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リアクション
水上闘技大会第三試合(1/2)
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第三試合 出場選手
セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)
葛城 沙狗夜(かつらぎ・さくや)
硯 爽麻(すずり・そうま)
鑑 鏨(かがみ・たがね)
マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)
七篠 類(ななしの・たぐい)
頤 歪(おとがい・ひずみ)
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)
神条 和麻(しんじょう・かずま)
エリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)
麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)
瀬田 沙耶(せた・さや)
神凪 深月(かんなぎ・みづき)
アリア・ディスフェイト(ありあ・でぃすふぇいと)
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「済まないな……水は苦手なんだ」
そう言われたのは数分前の事だった。闘技場に向かう直前、林 則徐(りん・そくじょ)に言われた言葉だ。
相変わらずに表情は冷淡なものだったが、そこには確かに「申し訳ない」という意が秘められている。
自分にしか判別できない程の微妙な変化だが、その程度のこと見分けられないようでは刑事失格だ。もちろんパートナーとしても。
「張り切るのはいいのだが……私の方の観客席に落とさないで欲しいな……飛沫が飛ぶ」
そんな風にも言われたっけ。
観客席の中に則徐の姿を見つけた時、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)の脳裏にふとそんなやり取りが蘇った。
あの時、自分は何と言って返したか。
……思い出せない。「気を付けるよ」だったか「分かったよ」だったろうか。
まぁ、もしこの場で同じ事を言われたなら迷いなく「分かってるよ」と言うだろうが。
「分かってるよ、か」
自分の力がどこまで通用するか、そんな力試し感覚で大会にエントリーしたのだが、目の前で事件が起これば話は別だ。
「俺は刑事だからな」
暴走する連続婦女暴行魔を見逃したなんて事になれば末代までの恥だ。
「近づかないで下さい!」
槍を構えて腰を落とす。ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は既に戦闘態勢だった。
「それ以上は近づかないで―――いえ、近づけさせません!」
正面にはセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)、背には桜井 静香(さくらい・しずか)。
せっかく怨念レベルで静香と同じ組になったというのに、簡単に彼女を脱落させるわけにはいかない。彼女は必ず守ってみせる。
「あら、なぁに? 噛み殺されたいの?」
妖艶な……いや猟奇的と言った方が適切か。既に多くの参加者たちを手玉に取ってきたセフィーはアドレナリン全開状態だった。
邪魔をするなら排除するのみ。
ロザリンドには白狼が飛びかかってきた様に見えた事だろう。セフィーは一跳で間合いを詰めると、手の中の機関銃をロザリンドに向けた。
「くっ」
間違っても弾が後ろに逸れないように。ロザリンドは『黎明槍デイブレイク』を構え、被弾に備えた―――
「………………?」
銃口は確かに向けられた、しかし銃声も被弾した感触は無い。
「!!!」
視界正面に居たはずのセフィーが左手正面に居る―――
直線で迫り来ると見せたはフェイク、刹那に大きくカットインして回り込んだのだろう。なるほどこれなら2人を順に狙い撃つことができる。
「フフッ、まずは男の娘から」
「静香さんっ!!」
銃口は既に静香を捉えている。間に合わない。ロザリンドの目の前で『機関銃』の引き金が引かれ―――
「そっこまーでよっ」
その一閃が銃身を打ち落とした。
その太刀筋が踊るように見えたのはテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が『ダンシングエッジ』を振ったからだろう。無論、武器の特性だけでなく彼女の確かな技術があってこその芸当であるが。
「弱い者を狙うのは、狼の習性なのかな?」
銃を弾いて、そのまま足元に『煙幕ファンデーション』を投げた。勢いよく弾けた白煙は白狼はもちろん、狙われた姫もナイトもまとめて包んで視界を奪った。
まずは圧倒的に劣勢な状況をフラットな状態にまで戻す―――そう思わせたなら成功だ。
「?!!」
白煙の中に殺気。セフィーは間一髪、地を蹴ってこれを跳ね避けた。この一撃、足払いを放ったのは白煙を捲いたテレサだった。
「うそー、あれ避ける?」
「狙いは良かったわ、でも、私は勘も良いの」
「野生の勘ってやつ? ズルいなぁ」
テレサが『剣の舞』を駆使して斬りかかれば、セフィーは『超感覚』とダイナミックな身のこなしでこれを捌いてゆく。
実力はおおよそに伯仲している。
互いに一歩も引かない。打ち合い、避け駆け、削り合う。
そうした後に2人共に湖面に落ちるその時まで、2人の頬は徐々に緩んでゆくのだった。
実力伯仲の良戦がテレサとセフィーに笑みを浮かべさせたのだとしたら、葛城 沙狗夜(かつらぎ・さくや)と鑑 鏨(かがみ・たがね)のそれは100%の煩悩が生み出した代物だ。
「やるわね」沙狗夜が斬り裂いたパンツは6着。
「そちらこそ」鏨が散らせた服と武装は7着。
どちらも女性の参加者を狙い、下着やら衣服やらだけを斬り裂いては相手の戦意を失わせてきた。と言えば戦術っぽいが、2人共に己の欲望に忠実に従ったまでのこと。
完全なる連続婦女暴行魔、そんな2人が遂に対峙してしまっていた。
「退いて。男のパンツは……好きじゃない」斬り裂くならば当然に女子のものを。
「案ずるな、すぐに剥いてやる」堂々たる勝利宣言。しかも犯罪者宣言と変態カミングアウトのおまけ付きだ。
少しばかり離れた先で何かが湖面に落ちた音がした。誰かと誰か、テレサとセフィーだろうか。その音を切っ掛けに2人は一気に飛び出した―――
「止めてっ!!」
硯 爽麻(すずり・そうま)が2人の間に割って入った。
「あたしのために争わないで!」
勘違いも甚だしい。それでも兄である鏨に褒めて貰えるよう特注の『※巫女装束(巫女装束)』に早着替えした彼女のやる気に免じて、ここは「早とちり」だと見てやってほしい。
しかしだからといって、これから斬り合おうという2人の間に飛び出したなら結果は当然に―――
「きゃー!!」
千早、白衣、緋袴の両脇部分に元より入っている切れ込みから一刀両断、哀れ爽麻の豊満な胸とプリンとしたヒップが瞬く間に露わになって―――
「許せ」
「お兄ちゃんっ?!!」
鏨は爽麻を抱え上げると、自ら湖へと飛び込んでいった。ここならば爽麻の半裸姿を晒すこともなかろう。
「ぷはぁっ、あぅ……ぅ……お兄ちゃん」
「怪我はないか」
パンツ裂きと服剥き魔が相手だったからか、彼女に怪我はない。しかし湖に飛び込めば場外、2人共に失格になってしまった。
「あの……ごめんなさい」
「構わないさ。疲れたろう、家に帰ったら存分に労ってやるからな」
「ぅん」
小さく頬を赤くして。爽麻も満更ではないのだろう。
もっとも家まで待てずに始めてしまい、自称刑事であるマイトの取り調べを受ける羽目になることなど、この時の鏨は知る由もなかった。