空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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第2章 酔い回るころ賑やかなり 4

 ノーバ・ブルー・カーバンクル(のーば・ぶるーかーばんくる)というのは、これがなかなか特殊なやつで、いわく『超時空の見えない人からお告げを貰う受信法』というのを会得していた。率直に言うと電波ということなのだが、本人には言っても通じない。ノーバにとって、それはあくまで“お告げ”であって、それ以外のなにものでもないのだ。
「そんなわけだから、ポムクルさんたち。これがこっくりさんだよー」
 ノーバはこっくりさんの道具をポムクルたちに見せた。
「おおー、怪奇なのだー」
 ポムクルたちは興味をそそられたようで、こっくりさんの紙を触ったりペチペチ叩いたりした。
 ノーバはまるで子分でも出来たような気分だった。ポムクルさんたちは彼女よりも小さいし、なんといっても素直だ。ノーバの脈絡のない指示にも、進んで取り組んでくれる。
 ノーバと一緒にこっくりさんのための小銭やペンを動かしながら、ポムクルさんたちはじっくりと受信法を覚えていった。
 そこに割って入ったのが鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)だった。彼女はこれをポムクルさんの語尾を『なのだ』から『ゆん』に変えるまたとない機会だと思った。
「ほーら、語尾に『ゆん』と付けたら、この雲海わたあめをあげますよー」
「むむー、欲しいのだー」
 ポムクルさんは言ったが、すぐに慌てて言い換えた。
「ほ、欲しいゆん〜」
「はい、よくできましたー」
 すっかり餌付けだ。
 吹笛の策略にハマって、徐々に『ゆん』を付けるポムクルさんが増えていった。
「ゆん、ゆん、ゆん〜♪」
 方向性を間違えて、歌にしてしまうポムクルさんもいたが。
「さあ、いくよポムクルさんたち! お告げをもらうのよ!」
「なのだー!」
 ノーバのかけ声に、電波なポムクルさんたちが同調した。



「わ〜、かわいいポムクルさんたちがいっぱいなんです〜!」
 ポムクルを見つけたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はすっかりその魅力に取りつかれて、彼らをぎゅっ〜っと抱きしめた。
「ぐ、ぐるしい、のだ……」
「むぎゅーなのだー」
 ヴァーナーの腕の中のポムクルたちは苦しむ。
 気づかないヴァーナーはすっかりお人形さんかぬいぐるみを手に入れた気分だったが、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が急いで口をはさんだ。
「ヴァ、ヴァーナー? ポムクルさんたち、苦しんでますわ」
「へ? あ、ああっ、ポムクルさんたちごめんなさいです〜! 気づかなかったです〜!」
 ポムクルたちを離したヴァーナーは、慌ててぺこぺこと謝った。
「ひどいのだー」
 ポムクルたちはすっかり機嫌を損ねたが、すぐにヴァーナーにフォローをした。
「でも、ぎゅっとするのは嬉しいのだー」
「本当? じゃ、今度はやさしくね。こう、ぎゅっ〜っと」
 ヴァーナーはポムクルさんたちと抱き合った。
 ほっぺをすりすりさせると、ポムクルさんたちは急に笑い出した。
「くすぐったいのだ〜」
「ハグだけじゃなくてね、ほっぺにチューってのも、楽しいんだよ」
「チュー? なのだ?」
 首をかしげるポムクルさんに、ヴァーナーは抱きしめてチューをしてあげた。
 ポムクルはなんだか幸せな気分になった。まるでお母さんに包みこまれているような気分だった。ポムクルたちにはお母さんというのはよく分からないが、きっとこういうものなんだろうという気にもなった。
「ふふっ……ヴァーナーも幸せそうですわね」
 セツカはハグとちゅーをし合うヴァーナーとポムクルさんを見て、微笑みながらつぶやいた。



「んー、ポムクルさんたちの服って、なんだか味気ないなぁ」
 ポムクルさんたちをじっと眺めていた双葉 京子(ふたば・きょうこ)はふいにそう言った。
 京子の前のテーブルには双子のティーカップパンダがいた。じゃれついて遊んでいる二匹のパンダを見るポムクルと、パンダを見比べて、京子は彼らにも服を作ってあげようと思った。
「ね、どうかな、真くん?」
「いいんじゃないかな」
 足を踏みいれてもいい近くの庭でテーブルのセッティングをしていた椎名 真(しいな・まこと)は答えた。
 白い布をテーブルに被せて、まっすぐに整える。それからお茶の準備をする真を見ながら、京子は言った。
「真くんみたいな、執事服もいいよね。あと、フリフリのお洋服とか。ふふっ……夢が広がるなぁ」
「それはかまわないけど、京子ちゃん。楽しみはなにも作るばかりじゃないよ」
「どういうこと?」
 真は首をかしげた京子のもとに近づいていって、ポムクルさんたちにポケットから出した小さな針と糸を渡した。
「自分たちで洋服を作るというのも、面白いでしょ?」
「あ、そっか」
 京子は真の意図することを理解して微笑んだ。
 ポムクルさんたちに刺繍や裁縫を教えるということだ。なにせ彼らは物覚えがいい。
「えいなのだー」
「やーやー」
 最初は針をチャンバラと勘違いして、仲間同士でカチカチ打ち鳴らしていたポムクルさんたちだったが、きっと京子が教えれば、すぐにでも洋服の作り方をマスターするだろう。
 真が用意したテーブルへと移動して、ティーカップに入った紅茶を飲みながら京子は言った。
「お洒落な洋服、いっぱい覚えようね」
「おーなのだー」
 ポムクルさんたちが、手作りの民族衣装や現代的な洋服を作れるようになるのは、それから一時間もしないうちのことだった。



