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リアクション
水上闘技大会決勝戦
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マイト・オーバーウェルム（まいと・おーばーうぇるむ）
神凪 深月（かんなぎ・みづき）
アリア・ディスフェイト（ありあ・でぃすふぇいと）
シャノン・エルクストン（しゃのん・えるくすとん）
グレゴワール・ド・ギー（ぐれごわーる・どぎー）
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もぐもぐもぐもぐ。
決勝戦の試合模様を眺めながらにマナ・オーバーウェルム（まな・おーばーうぇるむ）は「おにぎり」を食べていた。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
分かってはいたけれどやることがない。パートナーのマイト・オーバーウェルム（まいと・おーばーうぇるむ）が運良く決勝に残はいるけれど、あくまで戦うのはマイトであって自分ではない。故にどうにもやることがない。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
周りを見渡して人間観察でもする？ いいやどうだろう、ライブ会場や試験会場など、ある程度同じ想いを持つ者が集う場なれば観察のし甲斐もあるが、こうも雑多では街中のそれと変わりない。何よりこちらのテンションが上がるとはとてもとてもに思えない。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
現にほら、隣の客なんて―――
「ブーイングとため息はダメだよ、絶対」綾部 ヨーコ（あやべ・よーこ）がポムクルさんにそう説いている。
「そんなこと言っても、分からないって、絶対」ため息混じりにオーガスタス・バーク（おーがすたす・ばーく）が言った。ポムクルさんはと言えば大人しく２人の顔を交互に見上げながらに聞いているが、確かに理解しているかは、いまいち不明だ。
「それから国旗をマウンドに突き立てるのもダメ、勝ったからって政治的なメッセージを書いたプレートを掲げるのもダメなんだからね」
「いや……待て、何の話をしてるのかな？」
「試合に負けたからって相手チームの選手を殴るなんて絶対にダメなんだからね」
「待てぇい！ 何の話？ 明らかに「あの国」の話だよねぇ！ 止めようよ、そういう展開は、怒られるからさぁ！」
心からの叫びだった。必死に止めた。いつもは彼が自由に発言してヨーコがフォローしてくれるのだが、どういうわけか今日は逆だった。
なぜだ……リアルにどうしてこうなった……。
「いいから、ほら、チアリングを教えるんだろ？」
「私は最初からそうしてるけど。まぁいいわ、はい、それじゃあみんな、ガス（オーガスタス）の動きをマネしてね」
「俺がやるのかよ……まぁいいけど」
今日のために自作したポンポンをヨーコは一人一人に渡してゆく。初めは１体だけだったはずが、気付けば１０体ものポムクルさんが集まり来ていた。これなら一応に形になるかもしれない。
動きだけではなく、心構えや選手への気遣いなども教えたい所だが……やはりまずはポンポンの振り方からか。
オーガスタスの熱い指導とヨーコの応援の甲斐あって、ここにチアリングポムクルさんが誕生したのだった。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
妙な生物が特殊な動きを覚えて変な生物が誕生した。マナも思わず見てしまっていたが、一度見てしまえばそれまで、それ以上の興味は沸かなかった。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
やっぱり試合を見るしかないのか。マナは観念して闘技場へと目を向けた。水上闘技大会最終戦、決勝の戦いはすでに始まっている。
開始してから間もないはずに、闘技場に残っているのは僅かに５人。
もとより決勝進出者は少なかったが、マイト・オーバーウェルム（まいと・おーばーうぇるむ）は今も生き残っていた。
「ひゃっはぁああああああああああああああああああああああああああああ！」
生き様のままに。『バーストダッシュ』で猪突猛進。フィールド内を闇雲に駆けては『ランスバレスト』を繰り出していた。
