弾で応戦を始めた。
「ケッ! おいおい、オレがパンツだけで満足してる小せぇ男だとでも思ったか、南?」
「ナニッ!?」
 武尊がサッと懐から取り出しものを見て、鮪の目が羨望と嫉妬の色に染まった。
 それは紛れもなくブラジャーだった。紛れもなくティセラの果実を包んでいたブラジャーだった。
「て……、てめぇ! ど、どこまでもな奴だぜ……!」
「悪いな、南。オレはとどまる事を知らないんだ」
「……何故だ、てめえ! そんなに帝世羅さんに夢中なくせになんでその踊り子女に付きやがる!」
 ミルザム派にも関わらずティセラの下着を装着する武尊、ティセラ派にも関わらず何も得られない鮪。人生とは理不尽である、これほどまでにその思いを抱いたのは、鮪にとって初めての出来事だった。憎しみで人が殺せたらと思う。
「ふん、そんな事もわからねぇのか、一目瞭然だろうが!」
 手にしたブラジャーをクワッと凝視し、そんでもって、ミルザムの胸をクワワッと凝視して見比べる。
「……フッ、俺に目に狂いはねぇ。流石は真の女王候補。器が違うぜ!!」
 そんな戯れ言に、鮪はわなわなと震えた。
「な……、なに言ってんだ、てめぇ! 見るからに形状的に帝世羅さんの方が女王おっぱいだろうが!」
 人は信仰の違いで争う。互いを傷つけあう。なんとも悲しい定めである。
「手ぇ貸せ! こいつに乳道ってもんを教えてやるッ!」
 鮪は相棒の埴輪型ゆる族、土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)を呼んだ。
 ちょうどその時、はにわ茸は円形広間の中央にあるカプセルの水をごくごく飲んでいた。例の緑色の妖しい液体である。
「わしゃぁこのカプセルの中に入るんじゃ、ティセラさんの残り湯は全てワシのものじゃぁ!」
 などと意味不明な事を叫んでおり、どうしようもなかった。
 彼の言う通り、中央のカプセルは特別製でティセラが使用しているものだ。その残り湯……いや、湯じゃないんだけど、それをペットボトルに詰めたり、光に透かして不純物を確認したり、やりたい放題をこのハニワ野郎は行っていた。
 そこへティセラのビットが飛んできた。迷いのない動きで、はにわ茸の尻をじゅんっと焼いた。
「ひいぃぃぃぃぃぃっ!!」
「内は敵にあり、とはよく言ったものですわ。わたくしが介錯を務めますからそこに直りなさい」
「ち、違うんじゃあ! これはあくまでも今後の資料的価値の為であって趣味的な事では無いんじゃ!」
「絶対に趣味でしょう!」
 ものっそい睨まれて、しぶしぶはにわ茸は魅惑の湯船から這い出たものの、すぐにまた余計な事を思いついた。
「……じゃ、じゃあ、クローンじゃあ! わしが十二星華のクローンを率いて連中蹴散らしちゃるけえ全員のクローンを寄越すんじゃあ、勿論シャムシエルの姉ちゃんのも用意して欲しいんじゃ!」
「それも趣味でしょう!」
 またもや光線に焼かれた相棒を見て、鮪は慌ててはにわ茸を呼び寄せた。
「バカヤロウ! 帝世羅さんの機嫌をそこねんじゃねぇ! 俺のパンツまで貰えなくなったらどうすんだ!」
「そもそも、あげませんわ!」
「ほら、怒ってるじゃねぇか! ここは一ついいとこ見せて挽回しようぜ!」
「だから、挽回してもあげませんからねっ!」
 ティセラの声はもう彼らの耳には届いていなかった。いや、厳密に言うと最初から聞いてなかった。
「ヒャッハァー! 見せてやるぜパンツ性拳奥義! パンツ人間砲弾!」
 おもむろにはにわ茸を持ち上げると、鮪はミサイルが如く、武尊目がけて放り投げた。
「パンツ性拳だと……! こいつはいけねぇ、ミルザムは下がっててくんな!」
