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リアクション
水上闘技大会第二試合(1/2)
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第二試合 出場選手
高柳 陣(たかやなぎ・じん)
木曽 義仲(きそ・よしなか)
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)
フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)
佐々木 八雲(ささき・やくも)
カイラ・リファウド(かいら・りふぁうど)
ハリック・マクベニー(はりっく・まくべにー)
高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)
ティアン・メイ(てぃあん・めい)
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)
強盗 ヘル(ごうとう・へる)
シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)
グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)
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第一試合の最中に粉々に粉砕された闘技場は、第二試合が始まる頃には綺麗さっぱり全く同じ物が用意され、何事も無かったかのように湖に浮かび揺らいでいた。
「浮かび揺らいでいた、ってそんなバカな」高柳 陣(たかやなぎ・じん)が無機質な声で言う。
「彼らが予備を用意していたようだ」木曽 義仲(きそ・よしなか)が湖畔をちょろちょろしているポムクルさんたちを指して応えた。
「先見の明があるというかなんというか」
「にしても……」陣がしみじみ実感を込めて言う。
「ポムクル……さんって呼びづらい」
「さん付けまでが名前なのだろうか」
「……いつもの感じで呼ぶと?」
「ポムクルさん殿」
「………………」
「………………」
無い。これは無い、絶対に無い。
「さぁて。全力で暴れるぞ!」
「お、おう!」
足場が揺れるならば接していなければ良い。
陣は『レビテート』を発動してから飛び出して行った。
空中から仕掛けるという意味ではフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)の戦術もそれに近いものがあった。
しかしそれでも決定的に違うのは、こちらは『小型飛空艇ヘリファルテ』を持ち込んでいる、という点である。
大会のレギュレーションには「ルール無用」また「飛行していても円の直径範囲を越えると敗北となる」とある。飛行範囲には注意が必要だが、相手の頭上から攻撃を仕掛けられるなら、それだけで優位に立てるという訳だ。
「さぁ、撃って撃って撃ちまくるぞ!」
実弾でないのが物足りないが、それでもフランツは機体に背を向ける選手たちを大雑把ながらに狙い撃っていった。
「ピアノもトリガーも、ひくのは大好きさっ!」
ノリノリなフランツとは対照的なのが、彼のパートナーである大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)だった。
彼は『ヒプノシス』で意識を奪ってから確実に円の外へ落とす、という戦術で戦っている。飛空艇をブイブイ言わせているフランツと比べると何とも地味な戦い方だが―――
「心外やな。地味やのうて、堅実や言うて貰いたいなぁ―――って、ん?」
それに気付いた時、自然と目の色が変わった。「フランツ!!」
上空を見上げ、フランツの飛空艇を狙っている者がいる。がしかし、当のフランツは気付いていない。
「くそっ」
間に合うか―――
とにかく一撃入れること、そう思い『乱撃ソニックブレード』を放とうとした―――ときだった。
「一応、警告する」
駆ける泰輔のすぐ横にピタリと併走する者がいた。
「邪魔はするな」
「なっ!」
飛び出すべからず、車は急には止まれない。パートナーを助けに駆け出した男もまた、やはりに急には止まれなかった……というよりむしろ止まる気がないといった感じだったか。
冗談じゃない、と泰輔はむしろ速度を上げたのだが―――
「仕方がない」
佐々木 八雲(ささき・やくも)は肩にしがみついていた式神、『金の卵』ことたまちゃんと共に『闇洞術『玄武』』を発動した。
「えっ、ちょっ、なんや!」
羅刹が生み出す異空間。その闇が泰輔を包み飲み込んだ。
「悪く思うな、これも人生だ」
我が欲望のためにまた一人、犠牲者を出してしまった。しかし戦場で迷いは禁物。
敵は排した。これで弟が自由に動ける。
「今だ」
「おっけー」
いつもの気のない口調で佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が応えた。
「え、と。ここかな」
空行く飛空艇のフロントガラスめがけて弥十郎は『変熊のかんづめ』を投げつけた。
所有者でさえも中に何が詰まっているか把握していない、というより把握できないビックリアイテム。
わずかに開けられたプルタブは見事、飛空艇の機体にぶつかり、そして中から―――
海パン一丁で股の間からソソリ勃つ雄マネキンを生やした男が現れた。
変態がフロントガラスに張り付くと、雄マネキンもペチペチとリズム良く腹や胸を押しつけられていて―――
「ぅ……うわあぁぁあああああ!!」
これにはさすがのフランツもパニックだった。
突然の空中旋回、当然の制御不能。機体は大きく揺れたまま闘技場の地面すれすれを滑空して……そのまま場外へと飛び出していった。
当初のフランツの計画通り「出場選手を巻き込みながら押し出す」事には成功したが、その過程は決してこんなバタバタパニックな展開なんかじゃない。
唯一の救いは機体が滑空している間に弥十郎と八雲の2人を巻き込めた事だが、闇より生還を果たした泰輔まで弾き飛ばしてしまったのは完全に誤算だった。
フランツがそうした事実を知る事になるのは、水没した機体から無事救出された後の事だった。
飛空艇の暴走は多くの選手を巻き込む事故を起こしたが、カイラ・リファウド(かいら・りふぁうど)らが持ち込んだ『バイク』は初めから暴走していた。
しかも質の悪いことに運転しているのは凄腕ライダーのハリック・マクベニー(はりっく・まくべにー)、そしてその背に乗るカイラが『火術』やら『氷術』などの単純魔法を連射しているから迎撃しようにも容易には近づけない。
走りは華麗で実に身軽、正に彼女らの独壇場だった。
「ふははは、恐れよ! 崇めよ! そして跪け! わが名はカイラ・リファウド、魔皇リファウドの末裔よ! 見たか愚民どもが! 完璧な防御こそ勝利の秘訣よ、さあ我が力を存分に思い知るがいい!!」
「………………」
凄腕ライダーは言無しライダー。カイラの名乗り口上に続けるでもなく応えるでもなく、ただただ黙々とハンドルを切り続けている。
暴れ馬のように駆る車体の上で口上を言い切ったカイラもまた別の意味で凄いのだが…………まぁ一応に褒めておくことにしよう。