「優勝するのは俺様だ！」
「騒がしい」
闘技場の中央部で彼と対峙したのはグレゴワール・ド・ギー（ぐれごわーる・どぎー）、フィールドが円状である以上、中央部に陣取る事が最も合理的、と真っ先にこの場所を目指したのが彼だった。
５ｍ強はある長槍『サリッサ』を振るマイトに対し、グレゴワールは『女王のカイトシールド』を手に、大きく振りかぶった。
受けて守る、ではなく盾で殴り倒す。攻撃こそは最大の防御、手にした武器が盾であってもそれは同じ。
彼は長槍の突進を正面から迎え撃っては弾き返した。
「面白ぇ！ まだまだ行くぜオラァ！！」
「ふんっ」
まるで体の一部であるかのように『サリッサ』を操るマイト。それをグレゴワールが受け弾くたびに５ｍ強の長槍が大きく振れるものだから―――
「ちょっとぉ！ 戦うならもっと離れてやってよ、グレゴさんっ！」
２人からは十分に距離を取っていたはずなのに、殺り合う内になぜかこちらに寄ってきた。シャノン・エルクストン（しゃのん・えるくすとん）は涙目になって抗議したが、彼らが聞く耳を持つはずもない。
結局は逃げるしかない。分かってはいたし、ここまでもそうして生き残ってきた。逃げて逃げて逃げまくる。強引に誘われて参加しただけなのに怪我をした上に水浸しなんて絶対に御免だ。
「あれっ？！！」
と、安全な地点に駆け逃げたはずだったのだが―――
「ふえーーーーん！」
その幼女はシャノン以上に涙目で……というより号泣しながらに駆け回っていた。しかも背後霊を引き連れて……
「人間怖いですのー！」
「いや、怖いのはアナタの方だからっ！！」
人間よりもよっぽど怖い。涙も一気に引き上げた。
背後霊に見えたのは『魔導式憑代人形（超魔王のコレクション）』のようだが、その人形に憑いているフラワシが『かまいたち』を乱発しているもんだから……。
体を切り刻まれて倒れゆく。この無差別攻撃が、どうにか僅かに生き残っていた参加者たちを次々とリタイアへと追い込んでゆくのだった。
怖い……怖い……やっぱり怖い。
それでも周りを見渡せば、残るは２人。自分と逃げ回る幼女アリア・ディスフェイト（ありあ・でぃすふぇいと）の２人だけだった。
「あれ？ グレゴさんは？！！」
彼とやり合っていたマイトの姿もない。いつの間に場外に落ちたのだろう。
とにもかくにも、これであの子を落とせば勝ち。幸いなことにアリアは闘技場の縁を走っている。 が『かまいたち』を放ち続けているが、近づかなければ良いだけのこと。
出来る限りに近づいて『天のいかづち』を放つだけ、それだけで、全身はヨロヨロ、足はフラフラ、一度バランスを崩したら最後、そのまま湖にダイブする事だろう。
「ごめんねっ」
縁に追い込み、雷を降らせる。突然の電撃に怯んだ隙に間合いを詰めたら最後に「ちょん」と押し出すだけ、それだけだった―――はずなのに、
「こっちこそ、済まぬのう」
「えっ……？」
背後から聞こえた声、それに気付いた時には背中にパンチを浴びていた。
吹き飛ばされゆく景色の中で辛うじて見えたのは『熊のような拳』と『神凪 深月（かんなぎ・みづき）の得意げな笑み』だった。
「賢き者が勝つ、世の中そういうものじゃ」
数々の危機と様々な攻撃を避けて逃げて生き残ってきたシャノンだったが、さすがに背後からの一撃は、それも『イーダフェルトアーム』付きの『百獣拳』とあっては耐えきることは出来なかった。
逃げまわるアリアを囮に闘技場の端まで誘き寄せて、背後から仕留める。
実に単純な作戦だが、これが面白い程よくキマり続けた結果、こうしてどうして彼女だけが最後まで闘技場に立ち続ける事ができたのだった。
「大丈夫か？ アリアよ」
「ふぇ〜ん、ヒドイです〜」
泣きながら水面に漂うアリアに手を差し伸べて引き上げた。シャノンの背面に『百獣拳』を放ったまでは良かったのだが―――吹き飛んだシャノンがアリアを巻き添えにする事までは予測できなかった。
「まぁそう言うな、事故みたいな物じゃ、諦めぃ」
「うっ……うぅ……」
ちなみに激戦を繰り広げていたマイトとグレゴワールは相打ちになって倒れている間に場外へと落とされたようだ。やったのはもちろん深月だ。
パートナーが失格になったのは予定外だが、勝利とは常に何かしらの犠牲の上に成り立つものだと考えれば、まぁ納得もできる。
ヴァイシャリー湖で行われた水上闘技大会は、ひたむきに自らの姿を隠し、そしてしたたかに敵を排除した神凪 深月（かんなぎ・みづき）の優勝で幕を閉じたのだった。