「ええ……、ここはあなたにお任せしたほうが良さそうですわね(キャラ的な意味で)」
 そんな緊張感の欠けるやり取りを、光学迷彩と迷彩塗装で身を隠した武尊のパートナー、猫井 又吉(ねこい・またきち)が撮影していた。静かにビデオカメラを回して、戦闘やその他もろもろをテープに収めるのが、彼の任務だった。
「歴史が動く瞬間を撮影しないのは、凄く勿体無いからな……」
 などともっともらしい事を言ってるが、又吉は『マ・メール・ロアの戦い』というタイトルのビデオを売って大儲けをする計画を立てているらしい。まったく本編と関係がない上に超絶どうでもいいので、それはまた別のお話にしようと思うが、ただビデオで売るよりきっとDVDで売ったほうがいいと思う。パラミタにビデオデッキなんて遺物は存在しないだろう。
「ポロリとかあれば、マジでミリオン狙えるんだけどなぁ……」


 ◇◇◇


 そんな事はさておき、戦闘に戻ろう。
 奇しくも武尊の乱入により統制の乱れたビットの隙を突いて、音井 博季(おとい・ひろき)がティセラに迫った。
「戦って、勝ったから正しいとか、勝った者のみが納得のいく世界を作るとか、そんなのは、間違ってます!」
 横一文字に空を裂いた高周波ブレードを、ティセラは軽々と巨大なビックディッパーを持ち上げて受ける。
「勝者の正しさは歴史が示しているでしょう、なにを世迷い言を……」
「歴史だけが正しいわけじゃありません!」
 そう言って、一度間合いを取ると、刃を返して斬撃を叩き込む。
 ひと薙ぎに両断してやろうかとティセラは思ったが、もう少しこの余興に付き合ってやろうと考え直した。
「……では、あなたの言うあるべき世界とはなんです?」
「敗者も勝者も関係なく、色んな人が譲り合って、納得が出来る世界。それこそが、人々が真に望む世界ではないでしょうか。例え完全に実現は出来なくても、それに近づけて行くことこそが必要なんだと、僕は思っています……、だから!」
 刃を押し込んで、博季は鍔迫り合いに持ち込んだ。至近距離で二人は互いの視線を交えた。
「……ご冗談を。全ての人が納得のいく世界など不可能ですわ」
「それでも……、それでもその姿勢を示すのが女王のするべき事なのではないのか!」
 言葉を荒げる博季だったが、ふと向けられた冷たい視線に身を強張らせる。
 はねつけるような拒絶の瞳、いや、ただの拒絶とは思えなかった。彼女の心の前に一つ大きな壁があって、不都合な言葉はそれに阻まれて、心まで辿り着いてはいない、そんな感覚に襲われた。彼女に言葉は届かないのだろうか、博季は顔を歪ませる。
 次の瞬間、ティセラの斬り上げる一撃で、博季は弾き飛ばれた。
「そのような理想論など、聞くに耐えませんね……」
「……あの子の言ってることは確かに甘い、理想論に過ぎないわ」
 ふと、声のしたほうを見ると、博季の相棒である西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)が立っている。
「でも、それがどうしたと言うの。『理想』は確かに『理想』なのよ。人々が『望んでいる』ことには違いないの。人々の願いを、夢を、理想を無視して、果たしてそれが正しい統治者と言えるのかしら?」
「……民がどのような理想を抱こうと構いませんわ。ですが、それに女王が従う謂れはありません」
 ティセラがビックディッパーを構えるのを見て、幽綺子も禁忌の書レベル1を片手に開く。
「あなたの思想を王に強要するなど言語道断、それは越権行為というものですわ」
 そう言った彼女のつま先が床から離れたのに気付き、幽綺子は火術を放つ。全身から沸き上がった荒れ狂う炎の本流は、腰だめに大剣を構えて飛び込んでくるティセラを飲み込んだ。しかし、それは束の間の事、ティセラはただの一振りで炎を吹き飛ばした。
