空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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第2章 酔い回るころ賑やかなり 6

「かっぷぁー!」
 河童のゆる族の鬼龍院 画太郎(きりゅういん・がたろう)はキリッとした顔で叫ぶと、バッと白い紙を取り出してさらさらとなにか書き始めた。
 ポムクルたちはそれをぽかんと見つめていた。ネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)も一緒に。ちょこんと座ったネーブルの左右に、ポムクルさんたちも立っていたのだ。
 画太郎は書き終えると、筆を引っ込めて紙を突きだした。
「なになに?」
 ネーブルが読みはじめた。
「『ふふふ、この河童執事の出番のようですね! 炊事・洗濯・掃除はお手の物! この河童108の掟を守れる者だけが猛者となれるのです……! さぁ、ポムクルさん! 俺についてこれますか!?』……だって」
 ネーブルが読み終えると、画太郎はこくこくとうなずいた。
 つまり彼は、ポムクルたちに執事の極意を教えようというわけだった。
「望むところなのだー」
 ポムクルたちはやる気だ。
「でも……がーちゃん……本当に大丈夫……なの?」
 ネーブルが心配になってたずねると、画太郎はうなずいた。
 さらさらさらと、さらに筆が走る。『任せてください!』と書かれていた。続けざまに画太郎は、新しい白い紙を用意して、筆を走らせる。ネーブルがポムクルさんたちに読んであげた。
「えっと……『まずは裁縫! 縫い方のいろはをアナタに叩き込みましょう! そして料理! 料理のさしすせそからスタートしましょう! 最後にお掃除! 牛乳とお茶っぱの使い終わった物を用意しましょう!』」
「わかったのだー!」
 画太郎の指南を受けながら、ポムクルたちはさっそく執事修業に入った。
 苛酷な修業だったが、ポムクルたちはあきらめなかった。もとより覚えは良いほうだ。ネーブルは彼らと画太郎を見守りながら、ちまちまと小さな執事服とメイド服に、刺繍をした。
「えへへ……ばっちり」
 ネーブルが刺繍したところには、『ぽむくる』とひらがなが縫われていた。



「ぷはーっ! 美味いな、重蔵」
 ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)は酒の入った大樽をテーブルに置いて、金剛寺 重蔵(こんごうじ・じゅうぞう)に言った。
 重蔵もうなずいて、大樽の酒をごくごくと飲んだ。
「おうとも、ジェイコブ! これだから酒はやめられん!」
 二人は大巨漢の男たちだった。
 肉体はまさに鋼といっていいだろう。筋骨隆々の身体はほぼ全てが鍛え上げられた筋肉で盛り上がっていて、水着を着ているからなおのことそれが目立つ。黒ビキニのパンツをはいた重蔵は、黒光りする筋肉をむきむき動かした。
「この『マッスルビール』があれば、さらにわしの筋肉もたくましくなるのぉ!」
 名前からして怪しいそれは、『プロテイン』を原材料に造られたビールだった。一般の人であればすぐにでも嗚咽をもよおすような味だが、二人は食べ慣れているし、よほどのものでない限りはマズイとも思わないのだった。
「お?」
 二人はテーブルに乗っているポムクルさんに気づいた。
「ほわーなのだー。すごいカラダなのだー」
 筋肉に興味津々のポムクルさんは、ぺちぺちとジェイコブの上腕二頭筋を叩いた。
 本来は肉がぷよぷよするはずだが、鋼のジェイコブの腕はごつごつとした重い音を返した。
「なんだおまえら。わしらの筋肉に興味があるのか?」
 重蔵は面白がってポムクルたちを肩や腕に乗せた。
「おい、重蔵。なんのつもりだ?」
「決まっておるじゃろう。こやつらにも、このパフォーマンスを堪能してもらうのよ」
 言うと、重蔵は自らの肉体にぐっと力を入れた。
「ふんっ!」
 筋肉が二倍ほどに膨れあがって、周りにいた観光客の視線を集めた。
「筋肉コースターなのだー!」
 ポムクルはすっかり筋肉のアミューズメントパークを楽しんでいる。
 中にはジェイコブや重蔵の真似をして、見よう見まねでポーズをしているポムクルもいた。
「やれやれ、しょうがないな……」
 ジェイコブも立ちあがって、重蔵に並んだ。
「ふんっ!」
 同じように筋肉が盛り上がり、二体のボディビルダーがそこに誕生する。
 観光客のどよめきやら黄色い声援やらの中、二人はキランと白く光る歯を輝かせた。



 吉木 詩歌(よしき・しいか)は、出来ればセリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)ラクシュミとの仲が深まってくれれば嬉しいと思っていた。それは詩歌がセリティアが好きだからだし、ラクシュミのことも好きだからだ。セリティアの望みが叶えば、それはとても素敵なことだと思う。
 だから、詩歌はわざとラクシュミを誘いだして、セリティアとはち合わせたのだ。もっとも、ラクシュミと出店通りを並んで歩くセリティアはそのことに気づいていたのだが。
 詩歌はいま、二人の後をつけている。
(クーちゃん! ファイトだよ!)
 バレないようにと細心の注意を払っていたが、セリティアにはすっかりバレバレだった。
(まったく……詩歌はなにやってるのかのぉ)
 呆れ顔でそう思うが、嬉しくもあった。
 それだけ詩歌はセリティアを大切に思っているということだ。
「ん? どうしたの、セリティア?」
 ラクシュミが首をかしげながらセリティアにたずねた。
「いいや、なんでもないのじゃ」
 セリティアは首を振った。
「ところで、なにか面白いものでも見つかったかのぉ」
「うん、色々見つかったわよ。ほら、あそこの小物屋とかも面白そうじゃない?」
 ラクシュミはそう言って、出店通りの先に見える小さなお店を指さした。
「さっそく行ってみましょうよ」
「あ、ああ……じゃが、ちょっと待ってもらってもよいか?」
「え? うん、いいけど……」
 急にセリティアが言い出した提案に、ラクシュミはきょとんとしたがうなずいた。
 と、セリティアはふいに後ろを振り返って、真っ直ぐ歩いて行った。変装している詩歌のもとへ。
「へっ、えっ、ク、クーちゃん! い、いや、違う! 違うもん! 人違いだもん〜!」
「いいから、もうバレバレなんじゃよ、詩歌。ほれ、こっちに来るんじゃ」
「わ〜ん!」
 サングラスと帽子を被っていた詩歌の腕を引っぱって、セリティアはラクシュミのもとに戻った。
「あら、詩歌さんじゃない! あんなところでなにしてたの?」
「い、いやー、それは……」
 しどろもどろになる詩歌に、セリティアは助け船を出した。
「まあ良いではないか、そんなことは。せっかくじゃから、三人で見て回ったほうが良かろうと思っての。ラクシュミも、そう思うじゃろう?」
「もちろんよ! それじゃあ、三人で一緒に行きましょう」
 三人は一緒に歩いて小物屋を目指した。
 詩歌は最初はすっかり落ち込んでいたが、あきらめて楽しむことにスイッチした。「うん、考え方を切り替えるの! 傍にいてサポートするんだから!」と、一人で口に出しているのはセリティアに聞こえていた。
「恩に着るのじゃ、詩歌」
「え? クーちゃん、なにか言った?」
 詩歌は振り返った。セリティアは首を振った。
「なんでもないのじゃ」