空京

リアクション

■エピローグ　１　光条世界の意思

ヴァイシャリー。


「バカンスはいかがでした？」

ラズィーヤは、発光する美女……光条世界から来たエルキナに尋ねました。

「楽しかったわ。肉体と時間は、精神に揺らぎをもたらしてくれる。
　貴重な体験だったけれど、長くは知るべきではないと思った。
　知れば知るほど“安定”から、かけ離れてしまうから」

エルキナの言葉の意味を聞き返すことなく、ラズィーヤは、もう一つの問いを投げかけました。

「光条世界がこの世界の交渉窓口の一人に、
　わたくしを選んだ理由を訊かせてもらっても良いかしら？」
「貴女のお兄様が、シャンバラと“日本”の結びつきに重要な意味を持っているから」

そう言って、エルキナはラズィーヤを改めて見やりました。

「ところで、アトラスの傷跡の地下に旧シャンバラ王都が出現した、という話は耳に入っているかしら？」
「ええ」

その話は、アトラスの傷跡へお宝探しに行った者や
そこで新校長を決める“バスケ”を行っていた者たちから報告されていました。

アトラスの傷跡の地下、
封印されていた旧王都の結界が解かれ、共に封印されていた前女王の妹ネフェルティティが復活。
しかし、旧王都は更に地下から現れた邪悪な世界樹アールキングの根により、飲み込まれてしまったのだといいます。

そして、アールキングから逃れたネフェルティティは
シャンバラの大地を支えるために力を使い続けた現女王アイシャの体が限界であると告げました。
そのため、女王の力をネフェルティティに移す必要があるとも。

女王の力を移すためには、旧王都に存在する王宮が必要不可欠です。

シャンバラは、アールキングの根に飲み込まれた旧王都へ向かうための準備を進め始めていました。

「ヴァイシャリーのバカンスのお礼に、先に教えてあげる。
　もうじき、光条世界は『シャンバラ女王の力をグランツ教の教祖へ渡すこと』を要求するわ」

エルキナの言葉に、ラズィーヤは少しの間を置いてから答えました。

「その要求に応じることは出来ませんわね」
「ふふ」

エルキナは楽しそうに笑みをこぼし、言いました。

「この世界の者たちがどう出るかとても楽しみだわ」




■エピローグ　２　ポムクルさんと最初の女王器

イーダフェルト。

『ポムクルさんが増えてくれたのは良かったのですが、
　今度は生活施設などが足りなくなって……』

エルピスは、ポムクルさんたちから届けられた嘆願書（のデータ）を前に、うーんっと唸っていました。
ウェルチ・ダムデュラック（うぇるち・だむでゅらっく）が首を傾げます。

「イーダフェルトの外で暮らすのは駄目なのかい？」

『可能なポムクルさんも居るみたいですけど、
　多くのポムクルさんは、イーダフェルトからそんなに離れられないみたいで……
　それに……施設が足りないと、増えても「消えちゃう」そうです』

「それ、先に施設を作ってから増える方が良かったんじゃないかなぁ。
　……それとも、とにかく“急いで”たのか……。

　ん、ところで、生活施設だけど、自分たちで作れば良いのにね」

『理由は良く分かりませんが、それじゃ駄目なのだー、と』

「ふぅん？　……だから、数が減ってしまっていたのかな」

ウェルチは肩をすくめ、なんとなく「次から次に面倒くさいお人形さんたちだなぁ」と思ったのでした。

『あの……口に出てます』
「うん、ごめんね」

ウェルチは悪びれず、爽やかに笑いました。


■

その夜のイーダフェルト……。

「なんとか始められそうなのだ？」
「この数で間に合うのだ？」
「まだまだ不安だけど仕方ないのだ」
「やらねばやるしかなくやっちゃえなのだー」

この夏のバカンスを通じて、いつの間にか増えていたポムクルさんたちは、
“最初の女王器”の収められているという巨大な聖櫃の前に集まっていました。

「今こそ、目覚めの時。我々に秘められた大いなる力……」

ハンマーが光を帯び始めます。
そして、ポムクルさんは、聖櫃に向かってハンマーを打ち下ろしたのでした。

聖櫃の端っこがポロっと砕けて。

「いい材料が取れたのだ―！」
「これで面白おかしいものを沢山つくるのだー！」
「目指せ、憧れの特許生活なのだー！」

『えー……聖櫃の封印を解いてくれるとかじゃないんですかー……？』

物影からこっそりポムクルさんたちを見守っていたエルピスは愕然としていました。