「……流石は十二星華ね、やっぱり格が違うわ」
 近接戦闘は圧倒的に不利、即座に判断した幽綺子は雷術を繰り出しながら、全速力で後ろに下がった。
「何度やっても同じ事ですわ、その程度の稲妻でわたくしは止められませんよ」
 まとわりつく虫を払うような心持ちで、ティセラはビックディッパーを構えた。
 とそこに突然、上空から投げられた雅刀が床に突き刺さった。避雷針となったそれは地を這う稲妻を吸い込む。
「……あんたがわざわざ力を振るうこたぁねぇぜ、ティセラ」
 屹立するカプセルの林から、白い仮面をつけたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が姿を現した。
 黒煙を上げる雅刀を引き抜き、少しばかり炭化した刀身にティセラを映す。
「ここは俺が引き受ける。あんたの相手はミルザムだろ、さっさと終わらせようぜ」
「……では、お言葉に甘えさせて頂きますわ。わたくしに力を貸して頂いてありがとうございます」
「礼なんていいさ。こう見えて、俺は義理堅いんだ」
 仮面の下でニヤリと笑い、警戒する博季たちに向き直った。
「そういうわけだから、あんたらの相手は俺がするぜ。折角、ここまで足を運んでもらったのに悪いが、うちの大将もこのあとツァンダで戦争を控えてて急がしいんでな。細々とした仕事はこの俺が担当させてもらう。文句があるなら、俺に言ってくれ」
「どいてくださいっ! 僕はまだティセラさんに話が……!」
 博季があとを追って駆け出すと、トライブは素早く回り込み、刀を振り下ろした。
「おいおい、人の話を聞いてなかったのか?」
 咄嗟に剣を構え、博季は斬撃を受けた。硬質な金属音が鳴り響き、鍔迫り合いの体勢となる。
「どうしてそこまで……!?」
「理屈じゃねぇんだ、そういうのはよ。俺のしてる事が間違いだってのは承知してる。でもよ、俺はあいつを守るって決めた、そう決めた俺の心に嘘は付けねぇ。この先どうなろうとあいつを守るぜ、俺はよ。例え……、あいつが正気じゃなくてもな」
 そう言って、前方で交戦中のシャムシエルに目を向けた。
「……そして、シャムシエル。あんたからもティセラを守る」
 人の想いは理屈ではない、そう語るトライブの気持ちはわからなくもなかった。だが、かといってティセラを放置するのが正しいとも博季には思えなかった。剣を握るその手に冷たい汗が滲み、刃に迷いが生まれるのを自覚した。
「くっ……、このままじゃ埒があきません。幽綺子さん、あなただけでもティセラを追ってください!」
 後方で状況を窺っているパートナーに追撃を頼む。その言葉に、トライブは顔を上げた。
「おっと、そうはいかねぇ。朱鷺、あの女をティセラに近づけるなよ」
「え……?」
 戸惑う幽綺子の前に、カプセルの影から飛び出したトライブのパートナー、千石 朱鷺(せんごく・とき)が立ち塞がった。
 不意打ちに近い動きで振り下ろした翼の剣を、幽綺子は咄嗟に禁忌の書で防御した。
「あなたがたには何の恨みもございませんが、これもまた一つの定め。わたくしがお相手致します」
「ちょ、ちょっと待って……、ほ、本に切り込みが入ってる……、まずいって!」
 思わず防御に使ってしまったものの、禁忌の書は魔道書の本体であるわけで、それに切り込みが入ると言う事は大変まずいことなのである。この瞬間のたうち回っているよく知った顔を頭に思い浮かべて、幽綺子はぞっと背筋が冷たくなった。
「本の心配よりご自分の心配をされたほうがよいのでは?」
 朱鷺は肩をすくめ、再び剣を振りかぶった。