 ポムクルさんたちがわたげうさぎと出会ったのは、イーダフェルトの庭でのことだった。
 大量のわたげうさぎたちを連れてきたのはミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)で、特にミリアが連れてきたものは巨大なわたげうさぎから列を成したものまで、とにかく埋もれるぐらいたくさんだった。柔らかな草が広がっていた庭はすっかり白いわただらけみたいになって、ポムクルさんはまるで波に攫われるみたいにその中に埋まっていた。
「なーのだー」
「ポムクルさーん! あんまり遠くに行くと見失なっちまうぞー!」
 アイリは叫んだが、ポムクルさんの返事は遠くなる。やれやれと彼女はため息をついた。
「心配ありませんよ、アイリ。きっとポムクルさんたちもわかっています」
 セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)はアイリの不安をぬぐおうと言った。
「だといいけどよ」
 言ってはいたが、アイリは本当に不安を感じているわけではなかった。
 いくら大量のわたげうさぎとはいえ、それらはすべてちゃんと飼育されている。躾も同様だし、よっぽどのことでない限りはわたげうさぎたちはポムクルたちを遠くに連れていくことはないだろう。ただ、万が一ということもある。警戒するに越したことはなかった。
「お姉ちゃーん、連れてきたのー!」
 遠くから、ミリアたちのもとに駆け寄ってきたのは及川 翠(おいかわ・みどり)だった。
 翠の後ろには控えめな幼い女の子と元気に満ちた女の子の二人がいた。川村 詩亜(かわむら・しあ)ミア・マロン(みあ・まろん)の二人で、どちらも翠たちの友達だった。
「あら、詩亜ちゃんたち。こんにちは」
 ミリアは詩亜とミアに笑いかけた。
「こんにちは、ミリアさん」
「どーも、ミリアさん」
 詩亜がぺこりと挨拶し、ミアは軽く手をあげた。
「わたげうさぎの群れを見つけたんで、もしかしたらと思って……そうしたら翠さんたちを見つけたの」
 詩亜は、さっそくわたげうさぎたちとたわむれている翠を見た。
 後ろからぴょんぴょんとついてきたスペースラビットたちは、わたげうさぎと早くもじゃれあって遊んでいる。
 翠は巨大わたげうさぎの『苺』の背中に乗っていた。もふもふとした毛の触り心地がたまらないらしく、とろけるような顔をしていた。
「あっ、翠ばっかりズルいわよ! あたしも乗せなさいよ!」
 ミアが急いで自分も『苺』の背中に乗った。
 いつの間にかポムクルたちも一緒にわたげの海にもぐっていたらしく、苺の背中は大変だった。
 ミリアは詩亜もうずうずしているのに気づいていた。
「詩亜ちゃんも良いのよ? 一緒に遊んであげて」
「本当っ!?」
 詩亜は顔を輝かせると、すぐにぎゅっと『苺』の背中に抱きついた。
 わたげうさぎはどれもそうかもしれないが、『苺』は大人しいものだった。のんびりした顔で遠くを見ながら、もそもそと動いているだけだ。
「これは、良い写真が撮れそうだな」
 デジカメのレンズをのぞき込むセスが言った。
 彼は次々とシャッターを切っていった。アイリの指導でわたげうさぎたちの耳の後ろを撫でてやるポムクルたちや、『苺』の背中にもぐる詩亜、ミア、翠たち。写真の現像が終わったら、ポムクルたちにも見せてあげようと、セスは思った。
「ほら、わたげうさぎの餌も持ってきたんだぜ」
 アイリがミリアやポムクルたちに、スーパーペットフードの入った袋を見せた。
「あら、準備が良いのね」
 ミリアがくすっと笑う。
「ほしいのだー」
「餌もあげてみたいのだー」
「わ、私たちも……」
 ポムクルや詩亜たちがわらわらと近づいてきた。
「慌てるなって。順番、順番、な」
 アイリから餌の袋を受け取ったみんなは、わたげうさぎたちにそれを食べさせた。
 もそもそと幸せそうに餌を食べるわたげうさぎたちを見ていると、こちらも同じような気分になる。これだからわたげうさぎたちと戯れるのは止められないし、ポムクルたちに少しでもその気持ちが分けられたらと思えば、アイリたちは本望だった。
「はい、チーズ!」
 セスの合図で、みんなの集合写真が撮られる。
 パシャッとシャッターを切ったあと、レンズに映っていたのは無数のわたげうさぎたちとポムクルたちに囲まれた姿だった。